第 3 章 電力設備に対する保全活動
3.1 電力設備の信頼性
3.1.5 故障モードと故障メカニズム
電力の安定供給は重要性を増しており、電力設備に関しても、务化プロセスを踏まえた保 全活動による高度化が重要であることを先に述べた。このために、非破壊診断技術など、
より精度の高い务化予知技術、务化故障を未然に防ぐ务化診断技術の適用が検討されてい る。また、このような技術の進展に伴い、务化故障発生メカニズムの解明が進み、効率的、
かつ、より精度の高い設備保全を行うことが期待される。この章では、個々の設備の診断 技術には踏み込まないが、このような技術の進展を踏まえた設備保全の考え方を紹介する。
1つの設備は複数の部位からなっている。設備の故障発生メカニズムの解明により、その 部位毎に故障モードと呼ばれる故障事象項目に対し、务化故障の原因、および、务化原因 毎に务化プロセスが明確化されることが期待される。そのため、部位毎に予防保全を行う 場合は、その部位に対する故障モードを捉え、その故障原因毎に、故障の兆候、または、
务化状態等を監視することで、設備状態を把握し、必要に応じて保全活動によりその兆候 または故障要因を除去する活動を行う。このようにして、設備に対する保全活動が選択さ れ、実行される。[6]
これを実現する1つの手法として、FMEA (Failure Mode and Effects Analysis;故障モ ード影響分析)手法を、以下に概観する。
FMEA手法は、故障モードを洗い出し、それぞれに対し故障影響解析を行うことで、相対 的に重要な故障モードを抽出し、重点的に予防保全対策を講ずるための手法である。
IEC60812として国際規格化されている。その手順を図 3.9に示す。
図 3.9 において、信頼性ブロック図は、設 備を機能レベルに分解した図であり、機器な どの構成要素(アイテム)間の機能的な相互 依存関係を明確化して、構成要素の故障に伴 い、機能へどのような影響があるかを見落と しなく評価するためのものである。
故障モードは、機能的、機械的、電気的、
化学的なものに分類できる。機能的故障モー ドとは、当該構成要素が標準的な機能を満た さない状態を示すものであり、機械系故障モ ードとしては、摩耗、変形、破損、異音など を、また、電気的故障モードには、絶縁低下、
断線、電気的過熱など、さらに、化学的故障 モードには、腐食、固化、汚染などが分類さ れる。
影響度解析は、標準的には、当該故障モー ドに対する故障の発生頻度、および、故障が発生した場合の影響度・範囲を特定する。こ のとき、単純に当該設備の機能、性能、信頼性の評価だけではなく、外部波及の影響も検 討を行う。なお、影響度の評価を行うにあたっては、機能性、安全性などいくつかの影響 特性が異なる複数の評価をもとに影響度を算定する。
このようにして抽出した情報をもとに、重要な故障モード、すなわち、重要アイテムの抽 出を行う。
故障モードはさまざまな原因により発生する。そのため、故障モードに対応する故障の発 生原因を抽出し、さらに、その故障、および、故障の予兆の検出方法を検討し、故障発生、
および、故障予兆への対策としての保全活動案の抽出を行う必要がある。このとき、原因 の抽出に活用されるツールとして、FTA(Fault Tree Analysis)がある。FTAは、トップ ダウン解析手法であり、故障モードをトップにおき、その事象を発生させる一次要因、二 次要因…と次々と分析を進め、その要因間の因果関係を明確にする。ここで、複数の故障 モードがあり、その間で共通した原因が抽出される場合は、その原因に対する対策を抽出 することで、両故障モードへの対策が得られる。このように、故障モードに対して、その 故障原因となる事象の体系化を行うことができる。この体系化された事象に対し、故障確 率の設定、および、故障時の影響度の設定ができれば、その故障モードに対する対応の重 要度を評価することができる。その重要度を踏まえて、故障モードの対策順位の決定と対 策案の再評価を行うことによって、当該設備の保全活動の抽出が行われる。
信頼性ブロック図の作成
故障モードの抽出
影響度解析
重要機器の摘出
故障検出法・保全施策の提案
図 3.9 FMEA手法
以下に、油入変圧器のFMEA例(抜粋)を示す。
表 3-5 油入変圧器のFMEA(抜粋)
FMEA手法に関連する2つの事項について、以下に記載する。
1つ目は、故障の発生頻度、および、影響度の評価に関連した故障リスクの考え方である。
このリスク値により、設備の重要度、および、保全の優先順位の策定などに利用される。
特に、リスクベース保全(Risk based Maintenance)はこれを重視した保全方式である。
故障に対するリスクを定量評価するにあたり、故障リスクの定義を行う。リスクマネジメ ント標準であるISO31000 におけるリスクの定義は、2002年版では “事象の発生確率と事 象の結果の組み合わせ” とあったが、2009 年版では“目的に対して不確さが与える影響” に 変更された。すなわち、単純な発生事象からの結果だけではなく、さまざまな影響側面を 考慮に入れ、リスクを定義する必要がある。すなわち、リスクの算定式として、単純に
(リスク)=(故障確率)×(影響度)
ではなく、以下のように捉えるべきである。
(リスク)= ( 故障率 × (影響度))
影響要素 ( 3-1)
リスク値の算定にあたっては、同一の故障事象でも様々な観点のリスクがあることから、
設備毎にその影響要素を分類・抽出する必要がある。その例を表 3-6に示す。
影響分類 説明 例
機能的影響 流通設備の故障により、電力供給など、本来役 割を果たすべき機能が実現できなくなる影響
・供給支障電力(量)
・供給支障頻度 運用的影響 流通設備の故障により、運用上の余裕度など、
電力供給の運用にあたって、運用故障を逓減す るための度合いが低くなる影響
・容量/定態安定度の余裕 低減
・電力供給予備力の低減 コスト的影響 流通設備の故障により、その予防、または、修
復のために必要なコストに関わる影響
・修繕費
・賠償金
環境的影響 流通設備の故障により発生する環境への影響。 代替設備運用による発生 CO2排出量の増加 災害的影響 流通設備の故障により、人的災害の発生や、建
物等近隣に与える被害・損傷。
・人的災害
・物的災害 社会的影響 故障事象に関連して発生する社会的評価の低
下に伴う影響
・風評被害 表 3-6 影響分類例
設備 部位 機能 故障モード 原因 発生 頻度
検出難易 度
影響1(設 備影響)
影響2
(コスト影響)
影響3(信頼 性影響)
重要度 保全施策
油入 変圧器
巻線 本体 電気的過熱 過電流 1 1 絶縁耐力低 下
3 3 3 取替
部分放電 雷サージ侵入 1 1 絶縁耐力低 下
3 3 3 取替
絶縁油 絶縁油 ガス発生 熱、電界、水分 1 1 絶縁耐力低 下
1 3 2 浄油
ブッシング
(がい管)
磁器 油漏れ 冷熱、傷(自然 災害)
1 1 絶縁耐力低 下
2 2 2 部品取替
影響度の算定のためには、これらを含むさまざまな影響要素を考慮に入れ、その統合化を 行う必要がある。これらの統合化により、リスクについても、さまざまな影響側面を考慮 した統合リスク値の算定を行うことができる。詳細については、3.2.2.5にて、AHP(Analytic Hierarchy Process)によるリスクの統合化を参照されたい。また、統合化にあたって、各影響 要素に対し重みづけを行い、また、その発生確率を算定することで、最終的な統合リスク 値を定量的に算出することができる。この統合リスク値から、設備の重要度、保全作業の 優先順位付けを行う。FMEA 手法は設備の保全施策を検討する手法であるが、その重要度 を決定するにあたって、故障による外部への影響を含めた影響度を評価することができる。
このFMEA手法の拡張をFMECA(Failure Modes, Effects and Criteicality Analysis)と 呼ぶこともある。このように算出されたリスク、重要度は、その設備の置かれた環境によ って異なるため、各設備の保全活動も、その配置された環境により、その優先度が変わる 可能性がある。
発生原因 詳細分類 発生確率低減策 影響度低減策
設備故障 老朽化 ○ ○
その他 △ △
損傷 人為的 △ △
動物 △ △
自然災害 地震 × ○
雷 × ○
他天候 × ○
樹木 ○ △
運用 故障波及 △ ○
運用操作 × △
運用計画ミス △ △
人為的ミス × △
表 3-7 故障原因別の故障確率/影響度
なお、保全活動は、発生故障に対するリスクの低減に向けた作業である。すなわち、故障 発生確率の低減対策、または、故障発生時の影響度の低減対策である。故障の発生原因別 の対策有無を表 3-7 にまとめる。このように、設備故障の原因を捉えて、どのような保全 施策を取るべきかを踏まえ、保全活動を決定することで、効率的なリスク低減を行う必要 がある。
2つ目は、故障メカニズムについてである。
故障モードの故障発生原因に対し、その検出方法や保全対策を抽出するにあたり、故障発 生、もしくは、务化のメカニズム(故障や务化の事象発生プロセス、および、その間の発 生機構を指す)が判明していれば、これらの抽出が効率よく、かつ、正確に行うことがで きる。
この故障や务化の事象発生プロセスが解明できれば、アイテムに対する务化故障に関する
○:低減策あり
△:間接的低減
×:低減策無