第 4 章 設備更新コスト平準化問題の定式化と解法
4.1 設備更新コストの平準化問題の定式化
4.1.2 定式化
「設備更新コスト平準化問題」の定式化を行うにあたり、使用する変数に関する説明を行 う。
N : 電力系統内の設備の集合を示す。Nに含まれる各設備はi、jで表現する。
n : Nに含まれる設備の数 pi : 設備i(i∈N)における故障率
T : 一回の所与計画期間(ナップサックの容量) 4.1.2.1 設備の故障リスク
対象とする電力供給系統ネットワークシステムS内の設備iの故障確率を𝑝𝑖とする。また、
2つの設備i、jが同時に故障した場合の需要地Dに対する影響度(電力供給支障量)を𝑎𝑖𝑗 ,𝐷と する。このとき、2つの設備が故障した場合の需要地Dの電力供給支障リスク𝑅𝐷(𝑖, 𝑗)は次 のように表すことができる。
𝑅𝐷 𝑖, 𝑗 = 𝑝𝑖𝑝𝑗 1 − 𝑝𝑘 𝑘≠𝑖,𝑗
∙ 𝑎𝑖𝑗 ,𝐷 𝐷
( 4-1)
したがって、設備iの故障による電力系統全体の電力供給支障リスク𝑅𝑖は、次のようにな る。
𝑅𝑖= 𝑅𝐷 𝑖, 𝑗
𝐷 𝑗 ≠𝑖
= 𝑝𝑖 𝑝𝑗 1 − 𝑝𝑘 𝑘≠𝑖,𝑗
∙ 𝑎𝑖𝑗 ,𝐷 𝐷 𝑗 ≠𝑖
( 4-2)
なお、リスクは、発生確率と影響度の積として表されるため、( 4-2)式に従えば、設備i に
対して、 (𝑗 ≠𝑖 𝑝𝑗 𝑘≠𝑖,𝑗 1 − 𝑝𝑘 𝑎𝐷 𝑖𝑗 ,𝐷)は、故障時の電力供給支障リスクに対する影響度(電
力供給支障)とみなすことができる。この影響度を本論文では、𝐸𝐸𝑁𝑆𝑖と記述する。
設備iの故障による電力供給支障リスク𝑅𝑖の構成要素である発生確率𝑝𝑖、および、影響度 である𝐸𝐸𝑁𝑆𝑖は、時間経過による関数であり、特に、𝐸𝐸𝑁𝑆𝑖は周辺設備の故障確率の変化や 需要地域の電力需要量の変化により時系列に変動する関数である。しかしながら、本論文 では、周辺設備、需要地域の電力需要量の変化を考慮にいれず、𝐸𝐸𝑁𝑆𝑖は一定値であると仮 定する。
本論文で、設備更新の優先度を決定する指標として、設備更新により、基準年からの供給 支障リスクの変化量を採用する。すなわち、設備iの設備更新前後の故障確率を基準年𝑡0か らの経年 t による関数としてそれぞれ𝑝𝑖,𝑝𝑟𝑒(𝑡)、𝑝𝑖,𝑎𝑓𝑡𝑒𝑟(𝑡)とおく。このとき、t 年後の設備 更新による設備iの故障に基づく供給支障リスクの変化量𝑐𝑖𝑡は、以下の式で示すことができ る。
𝑐𝑖𝑡 = (𝑝𝑖,𝑝𝑟𝑒 𝑡 − 𝑝𝑖,𝑎𝑓𝑡𝑒𝑟 𝑡 ) ∙ 𝐸𝐸𝑁𝑆𝑖 ( 4-3)
この変化量𝑐𝑖𝑡を最大化することは、設備更新により、電力供給支障リスクを最大限改善で きることを意味する。そのため、設備更新優先度の指標として、変化量𝑐𝑖𝑡を利用し、その 最大化をめざせばよい。
4.1.2.2 設備と設備保守グループ
電力流通設備は電力供給のためにネットワークを構成している。そのため、電力の供給支 障を伴わずに設備更新を行うためには、該当設備を含むある系統範囲の機能を停止し、代 替設備による運用を行う必要がある。ある設備を更新するために、ある範囲の設備の機能 を停止させて更新工事を行う場合、その設備範囲をグループとして扱うことが望ましい。
この集まりを設備保全グループと定義する。
図 4.1 設備グループ
設備iが属する設備保全グループ𝑀𝑖は以下により定義する。
j D k R (i,k) R (j,k)
Mi D D
なお、設備保全グループには、以下の前提条件が付与されているものとする。
同一設備保全グループに属する設備で故障が発生した場合、各需要地への電力供 給支障量は同一である。
各設備は1つの設備保全グループに属する。
設備保全グループ内の設備更新を行う前に、代替ルートを準備(建設)するための 準備コストを必要とする(ただし、初年度更新対象設備の属する設備保全グルー
変電所Y
変電所X
設備保全グループB 設備保全グループA
設備保全グループC
設備保全グループE 設備保全グループF
配電変電所W
変電所Z
需要地1
設備保全グループD 配電変電所V 需要地2
需要地3 設備保全グループG
設備保全グループH
設備保全グループI
プの準備コストは 0 とする)。なお、設備保全グループ間をまたぐ代替ルートを設 定する場合があるが、本論文では、代替ルートの準備コストは設備保全グループ 単位に計上することを前提とする。
設備保守グループ内の計画的な系統機能停止、設備更新工事に伴い、設備更新が 発生する場合、設備更新コスト以外の間接コストは設備保全グループ単位に工事 発生年度に発生すると仮定し、その費用をセットアップコストと呼ぶ。
4.1.2.3 優先順位決定手順
設備保全モデルでは、設備の务化状態を把握し、その分析結果に基づき延命化に向けた保 全作業を実施する予防保全を採用した。これにより、設備のライフサイクルにおける保全 活動を想定することができる。ただし、設備の务化などの状態に関する変化が、想定の進 展と異なる可能性があり、その状態把握を行い、設備の保全計画が更新される。
設備更新コストの平準化問題の定式化を行うにあたり、設備更新の優先順位、および、時 期を決定する方針として、以下を考える。
「各設備を最大限延命化して更新する時期を算定した上で、コスト平準化のために前倒し 設備更新すべき最適な時期を算出する」
この方針に基づく設備更新時期決定の手順、すなわち、対象設備選定の優先順位決定に向 けた手順を以下に示す。
【STEP1】情報収集準備
以下の情報を準備する。これらの情報は、各設備の設備単体保全モデルから情報を収集す る。なお、準備コスト、セットアップコストは、設備に付随した情報として、保持されて いると仮定する。
・各設備の故障に関する信頼性曲線、および、設備毎に定められた信頼性遵守のため に決定された設備更新時期
・各設備の設備更新コスト
・設備保全グループの準備コスト、セットアップコスト
※セットアップコストは設備保全グループ内の設備更新を行う年度毎に、その工 事間接費を想定したものであり、工事発生時は必ず、一定額のコストが設備保 守グループ毎にかかることを仮定する。
【STEP2】コスト平準化期間の決定と経年コストのグラフ化
設備更新コスト平準化期間(以降、この期間を平準化期間と呼ぶ)を定める。なお、設定 にあたり、以下の前提を設ける。
・対象設備に対し、設備更新コスト平準化期間における設備更新回数は 1 回とする。
したがって、情報を収集した期間に対し、対象設備のすべての設備が 1 回更新される。複
数回の更新の可能性がある場合には、その期間を複数期間に分割し、それぞれの期間でコ スト平準化を行うことを想定する。
次に、設備毎に定められた設備更新時期に設備更新が行われることを前提に、各年度にお ける設備更新コストを経年グラフとして表す。なお、このコストには、当該コスト平準化 期間に更新対象となる設備の設備更新コスト、および、それが所属する設備保全グループ の準備コスト(設備グループ内の初回設備更新の前年に設定する。ただし、初年度は設備 更新と同一年度と仮定する)、セットアップコストの合計を算定したものである。
【STEP3】設備の最大設備更新年度の算定
設備単体保全モデルの視点から、各設備の更新時期を算定すると、「設備単体に対し、定 められた信頼度を維持できなくなる時期」として、設備更新時期を決定がなされることは 前章で提示を行った。しかしながら、電力系統全体からの視点で設備寿命を考慮すると、「設 備単体に定められた信頼性」を指標とするのではなく、電力系統における信頼性基準を満 たすことを優先して指標としてよいことになる。このような、企業保全方針として設定さ れた電力系統における信頼性基準である電力供給支障量を「信頼性」の指標を利用し、そ の指標範囲内で信頼性の維持ができれば、設備のさらなる延命を行ってよいこととなる。
本論文では、この意味で信頼性を維持しつつ最大に延命化できる時期を、当該設備の「最 大設備更新年度」と呼ぶものとする。なお、電力供給支障に影響を及ぼさない設備は、事 後保全とすることで、設備更新コスト平準化対象から外し、ランダム故障と同様に、故障 後にその対応を行うものとする(現在の仮定は2設備故障で供給支障が発生する場合を想 定しており、3設備故障時に初めて供給支障が発生する場合は考慮対象外としている)。
この観点で、後倒し可能な設備に対する最大設備更新年度を求める。その方式は、[35]
に紹介されている。[35]では、(4-3)で示した EENS の変化量をもとに制約条件を策定し、
更新コスト最小化を目的関数とて、延命した場合の年度毎に設備の更新有無の判定を行う 最適化問題を策定し、その解として、更新を延命化する対象設備を決定している。
ここでは、以下に、[35]とは別の算定方式を記載する。
EENS0,D :需要地、または、複数の需要地Dに対する電力供給支障量の上限基準 Nj,D :需要地Dに対し、
a
jk,D 0
を満たす設備kの集合tj :設備jに対して、設備単体に定められた信頼性による更新期限
EENS
j,t,D:年度tにおいて、設備j、および、設備kNj,Dの 2 設備故障時の電力供給支 障量の期待値の和。ただし、設備kNj,Dは年度t
k(ただし、t t
kならば tとする)で更新を行い、設備jは年度tまでに更新を行わずに延命した場合の 故障率で算定を行う。
このとき、設備jに対する最大設備更新年度を以下で定義する。
t T EENS EENS 0
)max t ,
max( j 0,D j,t,D