第 3 章 電力設備に対する保全活動
3.2 設備保全モデルの提案
3.2.2 企業保全モデル
企業保全モデルに関する説明を行う。このモデルは、企業としての設備保全活動に関わる 方針や目標内容の設定と、保全活動に関わる資源(リソース)などを始めとする制約事項 を整理したものである。このような企業の方針、目標、および、制約事項をもとに、この 制約化で各設備に対する保全活動が営まれる。そのため、各設備の保全計画情報や状態情 報が集積されれば、このような制約のもとで、企業としての最適な保全活動を最適化問題 として設定することができる。そのためには、制約条件の定式化に向けた整理とともに、
目標項目として定式化される、信頼性やコストなどを含めた保全活動を実施する上での利 用資源(リソース)やリスク項目の定式化に関わる情報を整理する必要がある。
そのため、本章では、ユニバーサル母関数を活用した信頼性指標である故障率や故障等に よる影響度の算定方式を概観し、企業保全モデルとしての定式化手法について述べる。
3.2.2.1 設備の重要度の設定
設備保全において、保全計画対象とする設備は、その重要度によって決まる。企業の抱え る設備数は膨大であり、そのすべてに対し、具体的な保全活動計画の設定を行うことは、
計画作業の遂行にあたって多大な工数を要する。そこで、電力系統の信頼性に影響を及ぼ さない設備や、電力供給の信頼性や保全コストにとって、大きな影響を及ぼさない設備は、
重要度の低い設備とし、重要度の高い設備のみを選定し、具体的な保全計画の策定を行う ことが行われている。すなわち、重要設備は、その故障発生により、電力供給に対し、多 大な影響を与える可能性があったり、その保全活動にあたり、コストが多大であるなど、
大きなリスクがある設備を指し、予防保全を始めとする保全方式を活用して、故障を発生 させないための施策立案を行い、その保全計画を策定し、運用においても、その監視を常 時実施することが多い。設備単体保全モデルを前章で策定したが、そのようなモデルに従 って、保全活動を行う対象として、重要設備を対象とすることが多い。
また、日本の電力会社の場合、超重要設備に対しては、本店側で一括管理を行い、その他 を支店・営業所レベルで保全対応をするなど、その主管元を変えて運用にあたっているケ ースが多い。この場合、予算策定元や保全計画策定の組織が異なるため、電力設備に、そ の重要性に応じて、設備間で階層的な関係を有する形となっている。
このように、設備の重要性に関連して、保全活動に対する組織的制約、保全方式的制約が 発生する。
3.2.2.2 企業経営視点からの制約事項
企業経営的視点から、保全活動に対し、さまざまな資源的制約が発生する。人、もの、金 に分類して記載を行う。
1) 人
人的資源として、工事などを含む技術者などが挙げられるが、人的資源は、ある時期
に増加させ、ある時期に減尐させるなどの資源増減を図ることが難しく、作業を行う にあたり資源的な制約条件となる。本論文のテーマである更新コスト平準化も、この 人的資源を年度毎に増減すること難しいことから、派生した制約事項であり、年間の 特定の設備に関する技術者が携わる工事、作業に対する量的平準化が求められる。
2) もの
設備保全のためには、設備毎に予備品の準備を行う必要がある。製品の生産中止など により、予備品がなくなった場合は、故障時の修復に支障をきたす場合がある。その ため、生産中止となる予定の製品設備に対しては、ある年度までに、更新を行うよう に指導する必要がある。
また、設備に関する技術的発展は日進月歩で進んでおり、新しい技術を踏まえた製品 が出た場合や、設備の保全技術が改善され、運用コストが大幅改善される技術などの 開発・実用化がなされると、運用コスト削減に向けて、計画を早めてそれらの設備を 導入する方針が設定されたりする。
なお、技術に関しては、設備そのものの技術だけではなく、保全方式改善のための技 術などにより、保全コストの大幅改善が見込める場合、保全の活動をそれらの技術を 活かした形で取り入れることがなされる。
3) 金
保全コストに対する制約を持つ。経済状況や企業の経営状況により、そのコスト制約 が発生する。年間保全コストの上限などが挙げられる。
3.2.2.3 電力供給に関わる制約事項
電力供給信頼性の向上は、電力供給事業者にとって大きな経営的テーマである。
供給側の立場で、日本の電力会社として設定している保全活動の方針としてN-1基準が 挙げられる。これは、電力系統内の多数の設備のうち1設備の故障が発生しても電力供給 に支障を与えないように電力供給信頼性を担保する基準である。この基準に則り、電力系 統の構成において回線の二重化などの対応を実施している。これに付随して、二重化され ている系統構造を活用して、その一方のみを停止させて工事、保守作業を実施する場合が あるが、重要設備などを伴う場合、事前に工事を行うことで、工事中でもN-1を維持す る施策を行うことがある。第 4 章では、これを1つの条件に入れて、コスト平準化問題に 取り組んだ例を提示している。
需要側の立場になり、電力供給支障に関わる指標として、本論文では EENS を利用して いる。電力設備の故障に伴って、回線や設備の容量の不足、または、回線の予備力の不足 など原因により、故障時の電力供給量を制限しなければならず、電力供給に支障をきたす 地域が発生することがある。このような電力系統上の制約を踏まえて、EENS を算定する ことにより、電力系統上の制約を反映した定式化が可能となる。しかしながら、設備故障 の発生箇所、発生日・時間帯、復旧に要する時間など、故障の事象やその発生タイミング
により、その算定値は大きく差異が発生する。本論文では、電力供給支障量の期待値であ るEENSを算定できることを前提に定式化を図る。これは、電力供給における信頼性指標 として、制約条件や目標項目として活用することができる。
なお、EENSの低減に向けた施策として、自然災害等を含めた故障発生に対し、保護装置 の設置により問題範囲を局所化、および、短時間化する施策が取られている。このような 電力供給支障量の削減を行う企業的取り組みが、電力供給信頼性の向上につながる。
3.2.2.4 設置環境に関わる制約事項
設備は、自然環境を含めた外部環境の要因で故障となる場合がある。そのため、設備はそ の設置された環境に合わせて、設備保全方針などの採用内容も異なる。
また、故障発生による影響についても、設置された環境により、その故障発生重要度など が異なり、環境に応じた方針を持つ必要がある。
3.2.2.5 方針・目標に向けた定式化について
企業保全モデルにおける企業の保全方針や目標の設定においては、前述したように、保全 コストなどのような利用資源に対し最小化を図るなどの目標設定がなされたり、例えば、
故障発生時の電力供給支障量などのように、発生事象に対する影響度に対し、最小化の目 標設定がなされたり、というように、資源目標とリスク目標(=発生事象の発生確率と影 響度との組合せ(リスク)による目標設定)などが一般的である。
特に、後者のリスク目標については、3.1.5 でリスクの定義を行ったが、広く利用されて いる。そのため、ここでは、電力流通設備の保全に関わるリスク値の定式化に向けて、リ スク算定方式について記述を行う。
設備が故障した場合のリスク値は、その「故障確率」、および、故障発生による「影響度」
の算出後、( 3-1)式から算定する。一般に複数の影響度観点(=リスク観点)がある場合、
後述するように、AHP(Analytic Hierarchy Process)を用いて対象設備の統合的なリスク値を算 定することができる。そして、これを目標値として最適化問題を解くことによって、最適 な保全活動の策定を行うことができる。
以下、リスク値の算定にあたって、ユニバーサル母関数について触れ、複数の影響度観点
(=リスク観点)がある場合のリスク値の算定を AHP を活用して算定する方式について、
以下に記述する。
3.2.2.5.1 ユニバーサル母関数の定義
複雑な故障確率や影響度の算定のためのツールとして、ユニバーサル母関数(Universal Generating Function)方式を紹介する。
複数の独立な離散確率変数
X i
(i=1,・・・n)に対し、代数的関数 f(X1,X2,・・・,Xn)が定義されているものとする。また、各確率変数