第 5 章 二次式を活用した設備更新コスト平準化問題とその解法
5.1 二次形式による設備更新コスト平準化問題の定式化
第3章で、電力流通設備の保全に関する論述を行い、設備単体保全モデルの策定を行った。
その中で、各設備に対するライフサイクルにわたる保全計画を策定し、個々の保全策定情 報をパラメタとして保持し、それを、企業保全モデルから得られる目的関数・制約事項と 組み合わせて最適化問題として捉えることで、個々の設備に対する個別最適な保全活動計 画でなく、全体最適の保全計画が策定できることを提示した。
本章でも、各設備の設備単体保全モデルで作成した故障率推移のパターンにおける故障率 をパラメタとして利用するが、各設備がある年度に更新された場合に、故障率の推移がラ イフサイクルにわたりどのように変化するかを知る必要があるため、パラメタとして必要 となる情報は、各設備がある年度に更新された場合を想定したときの、ライフサイクルに わたる故障率の経年推移の情報が準備されるものとする。
電力系統内の設備iに対するt年後の故障率をpi(t)とする。また、設備i、jが故障した場 合のt年後の需要地Dにおける供給支障電力量を𝑎𝑖𝑗 ,𝐷(𝑡)と置く。このとき、需要地Dにお ける電力供給支障の発生リスクである電力供給支障量の期待値 EENS は、以下のようにな る。
𝑝𝑖 𝑡 𝑝𝑗 𝑡 𝑎𝑖𝑗 ,𝐷(𝑡)
したがって、設備i、jが故障した場合の全需要地の供給支障電力量を
D ij,Dij
( t ) a ( t )
a
とおけば、全需要地の電力供給支障の発生リスクは、次のように表すことができる。
𝑝𝑖 𝑡 𝑝𝑗 𝑡 𝑎𝑖𝑗(𝑡)
さらに、すべての設備i、jに対する電力供給支障リスクの総𝑅(𝑡)和は次のように表すこと ができる。
P A 2P ) 1 t a ( ) t p ( ) t p( )
t (
R i,j i j ij Tt t t
ただし、全設備数をNとし、
)) t p ( , ), t p ( ), t p (
P
t= (
1 2
N T))
t ( a ( A
t=
ij設備更新コストの平準化のための定式化を行うためには、設備の更新時期と電力供給支障 リスクの関係を定める必要がある。
xitを以下のように定義する。
𝑥𝑖𝑡 =
1 設備𝑖が𝑡年度目に更新される場合 0 (設備𝑖が𝑡年度目に更新されない場合)
また、設備 i の年度別の故障確率も、当該設備がいつ更新されたかによって決定されるた め、𝑝𝑖𝑡𝑘を設備iがk年度目に更新された場合のt年度目における故障確率を表すものとする。
ただし、𝑝𝑖𝑡𝑡 の故障率は、当該年度に設備更新のために稼働ができないが、年度単位で故障 率の平均値と捉える。そのため、当該年度内のどの時期に設備更新を行うかにより故障率 が変わるが、ここでは6 カ月で設備更新を行い、設備更新期間はほぼ 0 と仮定し、故障の 設定を行う。
このとき、平準化の対象期間で更新回数が1回のみと仮定すれば、t年度目の故障確率は 以下のように表すことができる。
= ∑
k ik k it
i(t) p x
p
このとき、t年度目の電力供給支障リスクR(t)は以下ように表すことができる。
R(t) = P A P 2
1
t t T
t =Σpi(t) pj(t) aij(t)=∑ ∑ ∑
2 2
2
1 1
1 j
,
i k jk ij
k jt
k ik
k
it x )( p x )a (t)
( p
=∑ ∑
2 2
1 1
2 1 j
,
i k,k ij ik jk
k jt k
it p a (t))x x
( p
対象設備数をNとした時、N×T行列
S
t= ( s
tuv)
をu = ( i - 1 ) * T + k
1, v = ( j - 1 ) * T + k
2と する時、s p pk 2aij(t)jt k1 it t
uv= と定義する。
また、X =(x11,,xiT,x21,,x2T,,xN1,,xNT)Tと定義すると、設備の更新時期と電力供
給支障リスクの関係は、次のように表すことができる。
S X ) X
t (
R t
T
2
= 1
設備更新コスト平準化に向けた最適化を行うためには、設備の更新時期により、上記電力 供給支障リスクが最小化されればよい。上記式をそのまま採用すると、tを設備更新コスト 平準化の対象期間すべてとした多目的関数となるが、単一目的関数とするための考え方と して、以下の3とおりの考え方がある。
①最終年度であるT年度目の電力供給支障リスクが最小化されれば、それ以降の年度に 向けて最もよくなるため、目的関数としてはが最小化されればよい。なお、最終年度 以外の年度については、企業保全方針で定める信頼性基準範囲内であることを設定す ることにより、目的関数としての扱いではなく、制約条件としての扱いとする。
② 期間内の電力供給支障リスクが平均的に最小化されればよい。すなわち、目的関数と して
X S X X (
tS
t) X
T
t t
T
を最小化できればよい。ただし、各年度は企業保全方 針で定める信頼性基準範囲内であることを設定することにより、目的関数としての扱 いではなく、制約条件としての扱いとする。③ 上記①、②の考え方から得られる2つの目的関数に対し、重みづけを行い、目的関数 とする。すなわち、重み付き線形和の場合、0<ω<1に対し、目的関数は以下となる。
𝜔 𝑇𝑡=1X𝑇S𝑡X+ 1− 𝜔 X𝑇S𝑇X=X𝑇 𝜔 𝑇−1𝑡=1S𝑡+S𝑇 X
※多目的関数最適化の目的関数はベクトル値となるため、上記のように、スカラー化して 単一目的関数として捉えることにより、最適解を導き出すことが一般的に行われる。こ の場合、重みの設定により、最適解が異なることに留意する必要がある。
これらの考え方を利用するにあたって、有効性の高い目的関数の選択を行えばよい。本稿 での解法紹介時は、設備更新コスト平準化期間のいずれにおいても、信頼性の関与が必要 であるとの認識から、②を中心に定式化を行っている。以降の解法記述にあたっては、す べて二次形式の目的関数であり、目的関数をX𝑇SX で代表する。
次に、制約条件については、以下の内容が定式化において設定される必要がある。
1)毎年の更新コストが一定値を超えないこと、
2)設備更新コスト平準化の対象期間に各設備は必ず1回更新されること、また、当 該設備の更新期限までに更新を完了すること。設備更新時期t は、𝑡𝑘0を設備k の 更新開始可能時期、𝑡𝑘1を設備kの更新期限とした場合、𝑡𝑘0 ≤ 𝑡 ≤ 𝑡𝑘1となる。ただ し、𝑡𝑘0、𝑡𝑘1は、以下のようにして定められる。
𝑡𝑘0:これより以前に設備更新をしても、コスト平準化期間内に、再度更新時期 がきてしまうことを防ぐための条件として設定する。
𝑡𝑘1:以下のいずれかのうち、早い時期。該当がなければ平準化期間の終端時期。
①当該設備の保守部品などの関係から、更新期限が定まっている場合
②当該設備の务化に伴う信頼性維持が可能な期間の終端時期の場合 3) 毎年の電力供給支障リスクについては、企業保全方針の定める信頼性基準Rを超
えていないこと
これらを式で表すと、それぞれ以下のようになる。
1)の条件に対応して ∑Nk1ckxktC (t=1,・・・,T)
2)の条件に対応して ∑t 1tkt 0k xkt1 (k=1,・・・,N)
3)の条件に対応して X S X R
2 1
t
T (t=1,・・・,T-1) 加えて、変数の条件として以下の制約条件が付与される。
0 x 1)
xkt( kt- = または xkt {0,1}
さらに、設備更新作業に伴う信頼性に対する制約条件を付与する。一般に、N-1基準の設 定を行っている場合でも、設備停止を伴う保全作業を実施している場合では、1設備故障 となってしまう可能性がある。これを避けるために、代替ルート等の系統対策を行う場合 が多い。その回避ができない場合、短期の1設備で停電発生となる状態での運用、もしく は、最小規模での計画停電が発生することとなる。本稿では、年間の更新設備対象の選定 を行うが、同一年度に設備更新を行う複数設備に対し、最も信頼性を与える条件としては、
同一年度内で更新対象となる設備のいずれの2つも同時に設備更新を行っても電力供給支 障が発生しない、という制約条件を付与することを想定する。すなわち、
x 0 ) x t a (
T 1 t
N 1 i
N i j , 1
j ij it jt
これにより、N-1基準を遵守しつつ設備更新を行うことができる。したがって、当該年度 の計画停電の発生もない。ただし、定式化で考慮するのは 2 設備間の設備停止有無での停 電有無を考慮範囲とし、3つ以上の設備間の関係を無視するものとする。また、今回の定 式化においては年度単位の設備更新有無を前提に行われているため、更新年度が同一とな る場合でも当該年度内で別の時期に設備更新を行えば電力供給支障の発生はない。このよ うに、年度内の保全作業スケジュールの整合を考慮すれば、計画停電を起こすことなく、
設備更新作業が実施できる。このような制約条件に対応するスケジュール調整関数 x )
, x ,
sch( 1t Nt が定義できれば、これを0とすることを制約条件とすることで、より制約 条件緩和ができる。
以上より、定式化はいくつかのパターンで設定することができ、いずれも二次最適化問題 として設定することができる。
以下に示す(PT1)は、電力供給支障量を 0 とする制約条件を持つ場合であり、以下のよ うな二次制約を持つ最適化問題に帰着する。また、重要需要家系統のみを対象として電力
供給支障量を0とする制約条件を持つ場合も、二次制約式の対象を限定することによって、
(PT1)と同様のパターンでの定式化となる。
(PT1) Min
X
TS X
s.t ∑kN1ckxktC (t=1,・・・,T)
x 1
t k 1 t kt
∑ (k=1,・・・,N)
R S X
2X 1
t
T (t=1,・・・,T-1)
x 0 ) x t a (
T 1 t
N 1 i
N i j , 1
j ij it jt
0 1) x (
xkt kt- = または xkt {0,1}
(PT2)は、電力供給支障量をある一定範囲U以下とする制約条件を持つ場合であり、以 下のような二次不等号制約を持つ最適化問題に帰着する。
(PT2) Min
X
TS X
s.t ∑kN1ckxktC (t=1,・・・,T)
x 1
t k 1 t kt
∑ (k=1,・・・,N)
R S X
2X 1
t
T (t=1,・・・,T-1)
x U ) x t a (
T 1 t
N 1 i
N i j , 1
j ij it jt
0 x 1)
xkt( kt- = または xkt {0,1}
上記のように、設備更新コスト平準化の定式化にあたっては、企業保全方針の考え方に 伴い、さまざまな制約条件が付与されることが分かる。付与される制約条件は一次式の場 合と二次式で与えられる場合がある。また、xkt {0,1}であり、バイナリ問題として扱う ことができる。