3. 形態論
3.6. 指示詞と疑問詞
b. /koke/'ここに':コケ 私わ おーてん いっちょけよ (ここに私はいるから行っておけよ)
c. /soko=no/'そこの':ソコノ 川わ 私たちが 泳んごったと (そこの川は私たちが泳いでいたのだ)
d. /soke/'そこに':そら ソケ はさんの あーたい (ほら、そこに鋏があるよ)
e. /aHko=to/'あそこと'、/aHko=ta/'あそことは':アヒコト アヒコタ いとこたい
(あそことあそことは、いとこだよ)
f. /aHke/'あそこに':あら アヒケ おーた おが 孫ばい
(あら、あそこにいるのは私の孫だよ)
以下の文は、事物が話し手の背後にあり、向かい合った聞き手には見えない物に対して 述べている文である。実際の距離は話し手が近いのに対して、「ソ」が用いられている。
(195) /soo=ba/'それを':ソーバ 見てくれんか
((作業中で手が離せないので)それを見てくれ)
文脈での指示のとき、話者が想定している事物には「ア」が用いられる。
(196) /aa=ba/'あれを':
こないだ こーた 鍋 あったろー アーバ かひちょけよ (この間買った鍋があっただろう、あれを貸しておけよ)
3.6.3. 疑問詞
疑問詞は、「ド」を用いた形式がみられる。
(197) a. /doke/'どこに':いま ドケ おーと(今どこにいるの)
b. /doko=N/'どこの':ドコン 人じゃった(どこの人だった?)
c. /doQti=ga/'どっちが':ドッチガ よかっかよ(どちらがいいかな)
d. /do-N/'どの':ドン 家かよ(どの家なのかな)
e. /do-gaN-na/'どんな':土産わ ドガンナ もんば こーたっかよ
(土産はどんなものを買ったのかな)
f. /do-gaN/'どのように':ドガン しよーちゃろ 知らん
(どのようにしているのだろう、(私は)知らない)
g. /do-gaN-ni/'どのように':ドガンニ して すっちゃろかい
(どのようにしてするのだろうか)
上記以外に「ド」は、/do-gaN-site/'どうやって(手段)'や/do-Hte/'どうして(理由)'など の形式がみられる。
(198) a. /dogaN-site/'どうやって':ドガンシテ 帰った(どのようにして帰った?)
b. /do-Hte/'どうして':ドヒテ 行かんじゃった(どうして行かなかった?)
「ド」を用いた形式以外にも、以下のような疑問詞がある。
(199) 名詞: /dare/'誰(人)'、/nani/'何(事物)'、
副詞: /itu/'いつ(時)'、/ikutu/'いくつ(数)'、/iQta/'いくら(値段)'、
用例を以下に挙げる。
(200) a. /daa=zjaQ-ta/'誰だった':あたしん 見た ひたー ダージャッタっじゃろかい
(私が見た人は誰だったんだろうか)
b. /naN=ba/'何を':ナンバ 食べたっかよ(何を食べたんだよ)
c. /naN-niN/'何人':ナンニン いたっかよ(何人行ったんだよ)
d. /iQ/'いつ':イッ 来たっかよ(いつ来たんだよ)
e. /iQta=zjaQ-ta/'いくら':こん お菓子わ イッタジャッタっかよ
(このお菓子はいくらだったんだよ)
疑問詞に/-ka/を接続させて、不定表現にすることができる。
(201) a. /daa-ka=no/'誰かの':ダーカン 財布ん 落ちちょーよ (誰かの財布が落ちているよ)
b. /naN-ka/'何か':ナンカ なかかよ(何かないかな)
c. /iQta-ka/'いくらか':こん お菓子は イッタカ わからんよ
(このお菓子はいくらかわからないよ)
1 宇久町の野方方言を記述した中村(2019)では、当該方言が崩壊型の無アクセント方言で あるため、語の単位は形態統語的特徴のみで定義している。
2 『方言文法全国地図』第112図では,九州地方全域に「カクジャロー」や「カクドー」
という形式も示されている。九州地方では,これらの形式と「カコー」が併存して用いら れている。
3 /zamana-/'大'は、終止連体形で「ザーマナカ」とも「ザマナカ」とも発話される。本論
文では、基底形は//zamana-//と考える。この/zamana-/は、語幹だけで連体修飾もできる形 容詞である。
a. わがえん とーちゃんな {ザーマナカ/ザーマナ} 人間じゃもん
(私の家のお父さんは、(体格が)大きい人だ)
b. 庭にわ {ザマナカ/ザマナ} 岩ん あーと(庭には大きな岩がある)
この「ザマナ」は、形容動詞連体形と同じ形式である。連体修飾以外では形容詞活用 と同様である。同様の形容詞に、/ookena-/'大'や/boQteNna-/'大'がある。
4 形容詞を名詞化する接尾辞//-sa//が接続するときは、語幹末がウ音のク活用形容詞は逆 行同化を起こす。/nuku-sa/'暑'は/nuQsa/になり、/samu-sa/'寒'は/saQsa/になる。
5 九州方言学会編(1991:206)に、福岡県の形容詞カ・イ語尾併用地域で、「オイシューニ コサエチ」(発表者注:「おいしく作って」の意か)という例が示されている。
6 茂木俊伸氏(熊本大学)によるご教示で、徳島県庁が作成した動画「徳島は宣言する VS東京」でも、同様に「形容詞連用形+ニ」がみられることがわかった。以下に全用例 を示す。
a. 【結果】日本中の着物をアオーニ染めて「ジャパンブルー」って言われた阿波藍。
b. 【結果】よその県をウラヤマシーニ思うたり、都会がええと思うて、若いもんがようけ 出ていってしもた。
c. 【結果】こんまい子からとっしょりまで、ナカヨーニ暮らしていけるだろ。
d. 【結果】もっとほの値打ちをオーキーニ育てようと決めたんじゃ。
e. 【ナル】東京でおったら、なんやら気持ちはサビシーニなるんちゃうじゃろか。
7 同談話内の男性(1912(明治45)年生)の形容詞連用形の文は全2例で、「スクナー ナッタケンド」(少なくなったけれど)〈140A p.235〉と「形容詞連用形+ニ」を用いて いない文のみを用いている。
4. 格