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技術移転の主体と対象

3 中国の外資導入政策と技術移転政策の展開

3.3 全方位開放段階——「三沿」開放都市における技術移転

3.3.2 技術移転の主体と対象

ここでの外資優遇は技術導入が対象とされ,技術導入契約によるノウハウの取得がめざ された.この技術移転で重要とされたものは工業技術提供契約で,主としてノウハウの導 入を目的とし,製造過程(方法),製品の技術データ(文書,有形物,数式,図面な ど),技術者育成が契約上の必要条件となっている.日本の通商産業省の定義によると,

ノウハウという場合,具体的には,有形ノウハウとして図面,設計図,仕様書,報告書,

指導書,見本,原料明細,未完成技術の諸データ,マーケティング関連資料,製造機械の 仕様書などが上げられ,無形ノウハウとして秘密方法,秘密情報,個人的熟練,技術者の 派遣あるいは指導があげられる115)

このようなノウハウの移転,伝達だけで生産活動が可能となるならば技術移転そのもの は比較的容易である.日系企業を対象とした東アジア知財問題研究会の調査によると,日 本企業と中国企業との技術連携アライアンスや特許ライセンスなど契約に基づく技術移転 による技術流出が増加した116).大手企業においては,初期的な技術移転はすでに終了して いた.中堅・中小企業の多い製造装置,部品などの分野では,装置の図面を出したことに よる技術ノウハウの移転,技術の拡散などは現在も存在する.ただし,中国に関しては,

高度な技術はまだ移転が進んでいない.組立などの生産ラインを中心に生産拠点が移転し たが,そのノウハウは一定の保護政策によって移転は進んでいない.

この段階での技術導入政策におけるもう 1 つの基本的な考え方は,市場の一部を外国企 業に譲ることと引き換えに,海外の優れた技術を吸收することであり,中国語で「以市場 換技術(市場を以って技術と交換する)」よばれた方針である.

こうした認識に立って,中国は海外の資金,技術,人材,管理ノウハウを積極的に導入 し,投資環境と管理方法を改善し,導入規模を拡大する一方で,国内市場を一段と開放し た.すなわち,インフラ設備,ハイテク・新技術産業,伝統的産業の設備更新に重点を置 き,中国の資源と市場における比較優位性を発揮し,外資の直接投資と海外先進技術の導 入を通じて経済発展を推進した.

特に自動車産業を中心に,「以市場換技術」という外資戦略によって,海外の一流メー カーとの合弁を通じて,技術が 1 回限りではなく,継続的に導入されるようになった.

もっとも重要なのは,外資が中国でサプライチェーンを構築することである.これによっ

115) 通商産業省企業局外資課編(1970) 1516ページ.

116) 『日経BP知財』(2005.5.31.付).

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て中国製造業全体のレベルが向上し,中国が「世界の工場」になる基礎を築いたことであ る.

例えば,中国の国家発展開発委員会工業部門のある指導者は,ドイツの自動車企業を含 む外資が中国の自動車産業で果たした役割を次の3つにまとめている117)

① 企業管理,品質管理,生産管理および商品技術などの面において,外資の合弁企業 は重要な貢献をした.

② 合弁企業の存在によって,中国の自動車部品産業の発展が促進された.

③ 自動車産業を主管する部門をはじめ,中国政府は外資との協力関係を通じて,車両 の管理制度および技術に関わる法体制などにも大きな影響を受けた.

しかし,このような外資との合弁の過程では,中国側は技術の導入,消化,吸収,革新 という一連の流れを通じて技術を自分のものにするということをしておらず,外資の技術 提供にずっと頼り続けるという受身の態勢になってしまった.特に,この時期から「造船 不如買船,買船不如租船(船を造るより買うほうがいい,船を買うより借りるほうがい い)」118)という論理によって,国外の先進技術に対する依存が一層強まった.こうした市 場と技術を交換することによって,外資による中国市場の独占・寡占傾向がますます強く なったのである.

こうして,外資による技術秘匿の面が強まり,中国と先進国の技術格差が一層拡大し,

国外の先進技術に対する依存が強まった.中国は技術導入の際に,高い取引費用を支払わ なければならなかったのである.

そこで中国政府は,産業における「コア技術」が外資企業に握られたままで,自主・オ リジナル技術が育たないことへの危機感を感じ,積極的に「中国が独自の知的財産権を有 する技術」の開発を奨励する政策を展開することとなった.「自主創新」の政策としての 高新技術産業開発区の設置である.

3.4 「地域」から「産業」への移行段階——高新技術産業開発区における技術移転

2000年代に入って,東アジアで生産を行う企業にとって,東アジアはもはや先進国市場 向けの単なる「安価な生産拠点」ではなく,東アジア自体が重要な市場になった.そのた め,東アジアは自らの市場から汲み取ったニーズに基づいて革新的な製品・サービスを開

117) 王(2007)47ページ.

118) 改革・開放前に,遠洋大型汽船の製造について劉少奇が提案したもので,当時は合理的な資源(人力,

資金)配分をめざすものとされた.

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発し,それらを自らの市場に投入するという,製品開発拠点へと徐々に変容している119). 中国も同じように,「生産拠点」から「製品開発拠点」への転換を求めている.

1990年代以降,中国では改革・開放政策が進展し,高度な経済成長を続けてきた.中国 への直接投資は,産業構造が急速に高度化している.初期の労動集約型産業から資本技術 集約型産業へのレベルアップをしている.その中で,中国での外資系企業による研究開発 機関の設立が,最も注目を集める現象の1つになっている.

『科学技術振興火炬(たいまつ)計画』の一環としての高新技術産業開発区の設置はそ のスタートである.高新技術産業開発区の設置は,ハイテク産業による伝統的産業の改 造,海外から導入された技術の学習・吸収の加速化,ハイテク技術の商品化・産業化の促 進,国際競争力の増強などを目的としている.科学技術研究機関と大学が密集する地区を 選び,政策によって研究・開発(R&D)を促進し,ハイテク企業を集中的に育成すること をめざしている.

ここでは,高新技術企業と認定されれば,外資のみならず国有企業など内資企業も優遇 されるようになったのである.高新技術企業の条件は次のとおりである120)

① 高新技術(マイクロエレクトロニクス,電子情報技術,宇宙科学,生命科学,新素 材,省エネルギー技術など)製品の研究・開発・生産・経営に従事.

② 企業法人資格を待つ.

③ 大卒以上の学歴の技術員が従業員の 30%以上で,そのうち高新技術品開発に従事す る技術者が技術員の 10%以上.高新技術製品の生産やサービスを主とする労働集約 型高新技術企業では大卒以上の学歴の技術員が従業員の20%以上.

④ 高新技術・製品研究開発経費が当年の売上げの5%以上.

⑤ 技術性収入と高新技術製品売上額の総和が総収入の 60%以上.新設企業の高新技術 投入が総収入の60%以上.

つまり,高新技術産業開発区では,研究・開発をメインとする外資企業と内資企業を両 立させ,より良い競争環境を作り出すことによる,内資企業の発展を目指しているのであ る.ここでは,郷鎮企業や私営企業など民営経済における産業構造の高度化を進めるとと もに,海外からの帰国留学生や研究者の起業を通じたさらなる高次化,すなわち研究・開 発という頭脳部分を意識したものといえよう.

119) 都留(2012)24ページ.

120) 横井(2007)155ページ.

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第 16 表 中国の「独自技術規格」

国際規格 中国規格 R&D機構 場所

CDMA

TD-SCDMA

中国郵政部電信科技研究所+大唐電信科

技産業集団 北京高新技術区

WIFI

WAPI 西安電子科技大学+西電捷通 西安高新技術区

IGRS 北京大学,北京郵政大学+レノボ,華為

など24企業 北京中関村

DVD

EVD 阜国数字,新科,長虹,夏新など9企業 上海高新技術区 HVD 創維,長虹,TCL,万利達など19企業 上海高新技術区

MPEG2 AVS 創維,TCL,華為,ハイアールなど 12

企業 北京中関村

出所)筆者作成.

その象徴が北京の中関村である.ここは「校弁企業」といわれる大学発のベンチャー企 業の集まりがその起源である.例えば,聯想計算機公司グループ(中国科学院計算技術研 究所),北大方正(北京大学),清華紫光(清華大学)などのブランドが創設され,その 多くは一時的に国内市場占有率においてトップを占めた.

こうして,「校弁企業」と中国信息産業部科技司から発展した内資企業の連合というか たちで,「中国が独自の知的財産権を有する」とされる技術が開発されている.具体的に は,TD-SCDMA 方式や,無線 LAN 通信における WAPI 規格,EVD という中国規格の

DVD,中国規格の映像圧縮技術 AVS など,電子情報分野の技術を中心に広い分野で「独

自技術規格」化が推進されてきているのである(第 16 表).

しかし,高新技術産業開発区におけるこうした「自主創新」政策を背景とした中国独自 技術開発の推進も以下のような問題がある.

① 「中国独自規格」といっても,既存の国際規格に比べ,成熟度が低く商用化まで時 間がかかっている.

② 製品化,商品化,産業化に向けての青写真がなく,かつ既存の国際規格からの置き 換えコストが大きい.

③ 目先の利益の最大化に走る傾向が強く,また,企業内 R&D が欠けているので,自 主開発より既存国際規格を受け継ぐ方向に進む.