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弾性亀裂と応力拡大係数

ドキュメント内 構造と連続体の力学基礎 (ページ 144-148)

D.2.1 亀裂の変形モードと面外問題

y r

θ x O

図D.4 モードIII亀裂 数学的亀裂の載荷状態は図D.3のような三つのモードに分類される。このうち面

外変位が生じるモードIIIが最も簡単な問題なので,まずその亀裂先端付近の応力状 態を求める手法を示しておこう。対象は図D.4でx軸の負の部分に無限に長い数学 的亀裂が存在し,上半分(y >0)が紙面手前方向に,下半分(y <0)が紙面奥行き方

向に変位するものとする。平面問題の対称性から

u≡0, v≡0, ∂w

z =0 となるので,零でないひずみ成分は

ϵzx= 1 2

∂w

x ,0, ϵyz=1 2

∂w

∂y ,0

の二つだけだ。したがって,Hookeの法則からσzxとσyz,あるいはσrzとσθzだけが非零となる。

境界条件は,まず亀裂のある部分は自由表面なので

σyz(y=0)=σθz(y=0)=0, σyy(y=0)=σθθ(y=0)=0

であり,亀裂の無い部分は固定されているものとしてw(y=0)=0とする。したがってx軸上の境界条件は w=0 along θ=0, ∂w

∂θ =0 along θ=π (D.1a, b)

と記せばいい。一方,物体力が無いときの極座標のつり合い式は式(C.28)から

∂(rσrz)

r +∂σθz

∂θ =0

である。またHookeの法則とひずみ変位の関係とから,せん断弾性係数をµとすると σrz=2µ ϵrz =µ∂w

r, σθz=2µ ϵθz=µ1 r

∂w

∂θ (D.2a, b)

という関係が成立するので,上のつり合い式に代入すると,wで表したつり合い式が

r (

r∂w

r )

+1 r

2w

∂θ2 =0 あるいは ∇2w=0 (D.3)

と表される。境界条件式(D.1)を満足するようにwに対してこの式(D.3)を解けば,亀裂が存在する弾性体の 応力場を求めることができる。ただ,我々は亀裂先端に大きな応力が集中する(実際には無限大になる)と予 想していて,その周辺から破壊が生じると考えているので,その先端付近の応力場にまずは興味がある。その ため,いわゆる漸近解析と称する(亀裂先端だけに着目した)解析を行う。

まず解を

w∼A rp f(θ) (D.4)

のように仮定する。つまり,θ方向にはθ = 0を境にして反対称な関数になると考えられる一方で,r方向に ついては,r = 0近傍だけを対象とした解にしか興味が無いことからべき乗で仮定しているのだ。これをつり

合い式(D.3)に代入して整理すると

p2rp1 f+rp1 f′′=0 を得る。このプライムはθに関する微分を表す。この式からf(θ)は

f′′+p2f =0 を満足する関数でなければならないので

f =asin (pθ)+b cos (pθ) が一般解である。これを境界条件式(D.1),つまり

f(0)=0, f(π)=0

に代入すれば

b=0, cos (pπ)=0 でなければならないことから

f(θ)∼sin (pθ), p=±1 2,±3

2,· · ·

が解の候補になる。f がsine関数なので,変位wのx軸に対する反対称性が得られている。

この結果を式(D.2) (D.4)に代入すれば

w=A rp sin (pθ), σrz=Aµp rp1 sin (pθ), σθz=Aµp rp1 cos (pθ)

のように亀裂先端の変位と応力が求められる。そこで,亀裂先端の半径aの領域内のひずみエネルギUを求め てみると

U≡1 µ

π

−π

a

0

1 2

2rz2θz)

rdθdr=π

2A2µp a2p という表現になる。ここで,もしp≤ −1

2の場合にはU <0になってしまうし,しかも領域を小さくしてa→ 0にしたときにU→ ∞になる。これでは弾性論として容認できない解を得たことになる。以上の考察から

p≥1

2 → U<∞ (有界)

でないといけないことがわかる。したがって,物理的に意味のある解の漸近表現は w=w0+A r1/2 sin (θ/2)+O

( r3/2

),

σrz= 1

2Aµr1/2 sin (θ/2)+O (

r1/2

), σθz=1

2 Aµr1/2 cos (θ/2)+O (

r1/2 )

となる。得られた結果で最も重要なのは,その応力場がr=0付近で最も大きく(無限大に)なる成分の σ∼Aµr1/2g(θ)

の部分である。以上の結果から

• 亀裂先端ではr1/2乗の特異性を持っている。r→0で無限大になる。

• 弾性係数µに比例している。

• θ方向には何らかの関数になる。

• その絶対値Aは,荷重条件や物体の形(多分,亀裂長さ)等で決まる。

と考えていいことになる。実際の物体に存在する亀裂先端では応力が無限大にはならないので,この解が無限 大になることそのものは弾性解が持つ不具合(誤差)だと捉えればいい。しかしr1/2乗で分布することは,

例えば対象としている物体の「縁」から亀裂までの距離を検討するときに重要なことであろう。そして,絶対 値Aが荷重条件や物体形状等で決まると考えていい(漸近解析には無限遠点の荷重条件や物体形状の影響は含 まれていない)ことから,この絶対値Aがある規準値に達したときに亀裂は進展すると考えるのだ。つまり,

亀裂の破壊規準を

A=Acr (D.5)

と考え,このAcrを破壊靭性と呼び,これが材料の強度特性を表すパラメータだと考えるのである。

D.2.2 面内問題の場合

モードIとIIの場合にも同様の漸近解析が可能である。まずつり合い式は

∂σrr

r +1 r

∂σrθ

∂θ +1

rrr−σθθ)=0, ∂σrθ

r +1 r

∂σθθ

∂θ +2 r σrθ=0

であり,Hookeの法則が

σrθ=2µ ϵrθ, σrr

(3−κ

κ−1ϵθθ+κ+1 κ−1ϵrr

)

, σθθ

(3−κ

κ−1ϵrr+κ+1 κ−1ϵθθ

)

と表される。ここにκは式(3.192)で定義される。ひずみと変位の関係は ϵrr =∂ur

r , ϵθθ= ur

r +1 r

uθ

∂θ , ϵrθ=1 2

(1 r

ur

∂θ +∂uθ

ruθ r

)

と定義されている。これに対し,面外問題と同じようにrのべき乗を用いて ur =rp f(θ), uθ=rpg(θ)

と仮定して解けば亀裂先端の応力場を求めることができる。必要な読者は自分で解いてみて欲しい。

D.2.3 平面問題の応力拡大係数

2a

θ y r

x

⊙ ⊙

σyy σyz

σxy

σxy

σyy σyz

図D.5 無限体中の亀裂 実際に載荷された亀裂先端の解は第3章の第3.6.4節の応力関数を用いる等し

て求めることができる。図3.45が前節の面内問題のモードIの解に相当する。

無限体中に長さ2aの数学的亀裂が1個だけ存在して,図D.5のような載荷状態 にある場合の亀裂先端の応力場は,それぞれのモード毎に







σrr

σθθ

σrθ





= Ki

√2πr







fi(θ) gi(θ) hi(θ)





, i=I, II, 

 σrz

σθz



= Kiii

√2πr



 p(θ) q(θ)





と求められている。ここにKi, (i=I, II, III)は応力拡大係数と呼ばれ,無限体のこ の境界条件下では







Ki Kii Kiii





= √

πa







σyy σxy

σyz







となる。ただし,対象が無限体ではない場合や複数の亀裂が存在する場合あるいは載荷条件や境界条件が異な る場合には応力拡大係数は異なる表現になる。ルーズリーフのノートの穴が紙の端(領域境界の自由表面の条 件)に近い場合にはそこが破れ易いと感じると思うが,それはそのような境界条件下では応力拡大係数が大き くなるからだ。いずれにしても,亀裂先端の応力の特異性は先端からの距離の平方根乗である。そして式(D.5) と同様に,この応力拡大係数がその材料特有の規準値に達し

Ki=Kic, i=I, II, III

を満足したときに亀裂が進展すると考えるのである。この材料特性値Kicを破壊靭性と呼んでいる。この破壊 靭性は温度が下がるほど小さくなることもよく知られている。したがって,応力で表現した強度σcrが材料の 規準値としての破壊靭性だけではなく亀裂の長さにも依存し,その形は

σcr= Kic

√πa (D.6)

のようになる。このように,同じ材料であっても亀裂が長くなればなるほど材料強度が下がること,つまり寸 法によって強度が下がることを式(D.6)は示している。その寸法の平方根が分母にあるので,材料実験をした ときに試験片の寸法の平方根に反比例するような強度や挙動が観察された場合には,亀裂の存在を疑うのがい いということだ。

このように,材料特性に影響する要因のうち長さの次元を持つパラメータを特性長さと呼んでいる。この式

(D.6)のように材料の強度が何らかの寸法に支配される例として多結晶金属の強度について考察してみよう。製

鋼所で欠陥の無い材料を製造することは不可能であり,転位が無数に内部に存在することは既に述べた。これ が載荷に伴い内部の単結晶界面に集積して,そこが空隙になったとし,その界面に沿った空隙を亀裂とみなし てみよう。もしそういう把握が可能なら,多結晶体内に存在するかもしれない亀裂の長さが単結晶の粒の大き さ程度であることが容易に想像できる。したがって式(D.6)を踏まえると,単結晶の粒径をできるだけ小さく した方が強度が下がらないことも想像できるのではないだろうか。映像で刀鍛冶の作業を見たことがあると思 うが,それと同じように鋏等を作る場合にも「鍛える」という表現で鉄槌で材料を叩いている。実はこれは圧 延して形を整えながら同時に内部の結晶粒を壊して粒径を小さくしているのである。これによって相対的に強 度を上げていると考えてもいい。実際TMCP鋼という製品では,圧延装置とセンサー・コンピュータを併用し て温度調整をしながら叩くことによって高強度の厚板を製造している。ただし溶接や切断による入熱によって 粒径が大きくなってしまう可能性もあるので取り扱いは難しい。

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