G MEMORANDUM H
B.7 やや不安定な梁 - 柱の座屈と数値解
P
H C1
F1
S1
β
(a)固定端の場合
P
H C1
F1
S1
k β
(b)回転ばね端の場合 図B.7 片端を斜面上で支持された棒
となり,明らかに従属な式が並んでいる。つまり,Pの値,つまりµの値によらず特性方程式は常に成立して いる。これは,右端支点が斜面上にあることを考慮できていないことから,条件が一つ足りないことを示して いる。
0.5 1
0.5 1
µℓ=2 µℓ=4 µℓ=6
w(x) W
x ℓ O
図B.8 座屈モード そこで,これに対するたわみモードを求めると
w(x)= a sinµℓ
[sinµℓ−µxcosµℓ−sin{µ(ℓ−x)}]
(B.128) となることから,右端のたわみWは
W ≡w(ℓ)= a
sinµℓ(sinµℓ−µℓcosµℓ) (B.129) となる。図B.8に,3種類のµℓの値に対するモードを描い た。さて,特性方程式には条件が一つ足りないためにそれ
が常に成立してしまうので,不足する条件について検討する必要がある。そこで,梁-柱はほとんど縮むことが できないことから,座屈する瞬間にはまだ右支点が斜面を登るとは考えられず,w(ℓ) =0であると考え,この
式(B.129)から座屈の特性方程式を求めると
W =0 → sinµℓ−µℓcosµℓ → tanµℓ−µℓ=0 (B.130) となる。これは,右端が水平な床にある片端固定・片端単純支持棒の特性方程式と一致する。ただし,µの中 にもHが残り
µ2= F1 EI = P
EI − H EI sinβ
であり,支点反力Hは不定のままなので,この特性方程式は解けていない。また,上の条件からH = 0は cosµℓ = 0あるいはsinµℓ = 0でない限り自明な解である。そして右端が何らかの支持をされていることか ら,cosµℓ = 0ではあり得ない。また外力が固定端に向いていない限りsinµℓ =0ではあり得ない。したがっ て,H,0でなければならない。ただし,後述の数値解析でも確かめられるが,座屈する瞬間の支点反力Hあ るいはせん断力Hsinβは,棒の軸力Nと比較してかなり小さいと考えていいので,実際には
µ2= P EI − H
EI sinβ≃ P
EI (B.131)
と近似していいと予想される。
それならば,モーメントのつり合いにおける右の支点の変位の影響を無視してもよさそうだ。したがって,
式(B.123)の下線部,つまり式(B.126)の下線部を無視すると,その特性方程式は
det
1 0 0 1
0 1 µ 0
0 0 sinµℓ cosµℓ
0 ℓ 0 −1
=µℓcosµℓ−sinµℓ=0
となり,上式(B.130)が得られる。式(B.123)の下線部を無視したことは,w(ℓ) = 0と置いたことと同じであ るから,片端固定・片端単純支持棒の特性方程式が得られるのは当然である。
そこで,弧長法を用いた有限変位有限要素(第B.6.2 (1)節参照)で数値解析をしたのが図B.9である。細長 比はすべて1,000に設定し,軸の伸び縮みが無いElasticaに近いモデルとした。図中に示したように,数値解 析で与える外力をPcosβとみなして作用させたが,縦軸はそれをcosβで割ったPで算定してあり,図B.7 (a) の元の問題のPと同じ定義になる。横軸のUは載荷点の水平右向きの変位U≡u(ℓ)である。棒は16要素でモ
0 0.5 0
20 40 Pℓ2
EI
−U ℓ β=0度
β=5
β=10 β=15
Pcosβ β β+ ∆β
∆β=−0.5
∆β=0.5
45 30 65 55
図B.9 大変位数値解析
0.2 0.4 0.6
−0.1 0.1 0.3 0.5
Pcosβ
β=15度
∆β=0.5
∆β=−0.5
x ℓ
−z ℓ
ℓ2Pcosβ EI =26.4
ℓ2Pcosβ EI =16.3 O
図B.10 座屈後の変形
0 0.5 1 1.5
−100
−50 0 50 Pℓ2
EI
a b
c
d e
f
g
−N(0)ℓ2 EI β=15度
−U ℓ
∆β=−0.1
∆β=0.1
h
図B.11 β=15度の場合の分岐経路
−0.5 0.5
−0.4 0.4
a) Pℓ2 EI =41.5
b) 31.1 β=15度
c)−20.8
d)−97.3 x ℓ
−z ℓ
e)−97.4 f)−20.8
g) 20.7 h) 20.8
O
図B.12 各段階における変形
デル化したが,座屈をさせるために一番右端の1要素だけ,∆β=±0.5度だけさらに傾けてある。βは図のよ うに反時計回りを正にした。β=0の場合の座屈荷重は式(B.130)からµℓ≃4.493, PEIℓ2 ≃20.19なので,β,0 の場合にもほとんどβの影響が無いことをこの結果は示している。これは前述のように,支点反力Hの影響が 非常に小さいからであり,数値解析でそれが確かめられた。また,応答が柔らかい方(実験では生じるであろ うと考えられる方)の∆β >0の場合,βが10度くらいよりも大きくなると,座屈点は不安定になる。ちなみ に,∆βの符号の違いによる変形形状の違いを図B.10に示したが,初期不整に追随した変形になっている。
β = 15度の場合に,要素数を増やして32要素を用い,先端の1要素だけを29.9度の傾きにして初期不整 を小さくし,弧長も小さくして求めた最小分岐点からの分岐経路が図B.11の実線である。座屈後はピークまで は安定であった。一点鎖線は先端の1要素だけを30.1度の傾きにして求めたものである。図中,a〜gおよび hで示した状態の変形が図B.12である。図B.11の破線は左の埋め込み端の棒の軸力N(0)であり,座屈荷重レ ベルでは縦軸のP(実線)と実際の軸力Nとの差が無いことが明らかである。なお,状態aとc, f, g, hは安定 であった。
さらに,β = 30度と大きくして,最小分岐点からの二つの経路を求めたのが図B.13であり,a〜hおよ びi, jの状態の変形が図B.14である。ここでも32要素を用いて,先端の1要素だけ29.9度の傾きにし,小さ
0 0.5 1 1.5
−20 0 20 40 60 Pℓ2
EI
−U ℓ
a b
c
e d f g h
i
j β=30度
−N(0)ℓ2 EI
図B.13 β=30度の場合の分岐経路
−0.5 0.5
0.5 1
a) Pℓ2 EI =23.2 c) 11.6
d)−11.6
e)−11.7 f) 23.1
g) 34.7
h) 52.0 i) 12.6 b) 28.3
−z ℓ
x j)−0.02 ℓ
β=30度
O
図B.14 各段階における変形
めの弧長を用いた。図B.13の破線は左の埋め込み端の棒の軸力N(0)であり,この場合も座屈荷重レベルでは 縦軸のP(実線)と実際の軸力Nとの差が無いことが明らかである。つまり支点反力Hが軸力に比べて無視 できるほど小さいことを示している。このことからも,式(B.131)の近似が可能であることを示している。な お,状態aとjのみが安定であった。実際の数値解析では,先端の1要素に初期不整として加えた異なる向き の影響で,まずaの状態に分岐したあと,順にbからjに至る経路を(偶然,呵呵)計算した。さて,この図 B.14の変形形状と図B.8のモードとを比較すると,µℓが初期座屈点のその値4.493より小さい場合のモード が,Pℓ2
EI ≃ 20で荷重低下する方の分岐経路の一点鎖線の変形形状iやjに似ている。一方,4.493より大きい 場合のモードが,Pℓ2
EI ≃20で荷重増加する方の分岐経路の実線の変形形状a〜hに似ている。このように,荷 重レベルと変形モードとの関係も整合している。
表B.6 座屈荷重 n µnℓ Pnℓ2
EI 1 4.4934 20.191 2 7.7253 59.680 3 10.904 118.90 4 14.066 197.86 5 17.221 296.55 次に,16要素に戻してβ = 30度のまっすぐな棒に大きめの弧長を用いて
載荷した場合の結果が図B.15である。ただし,第2分岐経路からの経路(一 点鎖線)は,まっすぐな棒のまま分岐直前までを載荷したあと,先端の1要 素を0.1度曲げて載荷を続けることによって求めた。式(B.130)から低次五 つの座屈荷重は表B.6のように求められる。このように,実際の実験で多分 観察されるであろう最小分岐点からの不安定な座屈経路以外は,すべて一筆 書きのように連続しているのはとても面白い。この図B.15に示した記号a〜 dの状態での各変形状態を,それぞれ図B.16に示した。図B.14と比較すれ ば,高次モードになっているのが明らかである。もちろんすべて不安定な状
態である。図B.14の状態aとiが,1次の座屈における初期不整による安定経路とそれに対する不安定経路の 組になっており,安定な状態は右支点付近は上に凸の変形をしている。同様に,図B.14の状態hと,図B.16 の状態dとが,2次の座屈における初期不整による安定経路とそれに対する不安定経路の組になっている。こ の場合も,安定な状態は右支点付近が上に凸の不自然な変形をしている。
さて,数値解析における外力をcosβで除したPと実際の軸力Nとの座屈点付近の差について考察するため に,もっと角度βを大きくした場合を考察する。図B.17が32要素のまっすぐな棒に対して,この角度βが90 度に近い場合の結果である。横軸は下の軸が角度の大きいβ > 88度の場合の実線に対するもので,上の軸が
β=75, 80度の一点鎖線に対するものである。角度βが88度より小さい場合には,この換算外力Pで表した座
屈荷重は,片端固定・片端単純支持棒の座屈荷重PEIℓ2 ≃20.19になっている。またβ=75度の場合には,埋め
0 0.5 1 0
150 300
−U ℓ Pℓ2
EI
β=30度
a b
d c
図B.15 β=30度のときの高次分岐経路
−0.2 0.2 0.4 0.6 0.3
0.6 a) Pℓ2
EI =93.2
c) 23.4
d) 69.4
β=30度 b) 24.0
−z ℓ
x ℓ O
図B.16 高次座屈後の変形
0 0.01 0.02 0.03
0 10 20
0 0.2 0.4
−U ℓ (実線) Pℓ2
EI
75(P)
80 β=89.8度
−U
ℓ (一点鎖線)
89.6 89.4
89.2 89
88.5 75(−N)
図B.17 角度βが大きい場合
0 0.005 0.01
0 10 20 Pℓ2
EI
β=89.6度 λ=10000
3000 2000
1500 1000
800
−U ℓ β
ℓcosβ Pcosβ
図B.18 βが大きい場合の細長比の影響
込み端側の軸力Nも破線(図中75(−N)と記した)で示したが,このくらいの大きな角度であっても,支点反 力Hの影響も含めた軸力Nが座屈荷重に至って座屈している。そして数値結果は,実際に与えた外力をcosβ で割った縦軸Pで表現しても,20.19の荷重レベルで座屈している。また,cos(75度) =0.2588であることか ら,横軸が0.4を超える付近から軸力Nが引張になるのも当たり前である。そのあとの変位Uはもちろん,せ いぜいℓcosβの2倍程度までしか変位できないことになる。
しかし角度βが88度よりも大きな角度に対する結果を見ると,上軸のスケールで描いた場合には分岐座屈 のように見えてしまうが,実際にはこの図B.17のように,ピークを持つ不安定な挙動になっている。これは,
図B.18の中の対象モデルの図に示したように,棒は座屈せずに曲がらないまま縮んで左の方に移動する変形 である。これは棒が縮むために座屈しないで済んでいるので,軸の伸び縮みを無視したElasticaにもっと近づ けるために,細長比λをさらに大きくして再計算したところ,例えば細長比が10,000より大きい場合には,式 (B.130)で与えられる座屈荷重値Pℓ2
EI ≃20.19で分岐座屈した。逆に細長比を小さくして伸び縮みし易くした場 合の解析結果を図B.18に示した。つまり,細長比が10,000より小さい場合には,座屈せずにほぼまっすぐの
まま縮んで左方に変位する。梁-柱理論も軸方向のひずみは連成させずに解ける線形理論になっており,その線 形座屈解析から得られる結果は,軸ひずみを無視した結果になっているはずだ。結局,ここの数値解析で細長 比をかなり大きくした場合の結果と線形座屈解析結果はよく整合している。
さて,式(B.127)の特性方程式が不定であったことが物理的におかしいことを示すために,右端にeだけの
下方初期変位がある場合を解いてみる。この場合には,変位の一般解の係数は次式を満たす必要がある。
(A)
≡
1 0 0 1
0 1 µ 0
0 0 sinµℓ cosµℓ 1 0 sinµℓ cosµℓ+1
, { y}
≡
0 0 0
−e
, (
A)
a b c d
={ y}
(B.132a, b, c)
そこで,p.243で述べたAlternative Theoremを用いて解の存在について検討する。上式(B.132)の付随的問題 である(
A)t{ v}
={ 0}
の解を求めると,{ v}
=⌊
1 0 1 −1⌋t
となるので,初期不整に対して解く問題の右辺と {y}t{
v}
,0となり,この代数方程式(B.132)は解を持たない。逆に,境界条件式(B.123)で下線部のw(ℓ)の項 を無視した場合には
w(x)=−e
∆
[sinµℓ−µxcosµℓ−sin{µ(ℓ−x)}], ∆≡µℓcosµℓ−sinµℓ
これは式(B.128)のsinaµℓを−∆eで置き換えたものに一致する。やはり境界条件は,右端でw(ℓ)=0とするのが 正しいのであろうと考えられる。
回転ばね端の場合: 図B.7 (b)のような回転ばね支持の場合も同様に反力を定義し,モーメントのつり合いの 非線形項を無視すると,その全体のつり合いから
F1=P−Hsinβ, S1 =Hcosβ, C1=−ℓHcosβ+w(ℓ) (P−Hsinβ) (B.133a, b, c) となる。これを用いて境界条件は,x=0で
w(0)=0, kw′(0)=−(−EIw′′(0))=C1, S1=−(−EIw′′′(0)−F1w′(0)) であり,x=ℓでは
S2=−EIw′′′(ℓ)−F1w′(ℓ)=−Hcosβ, C2=−EIw′′(ℓ)=0 (B.134a, b) となる。式(B.134a)はx=0のせん断力の条件と同じになるので考慮する必要が無い。この境界条件に式(B.125) の一般解を代入すると,Hを消去すれば
a+d=0, k(b+µc)+EIµ2d=0, csinµℓ+dcosµℓ=0, (B.135a, b, c)
−dµ2=−ℓµ2b2+µ2{a+bℓ+csinµℓ+dcosµℓ} (B.135d) となるので,特性方程式は
det
1 0 0 1
0 α′s α′sµ µ2ℓ 0 0 sinµℓ cosµℓ 1 0 sinµℓ cosµℓ+1
=0 → det
α′s α′sµ µ2ℓ 0 sinµℓ cosµℓ 0 sinµℓ cosµℓ
=sinµℓcosµℓ−sinµℓ cosµℓ=0
となる。ここにα′sは,ばね定数kと曲げ剛性EIの比で α′s≡ kℓ
EI (B.136)