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1.2 建設投資の変動要因分析(住宅・事務所・倉庫)

1.2.3 建設投資動向(事務所)の変動要因分析

事務所(オフィスビル)市場の事業構造は、産業構造・社会構造の変化に合わせ進展し てきたと言える。戦後から高度経済成長にかけて、東京を中心に急速な都市化が進み、増大 するオフィスワーカーに対する受け皿としてオフィスビルの供給が加速した。その後、産業 構造の変化や人口動態の変化、さらにはワークスタイルの変化や投資方法の多様化に合わ せて、オフィス市場を取り巻く環境も大きく変動している。

本項では、事務所の建設投資動向の現状把握と共に、将来の建設投資動向に影響を及ぼ す変動要因について考察する。

(1) 事務所建設投資の動向

①着工床面積の推移

図表1-2-37は、事務所の着工床面積の推移を示したものである。1980年代初旬においては、

我が国の経済発展に伴う大都市の国際化・オフィスビル需要の増加が進展するなか、東京 都心部で生じたオフィスビル不足をきっかけに、東京都心部の商業地から地価上昇が加速 した。その後、金融緩和も続いたこともあり、投機的な不動産投資が続いたことで、1980 年代中旬から 1991 年度にかけて地価の高騰(不動産バブル)が生じ、それに比例する形 で事務所の着工床面積も大幅に増加している。

図表1-2-37 事務所の着工床面積の推移

(出典)2013年度までは国土交通省「建築着工統計調査」、2014・15年度は当研究所「建設経済モデ ルによる建設投資の見通し(20152月推計)」を基に当研究所にて作成

0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000

1980年度 1981年度 1982年度 1983年度 1984年度 1985年度 1986年度 1987年度 1988年度 1989年度 1990年度 1991年度 1992年度 1993年度 1994年度 1995年度 1996年度 1997年度 1998年度 1999年度 2000年度 2001年度 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 2008年度 2009年度 2010年度 2011年度 2012年度 2013年度 2014年度 2015年度

( 千㎡)

バブル崩壊後

リーマンショック バブル期

J-REIT創設

都市再生法

制定 見通し

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

60.0%

70.0%

北海道 東北 関東 北陸 中部 近畿 中国 四国 九州・沖縄 線形(関東) 線形(中部) 線形(近畿) (%)

その後 1991 年のバブル崩壊を受け、地価上昇局面から地価下落局面へ転換し、バブル 期に地価上昇を見込んで積極投資を行った企業は業績悪化に陥り、これらを背景に事務所 の着工床面積も大幅に減少している。

2000年度以降は、都市再生事業による大規模な複合再開発が行われると共に、2001年度 に「不動産投資信託(J-REIT15)」が創設され資金調達手法も多様化が進んだことで、大 都市を中心に大型のオフィスビルを積極的に建設し、事業の拡大を図った動きが加速する など、事務所の着工床面積は約7,000千㎡前後で推移した。しかし、2008年に起きたリー マンショックの影響を受け再び着工床面積は減少し、2010 年度の着工床面積は 4,658 千㎡(2008年度比△39.4%)まで落ち込んでいる。

2011年度以降においては、東日本大震災発生に伴い、事業継続計画(BCP16)の観点か ら立地や耐震性を重視しオフィスを見直す傾向が強まり、また、リーマンショック後の大 幅な低迷からの景気回復も重なり、2013年度の事務所着工床面積は4,819千㎡(2010年 度比3.5%増)まで改善、2014・15年度においては2013年度と同水準で推移する見通し である。

②事務所出来高の地域ブロック別シェア

図表1-2-38は、事務所出来高の地域ブロック別シェアの推移を示したものである。過去

に遡ってシェアを見てみると、関東、近畿、中部の3大都市圏が上位を占めていることが わかる。

図表1-2-38 事務所出来高の地域ブロック別シェアの推移

(出典)国土交通省「建設総合統計」を基に当研究所にて作成

15 多くの投資家から集めた資金で、オフィスビルや商業施設、マンションなど複数の不動産などを購入し、

その賃貸収入や売買益を投資家に分配する商品。

16 事業継続計画(Business continuity plan、BCP)は「競争的優位性と価値体系の完全性を維持しな がら、組織が内外の脅威にさらされる事態を識別し、効果的防止策と組織の回復策を提供するためハ ードウェア資産とソフトウェア資産を総合する計画」のこと。

関東は2013年度で全国の約5割を占めており、長期的にシェアを拡大させている。

一方、近畿は約1割を占めているが、そのシェアは減少傾向にあり、中部についてはほぼ 横ばいで推移している。

関東のシェアの大きさは、大企業の本社機能の集中(東京一極集中)を背景とした商圏 人口の多さを考えれば自然なことであり、全体の事務所動向に与える関東の影響は非常に 大きいと言える。

③主要都市におけるオフィスビルストック

図表1-2-39は、2014年1月時点における主要都市(東京・大阪・名古屋・札幌・仙台・

さいたま・千葉・横浜・京都・神戸・広島・福岡)のオフィスビルストック量を竣工年次 別に示したものである17。竣工年次別に見てみると、1974年、1989~1994年、2003年に 竣工したストックが300 万㎡を超えている。2003 年においては、「2003年問題」と称さ れ、過去10年で最高水準の大規模ビルが首都圏を中心に供給されている。

新耐震基準以前(1981年以前)に竣工したオフィスビルのストック量は全都市で3,020 万㎡と総ストックの約29%を占め、新耐震基準以降(1982年以降)に竣工したオフィス ビルのストック量は全都市で7,553万㎡と総ストックの約71%を占めている。

図表1-2-39 竣工年次別のストック量(2014年1月時点)

(出典)一般財団法人 日本不動産研究所「全国オフィスビル調査(20141月現在)」

17 一般財団法人日本不動産研究所において延床面積3,000㎡以上を対象に調査。

59.9%

14.9%

5.5%

4.7%

3.3%

2.4%

2.1%

7.2%

東京

大阪 名古屋 横浜 福岡 札幌 仙台 その他

次に、主要都市別のオフィスビルストック割合を示したものが図表1-2-40である。全都 市のオフィスビルストックは10,672万㎡18あるのに対し、東京は6,394万㎡で全都市の約 60%を占め、大阪が1,591万㎡で同約15%、名古屋が587万㎡で同約6%となっており、

三大都市だけで約80%のオフィスビルストックが集中している。

図表1-2-40 主要都市における事務所ストック割合(2014年1月時点)

(出典)一般財団法人 日本不動産研究所「全国オフィスビル調査(20141月現在)」を基に 当研究所にて作成

④事務所の工事発注者(業種別)割合の推移

図表1-2-41は、事務所の建設工事を発注する発注者割合の推移を業種別に示したもので

ある。2000 年においては、不動産業が全体の約 8 割を占めていたが、その後、製造業、

金融・保険業、サービス業といった業種も事務所建設の発注を強めており、2013年度の発 注者割合は、製造業10.8%、金融・保険業20.7%、不動産業24.8%、サービス業15.0%、

その他1928.7%となっている。この動きの背景としては、2001年に創設された「J-REIT」

及び2002 年に制定された「都市再生特別措置法20」等を追い風に、都心を中心に自社所有 のビル用地の事業化を図る動きが加速したことなどが挙げられ、オフィス市場を取り巻く 産業構造の変化が見てとれる。

18 築年不詳99万㎡含む。

19 卸売・小売業、通信業、運輸業、電気・ガス・熱供給・水道業、鉱業・建設業、農林漁業、その他 の合算値。

20 近年における急速な情報化、国際化、少子高齢化等の社会経済情勢の変化に日本における都市が十 分対応できていない状況を鑑み、これらの情勢の変化に対応した都市機能の高度化および都市の居 住環境の向上を図るために制定された法律。

図表1-2-41 事務所の発注者(業種別)割合の推移

(出典)国土交通省「建設工事受注動態統計調査」を基に当研究所にて作成

⑤不動産証券化市場の動向

図表1-2-42は、証券化対象不動産の取得実績の推移である。2001年に「J-REIT」が創

設されて以来、私募投資等を含めた不動産証券化市場は拡大を続け、リーマンショック後 の2008・09年は大幅に取得額が減少する形となったが、2009年以降は回復基調が継続し ており、2013年度中に証券化された不動産投資額は約4.4兆円規模(対前年度比約31.4%増)

に達している。

図表1-2-42 証券化対象不動産の取得実績の推移

(出典)国土交通省「平成25年度 不動産証券化の実態調査」を基に当研究所にて作成

10.8%

18.9%

13.3%

7.2%

8.4%

9.1%

11.9%

18.9%

10.9%

17.1%

11.8%

15.8%

10.5%

3.1%

20.7%

12.9%

20.3%

9.5%

15.4%

12.3%

11.8%

10.3%

21.2%

11.2%

11.3%

15.9%

19.2%

0.2%

24.8%

41.4%

29.6%

45.5%

43.1%

47.1%

49.1%

44.8%

31.2%

26.6%

54.6%

34.2%

22.0%

79.6%

15.0%

6.9%

9.6%

11.6%

14.8%

13.3%

10.8%

9.9%

8.8%

17.4%

6.0%

21.1%

18.2%

5.6%

28.7%

19.9%

27.2%

26.2%

18.3%

18.2%

16.4%

16.0%

27.9%

27.7%

16.4%

13.1%

30.1%

11.4%

0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 100.0% 120.0%

2013年 2012年 2011年 2010年 2009年 2008年 2007年 2006年 2005年 2004年 2003年 2002年 2001年 2000年

製造業 金融・保険業 不動産業 サービス業 その他

0 500 1,000 1,500 2,000 2,500

0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000

資産額(10億円) 件数

証券化された資産額 件数

J-REIT創設後 リーマンショック後

証券化され流動性が格段に向上したことに伴い、不動産は急速に金融商品としての存在 価値を高めており、世界的な運用難で行き場を模索する海外の投資マネーが、この不動産 ファンドを通じて、日本の東京不動産市場に流れ込んでいる。また、国内大手デベロッパ ーにおいても、J-REIT を開発物件の受け皿として活用し、再投資の資金調達手段を確保 して新たな分野に事業ポートフォリオ21を拡大する動きが加速しており、現在では、不動 産証券化の対象資産はオフィスビル以外にも、住宅、商業施設、物流施設(倉庫)といっ た様々な資産タイプに拡大している(図表1-2-43)。

図表1-2-43 証券化不動産の用途別資産額割合の推移

(出典)国土交通省「平成25年度 不動産証券化の実態調査」を基に当研究所にて作成

更に、不動産証券化の動きは不動産業の収益面においても追い風となっている。図表

1-2-44は、事務所着工床面積と不動産業の経常利益の推移を示したものである。

バブル崩壊以降、事務所の着工床面積減少の動きに比例する形で不動産業の経常利益も 悪化している。しかし、1996年頃から回復基調に入り、2008年のリーマンショック以降 においても不動産業の利益はさほど落ち込むことなく増加している。

その背景として考えられるのは、バブル崩壊以降、不動産会社はビジネスモデルを大き く転換していることである。不動産需要の旺盛な高度成長期には、開発事業で高い利益を 上げることができたが、経済成長の鈍化とともに利益は減少し、逆に不動産を持つことが リスクとなるケースが増加した。一方、オフィスビルや賃貸住宅の運営事業は、競争力が ある物件であれば長期に安定した収益を得られるため、不動産会社では立地の良い場所に

21 企業が多角化戦略を取った際のさまざまな事業群の組み合わせのこと。

0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0 100.0

( %)

オフィス 住宅 商業施設 倉庫 その他