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1.2 建設投資の変動要因分析(住宅・事務所・倉庫)

1.2.1 住宅建設投資の変動要因分析

新設住宅着工戸数は1967年度以降、1972年度の185.6万戸をピークに年間100万戸以 上で推移してきたが、リーマンショック後の2009年度に77.5万戸に減少した。その後は 徐々に回復し、2013年度には消費増税前の駆け込みもあって98.7万戸となったが、2014 年度は消費増税の反動減により88.4万戸、2015年度は92.8万戸となる見込みである1。 新設住宅着工の増加は、人口・世帯数の増加により後押しされてきたと推測されるが、

今後は人口・世帯数の減少により中長期的には減少していく可能性が高いと考えられる。

本項では、中長期における住宅建設投資の今後の推移の可能性を念頭に、これまでの着 工戸数と人口・経済・世帯の推移、着工戸数と主世帯数の増加・居住世帯のない住宅数の 増加・除却等戸数の関係、住宅建設投資に含まれる増改築工事、国立社会保障・人口問題 研究所の将来推計(中位推計)に基づく世代・家族類型別の世帯数増減の中長期予測によ り、変動要因の分析を行うこととしたい。

(1) 住宅着工戸数と人口・実質 GDP の推移

①着工戸数と人口増減率

図表1-2-1は、1955年以降の住宅着工戸数(年度)と、日本の総人口・生産年齢人口(15

~64歳)の増減率(各年10月1日時点)の推移である。

図表1-2-1 住宅着工戸数と総人口・生産年齢人口増減率の推移

(出典)国土交通省「建築着工統計調査」、総務省統計局「人口推計」を基に 当研究所にて作成

)住宅着工戸数は年度、人口増減率は各年101日時点。

1 当研究所20152月建設経済予測より。

‐2.00%

‐1.50%

‐1.00%

‐0.50%

0.00%

0.50%

1.00%

1.50%

2.00%

2.50%

3.00%

0 100 200 300 400 500 600

1 9 5 5 1 9 5 6 1 9 5 7 1 9 5 8 1 9 5 9 1 9 6 0 1 9 6 1 1 9 6 2 1 9 6 3 1 9 6 4 1 9 6 5 1 9 6 6 1 9 6 7 1 9 6 8 1 9 6 9 1 9 7 0 1 9 7 1 1 9 7 2 1 9 7 3 1 9 7 4 1 9 7 5 1 9 7 6 1 9 7 7 1 9 7 8 1 9 7 9 1 9 8 0 1 9 8 1 1 9 8 2 1 9 8 3 1 9 8 4 1 9 8 5 1 9 8 6 1 9 8 7 1 9 8 8 1 9 8 9 1 9 9 0 1 9 9 1 1 9 9 2 1 9 9 3 1 9 9 4 1 9 9 5 1 9 9 6 1 9 9 7 1 9 9 8 1 9 9 9 2 0 0 0 2 0 0 1 2 0 0 2 2 0 0 3 2 0 0 4 2 0 0 5 2 0 0 6 2 0 0 7 2 0 0 8 2 0 0 9 2 0 1 0 2 0 1 1 2 0 1 2 2 0 1 3

住宅着工戸数 人口増減率(右) 生産年齢人口増減率(右)

(万戸)

日本の総人口の増減率は1972年にピークの前年比2.3%増となって以降、徐々に増加幅 が縮小している。住宅着工戸数は 1984 年度以降も増加しており、総人口増加率の低下と は一致していない。一方、15~64歳の生産年齢人口の増減率の推移をみると、1964年以 降の増加率は縮小傾向であるものの、1982~89年は年1%程度の増加となっており、団塊 ジュニア世代2の加入などによる生産年齢人口の増加が住宅着工戸数増加に寄与した可能 性があると考えられる。生産年齢である15~64歳を住宅の需要者とみなすことについては、

中長期においては特に1970年代頃までは15歳以降に親元を離れて就職・就学する若者が 多かったと思われること、近年 60 歳以上の就業者が増加していることから、これらの年 齢層を含めることは適切であると考えられる。なお、2010年の一時的な生産年齢人口の増 加の原因は、当年が15歳になる1994年の出生率が高かったことによるもので、詳細な理 由は不明であるが当年が戌(いぬ)年であり、安産を希望した人が多かったことなどが要 因として考えられる。

②着工戸数と実質GDP

図表1-2-2は、1955年度以降における住宅着工戸数と実質GDP成長率(対前年度増減

率)の推移である。

図表1-2-2 住宅着工戸数と実質GDP成長率の推移

(出典)国土交通省「建築着工統計調査」、内閣府「国民経済計算」を基に当研究所にて作成

)実質GDP成長率(対前年度増減率)は1955~1980年度は1990年度基準、1981

~1994年度は2000年度基準、1995~2013年度は2005年度基準となっている。

2 平成25年版厚生労働白書の説明によれば、各団塊世代の生年は団塊世代が1947~1949年、団塊ジ ュニア世代が1971~1974年。

‐6.0%

‐4.0%

‐2.0%

0.0%

2.0%

4.0%

6.0%

8.0%

10.0%

12.0%

14.0%

0 100 200 300 400 500 600

1 9 5 5 1 9 5 6 1 9 5 7 1 9 5 8 1 9 5 9 1 9 6 0 1 9 6 1 1 9 6 2 1 9 6 3 1 9 6 4 1 9 6 5 1 9 6 6 1 9 6 7 1 9 6 8 1 9 6 9 1 9 7 0 1 9 7 1 1 9 7 2 1 9 7 3 1 9 7 4 1 9 7 5 1 9 7 6 1 9 7 7 1 9 7 8 1 9 7 9 1 9 8 0 1 9 8 1 1 9 8 2 1 9 8 3 1 9 8 4 1 9 8 5 1 9 8 6 1 9 8 7 1 9 8 8 1 9 8 9 1 9 9 0 1 9 9 1 1 9 9 2 1 9 9 3 1 9 9 4 1 9 9 5 1 9 9 6 1 9 9 7 1 9 9 8 1 9 9 9 2 0 0 0 2 0 0 1 2 0 0 2 2 0 0 3 2 0 0 4 2 0 0 5 2 0 0 6 2 0 0 7 2 0 0 8 2 0 0 9 2 0 1 0 2 0 1 1 2 0 1 2 2 0 1 3

住宅着工戸数 実質GDP成長率(右)

(万戸)

( 年

着工戸数と実質 GDP 成長率を比較すると、年単位の経済状況の変動が着工戸数に影響 していたことが確認できる。

着工戸数が最大の185万戸となる1972年度までは、人口と主世帯の増加は共に上昇し 続けており、実質GDP 対前年度比の成長率も最大で12%であった。1974年度に第一次 オイルショックの影響により△0.5%のマイナス成長率となり、着工戸数も 126 万戸に減 少した。その後成長率・着工戸数ともに回復はしたが、1980年度に第二次オイルショック による成長率の落ち込みがあり、着工戸数も減少局面に転じている。

1984年度以降着工戸数は回復局面となり、1986年度は急激な円高で成長率が低下した ものの、以降は内需拡大によるバブル経済期に入り、成長率は1987~1990年度には最大

6%以上で推移し、着工戸数も1987年度に172万戸に急増した。

バブルが崩壊した1991年度には成長率は2.3%に低下し、前年から開始された不動産向 け融資の伸び率を金融機関の総貸出の伸び率以下に抑えるよう指導した不動産融資総量規 制の影響もあって着工戸数は134万戸に減少した。その後成長率は1993年度の△0.5%ま で低下したものの、着工戸数は1994年度の156万戸まで増加し続けた。バブルの時期は 土地価格を含む建設費の高騰により着工戸数が頭打ちになったことと、(2)で後述する主 世帯数増加などの要因によりバブル期以降も着工戸数が保たれたものと推察される。

1996 年度の着工戸数は、前年度の減少から一転して増加し 163 万戸に達するが、これ は、翌年1997年4月の消費増税前の駆け込みによる影響が大きかったと考えられる。1997 年度以降は、金融危機による景気低迷(1998 年度成長率△1.5%)もあって着工戸数は減 少傾向であった。2003~2007 年度は概ね 2%弱の成長率が継続しており、主世帯増加数 の低下が始まっていたにもかかわらず、2006年度まで着工戸数の増加が続いた要因になっ たものと考えられる。

2007年度は、耐震偽装問題を受けた同年の改正建築基準法施行による建築確認手続の遅 滞によって着工戸数は103 万戸に減少し、続く 2008 年のリーマンショックにより 2008 年度の成長率は△3.7%に急減し、着工戸数は2009年度に77万戸にまで減少した。

その後は2011年の東日本大震災からの復興を経て、実質GDP成長率と着工戸数は回復 し、消費増税による駆け込み等もあって2013年度の成長率は2.1%、着工戸数は98.7万 戸となっている。

(2) 着工戸数と世帯数等との関係について

①着工戸数と世帯

図表1-2-3は、5年毎の住宅着工戸数と主世帯3・生産年齢人口の増減率の推移である。

図表1-2-3 住宅着工戸数と主世帯・生産年齢人口増減率の推移

(出典)国土交通省「建築着工統計調査」、総務省「住宅・土地統計調査」、総務省統計局「人口推計」

を基に当研究所にて作成

)住宅着工戸数は年度の5年間の累計、主世帯数・生産年齢人口増減率は各年10月までの5年間。

主世帯数の増減率と住宅着工戸数は大勢として類似した動きを示しており、主世帯数が 着工戸数変動の要因であることを推測できる。生産年齢人口と主世帯数の増減率を比較す ると、生産年齢人口増加の1968年と1988年のピークは、主世帯数増加の1973年と1993 年にそれぞれ対応すると考えられ、生産年齢人口に編入される 15 歳時点と主世帯数変動 の要因となる親からの独立、結婚の時期等の差異により約5年のラグが生じるものと考え られる。また、生産年齢人口は1998年に減少に転じ、1988年以降の増加率低下も急であ るのに対し、主世帯数は現在も増加を保ち、1993 年以降の増加率低下も緩やかである。

1973~1983年の主世帯数増加率の低下と比べても、1993年以降のそれは緩やかになって

おり、この時期は核家族・単世帯化がより進行した可能性が考えられる。

3 住宅・土地統計調査において、住宅に居住している世帯のうち、同居世帯を除いた主な世帯をいう。

同調査における「居住世帯のある住宅」数に等しい。2013年調査で52,103,800世帯(戸)。

‐10.0%

‐5.0%

0.0%

5.0%

10.0%

15.0%

20.0%

0 100 200 300 400 500 600 700 800 900

1963 1968 1973 1978 1983 1988 1993 1998 2003 2008 2013

持家 貸家 分譲住宅

給与住宅 主世帯数増減率(右) 生産人口増減率(右)

(万戸)

②ストックからみた主世帯増加数等と着工戸数の関係について

図表1-2-3で、主世帯数が新設住宅着工戸数の主な変動要因であることが推測できたが、

ここでは、下記の式でストックである住宅総数の増減と「新設住宅着工戸数」・「除却等戸 数」・「居住世帯のある住宅(主世帯)増加数」・「居住世帯のない住宅増加数」の関係を整 理することにより、新設住宅着工戸数の構成を表すこととする。

・当期の住宅総数=前期の住宅総数+新設住宅着工戸数-除却等戸数 ↓

・新設住宅着工戸数=住宅総数増加数(=当期の住宅総数-前期の住宅総数)+除却等戸数

(この式で、「住宅総数増加数=居住世帯のある住宅(主世帯)増加数+居住世帯のない住 宅増加数」であるので、置き換える。)

◇新設住宅着工戸数=主世帯増加数+居住世帯のない住宅増加数+除却等戸数

以上から、新設住宅着工戸数は、「主世帯増加数」・「居住世帯のない住宅増加数」・「除却 等戸数」の合計となることが分かる。

新設住宅着工戸数と主世帯増加数・居住世帯のない住宅増加数・除却等戸数を比較する と、主世帯増加数は、着工戸数とほぼ連動した動きになっており、上記式における住宅着 工戸数の構成要因であるとともに増減に相関性があることが推測できる(図表1-2-4)。

居住世帯のない住宅の増加数は、1978年まで年間平均18万戸のペースまで上昇した後、

1993年には年間平均10万戸程度まで低下し、その後、1998年に年間平均24万戸程度に 上昇し、最近の2013年では年間平均10万戸程度に低下している。

除却等戸数は上記の式において、新設住宅着工戸数と主世帯・居住世帯のない住宅の増 加数との差を補完するものである。除却等戸数は 1973 年に新設住宅着工戸数と同じく急 増した後は、1984年度以降1993年度頃までが最も高い水準となっており、これは、経済 成長がこの期間の主世帯増加数の低下を補って住宅着工戸数の増加に寄与したものと考え られる。

その後の1993~1998年間では、主世帯増加数と除却等戸数が低下する中で、居住世帯

のない住宅の増加数が上昇しており、その後の2003~2008年度の期間でも類似した動き となっているが、これは供給が過剰傾向になっていたものと推察される。

一方、2008~2013 年間では、主世帯増加数の低下ペースよりも、居住世帯のない住宅 の増加数と除却等戸数がともに低下しており、リーマンショック後の経済の冷え込みで、

供給が減少傾向になったものと考えられる。