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2.2 建設企業の資金動向分析

2.1.1 地方の建設業の現状と担い手確保の取り組み

(1) 地方建設業と担い手の現状

①地方建設業の衰退

首都圏及び関西圏に比べ、地方は 1990 年代の終わり頃から公共事業予算が急速なペース で減少したことに加え、人口減少・高齢化が進行したことや、工場の海外移転等により地域 産業が衰退したことで、建設業の市場が著しく減少した。

地方の建設投資は公共事業の比率が高かったことから、建設企業は土木の比重が高く、

土木専業の会社が多い。1990年代後半以降、こうした地方の建設企業は数、規模ともに大幅 に減少・縮小し、同時に雇用されている社員についても新規採用がストップしたために 20 歳代から30歳代の中堅・若手技術者や建設技能労働者が大幅に不足している。

図表2-1-1 建設業許可業者数の推移

(出典)国土交通省

「建設業許可業者数調査の結果について-建設業許可業者の現状(平成263月末現在)-」

②建設投資の回復と担い手不足の顕在化

こうした現状の中で、東日本大震災を転機として、大規模震災等に対する防災対策、老朽化 するインフラの維持更新・長寿命化等の施策の必要性が再認識され、公共投資も回復の動き を見せている。また、経済の回復に伴い民間の建設投資も回復基調にある。

現状は、首都圏及び関西圏に比べて建設投資の回復も限定的であるために、人手不足は 顕在化していない。それでも一部では大型建築工事や災害復旧工事の発注に際して、地元建設 企業の技術者や建設技能労働者不足、労務費・資機材価格の上昇による予定価格と実勢価格 の乖離等により入札不調・不落が多発する等の現象が起きている(図表2-1-2参照)。

図表2-1-2 全国における直轄工事の不調・不落の発生率の推移

(出典)国土交通省

③建設業における技術者の不足

土木工事を中心とする地方の建設企業にとって、工事受注には技術者の確保が重要であるが、

工事の数及び規模が減少・縮小したため、必要な技術者の確保が困難になっている。特に 地方公共団体も技術者が不足していたが、インフラの老朽化や更新に対応するために技術者を 建設会社や建設コンサルタントから中途採用するケースが増えており、技術者不足に拍車を かけているといわれている(図表2-1-3参照)。

図表2-1-3 技術者数及び平均年齢と投資額(出来高ベース)の推移

(出典)技術者数、平均年齢:総務省「国勢調査」

投資額(出来高ベース):国土交通省「建設総合統計」

④若手人材の確保が困難

建設業における若手の人材確保は地方でも困難な状況である。本来、地方では建設会社は 重要な就職先であるはずが、大都市圏との賃金格差、仕事のきつさやイメージの悪さ、会社 の安定性への不安等から、高卒者を中心に建設会社への就職を敬遠する傾向が強まっている。

また、建設業に対する有力な人材供給源であった工業高校も数の減少、工業科の廃止や 生徒減、進学志向の高まり、そして企業が採用を控えていたことが影響し、建設業への就職者 は減少している(図表2-1-4参照)。

図表2-1-4 工業科と生徒数の推移

(出典)文部科学省「文部科学統計要覧」(平成26年版)を基に当研究所にて作成

0 100,000 200,000 300,000 400,000 500,000 600,000 700,000 800,000 900,000 1,000,000

0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000

1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2009 2010 2011 2012 2013 学校数 生徒数

(校) (人)

(年)

ケース① ケース② ケース① ケース② ケース① ケース② ケース① ケース② 278.4 281.0 251.8 287.5 225.6 268.2 203.4 250.1 4.5% 5.5% △ 5.5% 7.9% △ 15.3% 0.7% △ 23.7% △ 6.1%

13.5 13.6 11.9 13.8 10.3 12.5 8.9 11.2

5.5% 6.2% △ 7.0% 7.8% △ 19.5% △ 2.3% △ 30.5% △ 12.5%

25.2 25.4 22.3 25.7 18.9 23.1 16.3 20.7

4.6% 5.4% △ 7.5% 6.6% △ 21.6% △ 4.1% △ 32.4% △ 14.1%

88.4 89.3 79.2 90.6 70.9 83.9 64.5 78.4

4.2% 5.3% △ 6.6% 6.8% △ 16.4% △ 1.1% △ 23.9% △ 7.5%

15.8 16.0 14.0 16.2 12.3 14.9 11.1 13.7

4.6% 6.0% △ 7.3% 7.3% △ 18.5% △ 1.3% △ 26.5% △ 9.3%

34.0 34.3 30.8 35.1 27.8 33.0 25.3 31.2

4.3% 5.2% △ 5.5% 7.7% △ 14.7% 1.2% △ 22.4% △ 4.3%

38.3 38.7 34.7 39.5 31.4 37.0 28.7 34.8

4.4% 5.4% △ 5.4% 7.6% △ 14.4% 0.8% △ 21.8% △ 5.2%

18.2 18.4 16.2 18.7 14.2 17.2 12.8 15.9

4.6% 5.7% △ 6.9% 7.5% △ 18.4% △ 1.1% △ 26.4% △ 8.6%

9.5 9.5 8.4 9.6 7.2 8.7 6.2 7.8

5.6% 5.6% △ 6.7% 6.7% △ 20.0% △ 3.3% △ 31.1% △ 13.3%

35.3 35.7 31.9 36.4 27.5 33.4 24.0 30.4

4.4% 5.6% △ 5.6% 7.7% △ 18.6% △ 1.2% △ 29.0% △ 10.1%

(単位:万人)

地域ブロック別 2010年 2015年 2020年 2025年 2030年

9.0

33.8 17.4

北 陸

266.4

12.8

24.1 全 国

15.1

32.6

36.7

北海道 東 北

関 東 84.8

中 部

近 畿

中 国 四 国 九州・沖縄

⑤地方の建設技能労働者の減少

前号の第2章1節「建設技能労働者数の動向分析および将来推計」において、建設技能 労働者の将来推計を行ったが、当研究所では地域ブロック別に同様の推計を行っており、その 結果は図表 2-1-5 の通りである。これを見ると、大都市圏を含む地域ブロック(関東、中部、

近畿)とそれ以外の地域ブロックでは、ケース①・②いずれの場合も地方の方が、減少幅が 大きくなっている。この原因は建設技能労働者の年齢構成に大きな原因がある。例えば図表

2-1-6 を見ると、東北地方では高年齢層(いわゆる団塊世代)の労働者が多いために、この

年齢層がリタイアした後は労働者数が全体として大きく減少することが予測される。一方、

図表 2-1-7 を見ると、関東ブロックでは中堅層(いわゆる団塊ジュニア世代)の労働者が

多いために、高年齢層のリタイアの影響が比較的少ないことが分かる。

大都市圏の建設現場に働き盛りの中堅層の労働者が集中していることから、将来の建設技能 労働者不足は、地方の方がより深刻であることが明らかである。

図表2-1-5 建設技能労働者の将来推計(地域ブロック別)

(注)ケース①、②については「建設経済レポート№63」p128、129参照。

ケース②の方が若年層の入職率の倍増等を見込んだ楽観的な見通しとなっている。

図表2-1-6 ケース①「東北ブロック」の将来推計(2013年~2030年)

図表2-1-7 ケース①「関東ブロック」の将来推計(2013年~2030年)

0 1 2 3 4 5 6

(万人)

2013年 2030年

0 3 5 8 10 13 15

(万人)

2013年 2030年

(2) 各県の状況と取り組み

1

①島根県

島根県の公共工事は1998年度(平成10年度)に約4,100億円の規模であったが、2011年度

(平成23年度)には約1,420億円と1/3程度にまで減少している。建設業者数は2004年度

(平成 16 年度)に 3,663 業者とピークであったが、2013 年度(平成25 年度)は 2,959

業者にまで減少している。建設業の就業者も減少しており、国勢調査のデータでは2000年

(平成12年)に50,000人近かったが、2010年(平成22年)には35,000人を割り込んでいる。

特に15~24歳の年齢層は2000年(平成12年)の4,759人に対し、2010年(平成22年)

は1,369人と、わずか10年で約71%も減少している状態である(図表2-1-8、9参照)。

図表2-1-8 島根県における公共工事受注高、建設業許可業者数の推移

(出典)島根県土木部提供資料

1 地方建設業の現状を把握するにあたり、島根・石川・長崎・栃木の4県においてヒアリングを実施した。

ヒアリングにあたり、一般社団法人全国建設産業団体連合会、各県建設業協会及び建設産業団体連合会、

島根県土木部及び長崎県土木部のご協力をいただき、取りまとめを行った。

図表2-1-9 島根県における年齢階層別就業者数の推移

(出典)島根県土木部提供資料

また、公共工事の減少と過当競争によって、建設企業の経営状態は完成工事高の少ない 小規模な会社ほど苦しくなっており、特に人口の少ない地域の建設企業の体力が、著しく 低下している(図表2-1-10、11参照)。2013年7月28日の豪雨災害により甚大な被害が 生じたために、県西部で災害復旧工事の入札を実施したところ、半数近くの工事が入札不調 又は不落になるという深刻な事態が発生したが、こうした事情が背景にあるものと考えられる。

図表2-1-10 島根県内建設企業の完成工事高経常利益率(規模別)推移

(出典)島根県土木部提供資料

10億円以上

5億円以上

1億円以上

1億円未満 総平均

図表2-1-11 島根県内建設許可業者数の推移(市町村別)

(出典)島根県土木部提供資料

このため島根県では、県内建設業の担い手確保に向けた若年入職者の拡大と女性の建設業 への進出に重点を置いて、以下のような取り組みを実施している。

・建設業魅力発信等研究会の設置

県内建設業の若手経営者と県土木部の若手技術者等で設置。建設業の魅力発信や担い手 確保、イメージアップに向けた方策を検討。

・担い手確保に取り組む企業の入札参加資格審査における優遇

2015・2016 年度の入札参加資格審査において、若年者(29歳以下)の雇用を評価

項目に追加し、小中高校生に向けた担い手確保活動(職場見学・現場見学会等)を 評価項目として新設。

また、インフラの維持管理や、災害対応として「地域を守る」建設企業を確保するため、

最低制限価格等の見直し、一般競争入札参加資格要件の緩和等を検討している。

島根県及び島根県建設業協会では、若者が建設業に対して「給料が少なくて休日がない」

といった悪いイメージを抱いているところから改善しようと、県内の工業高校を中心に建設業 の本当の姿・魅力を伝えるための活動に重点を置き、以下の取り組みを推進している。

100  200  300  400  500  600  700  800  900  1,000 

H21 H22 H23 H24 H25

松江市 安来市 雲南市 奥出雲町 飯南町 出雲市 大田市 川本町 美郷町 邑南町 江津市 浜田市 益田市 津和野町 吉賀町 海士町 西ノ島 知夫村 隠岐の島町

(業者)

(年)

松江市

出雲市

≪建設産業の魅力発信・イメージアップ≫

・県の広報媒体や業界団体のホームページ、フェイスブック(Facebook)等ソーシャル メディアを活用した建設産業の役割や魅力の戦略的広報

・現場見学会や出前講座、インターンシップの実施による建設産業の理解、体験機会 の提供

・中学、高校、専門学校、大学等、学校関係者との定期的な意見交換会の開催

・県内及び県外における建設業界単独での企業説明会開催により、建設産業への理解の 醸成と求人、求職のミスマッチの解消

・若者や女性にとって魅力的で、現場での視認性が高いユニフォームの導入 ・災害対応等の映像を新聞やテレビ等、マスメディアに積極的に情報提供

・農業や福祉、環境分野への進出等、地域経済の活性化に取り組む姿勢をアピール ・戦略的広報に関する全国的組織との建設的な連携

≪若年者の処遇改善≫

・若年層の賃金水準の引き上げ ・社会保険加入の徹底

・週休2日制の実現、土日閉所の促進 ≪若年者の早期活躍の推進≫

・若年者の資格取得支援(資格取得支援講座の開催等)

・若年技術者の早期登用(技術者配置要件の見直し等)

・キャリアパスの提示

(入職後の経験年数に応じた職位、責任、技能、資格取得等、キャリアアップの道筋 や基準、条件の明確化)

・職業訓練施設、専門学校、高等教育機関等と連携した教育訓練システムの構築

≪女性が活躍できる職場環境づくり≫

・女性を活かせる職種の掘り起こし

・女性技術者の積極的な配置と管理職への登用 ・週休2日制の実現、土日閉所の促進

・各種休暇制度の充実と積極的な運用

・トイレ、更衣室、託児所等の職場環境の整備

・女性の活躍の発信(広報誌の女性特集、「女子会」活動の支援等)

また、「しまね建設産業イメージアップ女子会」と連携して、女性をモデルにしたイメージ アップカレンダーの制作・配布や、テレビ・SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)

を活用して若者や女性の活躍を伝える等の工夫に取り組んでいるのも特徴である。