• 検索結果がありません。

1.3 地域別の社会資本整備動向~南関東ブロック~

1.3.3 大規模住宅団地再生

(1) 大規模住宅団地の現状

我が国では少子高齢化が進行し、なかでも急速に高齢化が進むのが東京都などの首都圏と 言われている。まず少子化について、南関東ブロック各都県の 2013 年の合計特殊出生率は 全国平均の1.41を下回っており、東京都は1.13と全国平均を大きく下回っている1

また、2020年東京オリンピック・パラリンピック以降は、南関東ブロック各都県において は、人口が減少に転じることが予測されている。一方、高齢化については、2040年以降には 南関東ブロック各都県では、65歳以上人口率がそれぞれ30%を超すと予想され、また、2010 年時点で全国人口に占める地域ブロック別人口の割合(65歳以上人口)が24.8%と、全国で 最も高い地域となっている2。その理由として、高度経済成長期における首都圏への人口の大 量流入が挙げられる。その人口集中による居住問題の解決のため、日本住宅公団・宅地開発 公団(両方とも現在は都市再生機構)、地方公共団体、地方住宅供給公社などの公的住宅事業 主体によって、1960年以降から郊外部に位置する、人口の希薄な丘陵地帯に多くの大規模住 宅団地が開発された。それらの住宅は、ほとんどが鉄道整備により都心とのアクセスが確保 され、サラリーマン、労働者世帯の居住を支えてきた。しかし、高度経済成長期に急速に整 備された大規模住宅団地においては、住宅・施設が老朽化しており、改修や建て替えなどが 必要となっているところも多い。また、かつては都心部に通勤する勤労者世帯、子育て世帯 の核家族が住民の主体となっていたが、現在では住民が高齢化するとともに、子供世代の独 立などにより小世帯化が発生している。また、保育所や学校などの子育て世帯に求められた 施設が遊休化し、他方では医療・福祉施設などの高齢者向け施設が不足している状況である と、指摘されることもある。以下では、高度経済成長期に開発された大規模住宅団地の再生 に向けた公的住宅事業主体の取り組みを紹介し、課題などを検証するとともに、少子高齢社 会を見据えたまちづくりについて考察したい。

(2) 都市再生機構の取り組みについて

①賃貸住宅ストック再生・再編方針について

都市再生機構の賃貸住宅ストックの現状については、全国で約77万戸3の賃貸住宅ストッ クがあり、特に高度経済成長期に開発されたものについては、いまだ、住宅の規模や間取り、

設備水準などが老朽化、陳腐化しているものも多い。また、都市再生機構の賃貸住宅ストッ

1 厚生労働省 「平成25(2013)年人口動態統計(確定数)の概況」

2 国立社会保障・人口問題研究所 「日本の地域別将来推計人口(平成25年(2013)年3月推計)」

3 独立行政法人都市再生機構 「UR賃貸住宅ストック再生・再編方針」(平成202月更新)で表さ れている戸数

ク全体では、65歳以上を含む世帯の割合が約35%、年間収入が449万円未満の世帯が約50%

と、高齢化・低所得化が進行している4

都市再生機構では、上記のような賃貸住宅ストックの現状と社会構造の変化に対応するた め、「UR 賃貸住宅ストック再生・再編方針」を策定している。また、2018 年までの再生・

活用の方向性を検討した上で、個別団地の特性に応じて再生・活用の方針として四つの基本 的類型(1.「団地再生」、2.「ストック活用」、3.「用途転換」、4.「土地所有者等への譲渡、

返還等」)を設定するとともに、団地毎に「団地別整備方針」を策定し、その方針に基づいて 団地を管理・整備することとしている。

再生・活用方針の内訳として、団地毎の立地・特性に応じてバリアフリー化などを実施す

る2.「ストック活用」が全体の約77%を占めており、また、地域の整備課題、住宅需要など

に応じた大規模な再生事業(建て替え事業、トータルリニューアルなど)、改善事業を複合的・

選択的に実施する1.「団地再生」が全体の約17%を占めている5。なお、2013年末の全管理 戸数約 75 万戸6のうち、約 13 万戸が団地再生に分類されており、そのうち南関東ブロック に約6万戸と約5割が集中している。

図表1-3-27、1-3-28は、それぞれ南関東ブロックにおける都県別の管理戸数の割合、当初

管理開始年代別の管理戸数の割合を表している。都県別においては、東京都が約 41%を占 め、千葉県、埼玉県、神奈川県が約 20%前後ずつとなっており、多摩ニュータウンなどが 所在する東京都が最も戸数が多い。当初管理開始年代別においては、1970年代が約37%を 占め、1950~1960年代の約 26%を合わせると、1970年代以前に当初管理開始のものが約 63%を占めている。

図表1-3-27 都県別の割合 図表1-3-28 当初管理開始年代別の割合

(出典)独立行政法人都市再生機構「UR賃貸住宅ストック個別団地類型(案)一覧」

を基に当研究所にて作成

4 独立行政法人都市再生機構 「UR賃貸住宅ストック再生・再編方針」平成202月更新

5 独立行政法人都市再生機構 「UR賃貸住宅ストック個別団地類型(案)一覧」

6 独立行政法人都市再生機構 「UR賃貸住宅ストック個別団地類型(案)一覧」で表されている戸数

②医療福祉拠点形成に向けた取り組み

「UR 賃貸住宅ストック再生・再編方針」における、新しい方向性への取り組みとして掲 げられている「高齢者の安心居住」、「子育て支援」、「地域の多機能拠点」に関連して、2014 年10月23日に「多様な世代が生き生きと暮らし続けられる住まい・まちづくり(ミクスト コミュニティ)に向けた取り組み」が都市再生機構より発表された。これは「超高齢社会に おける住まい・コミュニティのあり方検討会」の最終報告を受け、「多様な世代が生き生きと 暮らし続けられる住まい・まちづくり」を目指し、団地を中心として、住み慣れた地域で最 期まで住み続けることが出来る環境(Aging in Place)を実現するため、地域医療福祉拠点 の形成を目指し、地方公共団体や自治体などの地域関係者と連携して推進していくことを発 表したものである。この地域医療福祉拠点形成については、2018 年度までに全国で 100 団 地程度において取り組んでいく予定であり、南関東ブロックにおいて2014年10月時点では、

高島平団地(東京都板橋区)、豊四季台団地(千葉県柏市)を始めとし、13 団地で既に取り 組みを行っている。

今回、豊四季台団地(千葉県柏市)の地域包括ケアの具現化に向けた取り組みについて、

以下で取り上げたい。

図表1-3-29 豊四季台団地概要

(出典)独立行政法人都市再生機構資料を基に当研究所にて作成

図表1-3-30 豊四季台団地内のサービス付き高齢者向け住宅

(出典)当研究所による撮影(20151月)

所在地 千葉県柏市豊四季台

交通 JR常磐線・東武野田線 柏駅より徒歩13~17分または 循環バスで団地内バス停まで5~8分

用途地域等

第一種住居地域、第一種中高層住居専用地域(200/60)

第一種低層住居専用地域(100/50)

豊四季台地区地区計画、豊四季台景観重点地区 敷地面積 約32.6ha

事業前 4,666戸(1964年管理開始)

事業後 UR賃貸住宅 約2,100戸、民間分譲 約2,600戸 事業期間 2004年~

豊四季台団地

豊四季台団地は千葉県柏市に位置し、団地から東京駅までの所要時間は約 45 分と、好立 地な団地である。団地の管理開始は1964年であり、敷地面積約32.6ha、住戸数が4,666戸 の大規模住宅団地であった。しかし団地建物の老朽化などに伴い、2004年から団地再生事業 が開始され、事業完了後にはUR賃貸住宅が約2,100戸、民間分譲住宅が約2,600戸を予定 されている。また、豊四季台団地を含む周辺の高齢化率は40%程度と、高齢化が進んでおり、

この数字は、我が国全体における2060年の予測値と同程度である7。豊四季台団地の再生に あたっては、2009 年 6 月に発足した柏市豊四季台地域高齢社会総合研究会(柏市、東京大 学、都市再生機構で構成)によって再生の方向性が検討されてきた。団地再生のイメージと して、在宅で医療、看護、介護サービスが受けられる体制が整い、いつまでも在宅で安心し て生活できる環境、並びに地域の中に多様な活躍の場があり、いつまでも元気で活躍できる 場所とされている。

上記の方針のもと、豊四季台団地再生事業が進められており、既にサービス付き高齢者向 け住宅、特別養護老人ホーム、地域医療連携センター、認定こども園などが開設されている。

また、団地敷地内に約1haの広さの豊四季台公園が開設されており、認定こども園の園児や 近隣地域住民の憩いの場となっている。なお、サービス付き高齢者向け住宅の1階には、地 域の人々も利用可能な医療・看護・介護サービスなどの施設があり、地域包括ケアの拠点と して位置付けられているほか、公園に面する部分には外部の人が利用可能な開放されたスペ ースがある。上記の他には、現在建て替えが進められている商業街区において、新たに地域 の方が気軽に訪れて食事やイベントを楽しめるコミュニティ食堂や駐車場が計画されており、

地域に開かれた施設として整備される予定である。また、整備敷地の一部を集合・戸建住宅 用地として民間へ譲渡しており、入居が開始されれば若い世代の住民の増加も期待できる。

今回、豊四季台団地が行っている地域医療福祉拠点形成に向けた取り組みを紹介した。大 規模住宅団地の再生は、各団地が立地する地域の状況や特性を十分踏まえた上で進める必要 があるが、全国的に見てもかなり高い高齢化率である豊四季台団地の再生の取り組みは、高 齢社会における今後の新しいまちづくりのモデルとなることが期待され、注目に値する。

③事業パートナー方式による取り組み

都市再生機構が取り組んでいる団地再生の手法の一つとして、事業パートナー方式がある。

事業パートナー方式とは、事業計画段階から都市再生機構と民間事業パートナーとで共同で 事業化検討を行い、民間ノウハウを活用して、団地を含めた地域全体の総合的な価値向上を 図ることを目的としている。大規模住宅団地における従来の団地建て替えにおいては、街区 毎に個別に事業者や事業プランを公募してきたが、団地建て替えの際の高層化などによって 発生した整備敷地全体を対象とした一体的な取り組みを行うものである。また、計画作成・

事業実施とあわせ、都市再生機構と民間事業パートナーによる事業完了後も、エリアマネジ

7 平成25年度高齢者白書(内閣府)