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1.3 地域別の社会資本整備動向~南関東ブロック~

1.3.4 南関東ブロックにおける建設投資の将来展望

我が国の建設投資は、1992年度の約84.0兆円をピークに、長らく減少傾向が続き、2010 年度には約41.9兆円まで減少した。しかし、東日本大震災の復旧および復興事業が本格化し たことを受けて、2011年度以降は増加に転じている。今後も、復興需要や2020年東京オリ ンピック・パラリンピックに係る事業などが、ある程度建設投資を下支えする見込みである。

また、2014年度は、2013年度補正予算と一体で編成した「15ヶ月予算」など、積極的な財 政出動がなされ、2015年度も政府予算案の内容を踏まえると、一般会計に係る政府建設投資 は横ばいと、一定の投資額が見込まれる状況である。一方、民間投資については、2014年度 において、消費増税前駆け込み需要の反動減による住宅投資の減少などが見られているが、

2015年度については非住宅投資も含めて回復基調に向かうことが期待される。

以下、南関東ブロックにおける建設投資について、分野別に現状および今後の展望につい て述べる。

(1) 建設投資全体の動向

図表 1-3-35 は、南関東ブロックにおける名目建設投資額の推移を示したものである。長

期的な動向を捉えると、過去20年のピークである1992年度(約24兆円)から減少傾向が 続いており、全国と比較すると1990年代から2000年代の初めにかけて、かなり減少率が高 かったが、近年は全国より若干減少率が高いものの、ほぼ同様の推移を示している。

図表1-3-35 南関東ブロックにおける名目建設投資の推移

(出典)国土交通省「平成26年度建設投資見通し」、国土交通省「建設総合統計年度報」

( 注 )名目建設投資額に「建設総合統計年度報」により算出した南関東ブロックの全国に占める投資合 を乗じて南関東ブロックの各投資額を求めている。

図表 1-3-36 は全国および南関東ブロックにおける名目建設投資に占める種類別割合を示

したものである。政府建設投資の割合は、全国の 42%に対して南関東ブロックは 29%と低 く、一方で民間建設投資の割合は、全国の 58%と比較して南関東ブロックは 71%と高率と なっている。これは建設投資全体が民間建設投資動向に影響されやすいことを表している。

図表1-3-36 全国および南関東ブロックにおける名目建設投資に占める種類別比較

(出典)国土交通省「平成26年度建設投資見通し」

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

60.0%

70.0%

80.0%

90.0%

100.0%

10  15  20  25 

92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14

名目政府土木投資 名目政府建築投資 名目民間土木投資

名目民間建築投資 南関東(1992年度=100) 全国(1992年度=100)

(兆円) (見込み) (見通し)

(年 度)

政府土木 23%

政府建築 6%

民間土木 12%

民間建築 59%

南関東ブロック

政府土木 36%

政府建築 6%

民間 土木 10%

民間建築 48%

全国

(2) 政府建設投資

図表 1-3-37 は、南関東ブロックの政府建設投資推移を示したものである。公共工事の削

減とともに長期にわたる減少傾向が続いた南関東ブロックの政府建設投資は、2007年度には 過去20年のピークである1992年度(7.2兆円)の4割弱の約2.7兆円となった。

図表1-3-37 政府建設投資の推移

(出典)国土交通省「平成26年度建設投資見通し」、国土交通省「建設総合統計年度報」

( 注 )名目建設投資額に「建設総合統計年度報」により算出した南関東ブロックの全国に占める投資割 合を乗じて南関東ブロックの各投資額を求めている。

図表1-3-38は、南関東ブロックの4都県における普通建設事業費の推移を示したものであ

る。歳出全体に占める普通建設事業費の割合は、全国平均を下回っている。また過去5年間 の割合は約10%で安定的に推移している。

今後の展望としては、引き続き投資が進む三環状道路、京浜港、羽田空港、成田空港の整 備などの交通インフラ関連投資、新国立競技場などのオリンピック関連投資などが予想され る。こうした国際競争力強化を主眼としたインフラへの投資に加え、道路や下水道などの老 朽インフラの更新への投資の増加が予想される。南関東ブロックは、高度経済成長期に他の ブロックよりも比較的早く社会資本整備が進んだことから、老朽化に伴い更新時期を早く迎 え、そのストック量も膨大である。よって、今後の老朽インフラ更新などが政府建設投資の 大きな柱になると考えられる。

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

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70.0%

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90.0%

100.0%

110.0%

92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14

名目政府土木投資 名目政府建築投資

南関東(1992年度=100) 全国(1992年度=100)

(兆円) (見込み) (見通し)

(年 度)

図表1-3-38 普通建設事業費の推移

(出典)総務省「地方財政統計年報」

( 注 )全国とは47都道府県の合計

(3) 民間住宅建設投資

図表 1-3-39 は、南関東ブロックにおける住宅着工戸数の推移を示したものであり、過去

10 年においては全国とほぼ同様の動きで推移している。2007 年の建築基準法改正や 2008 年のリーマンショックの影響により、大きく落ち込んだ南関東ブロックの住宅着工戸数は、

2009年度に底を打ち回復傾向にある。

今後の見通しとしては、人口減少が続く中で長期的にみると民間住宅建設投資は減少する ものと考えられるが、東京圏への人口流入が引き続き増加している状況であることや、2020 年東京オリンピック・パラリンピックに関連して湾岸エリアなどでの高層住宅開発もさらに 進むと思われること、また、大規模住宅団地再生に伴う余剰敷地の民間譲渡に伴う住宅投資 も予想されることから、南関東ブロックにおいては、民間住宅投資の増加が十分期待できる。

0.0%

5.0%

10.0%

15.0%

20.0%

25.0%

30.0%

0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000

03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

埼玉県 千葉県 東京都 神奈川県 歳出に占める割合(南関東) 歳出に占める割合(全国)

(年度)

図表1-3-39 住宅着工戸数の推移

(出典)2013年度までは国土交通省「建築着工統計調査報告」、2014年度以降は当研究所「建設経済 モデルによる建設投資の見通し(20151月)」

図表1-3-40 住宅着工戸数の利用形態内訳

マンション 戸建

全国 34.3% 38.5% 0.9% 26.3% 13.5% 12.7%

南関東 19.4% 38.9% 1.0% 40.6% 24.3% 16.3%

持家 貸家 給与 分譲

(出典)国土交通省「建築着工統計調査報告」

)2007~2013年度の実績にて算出

図表1-3-41 住宅着工に係る参考指標

※( )は全国における順位

埼玉県 千葉県 東京都 神奈川県 全国

66.2% 66.3% 46.2% 58.8%

(31) (30) (47) (40) 2.50人 2.44人 2.03人 2.33人 (28) (33) (47) (41)

42.0% 40.2% 40.7% 38.5%

(38) (42) (41) (45) 597千円 491千円 578千円 540千円

(6) (33) (10) (21) 持ち家住宅率

1世帯当たりの 人員 共働き率 世帯所得

(月額実収入)

61.9%

2.42人 43.5%

524千円

(出典)総務省「平成25年住宅・土地統計調査(速報集計)「平成22年国勢調査」「家計調査(2013年)」

)世帯所得は各県の県庁所在市の二人以上の世帯のうち勤労者世帯の数値

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

0 10 20 30 40 50 60 70

90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15

埼玉県 千葉県 東京都 神奈川県 南関東(1990年度=100) 全国(1990年度=100)

(年度)

(万戸)

(年度)

(万戸)

(年度)

(万戸)

(年度)

(万戸)

(年度)

(万戸)

(年度)

(万戸)

(年度)

(万戸)

(年度)

(万戸)

実績 見通し

(4) 民間非住宅建設投資

図表1-3-42は、南関東ブロックにおける民間非住宅建設投資の推移を示したものである

が、全国とほぼ同様の推移となっている。過去20年のピークである1992年度から減少傾 向が続き、2003年度には1992年度(約9.1兆円)の4割弱である約3.4兆円に落ち込み、

2006年度には5割弱の約4.9兆円に回復するが、その後はやや減少傾向が続いている。

今後の見通しとしては、三環状道路の整備に伴う物流拠点のさらなる強化や工場などの 製造拠点の整備、オリンピックが開催される2020年に向けた鉄道整備などの投資が予想さ れる。また、全国的に見ると東京圏へのオフィスの集中化も進んでおり、南関東ブロック の民間非住宅建設投資の増加が今後期待される。

図表1-3-42 民間非住宅建設投資の推移

(出典)国土交通省「平成26年度建設投資見通し」、国土交通省「建設総合統計年度報」

( 注 )名目建設投資額に「建設総合統計年度報」により算出した南関東ブロックの全国に占める投資割 合を乗じて南関東ブロックの各投資額を求めている。

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

60.0%

70.0%

80.0%

90.0%

100.0%

10 

92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14

名目民間土木投資 名目民間非住宅投資

南関東(1992年度=100) 全国(1992年度=100)

(兆円) (見込み) (見通し)

(年 度)

図表1-3-43 非住宅建築着工床面積の推移

(出典)国土交通省「建築着工統計調査報告」

)非住宅着工床面積は公共・民間の合計

図表1-3-44 非住宅建築着工床面積の使途別内訳

(出典)国土交通省「建築着工統計調査報告」

)2007~2012年度の非住宅建築着工床面積(公共・民間計)にて算出

図表1-3-45 南関東ブロックにおける工場立地件数

(出典)経済産業省「工場立地動向調査」

0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800

07 08 09 10 11 12 13

事務所 店舗 工場・作業場

倉庫 学校の校舎 病院・診療所

その他

(万㎡)

(年度)

事務所 店舗 工場・

作業場 倉庫 学校の

校舎

病院・

診療所 その他

全 国 12.8% 14.8% 16.8% 11.9% 8.1% 6.3% 29.3%

南関東 21.7% 15.5% 10.2% 14.0% 9.0% 5.3% 24.3%

年 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

全国 1,123 844 1,052 1,302 1,544 1,782 1,791 1,630 867 786 869 1,227

埼玉県 38 25 29 40 67 79 71 63 30 27 36 40 45 (13)

千葉県 21 21 27 24 33 40 52 48 15 21 22 27 33 (23)

東京都 6 2 5 8 4 7 1 2 1 1 3 1 1 (47)

神奈川県 32 30 20 26 35 40 26 45 23 20 9 19 12 (42)

13 1,873

※( )内は全国における順位

おわりに

南関東ブロックにおける社会資本整備の動向とその期待される効果について見てきたが、

国際競争力の強化への対応、少子高齢社会への対応、老朽インフラへの対応強化、自然災 害への対応強化という本ブロックが抱える課題の解決や改善に対し、社会資本整備が果た す役割は極めて大きいことを改めて確認することができた。

首都圏の国際競争力維持向上に対する、交通インフラを中心とした社会資本整備につい ては、2020年をひとつの目標時期として急ピッチで進められている。例えば、首都圏三環 状道路については、2014年6月現在の整備率64%が2020年には約9割程度まで上昇する と見込まれている。また、首都圏空港については、2020年までに既存施設の能力を最大限 に活用しつつ、滑走路運用、飛行経路の見直し、管制機能の高度化などにより空港処理能 力を拡大し、空港処理能力の拡大に対応した駐機場、ターミナル整備が必要とされている。

しかし、三環状道路については整備率100%となって初めて環状道路としての機能が最大限 に発揮され、首都圏空港についても2020年以降の需要に対応するためには、滑走路の増設、

延長が必要とされ、さらなる国際競争力の維持向上のためには、2020年以降も継続した社 会資本整備が望まれる。

加えて、同ブロックにおいてはインフラが高度経済成長期に集中的に建設されたため、

大規模なインフラ更新の時期を迎えつつあり、社会資本整備を進める一方で、首都高速道 路を始めとする道路インフラや、早くから着手された下水道などの老朽インフラの更新・

再整備が喫緊の課題である。中でも首都高速道路では、更新計画が2013年12月に公表さ れ、大規模更新箇所(約 8km)と大規模修繕箇所(約 55km)を特定し、大規模修繕箇所 は2020年までにオリンピックに関連する路線の完了を目指している。さらに、首都直下型 地震対策、東京都の豪雨対策においても、2020年をひとつの目標時期として対応を検討し ている。このように、老朽インフラへの対応や、首都直下型地震、豪雨対策などの防災対 応においても、2020年以降の長期的見通しを持った上で、2020年の目標を設定していると ころであり、2020年以降も継続的な取り組みが必要であることは言うまでもない。

建物の老朽化に伴う大規模住宅団地再生については、住民の高齢化、子供世代の独立な どによる小世帯化も踏まえた対応が求められており、都市再生機構などの公的住宅事業主 体が、地方自治体のまちづくり部局や福祉部局、民間事業者などと連携し、団地周辺地域 も巻き込んだ取り組みが見られた。このような少子高齢社会を見据えた団地再生を通じた まちづくりへの取り組みは、少子高齢化問題を解決する一助となると考えられる。

南関東ブロックは、首都中枢機能が集積しており、その機能が損なわれると、わが国全 体の国民生活や経済活動にも大きな支障が生じる。社会資本整備、更新にあたっては、長 期的な見通しに基づき、施設機能の複合化などにより、既存の社会資本の能力を最大限引 き出しつつ、ハード、ソフト一体となった効率的で着実な取り組みが求められている。