第 6 章 本論文における実証研究の結果の概要
6.1 対象集団に関連する代替思考の役割
本論文では,ステレオタイプ抑制における対象集団に関連する代替思考を検 討するために,次のような集団に対する認知の枠組みを考えた。
ステレオタイプには優位性があり,対象集団に対する当てはまりの程度が強 い優位ステレオタイプ的特性から,当てはまりの程度が相対的に弱い非優位ス テレオタイプ的特性までさまざまなものがあると考えられる。さらに,非優位 ステレオタイプ的特性のなかには,その当てはまりの程度が強い上位の非優位 ステレオタイプ的特性と,相対的に当てはまりの程度が弱い下位の非優位ステ レオタイプ的特性がる。サブタイプは,ステレオタイプに一致しない成員から なる下位集団であるため(Mauer, Park, & Rothbart, 1995; Weber & Crocker,
1983),サブタイプに関する特性を,本論文の枠組みに当てはめると,対象集団
に対する当てはまりの程度が弱い非優位ステレオタイプ的特性のひとつである と考えられる。
以上の議論から,優位ステレオタイプを抑制する際の対象集団に関連する代 替思考には,優位ステレオタイプ的特性の反対の内容である反ステレオタイプ 的特性と,非優位ステレオタイプ的特性があると考えられる。
反ステレオタイプ的特性と非優位ステレオタイプ的特性の代替思考としての 有効性は,抑制対象である優位ステレオタイプとの連想価によって規定される と考えられる。反ステレオタイプ的特性は,優位ステレオタイプ的特性の反意 語であるため,これらの連想価は高いと考えられる。実際 に,Galinsky &
Moskowitz(2007)は,ステレオタイプを抑制すると,反ステレオタイプ的特性
が活性化されることを示している。Wegner の思考抑制のモデルに基づくと,優 位ステレオタイプ抑制の際に,実行過程によって反ステレオタイプ的特性が思
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考上に浮かぶと,優位ステレオタイプ的特性も同時に思考上に浮かびやすいと 考えられる。そのため,実行過程および監視過程を強く働かさなければならず,
その結果,優位ステレオタイプ的特性に対するアクセス可能性が高まりやすく,
逆説的効果が低減されにくいと考えられる。一方,非優位ステレオタイプ的特 性は,優位ステレオタイプ的特性との連想価が低いと考えられる。したがって,
優位ステレオタイプ抑制の際に,実行過程によって非優位ステレオタイプ的特 性が思考上に浮かんでも,優位ステレオタイプ的特性は思考上に浮かびにくい と考えられる。そのため,反ステレオタイプ的特性に比べ,実行過程および監 視過程の働きは弱くてもよく,その結果,優位ステレオタイプ的特性に対する アクセス可能性はそれほど高まることはなく,逆説的効果が低減されやすいと 考えられる。以上の議論から,優位ステレオタイプ抑制の際に,非優位ステレ オタイプ的特性を代替思考として使用すると,逆説的効果が低減されやすいと いう仮説を立てた。
そこで,第4 章の研究 1 から研究 3では,優位ステレオタイプ抑制における 非優位ステレオタイプ的特性の代替思考としての有効性を検討した。
研究 1 では,非優位ステレオタイプ的特性としてサブタイプに関する特性を 用いた。その結果,仮説とは逆に,サブタイプに関する特性を代替思考として 使用すると逆説的効果が低減されにくいことが示された。しかし,事後的な調 査によって,代替思考として用いられた内容は反ステレオタイプ的な特性であ ったことが示された。したがって,研究 1 で得られた結果から,反ステレオタ イプ的特性を代替思考として使用すると,逆説的効果が低減されにくいことが 示唆された。この結果は,先行研究(Oe & Oka, 2003)と一致するものであると 考えられる。
研究2,研究3では,対象集団に対する当てはまりの程度を直接測定して非優
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位ステレオタイプ的特性語を選定し,代替思考としての有効性を検討した。
研究 2 では,優位ステレオタイプ的判断を顕在的に測定して,優位ステレオ タイプ抑制における非優位ステレオタイプ的特性の代替思考としての有効性を 検討した。その結果,まず,先行研究で示されている通り(e.g., Macrae et al.,
1994; Monteith et al., 1998),単純に優位ステレオタイプ抑制を行った場合には
逆説的効果が生じることが示された。さらに,非優位ステレオタイプ的特性を 代替思考として使用すると逆説的効果が低減されやすい可能性が示唆された。
研究3では,顕在的な判断の背後にある認知的メカニズムを検討するために,
優位ステレオタイプ的特性に対するアクセス可能性を潜在的に測定することに よって,優位ステレオタイプ抑制における非優位ステレオタイプ的特性の代替 思考としての有効性を検討した。研究 3 では,反ステレオタイプ的特性を代替 思考として使用する場合と比較した。さらに,非優位ステレオタイプ的特性の 非優位性によって代替思考としての有効性が異なるかどうかを探索的に検討し た。その結果,対象集団に対する当てはまりの程度が強い上位の非優位ステレ オタイプ的特性を代替思考として使用すると,単純に抑制する場合,反ステレ オタイプ的特性を代替思考として使用する場合,対象集団に対する当てはまり の程度が相対的に弱い下位の非優位ステレオタイプ的特性を代替思考として使 用する場合に比べ,優位ステレオタイプ的特性に対するアクセス可能性が低い ことが示された。この結果から,Wegner の思考抑制のモデルに基づくと,優位 ステレオタイプ抑制の際に,上位の非優位ステレオタイプ的特性を代替思考と して使用すると,反ステレオタイプ的特性および下位の非優位ステレオタイプ 的特性を代替思考として使用する場合に比べ,実行過程および監視過程の働き が弱くてもよいため,優位ステレオタイプ的特性に対するアクセス可能性が高 まりにくく,その結果,逆説的効果が低減されやすいという可能性が示唆され
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た。
第 4 章でのこれらの結果は,対象集団に関連する代替思考のなかでも,反ス テレオタイプ的特性を代替思考として使用すると逆説的効果が低減されにくい が,非優位ステレオタイプ的特性を代替思考として使用すると,逆説的効果が 低減されやすいということを示唆している。
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