• 検索結果がありません。

艮        補

第4節  考 察 1.分析I

 居場所感尺度における下位尺度得点を説明変数,描画の形式分析における各 分析項目得点を従属変数とした,重回帰分析の繰り返しによるパス解析を行っ た。その結果,「被受容感」は,「筆圧」や「人物の向いている方向」,「顔の表 情の親しさ」を促進しているが, 「統合性」や「描線のとぎれ」,「遠近感」を抑 制していた。「充実感」は,「描線のとぎれ」,「遠近感」を促進しており,さら

に「人物描写における人間の簡略化」を促進していた。また「充実感」は,「非 現実的描写」を抑制していた。「自己肯定感」は「被受容感」同様に「描線のと ぎれ」を抑制しており,さらに「色相の暖かさ」を促進していた。「安心感」は

「被受容感」に反して「統合性」を促進し,「人物の向き」,「顔の表情の親しさ」

を抑制していた。また「充実感」同様に「遠近感」を促進していた。

 まず,「筆圧」に関して,描線の濃淡はエネルギー水準や自信の度合いなどを 示し,筆圧が強く濃い描線は,エネルギー水準が高く,自己主張的かつ自信家 であり,行動が積極的であり,逆に弱々しい描線は,エネルギー水準が低く,

自分について無力感をもち,自信がなくて決断力に欠け,自分の存在を目立た ないようにし,不安や抑うつ状態にあるとの指摘がある(高橋,1975)。つまり

「筆圧」は,エネルギーの度合いおよび自信や自己主張へのカを表すと解釈で きるのではないかと推察される。上述のように「被受容感」が「筆圧」を促進 しているが,r誰かが側にいてくれる気がする」やr自分の話が聞いてもらえる」,

「大切にされている気がする」といった感覚が促進されることにより, 自信や 自己主張へのカが促進されるというように解釈し得ると考えられる。また「筆 圧」に関連して,「描線のとぎれ」について,1本線でスムーズに描き上げてい

く人は潔く迷いのない人,スケッチ風に自由な線で陰影なども加えながら描い ていく人は,臨機応変で柔軟なパーソナリティであると言えるかもしれない,

という指摘がある(三上,1995)。この知見より,「被受容感」および「自己肯 定感」が「描線のとぎれ」を抑制しており,「充実感」が「描線のとぎれ」を促 進していることに関して考察すると,「他者から受け入れられている」という感 覚と「自分で自分を好きである」という感覚が迷のない潔さを促進し,「やる気 いっぱいで生き生きしている」といった感覚が臨機応変さや柔軟さを促進する

.と理解できよう。

 次に「人物の向き」に関して,人の正面向きに関しては,「率直さと,自分を 露出し顕示する傾向を示している」と論じられている(Machover,1949)。ま た,基本的に描画の解釈において人物が後ろ向きに描かれている場合は,防衛 的傾向を示すとされる(三上,1995)が,一方で「後ろ向きの人間像が描けな い」=柔軟性の欠如や「背を向ける」だけの反抗のエネルギーが欠如している 可能性も示唆されている(三上,1995)。前述の通り「被受容感」は「人物の向 き」を前向きになるように促進しており,「安心感」は「人物の向き」が後ろ向 きになるように抑制していた。つまり,r被受容感」が高まることによって,率 直さや自分を顕示する力が促進されるというように解釈し得る。この解釈は,

「筆圧」の解釈とも一致するため,妥当であると考えられる。加えて,「穏やか な気持ちだ」や「ほっとする」といった「安心感」が促進されることにより,

安心して「背を向ける」だけの強さが育つ可能性があるのではないかと考えら れる。これに関連して「顔の表情の親しさ」について言及すると,顔の表情は その人物への感情を表すとの指摘がある(扇田,1999)ことから,「被受容感」

という対人関係の上に成り立つ感情が「顔の表情の親しさ」を促進することは 理解できると考えられる。一方で,「安心感」が「顔の表情の親しさ」を抑制し ていることに関して,上述の「人の向き」と同様に,「安心感」が高まることに より,安心して描いた人物への否定的な感情を表現できるだけの強さが表れた のではないかと推察できよう。

 第四に,「統合性」について,「統合性」は,確かな現実検討力や,描画に取 り組む集中力,持続性,柔軟性,創造性などのさまざまな能力のもとに成り立 つとの指摘(三上,1995)がある。また,調和の取れた絵を描くためには,大 きさのバランスや遠近感などの要素を考慮する必要があるとの知見から(三上,

1995),「統合性」に関連して「遠近感」についてもここで言及すると,「遠近感」

は上述した通り,心の自由な動きや柔軟性に基づくと解釈されるが,同時に,

あまりに距離感のある絵は,自分の環境に十分になじんでいないという,ある 種の違和感や疎外感を表すとも言えるとの指摘(三上,1995)もあることから,

r被受容感」がr統合性」およびr遠近感」を抑制していたことについて,r被 受容感」が促進されることにより自分が今居る環境に馴染んでいく力が育つ,

92

とも解釈できる。加えて「安心感」が「統合性」および「遠近感」を,「充実感」

が「遠近感」を促進していたことについて,「安心感」および「充実感」が促進 されることにより,安心して生き生きと,自分の自由な心の動きを表現できる ようになる,とも解釈できよう。

 第五に,「人間の簡略化」について,考察する。本研究では「人間の簡略化」

についてのスコアリングで,最も低いスコアの対象をr記号化」としたが,こ の「記号化」について,一般には逃避。的傾向とか,防衛の強さ,内的エネルギ ーや意欲の低下との評価が行われるが(三上,1995),一方で,人間像を描くこ

とに抵抗がある場合に自分を一切表さずに機械的に描けるという非常に有効な 防衛手段であり,安易で,うまい逃げ方とも言えるとの指摘(三上,1995)が あることから,柔軟でうまい逃げ方ができるだけのウィットに富んでいるとの 解釈も可能であろう。すなわち,「やる気いっぱいだ」,「生き生きしている感じ がする」といった「充実感」が促進されることにより,「人の簡略化」が促進さ れるということに関して,柔軟で,上手く物事に対応する力が促進されている

と解釈できるのではないかと考えられる。

 第六に,「非現実的描写」について言及する。本研究では,「心の居場所」を 描くということが与えられた課題であり,教示の上ではr非現実」の世界を描

くことも許容している。しかしながら,内容として「非現実」の世界を描かざ るを得ないということは,その子どもにとって,「現実」の世界における「心の 居場所」が描くに値しないものである可能性が考えられる。したがって,「非現 実的描写」はそのまま「心の居場所」の現実世界での有無につながると推察で きる。この知見を鑑み,「充実感」が「非現実的描写」を抑制していることにっ いて,「充実感」が高い者ほど,現実世界に「心の.居場所」を見出している可能 性があるとも考察できる。

 最後に,「色相の暖かさ」について,「色相」は上述の通りエネルギーや力強 さの表れと理解できることから,「自分はかけがえのない存在だ」といった「自 己肯定感」が力強さを促進すると考えられる。

 総じて,描画の分析により,小学生の「心理的居場所」は「力強さを発揮で きるだけのエネルギ』」を蓄えられ,「率直に自分の心の動きを表現できる」場 であり,「否定的な感情を認めることができる強さ」や「自分や他者への親しみ」

を持て,「自分が環境に馴染んでいく力」,加えて「『居場所』を見出していくよ う環境に働きかけられるカ」が持てるような場所であることが示唆された。

2.分析■

 1)質問紙調査による実践効果の測定について

  本プログラム実施前後の居場所感および各下位尺度得点の変化を検討し  たところ,居場所感得点および充実感以外の下位尺度得点において肯定的な  変化は認められなかったことから,本プログラムを実施することによりすべ  ての子どもにとって教室が居場所になるという効果は得られないことが示  唆された。一方で,充実感水準L群において実践群に肯定的な変化がみられ  たことから,教室で生き生きと自分に満足できるといった感情を持ちにくい  子どもには,プログラムの効果により,それらが実感できるようになること  が明らかにされた。

  プログラムにより肯定的な変化が見られた「充実感」は,「心理的居場所  感」を構成する構成概念の申で,唯一児童期特有のものである。この結果は,

 本実践プログラムが小学生を対象とした実践プログラムとして適している  ことを示唆していると考察できよう。

  また,本プログラムにおける実践効果の維持を検討したところ,r心理的  居場所感」得点全体において,pre七estとfo11ow・up testおよびpost test  とf6110w・uptestの間において有意に得点が増加していた。同様に「被受容  感」およびr自己肯定感」において,pretest・fo11ow・uptest間およびpost  test・fonow・up test間で,『安心感」においてpre test・fouow・uptest間  で有意な得点の増加が認められた。この結果は,本プログラムの実践が「『自  分らしくある自分』を認めてくれる他者と共有する居場所」の基盤作りの一  端を担った可能性を示唆しているとも推察できる。しかしながら,本研究で  は統制群においてfo1Iow−uptestが実施できなかったため群間比較ができず,

 上述の考察は推察の域を出ないものであり,今後更なる調査・検討が必要で  あるといえる。

94

関連したドキュメント