第 4 章 協同的トムソン散乱イオン項スペクトルの計測
4.4 実験結果の考察
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ルギー2.5 mJ)と2番目の実験点(レーザーエネルギー5 mJ)の間での電子加熱を考
える. 最初の実験点の電子温度は7.5 (±1) eVで, 2番目の実験点の電子温度は8.5 (±1) eVであるから, プラズマの電子温度はTe=8 eVと仮定する. (2.49)式により吸収エ ネルギーを評価する. ここで, 計測レーザースポット内でのパワー密度の半値全幅は
60 μmであった. すなわち, パワー密度分布は, 底辺の直径120 μmの円錐状と近似的
に見ることができ, 半値全幅の 60 μm 内には, 全エネルギーの半分が入る. 最初の実 験点を初期条件(ne=1.5×1025 m-3, Z=3)として, r0=30 μm内に2.5 mJの半分のエネル ギーが注入されたとして(2.49)式から電子温度の上昇を見積もると, ΔTe =14 eVとな る. このときの熱拡散係数はχ=0.2 m2/sとなるので, レーザーパルスΔτ=10 ns での熱 の広がりは, Δr=45μm となる. その結果, 電子加熱は, (r0/(r0+Δr))2=0.16 だけ緩和され る. さらに, 電子とイオンの間の熱緩和時間もレーザーパルス時間 Δτ に比べて小さ いことから, イオンへのエネルギー分配も考慮(Z/(Z+1)=0.75)して, 電子温度の加熱
はΔTe =1.7 eVと評価される. 図4.28の実線はこのような電子加熱評価を最初の実験
点に規格化して示したものである. レーザーエネルギー10 mJ 以上での実験点では電 子加熱の飽和傾向が見られ, 実線との乖離が顕著である. しかしながら, 5 mJ 程度以 下の領域では, 実線が実験結果の良い近似となっている.
このモデルを使用して, 図 4.25 で示したプラズマの加熱について計算すると
(ne=1.5×1025m-3, Te=13.5 eV, Z=3.8, EL=5 mJ), ΔTe<0.7 eVとなり, このモデルからは大 きな変化が無いという結果となった.
併せて上記の電子加熱のモデルを用いて, 計測用レーザーのエネルギー10 mJ, パ
ルス幅10 ns, λ=532 nm, レーザースポットサイズ半値全幅50 μm(パワー密度5×1014
W/m2)の条件でトムソン散乱計測を行ったとき, 10%の電子温度加熱が起こる電子密 度・電子温度を計算した. その結果を, 図4.29に示す. 計算過程は図4.28の実線と同 じである. 計算は, Zが1, 3, 10 の3つの場合について行っている. 各曲線の上の領域 では, 電子温度の測定への電子加熱による影響が 10%以下であり, 下の領域では 10%
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以上であることを示している. 図4.28の実験は, Z=3 の曲線の右端のすぐ外側で行っ たものである. なお, 3 章で行った CCD プラズマのレーザー加熱検証実験は, ne
=1.5×1022 m-3, Te =0.7 eVなので, Z=1の曲線の左端近くということになる. 3章で述べ たように, レーザーエネルギーを2~8 mJ の範囲で変化させたが, 電子温度の測定値 はエラーバー(±5%程度)の範囲内で変化がなく, 図4.29で示したグラフと矛盾しな い. プラズマ加熱の実験的検証は,局所熱平衡状態にあるアーク放電に対しても行っ
た [99].トムソン散乱計測は,ギャップ間隔0.8 mmの対向電極間で生成した最大電
圧6 kV,最大電流600 A,時定数25 μsの減衰アークに対して行った.アーク生成後
10 μs~50μsで得られたアーク柱内電子密度,電子温度はそれぞれ (1~2)×1023 m-3, 1~2 eVの範囲であった.計測レーザーはYAGレーザー第2 高調波(波長532 nm)であ
り,EL=90 mJ, レーザースポット直径は0.3 mmであった.これらの条件下において
予想される電子温度上昇は0.2 eVとなる.実験的にこのオーダーとなるかを確認する ため,計測レーザーエネルギーEL=90 mJの電子温度計測結果と, ELを半分の45 mJに したときの結果を比較した.その結果,どちらの EL での結果でも,両者の電子温度 に有意な差は見られなかった.この結果は,計測レーザーによる電子温度上昇が計測 の不確かさ(±0.2 eV)の範囲内に収まっており,図4.29で示した電子温度加熱の見 積もりと矛盾しない結果であることを示している.別のアーク実験では,可動式電極 間(ギャップ間隔50 mm)で生成したAr/SF6混合ガスアークにトムソン散乱計測を行
った [100].そこでは半導体スイッチにより,定常50 A電流(電圧は100 V)を瞬時
に転流し,アーク減衰過程のプラズマ状態を調べた.この時,電子密度はそれぞれ
(1~5)×1022 m-3程度,計測レーザー(YAGレーザー第2高調波)のエネルギーは80 mJ
であった.そこでの温度増加も,図4.29に沿うものであった.これらの結果から,図 4.29は電子加熱の影響を広い密度・温度領域で定量的に知ることができるものとなっ ている.
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図4.28 計測レーザーエネルギーによるレーザー生成炭素プラズマの電子温度の変化
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
0 5 10 15 20 25
Laser Energy (mJ)
15 10
0 5 20 25
0 12
8 4 20 16
Laser Energy (mJ)
T
e(e V )
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図4.29 10%の電子温度加熱が起こる境界. レーザーエネルギー10 mJ, レーザーパル
ス幅10 ns, レーザースポットサイズ50 μmを想定.
0.1 1 10
1 10 100 1000
0.1 1 10
10
2210
2310
2410
25n
e(m
-3)
Z = 10 3
1
T
e/ T
e<10%
T
e/ T
e>10%
T
e(eV)
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DPP アルゴンプラズマで得られた電子密度・電子温度の時間空間計測結果について 述べる. 電圧印加によりまずは放電管上で沿面放電が発生するが, 放電電流とそれに よって生じた磁界によるローレンツ力のため, 中心軸上にピンチされてゆく.トムソ ン散乱計測を詳細に行ったアルゴンプラズマの場合であれば, 図 4.10 に示すように, 図4.8に示すように, t=90 ns後付近でピンチ形成が見て取れる. その後,輝度の高い部 分がz軸上で2つに分かれて,それぞれ逆方向に進展していく様子がわかる.ガスが キセノンの場合でも, この様子は同じである. アルゴンプラズマでは, 図 4.17 に示す ように, プラズマ発光の進展に合わせてトムソン散乱計測を行い, 電子密度, 電子温 度の時間空間進展を計測した. 図4.18(a)に電子密度の,図4.18(b)に電子温度のz軸方 向分布を示す.今回の測定結果より,z 軸上のマイナス側(アルゴンガス吹付け上流 側)の電子密度は高く,プラス側(下流側)は低いことがわかる.この原因は,プラ ズマ発生装置の構造によるものと考えられる.図4.1, 4.2に示すように, 上流側には陰 極が取り付けられ空間的な広がりが小さく,下流側はチャンバーに面しているため空 間的な広がりが大きい.そのため,上流側はガス密度が高く,下流側では低くなり,
電子密度に違いが現れたと考えられる.これに対し,電子温度は上流側では低温であ り,下流側では高温であるという結果が得られた.これも電子密度と同様に,上流側 と下流側のガス密度の違いによるものだと考えられる.
LPPについては, ICCDカメラを用いて2次元計測であることから, より多くの情報 を得ることができた. 図 4.22~図 4.26 までにスズプラズマ, および炭素プラズマのト ムソン散乱計測結果を示しているが, どの図でもレーザー軸方向でスペクトルの中心 波長が異なっている. スペクトルのシフトはプラズマのドリフト速度を反映したもの であり, レーザー軸方向でのシフト量の変化は, プラズマがターゲット表面から垂直 に噴き出しているのでは無いことを示している. イオン項スペクトルのシフトは図 4.19で示したkベクトル成分のドリフト速度を反映しているので, 計測レーザー入射 側に近い位置では, イオン項スペクトルはブルーシフトし, 遠い位置ではレッドシフ
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トとなる. これは全ての計測結果で一致している.
実際の EUV 光源用プラズマではプレパルスレーザーで生成したプラズマを, メイ ンレーザーで加熱する, ダブルパルス方式が採用されている. ここではそれに倣って, プラズマ生成用レーザーとプラズマ加熱用レーザーを用い, それぞれのエネルギーを 制御することで様々な電子密度, 電子温度の LPP を生成した. 図 4.27 に示すように, EHを増やすことで, 初期プラズマでは15 eV以下であった電子温度が, 50 eV以上まで 上昇している. 加熱機構は逆制動放射加熱が主であると考えられる(64). 電子温度の上 昇は, EH を増やしても次第に鈍化していく. これは, 電子温度が大きくなると電子の 熱拡散係数が増すと同時に, 逆制動放射加熱がTe-3/2に比例して増すことから, 高温状 態では加熱が起こりにくくなっているためだと考えられる. また, 電子温度ほどイオ ン温度は上昇していないが, これは電子・イオン間の熱緩和時間が数ns以上であるた め, レーザーにより加熱された電子のエネルギーが, 計測時間内にイオンには伝わり きれないことことから説明できる. 一方, 電子密度は電子温度の上昇とともに減少し ている. 電子密度減少のメカニズムははっきりとしないが, ここでプラズマの圧力を 計算すると(p= neκTe + niκTi), 追加熱レーザーを入射する前と後とでほとんど同じ圧 力に保たれている(300~400 atm). この理由もはっきりしない. 圧力一定の状態を維 持するために電子密度が減少している可能性がある. 前述したようにトムソン散乱 では, プラズマのドリフト速度をスペクトルのドップラーシフトとして測定するこ とができ, 追加熱レーザー入射前でもターゲット固体表面から自由空間側へプラズ マがドリフトしている(すなわち, ターゲットからプラズマ噴き出している)ことが 観測されている(図4.25参照). このドリフト速度は, 追加熱レーザー入射により増 大する結果が得られている. この結果は, 追加熱で温度が上昇し圧力も上昇するの で, プラズマが圧力を元に戻すように自由空間側へ急速に膨張している可能性を示 唆している. 追加熱で発生する物理現象を詳しく調べるのはこれからの課題であり, 実験データをさらに蓄積し, 理論やシミュレーションと付きあわせて研究を進めて