第 2 章 高気圧マイクロプラズマとその診断手法
2.5 高気圧マイクロプラズマのための協同的トムソン散乱システム
2.5.1 α パラメータによる計測対象の選別
47
48
-0.04 -0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02 0.03 0.04
Signal intensity (arb.unit)
Δλ (nm)
-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5
Signal intensity (arb.unit)
Δλ (nm)
(a)
(b)
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図2.11 (a)イオン項スペクトル. (b)電子項スペクトル. (c)片対数グラフを用いた電子項
スペクトルとイオン項スペクトル比較. (ne=7×1022 m-3, Te=Ti=2 eV, Z=1, 計測レーザ
ー波長532 nm, 散乱角90°の条件下での理論スペクトル)
1.E-39 1.E-38 1.E-37 1.E-36 1.E-35 1.E-34
-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5
Signal intensity (arb.unit)
Δλ(nm)
(c)
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同図に見られるように散乱スペクトルには強度の大きな中心ピークと, その両側の対 称な側帯ピークが現れる. 前者のスペクトルは(2.27)式の第2項で表わされる. これ はイオンをシールドする電子雲による散乱であるから, スペクトル広がりはイオンの 熱速度により決まり, イオン項スペクトルの測定からイオン温度・電子温度・平均イ オン価数の情報が得られる. 後者のスペクトルは(2.27)式の第1項で表わされる. 側 帯ピークは電子プラズマ波による散乱により生じているもので, ピークの現れる各周 波数は,
3 (2.43)
である. ここに, ω e / ϵ / は電子プラズマ周波数である. Teが既知であれ ば, このピークの現れる周波数の測定から電子密度が得られる. 散乱の断面積は, 図 2.10に見られるようにαが増加すると電子項はα-2(α≫ 1のとき)で減少し, 一方の イオン項は単調に増加してトムソン散乱微分断面積よりZ/(1+Z)倍だけ小さな値に近 づく.
以上ではプラズマ中のイオンの荷電は一種類でZであるとしたが, プラズマが様々 な電離段階のイオンを含み, それらの質量および温度の差が無視できる場合には, Z の値を次式で定義される実効荷電 で置き換えれば, 以上の理論はそのまま用いるこ とができる.
∑
∑ (2.44)
ここに, nlおよびZlは, それぞれl種イオンの密度および荷電である.
次に電子項スペクトル, イオン項スペクトルそれぞれから, 各プラズマパラメータ
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がどのように求められるかを述べる. また本論文の実験条件(計測レーザー波長
λ0=532 nm, 散乱角 θ=90°)に沿って, 具体的なスペクトルを示す.
・電子項スペクトル
電子項のピーク波長は,既に記述した通り, 電子プラズマ周波数に関連して決定され る. ここで電子項ピークが表れる周波数Δωを波長で表示すると, 以下のように書き あらわせる.(λ0=532 nmとする)
2 2 3
0.719 6.65
2
(2.45)
θは散乱角である. ここでαをne, Teで記述すると, 以下のようにあらわせる. (λ0=532 nm, θ=90°とする)
0.806 10
(2.46)
また既に示したように, 電子項スペクトルの形状は, Γαにより決定される.したがって, 電子項スペクトルのピーク波長(Δλpeak)と形状(αに対応する)を求めることにより, ne, Teを一意に決定することができる. 電子項では以上の情報の他に, 絶対値強度にも ne, Teの情報が含まれる. したがって, ピーク波長, 形状, 絶対値強度の3つの情報の うち, 少なくとも二つを求めることで, 電子項スペクトルからne, Teを決定すること が可能となる. 本論文では, 大気圧非平衡プラズマのトムソン散乱計測に対して電子 項スペクトルを計測しているが, 電子項のピーク波長と形状からne, Teを求め, 全信
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号強度はそれらのクロスチェックとして用いた. 以下の図2.12に, 大気圧非平衡プラ ズマの場合に予想されるプラズマパラメータ領域での, いくつかの電子項スペクトル を示す.
図2.12 電子項スペクトル例. (i): ne=4×1022 m-3, Te=2 eV, (ii): ne=1×1022 m-3, Te=1 eV, (iii): ne=1×1022 m-3, Te=0.6 eV. (計測レーザー波長532 nm, 散乱角90°の条件下での理 論スペクトル)
0.E+00
0 1 2 3 4 5
Signal intensity (arb. unit)
Δλ (nm)
(ⅰ) (ⅱ) (ⅲ)
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・イオン項スペクトル
イオン項スペクトルは, イオンの動きに追従する電子からの散乱光であるため, ne, Te
といった電子の情報に加え, TiやZといったイオンの情報も混在する. イオン項スペ クトルのピーク周波数Δωacはイオン音波そのものであり, 電子項同様, これを波長表 示すると以下のようになる.
∆ 2 2
3 (2.46)
イオン項スペクトルの形状は, 次に示すパラメータβで決定される.(サルピータ近似 を用いた場合. 近似式を用いなくとも, まずはβの概念を導入することで, パラメー タ決定が容易になる)
1 (2.47)
さらに, スペクトル強度はSiにより決定される. ピーク波長Δλpiは, Z, Te, Tiの情報を 含み, スペクトル形状βやスペクトル強度Siはne, Te, Z, Tiの情報を含む. 4つのパラメ ータ(ne, Te, Ti, Z)に対してイオン項スペクトルから得られる情報は3つしかないの で, ここではZは衝突・放射モデルからne, Teの関数として決定した(48). ωacやβの表 式からわかるように, 最終的にZTe, Ti, neの分離にはiterationが必要となるが, 各パラ メータの相互依存は弱いため, 分離は容易に行える.
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図2.13 (a)イオン項スペクトル例. (i): 炭素, ne=4×1024 m-3, Te=50 eV, Ti=25 eV, Z=4.2.
(ii): 炭素, ne=4×1024 m-3, Te=50 eV, Ti=50 eV, Z=4.2 (iii): 炭素, ne=4×1024 m-3, Te=7 eV, Ti=7 eV, Z=3.8 (iv): スズ, ne=4×1024 m-3, Te=40 eV, Ti=40 eV, Z=12 (計測レーザー波長
532 nm, 散乱角135°の条件下での理論スペクトル). (b): (a)で示したスペクトルを装置
関数40 pm(半値全幅)の計測システムで観測した時に得られるスペクトル.
0.E+00 1.E-04 2.E-04 3.E-04
-0.3 -0.2 -0.1 0 0.1 0.2 0.3
Signal intensity (arb.unit)
Δλ (nm)
(i) (ii) (iii) (iv)
0.E+00 1.E-04 2.E-04 3.E-04 4.E-04 5.E-04 6.E-04 7.E-04
-0.3 -0.1 0.1 0.3
Signal intensity (arb.unit)
Δλ (nm)
(i) (ii) (iii) (iv)
(a)
(b)
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これまで述べたように, イオン項スペクトル幅は計測レーザー波長から0.1 nm程度 しか拡がらない. 一方, 特に高気圧マイクロプラズマではプラズマサイズが小さく, ターゲット近傍に計測レーザーを入射し, トムソン散乱信号よりもはるかに大きな迷 光が発生することが考えられる. したがってイオン項計測のためには, 計測レーザー 波長からの差波長が0.1 nmよりも近い波長域で, 十分に迷光低減が可能であり, かつ
数10 pmの波長分解能を持つシステムが必要となる. この波長分解能は一般的なQス
イッチYAGレーザーそのものが持つスペクトル幅(第二高調波, 波長532 nmでは, ス ペクトル拡がりは25 pm程度)に匹敵するため, 前提としてインジェクションシーダ ーの使用が欠かせない, 電子項計測であれば, これまで使用されてきた一般的な差分 散型トリプル分光器 [38]を用いれば, 迷光や波長分解能の問題は解決できる.(電子項 計測では, 計測レーザーから0.5 nm以上離れた波長域で, 0.5 nm程度の波長分解能で の計測が出来ればよい)
計測装置にかかるコストや技術的な困難さを考慮すると, まずは電子項計測を考え るべきである. しかし電子密度が増加すると, α値が増加し, 電子項は急激に散乱光強 度が減少する. 図2.14には電子温度を30 eVで固定し, 電子密度を変化させた時の電 子項スペクトルの全散乱強度の変化を示す. 同図より, 電子密度の増加にもかかわら ず α の増加とともに信号強度は飽和していくことがわかる. その一方, プラズマの背 景光は電子密度とともに増加していくため, 相対的に電子項スペクトルは減少し, プ ラズマ背景光に覆い隠されてしまう. 高電子密度領域で電子項を得るには, 計測レー ザーのエネルギーを増加させれば良い. しかし, その場合は計測レーザーによる自由 電子の逆制動放射加熱に十分に注意する必要がある. α が 2 以下であれば電子項強度 に著しい飽和は生じない. α増加を抑えるには, 後方散乱にする(散乱角を大きくする)
ことや, 計測レーザーの短波長化を行えば良い. しかし散乱角の増加には限界があり, 計測レーザーの短波長化は, 可視域ほど安価で多種な光学部品が紫外域では手に入り にくいことや, 光学アライメントが可視光よりも難しくなる等の問題があるため, 注
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意を要する. 逆制動放射加熱は主にパワーではなくエネルギーに関係することを利用 して, ナノ秒パルスレーザーではなくピコ秒レーザーを使い, 相対的にプラズマ背景 光を低減させて電子項計測を行った例がある [64]. しかし, この場合はジッターの問 題から, 計測レーザーの光信号(出射後のレーザー光をフォトダイオードなどで検出 し, トリガ信号とする)をメイントリガとせねばならず, 計測に多くの制約が生じる. 得られるトムソン散乱スペクトルは様々な条件により変化していくので, 明確な線引 きは無いが, αが2を超え, かつ電子密度が1024 m-3を上回る条件では, 散乱光強度の 飽和とプラズマ背景光の増大により電子項取得は困難となる場合が多く, イオン項計 測について考える必要がある.
図2.15に各種プラズマの典型的な電子密度, 電子温度領域を示した. 同図で示した 慣性閉じ込め核融合を目的としたレーザー生成プラズマは, すでに多くのイオン項計 測がなされている [78] [79] [80] [81]. 先に示した電子項スペクトル計測が有利な領域 の基準(α<2, 電子密度1024 m-3以下)を考えると, 大気圧非平衡プラズマは電子項ス ペクトル計測を試みるべきであるし, EUV光源用プラズマはイオン項計測が適してい ることになる. 電子密度や電子温度が大気圧プラズマと同領域にあるアーク放電プラ ズマは, 電子項, イオン項両方で計測された実績がある [82] [83].
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図2.14 (a)電子密度と電子項信号強度の関係. (b)α値と電子項信号強度の関係.
1 10 100 1000
1 10 100 1000 10000
Signal intensity(arb.unit)
ne(×1022m-3)
0 20 40 60 80 100 120
0 1 2 3 4 5 6 7
Signal intensity(arb.unit)
α
(a)
(b)
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図2.15 各種プラズマの電子密度・電子温度領域と協同散乱領域の関係.(kλD=α-1, 散
乱角90°, 計測レーザー波長532 nmの場合)
0 5 10 15 20 25
0 1 2 3 4 5 6 7
Electron temperature (eV) Ele ct ro n de nsi ty (m
‐3)
10
‐210
‐110
010
110
210
310
410
510
1010
1510
2010
2510
3010
35Inertial fusion experiments
Magnetic fusion experiments
Processing plasmas
EUV light‐sources
kλ
D=1 Collective
kλ
D=10
Non‐collective
Non‐thermal
atmospheric pressure plasma
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