九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
協同的トムソン散乱法を用いた高気圧マイクロプラ ズマの診断法の開発
富田, 健太郎
https://doi.org/10.15017/1441348
出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(工学), 論文博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
協同的トムソン散乱法を用いた
高気圧マイクロプラズマの診断法の開発
富田 健太郎
i
目次
第
1
章 序論 ... 11.1 本研究の背景 ... 1
1.2 本論文の意義と構成 ... 4
第
2
章 高気圧マイクロプラズマとその診断手法 ... 72.1
高気圧マイクロプラズマの特徴 ... 72.2 次世代リソグラフィー用極端紫外(EUV)光源用プラズマ ... 9
2.2.1 光リソグラフィー技術と EUV
リソグラフィー ... 92.2.2 EUV
光源用プラズマ開発の現状と課題 ... 142.2.3 EUV
光源用プラズマ研究の現状 ... 192.3
大気圧非平衡プラズマ ... 212.3.1 大気圧非平衡プラズマとその応用 ... 21
2.3.2 大気圧放電の種類とその特徴 ... 25
2.3.3 大気圧非平衡プラズマ研究の現状 ... 27
2.4 光学的手法による高気圧マイクロプラズマの診断 ... 28
2.4.1 レーザー計測法 ... 28
2.4.1.1 レーリー散乱 ... 30
2.4.1.2 トムソン散乱 ... 33
2.4.2 発光分光法 ... 42
2.4.2.1 シュタルク広がりを利用した電子密度計測 ... 42
2.4.2.2 窒素 2nd positive
線を利用した中性粒子温度計測 ... 432.5 高気圧マイクロプラズマのための協同的トムソン散乱システム ... 47
2.5.1 α
パラメータによる計測対象の選別 ... 472.5.2 電子項およびイオン項計測で求められる計測システムの条件 ... 59
第
3
章 協同的トムソン散乱電子項スペクトルの計測 ... 653.1 はじめに ... 65
3.2 誘電体バリア放電(DBD)と容量連結型放電(CCD) ... 66
3.3 CCD
プラズマのトムソン散乱計測システム ... 683.4 実験結果 ... 75
3.4.1 電流・電圧波形 ... 75
3.4.2 協同的トムソン散乱計測 ... 77
3.4.3 発光分光計測 ... 80
3.5 実験結果の考察 ... 83
第
4
章 協同的トムソン散乱イオン項スペクトルの計測 ... 914.1 はじめに ... 91
ii
4.2 放電生成(DPP)方式 EUV
光源用プラズマの協同的トムソン散乱計測 ... 944.2.1 Z
ピンチ方式放電生成プラズマ発生装置... 944.2.2 DPP
方式EUV
光源用プラズマのトムソン散乱計測システム ... 984.2.3 実験結果 ... 103
4.3 レーザー生成(LPP)方式 EUV
光源用プラズマの協同的トムソン散乱計測 ... 1144.3.1 LPP
方式EUV
光源用プラズマのトムソン散乱計測システム ... 1144.3.2 実験結果 ... 118
4.4 実験結果の考察 ... 126
4.5 まとめ ... 134
第
5
章 総括 ... 1355.1 本論文の結果と要約 ... 135
5.2 今後の展望 ... 136
参考文献 ... 138
謝辞 ... 144
1
第 1 章 序論
1.1
本研究の背景プラズマとは, 正の電荷をもったイオンと負の電荷をもった電子がほぼ同数存在す る気体である
[1].
プラズマの存在は古くから知られており,
自然界でも様々なとこ ろで見ることができる. オーロラはプラズマ現象[2]であるし,
地球はプラズマ状態 である電離層に覆われている[3].
自然現象として我々がよく目にするプラズマとし ては, 雷が挙げられる[4].
雷は, 地上と上空の電位差でできた大気中のアーク放電で ある.
人工的にプラズマを作る一般的な方法は,
放電によるものである.
制御可能な 放電プラズマの生成に世界で初めて成功したのは, 1879
年のイギリスのWilliam Crooks [5]
の実験である.
プラズマ(Plasma
)という言葉は, 1890
年にIrvin Langmuir [6]
により初めて用いられた.現在でもプラズマは自然科学研究の対象として
,
幅広く取り扱われている. その研 究分野は, 宇宙物理[7] [8],
放電現象[9],
非線形波動現象[10],
超高密度物質(warmdense matter
)[11]
など多岐にわたっている.
今日プラズマ関連の研究が盛んに行われている理由の一つとして, その工学応用の側面を欠かすことはできない. プラズマ 工学応用の代表的なものの一つとして
,
制御熱核融合反応による発電炉の開発[12]
がある. 1960年代から本格的に研究が開始された核融合発電は, 二酸化炭素放出によ る地球温暖化の懸念がないこと
,
エネルギー資源量が半無限的に豊富であることなど から, エネルギー問題の解決手段として大いに期待されている. 制御熱核融合の一形 態である磁場閉じ込め型(トカマク形式)では,
実用化レベルの物理的および工学的 実験を国際協力で行うため, 国際熱核融合実験炉(ITER)の建設が進められている. プ ラズマ工学応用のもう一つの代表例としては,
プラズマ内の励起種(ラジカル)・電 子・イオンを積極的に利用した, 微細加工(etching), 改質(treatment), および薄膜の堆積(
deposition
)を行う技術がある.
これらは総称してプラズマプロセス(plasma
2
processing
)[13]
と呼ばれ,
半導体製造工程で不可欠な技術となっている.
プラズマプロセスに関する研究は, 1980年代に入ってから日本でも積極的に取り組まれ, 半導体 ウェーハの大型化に合わせて
,
大面積で均一,
かつスループットの高いプラズマ加工 を到達点の一つに据えた研究が, 現在でも精力的に行われている. その他にも, プラ ズマの熱や光を利用した様々な工学応用[14],
そしてそれに付随した研究,
開発が行 われている.上記のような工学応用を前提としたプラズマの主たる研究目的は
,
プラズマを制御 し, 利用目的に適うプラズマ状態を達成すること, およびその指針を与えることにあ る.
プラズマを制御するためには,
プラズマの特徴的なパラメータである電子温度や 電子密度などを計測し, そこでの物理現象を把握することが望ましいし, 少なくとも, 計測を通して制御可能な外部パラメータ(例えば投入電力,
ガス種,
ガス圧,
周波数な ど)が, プラズマにどのような影響を与えるかを把握する必要がある. それを達成す るための診断技術はプラズマの最適化に必須であり,
したがってプラズマ診断技術の 研究開発は, プラズマ研究の重要な一翼を担うことになる [15].ひとえにプラズマ診断といっても
,
対象とするプラズマが変わると,
計測手法に大 幅な改良が必要となる場合もあれば, 測定すべき物理量が変わる場合もある. 例えば 核融合プラズマでは,
超高温(一億度以上)の電子を一定期間閉じ込める必要がある ため, 数ある物理量の中でも電子温度計測は重要視されている[14].
一方, プロセス プラズマでは電子温度,
電子密度に加えて,
表面反応制御に直接的に関与するラジカ ル密度や微粒子密度の計測も, 併せて重要となる[16].
計測・診断の手段としては, プ ローブと呼ばれる金属棒やコイルを使用する電気的手法[17],
プラズマからの自発光 を分光, 解析する発光分光法[18],
電磁波の透過, 反射, 吸収, 屈折, 散乱[13]
など を利用する光学的手法,
中性粒子ビームを使用した粒子的手法[14]
など様々な手法 がある. それらにより, プラズマ中の電子 [19], イオン [20], ラジカル [21], イオン価数
[22]
や,
電場・磁場[23]
といった様々な物理量が実測されてきた.
しかし,
あら3
ゆるプラズマに適用可能な万能な診断法は無く
,
求められる測定精度や時間・空間分 解能, コストなどを総合的に勘案し, 対象とするプラズマにあわせて計測手法を選択 する必要がある.
また,
例えば核融合プラズマとプロセスプラズマでは,
電子密度や 電子温度領域が大きく異なるため, 同じ計測手法でも抜本的な改良が必要となる場合 もある.
そのため,
新しいプラズマ源が開発されるごとに,
そのためのプラズマ診断 法の開発が求められているのが現状である.1990
年代以降,
大気圧を含む高気圧下で生成される,
微小スケール(<1 mm
)プラ ズマ(以下, 高気圧マイクロプラズマ)の体系的な研究が行われ始めた[24].
この種 のプラズマの代表例としては,
誘電体バリア放電などで生成される大気圧非平衡プラ ズマがある[25] [26].
大気圧非平衡プラズマでは, 中性粒子が常温程度なのに対して, 電子の温度は一万度を超える.
そのために電子が化学反応を起こすことができる.
そ のため同プラズマは, 医療, バイオ, 環境浄化, 局所表面改質など, 幅広い分野での応 用が期待されている.
極端紫外(EUV
)リソグラフィー光源として用いられる高密度 プラズマ[27] [28]
も, 高気圧マイクロプラズマの代表例の一つである. EUVリソグラ フィーは,
現在のリソグラフィー光源であるArF
エキシマレーザーの波長193nm
を13.5 nm
まで短縮するもので, 加工線幅を飛躍的に縮小できる技術として期待されている
. EUV
光源用プラズマ研究の目標の一つは,
波長13.5 nm
の光を効率よく発生することである. そのためには, それに適したパラメータを持つプラズマの生成が必要 となる
[29] .
様々な応用が期待されている高気圧マイクロプラズマは, 電子密度, 電子温度, 動 作ガス圧
,
サイズ,
発生時間など様々な点で,
核融合プラズマやプロセスプラズマと いった, これまで多くの診断法が開発されてきたプラズマとは異なる領域を形成して いる.
したがって,
高気圧マイクロプラズマには,
従来通りの診断手法の適用が困難 となることが多い. 例えば, 発光分光法 [18]や吸収分光法 [30], レーザー誘起蛍光法[31]
などの光学的手法は,
ラジカル診断手法として広く用いられている.
しかし,
大4
気圧程度に動作ガス圧が高い場合は
,
中性粒子との衝突による失活[32]
や,
スペクト ル線の圧力(衝突)広がり [18]の効果が大きくなるので, それらの効果を定量的に評 価する必要がある.
電気的計測の代表例であるプローブ法[33]
は,
高い圧力下で使用 することに問題がある [34]. これらの問題の他に, プラズマのサイズが微小であるこ とから,
診断手法には高い空間分解能も求められる.
1.2
本論文の意義と構成このような背景の下, 本研究では高気圧マイクロプラズマのための信頼性の高い診 断手法として
,
レーザートムソン散乱(LTS
)法の開発を行った. LTS
法は1968
年のT-3
トカマク型核融合装置の有用性を示した計測[35]
以降, 電子温度・電子密度の最 も信頼できる計測手法のひとつとして認知されており,
その後様々なプラズマに適用 された [19]. このような実績に加え, LTS 法の特徴である高い時間分解能や空間分解 能,
低擾乱性は,
高気圧マイクロプラズマの診断手法として好都合であり,
有用な計 測手法となりうる. 例えば, 密度勾配の激しいマイクロプラズマの診断に, その高い 空間分解能(≦0.1 mm
)は有利である.
また,
マイクロプラズマはサイズが微小であ るゆえに, プローブなどの固体物の挿入は, プラズマ状態の大きな変化を引き起こす 可能性がある.
しかし, LTS
法は光による計測であるため,
そのような問題もない.
高気圧マイクロプラズマは, 高電子密度である場合が多く, 可視光レーザーをプロ ーブ光とした汎用的かつ実用的なトムソン散乱システムの場合,
関与する散乱波長は プラズマのデバイ長よりも長く, プラズマの集団的な動きを反映したスペクトルが得 られる.
このような散乱領域を協同的散乱領域と呼ぶ[36].
協同的散乱領域ではトム ソン散乱光は, 電子の集団的な動きを反映した電子項と, イオンに追随した電子の振 る舞いを反映したイオン項から構成される.
電子項は電子温度,
電子密度の情報を含 み, イオン項はそれらに加えてイオン温度, 平均イオン価数の情報も含む. 電子項ス ペクトルの拡がりは数nm ~
数十nm
と広いのに対し,
イオン項スペクトルはレーザ5
ーのごく近い波長域(
<1 nm
)でしか観測されない.
レーザーにごく近い波長域では,
強い迷光(電極や入射窓等で乱反射された計測用レーザーのうち, 入口スリットから 分光器内に侵入した光)が観測される.
迷光の強度はトムソン散乱光強度よりもはる かに強い場合が多い. トムソン散乱光スペクトルを測定するためには, 迷光を十分に 低減させる必要がある[37] [38].
イオン項は電子項に比べ迷光除去が困難であるの で, 電子項を観測し, そこから電子密度や電子温度を得る方が都合の良い場合が多い.しかし
,
計測対象とするプラズマからの自発光が非常に強い場合には,
電子項はそれ に覆い隠され, 検出が困難となる. その場合は単位波長あたりの散乱光強度が圧倒的 に大きな,
イオン項スペクトル測定が有利となる.
その測定のためには,
十分な迷光 除去性能を持った計測システムの構築が欠かせない. 電子項計測とイオン項計測では, 計測システムに求められる条件が大きく異なる.
そのため,
本論文では電子項計測例 とイオン項計測例を別個に紹介し, それぞれに適した計測システムや, スペクトルか らプラズマパラメータを求める方法について検討した.
電子項計測では,
大気圧非平 衡プラズマの一形態である容量連結型放電(CCD)プラズマを測定対象とした [39].イオン項の計測では
, EUV
光源用プラズマを対象とした.
論文内では, 高気圧マイクロプラズマに
LTS
法を適用する際の, レーザー擾乱の定 量的評価方法についても記述した.
サイズの小さなマイクロプラズマを十分な空間分 解能で計測するには, 計測点でのレーザービームの直径を小さく絞る必要がある. そ の結果,
レーザーパワー密度が高くなるのに加えて,
多くの場合に高気圧プラズマで は電子密度が高いことから, 電子を加熱する可能性がある. また, 中性粒子密度が高 いことからは,
レーザーの多光子吸収により多くの中性粒子を電離する可能性がある ことなどの, レーザーによるプラズマの擾乱が問題となってくる[40].
計測用レーザ ーによるプラズマ擾乱が計測結果に与える影響は,
ガスの種類や圧力,
対象プラズマ の密度と温度など, 条件によって大きく異なるため一般論として展開することは困難 であり,
多くの場合個々のプラズマで議論するしかない[41].
本研究ではこの問題に6
対し
,
複数種の高気圧プラズマの実計測を通して,
そこで問題となるレーザー擾乱に ついて定量的な議論を行った. また, それにどう対応すべきかの指針を示すことを試 みた[42].
このように本論文の意義は, 高気圧マイクロプラズマの診断手法としての
LTS
法の 有用性を示すと共に, LTS
法が適用可能な条件範囲を,
実計測を通して明らかにした 点にある.本論文の構成は以下のとおりである.
第
2
章では,
本論文で研究対象とした2
種類の高気圧マイクロプラズマ,
すなわちEUV
光源用プラズマと, 大気圧非平衡プラズマの概要について述べるとともに, レー ザー散乱法の原理や,
本研究で行った発光分光計測の原理について概説する.
第3
章では, 大気圧非平衡プラズマでの電子項スペクトルの計測について述べる.第
4
章では, EUV
光源用プラズマでのイオン項スペクトルの計測について述べる.
第
5
章では, 本論文を総括する.7
第 2 章 高気圧マイクロプラズマとその診断手法
2.1
高気圧マイクロプラズマの特徴[24]
マイクロプラズマという用語が初めて使われたのは, 1959 年まで遡る
[43].
以降, 放電プラズマでは1980
年頃から,
放電トリガ用の局所放電や,
放電空間中の微小な現 象に対して用いられてきたものの, 意図的に微小なプラズマ源を生成するという動き はなかった.
サイズが小さいゆえに現れるプラズマの特徴を積極的に利用する体系的な研究
[44]が行われ始めたのは, 2000
年代に入ってからである[45] [46] .
ただしそこでのマイクロプラズマの定義は
,
プラズマのサイズがマイクロメートルオーダー(1~1000
μm
程度)であることであり, 放電プラズマからレーザー生成プラズマ, 液 体中で発生するプラズマまで,
様々なプラズマが研究対象として取り上げられ,
微小 であるがゆえに生まれる特徴を積極的に引き出すための研究が数多くなされた. 具体 例としては,
マイクロプラズマの高強度かつ点光源への利用(極端紫外光源用プラズ マ) [47]や, 高密度化学反応場としての利用(大気圧非平衡プラズマ)[25] [48]など
がある.
以下では, サイズが微小であるがゆえに現れるマイクロプラズマの特徴を, 気体放 電を前提に述べる
.
一般に放電開始電圧は,
パッシェンの法則で記述される[49] .
気 体の圧力p
と電極間隔d
の積である相似パラメータpd
は, 気体や電極の種類に依存し た最小値を持ち,
通常pd=10~10
2Torr
・mm
程度の値が最小の放電開始電圧となる.
こ れまでの多くのプラズマ応用技術, とりわプラズマプロセス技術では, 大きな容積あ るいは大きな面積に広がったプラズマが必要とされてきた.
大きなd
に対して必然的 に小さなp
が選択され, 低圧の領域での気体放電プラズマが主流であった. 一方, dが マイクロメートルオーダーになると,
必然的に最適な動作ガス圧p
は10
2~10
5Torr
程 度となり, 大気圧を含んだ高気圧の領域に入り, 低い電離度でも高い電子密度を有す る大気圧マイクロ放電プラズマが生成可能となる.
大気圧マイクロ放電プラズマの典8
型的な電子密度・電子温度は
,
それぞれ10
22m
-3, T
e=1 eV
程度である[50].
高ガス圧下(~2.5×1025
m
-3)であるため, 自由電子は中性粒子やイオンと極めて頻繁に衝突する.例えば中性粒子をネオンとした時
,
その衝突周波数は10
12Hz
に達する.
これは低圧プ ラズマ(ne=10
18m
-3, T
e=1eV,
中性粒子密度10
20m
-3)の衝突周波数10
7Hz
を大きく上 回る.
大気圧下で生成されるプラズマは,
この高い衝突周波数のために粒子間相互の エネルギー交換が安易となり, 熱平衡プラズマに近づきやすい. しかしマイクロプラ ズマはサイズが小さいため,
荷電粒子や中性粒子の滞在時間が極めて短い.
さらに放 電が短時間(数百ns)で消滅するので,
大気圧下であっても低圧プラズマと同様の, 熱 的非平衡状態が実現しやすい.
すなわち,
高電子密度の優れた化学反応場を,
低ガス 温度で生成することができる. さらに大気中で生成できるため, 高価な真空設備が不 要となる.
これらの特徴を利用したマイクロプラズマの応用が,
様々な分野で期待さ れている.本論文で主な研究対象とした
2
種のプラズマは応用目的が違うため,
生成方式やプ ラズマパラメータ(ne, T
e)が異なるものの, いずれもそのサイズがマイクロメートル オーダーであり,
マイクロプラズマの範疇に入る.
本研究の目的はそれらの信頼でき る診断手法の確立である. 光学的な診断手法を適用する際には, マイクロプラズマの 特徴であるサイズ及び存在時間が微小(短命)であることに加えて,
必然的に生じる 高気圧状態が問題となる. その点を強調するために, 本論文ではあえてこれらのプラ ズマを「高気圧マイクロプラズマ」と呼ぶことにする.
次節より, 本論文で測定対象とした具体的な高気圧マイクロプラズマである, 極端 紫外(
EUV
)リソグラフィー光源用プラズマと,
大気圧非平衡パルスフィラメント放 電プラズマの研究背景について述べ, その後, それらの診断手法について記述する.9
2.2
次世代リソグラフィー用極端紫外(EUV
)光源用プラズマ2.2.1 光リソグラフィー技術と EUV
リソグラフィー半導体集積回路はムーアの法則に従い
, 1970
年代の初頭から3
年に4
倍という著しい微細化, それに伴う高集積化を果たし続けている
[28] .
この半導体の高集積化に最 も貢献してきた微細加工技術は,
リソグラフィー光源の波長の選択に大きく依存して いる. リソグラフィー技術とは, 半導体基板上に回路素子を加工するためのパターン を縮小投影する技術である.
なかでも光を用いたリソグラフィーは,
その経済性の理 由から半導体LSI
の量産に最も適するため, 盛んに用いられている. その解像性能は, ウェーハに焼き付けることのできる最小加工寸法R
と焦点深度(Depth of Focus: DOF
) を用いて, レーリーの法則により次のように表される[51].
(2.1)
(2.2)
(2.3)
ここで, k1
, k
2 はプロセスファクター(レジスト, 超解像技術などのプロセスにより決 まる比例定数),
は光源波長, NA
は露光光学系の開口数である.
(2.1
)式から分か るように, R を小さくするには, (1)k1 を小さくする, (2)λ を小さくする, (3)NA
を大きくするという方法がある.
しかし(2.2
)式からわかるように, NA
の増大はDOF
の低下をもたらし, 結像性能を悪化させる. (1),
(3)のための研究開発も様々 に進められている.
しかし,
マスクデザインが複雑になりすぎることから限界があり,
本質的な解決のためには(2)のリソグラフィー光源の短波長化が重要となる.10
露光に使用される光の波長は
, g
線水銀ランプ(波長436 nm
)からi
線水銀ランプ(波 長 365 nm)へ, さらに1990年代後半からはクリプトンフッ素(KrF)エキシマレーザー(波長
248 nm
)となり, 2000
年代なかばにはアルゴンフッ素(ArF
)エキシマレーザー(波長 193 nm)へと, より短波長の光に変化してきている. これらを縮小投影型 露光装置の光源として用いたリソグラフィー工程では
,
解像度180 nm
以降ではKrF
エ キシマレーザー, 100 nm以降ではArFエキシマレーザーが使用されてきた. ArFエキシ マレーザーは,
続く65 nm
以下の量産ラインからは投影レンズとウェーハの間に純水 を充填したArF液浸リソグラフィーが使用され, 加えて32 nmから28 nm, 20 nmの量産 には, 1
工程で2
回露光するダブルパターニング技術や3
回以上露光するマルチパター ニング技術が導入されてきている.さらに短い波長の光源候補として
,
フッ素分子(F2
)レーザー(波長157 nm
)や アルゴンダイマー(Ar2)レーザー(波長 126 nm)などの研究もされた. しかし, い ずれもその発振効率の低さや透過材料の品質の不足など,
いくつかの技術課題を解決 できることなく, 主流技術としての地位を奪えないまま消えていった. このような状 況の中で,
これまでどおりの光を使用した技術ながら,
波長が10 nm
付近と,
非常に短 いEUVリソグラフィーが注目された. EUVとはExtreme Ultraviolet(極端紫外)のこと で,
リソグラフィーに用いる場合には波長が13.5 nm
と非常に短い光のことを指す[27].
この波長が選ばれたのは, 適度な反射率を備える反射ミラー技術が確立していることによる
. 16 nm
以下の解像度を実現する次世代露光光源としては,
このEUV
光 源が期待されている.図
2.1
に 国 際 半 導 体 ロ ー ド マ ッ プ (International Technology Roadmap for
Semiconductors : ITRS)2013
年版のリソグラフィー技術のポテンシャル・ソリューションロードマップを示す
[28]
.半導体集積回路の世代は, DRAM
の最小ピッチの1/2
の線幅(DRAM Half-pitch : hp)によって代表され, ITRSのロードマップには各世代に 対応するリソグラフィーの候補技術と,
量産開始元年が明記されている. EUV
リソグ11
ラフィーに加えて
,
マスクレス電子線描画技術,
ナノインプリント技術なども次世代 半導体製造技術に挙げられている. しかし, 22 nmノード以降では, 従来技術の延長線 上にあるEUV
リソグラフィーが強く期待されていることがわかる.
先に述べたように,
EUV
リソグラフィーでは波長が13.5 nm
と非常に短い光が用い られる.EUV
リソグラフィーシステムはこのように波長の短い光を利用するので,
図2.2
のような透過型光学系は, EUV光の吸収が激しくなり, 用いることができない. よ ってEUV
リソグラフィーシステムでは,
反射型光学系が用いられる.
12
図 2.1 リソグラフィー技術のポテンシャル・ソリューション
First Year of IC Production 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025 2026
DRAM 1/2 pitch (nm) 36 32 28 25 23 20 18 16 14 13 11 10.0 8.9 8.0 7.1 6.3
45 193nm Imm 32 193nm DP 22 EUV
193nm MP ML2 (MPU) 16 EUV
193nm MP ML2 DSA + Litho Imprint
11 EUV higher NA / EUV + DP ML2
DSA + Litho EUV (new wavelength) Imprint
Innovation
13
図
2.2
透過型リソグラフィー技術の典型的な構成 光源照明光学系
フォトマスク 投影光学系
ウェハー
フォトマスク技術 重ねあわせ技術
レジスト・プロセス技術
露光装置・露光技術
14
2.2.2 EUV
光源用プラズマ開発の現状と課題EUV
光源用プラズマ光源は, レーザー光をターゲットに照射することや[52] ,
大 電流パルス放電を用いることで得られる[53] .
これらは,
それぞれレーザー生成プ ラズマ方式:LPP(Laser Produced Plasma)と放電生成プラズマ方式:DPP(DischargeProduced Plasma
)と呼ばれている. LPP
方式, DPP
方式ともにそれぞれ長短がある. LPP
方式
EUV
光源は固体, 気体, 液体等のターゲットをパルスレーザーで照射して, 発生 する高温プラズマからのEUV
放射光を利用する.
図2.3
にLPP
方式におけるEUV
発 生方式例を示す. LPP 方式の特徴は, 空間的に孤立した位置にプラズマを生成するこ とにより,
周囲との相互作用のない条件で高温高密度プラズマを生成可能であり,
そ の結果光学系の反射率低下を引き起こすデブリ(飛散粒子)の発生を極力低下させる ことが可能な点である.
また微小なプラズマを生成するので点光源を実現可能で,
リ ソグラフィー光源として適している. プラズマ生成には材料を選ばないので要求され る最適な材料を選択することも利点といえる.
繰り返しもレーザー,ターゲットの選 定により高繰り返しが可能である. DPP方式EUV
光源は, 電流駆動によって生成した 高温高密度プラズマからのEUV
放射を利用するものである.
図2.4
にDPP
方式にお けるEUV
の発生原理図を示す. プラズマ柱に大パルス電流を流すとその周囲には磁 場が形成される.
発生したプラズマはその磁場の圧力(ローレンツ力)により圧縮さ れ, 高温高密度プラズマになり, EUV光を発生する(図2.5). DPP
方式の特徴は, 直 接電気入力エネルギーを放電プラズマに変換してEUV
光を取り出すことからLPP
方 式と比較して変換効率が高く, 小型化と低コスト化が可能な点である. ただし, 高出 力化と長寿命化の両立,
高安定化,
高繰り返し化など技術的なハードルはかなり高い.
半導体リソグラフィーは様々な技術の複合体であるため, その実用化に向けては 様々な分野での技術開発が必要となる
. EUV
リソグラフィーに関しては,
実用化に向 けての注目を集めてから2013
年の現在に至るまで, 最大の課題は一貫してEUV
光源 の出力増加および信頼性の向上である[28].
これは, EUV
リソグラフィーで使用する15
光源波長が
, 13.5 nm
で高い反射効率を持つMo/Si
多層膜によって先に決定され,
それ に合わせる形で光源開発が開始された経緯とも関連している. リソグラフィーにおけ る歩留まり向上のため,
フォトレジストの感度を最適にし,
かつ十分なスループット を保つにはEUV
光の出力は250 W
(@中間集光点)が必要とされる. 半導体メーカー によっては250 W
は最低限であり, 1000 W
以上を希望するとの声もあり[51],
光源出 力の改善は開発における大きな課題である.16
図
2.3 EUV
リソグラフィー工程EUV
光源・高パワー
・低デブリ
・低エタンデュ
・高繰り返し
・高安定性
・最適スペクトル分布
照明光学系
・ミラー枚数の少ない設計
マスク
・超低欠陥反射マスク
・欠陥検査修正
投影光学系
・高精度非球面ミラー光学系
・研磨製造技術
・鏡筒技術
・計測技術(可視、露光波長)
露光システム
・真空ステージ
・アライメント
・温度制御
・コンタミ制御 レジスト
・薄層イメージング技術
・好感度
・アウトガス制御
・ラインエッジラフネス制御
17
図
2.4 LPP
方式によるEUV
光発生方式例18
図
2.5 DPP
方式によるEUV
光発生原理プラズマ柱 電流 (J)
磁場 (B)
ローレンツ力 (B × J)
高温・高密度プラズマ EUV光 プラズマ柱
電流 (J)
磁場 (B)
ローレンツ力 (B × J)
高温・高密度プラズマ
EUV光
19
2.2.3 EUV
光源用プラズマ研究の現状光源プラズマの発光効率改善は, EUV リソグラフィー早期実用化のための最も重要 な課題の一つである
[47].
最適なEUV
光源構築に向け, EUV
光源用プラズマの物理 過程解明を目指す研究が, これまで数多く行われてきた. 光源材料として研究当初か ら,
イオン価数が10
価近辺のSn
(スズ), Xe
(キセノン)等からのN
殻放射(主量 子数n=4
からの放射)が有力な候補として挙げられた[54] [55].
この中でSn
は, 13.5 nm
近辺に1000
本以上の共鳴発光線が存在し,
理論的に高いEUV
発光効率が得られ ることが,
佐々木らによる原子過程モデル研究から示された[56].
西原らは放射流 体モデルを用いて,
レーザー生成EUV
光源用プラズマの最適なプラズマパラメータ(電子密度・電子温度)を検討した
[29].
リソグラフィーに使用されるEUV
光への 変換効率(Conversion Efficiency: CE
)は,
(a
)プラズマのレーザー吸収率,
(b
) 吸収されたパワーから放射パワーへの返還率,
(c
)全放射パワーに占める目的波長域 のパワーの割合の積で決定される[57] [58].
電子密度が高く,
光学的に厚いプラズ マでは,
自己吸収により(b
)の効率が低下する.
様々な検討の結果, EUV
光源用プラ ズマは電子密度:10
24~10
25m
-3,
電子温度:30-50 eV
が最適であるとの結論が導かれ た[29].
理論モデルが示す最適な
EUV
光源を実現するためには,
光源用プラズマのイオン 価数,
電子密度,
電子温度の実計測が必須となる.
レーザー生成方式EUV
光源用プ ラズマでは, 13.5 nm
近辺の放射スペクトル計測により,
イオン価数の決定や光学的 厚さの評価が試みられた.
藤岡らは,
大型レーザー(GEKKO-XII,
大阪大学レーザー エネルギー学研究センター)で生成したEUV
光源をプローブ光として使用し, EUV
光源用プラズマの光学的厚さを詳細に計測し, CE
向上に向けて光学的厚さの制御が 本質的に重要であることを示した[59].
放射スペクトルからプラズマパラメータを 評価するには様々な仮定が必要となり,
困難な場合が多い.
これは, EUV
光源用プラ ズマが急峻な空間勾配を有しており,
様々なイオン価数,
電子密度,
電子温度状態の20
スペクトルが重畳して観測されてしまうことや
,
自己吸収の影響を考慮する必要があ るからである.
これらの問題を解決し,
単一イオン価数からのスペクトル計測を行う 基礎研究が進められている[60] [22] [61].
これらの研究の成果は,
原子過程モデル から導かれる,
理論放射スペクトルの高精度化に寄与すると考えられる.
レーザー干 渉法は,
計測レーザーに沿った線積分値であるものの,
電子密度を測定することができる
. Tao
らは,
固体スズターゲットにNd:YAG
レーザー基本波(1064 nm
)を照射して生成した
EUV
光源用プラズマにレーザー干渉法を適用し, 10
25~10
26m
-3の電子 密度を得た[52].
放電生成方式では勝木らが,
小型Z
ピンチ方式EUV
光源用プラズ マの電子密度計測を,
レーザー干渉法により求めた.
そこで生成されたXe
ピンチプ ラズマの電子密度は, 10
23m
-3~10
24m
-3程度であった[53]. Kieft
らは, Sn
のシュタル ク広がり計測により,
電子密度の見積もりを行った[62].
同じくKieft
らは,
レーザ ートムソン散乱法により,
放電生成スズプラズマの電子密度・電子温度の時間変化を測定した
[63] [64].
ここで計測されたトムソン散乱スペクトルは電子の集団的振る舞いを反映した電子項スペクトルであり
,
そのスペクトル形状から電子密度・電子温 度が決定された.
ただし, EUV
光が発生している時刻(放電生成直後)では電子密 度が10
24m
-3以上となり,
計測レーザーによるプラズマ擾乱が問題となった. EUV
光 源用プラズマの最適電子密度は10
24m
-3~10
25m
-3と予想されており,
その密度領域で のトムソン散乱計測が望まれている.
今後,
光源プラズマの最適化に向けて,
これま でに構築された理論モデルの妥当性を検証可能な,
高精度なプラズマ診断法の確立が 急がれる.
計測手法には,
対象とする光源プラズマのサイズ(<1 mm
),
寿命(<100
ns
)を十分に上回る高い空間・時間分解能で,
電子密度・電子温度・イオン価数とい った, CE
改善に直結する重要なパラメータを計測することが求められる,
先に示し たレーザートムソン散乱法は,
これらの条件を満たす可能性がある.
その適用のため には,
プラズマ加熱[40]
や計測レーザーとプラズマの同期確保,
各種ノイズの低減 など,
様々な問題が存在する.
特にレーザー生成方式は,
相対的に高い電子密度を有21
する
[52]
ことから,
適用に向けての障壁は高い.
これらの問題を解決し,
高精度なプラズマ診断法の早期確立が期待される
.
2.3
大気圧非平衡プラズマ2.3.1
大気圧非平衡プラズマとその応用一般に, 数
Torr
以下の低いガス圧力中での放電プラズマは熱的に非平衡な状態とな る.
すなわち,
電子は衝突によってあまり運動エネルギーを失わないので,
電子の温 度(Te)はイオンの温度(Ti)や中性粒子の温度(Tn)よりもずっと高い(Te ≫T
i, T
n).
このようなプラズマを非平衡プラズマ,
あるいは低温プラズマという[65].
一方,
大 気圧に近いような高圧力で放電すると電子, イオン, 中性粒子間の衝突が激しいこと から,
粒子の運動エネルギーの交換が十分に行われて熱平衡状態になりやすい.
電子,
イオン, 中性粒子の温度が等しい(Te ≒Ti ≒Tn)ようなプラズマを熱平衡プラズマ, あ るいは熱プラズマという.
しかし高い圧力であっても,
電子とイオンが十分な衝突を 繰り返す前に放電を消滅させれば, プラズマは非平衡状態を保つ. 大気圧下における 熱的に非平衡な放電現象の研究の歴史は古く,
コロナ放電が環境や複写技術など広く 産業分野で利用され [66], ガスレーザーやオゾナイザーなどの放電の研究も長年継 続されてきている[67] [68].
加えて近年,
大気圧非平衡プラズマを材料プロセス,
特 に表面処理用に利用する動きが活発になり, 大きな注目を集めている [24].そ の 生 成 方 法 の 代 表 例 の 一 つ に
,
誘 電 体 バ リ ア 放 電 (DBD:Dielectric Barrier
Discharge)がある [25]. DBD
は金属電極の一方, または両方の表面に誘電体(石英ガラスなど)が設置された電極に交流やパルス電圧を印加して
,
大気圧付近で生成する プラズマであり, 無声放電(silent discharge)とも呼ばれる. この放電では放電ギャッ プ間に誘電体があるために,
放電はアークなどの定常放電に移行せず,
ナノ秒オーダ ーの短時間継続するパルス性のマイクロプラズマが次々と誘電体表面に生じる. プラ ズマ生成時間が短時間であるため,
電子のイオンや中性粒子との衝突は不十分であり,
22
電子温度のみ高い状態にあり
,
容易に非平衡プラズマが生成できる.
図2.6
は代表的 な誘電体バリア放電の電極構造である. 石英ガラスなどの誘電体を2
枚の平行平板金 属放電ギャップの間に置き,
電極間に電圧を印加する.
電圧としては50 Hz
や60 Hz
の交流高電圧, 高周波電圧, パルス電圧などが用いられる [13].この誘電体バリア放電の生成・消滅機構を図
2.7
に示す.
交流高電圧を印加すると 電圧が低い状態ではコンデンサとみなされるから, わずかに充電電流(変位電流)と 漏洩電流が流れるのみである.
電圧が徐々に増え,
パッシェンの法則による絶縁破壊 電圧V
sを越えると誘電体と金属電極間にマイクロ放電が生じる(a図). 絶縁破壊に より生じた電子や正イオンはそれぞれ陽極と陰極に移動し,
誘電体表面にそれが蓄積 される. この蓄積電荷による内部電界E
aは外部電界E
x(= Vs/ d)を打ち消す向きに働
くので,
放電の経過に伴い,
誘電体-金属電極間の電界E
0= E
x- E
aは徐々に低下する(b 図). その後
E
0が放電維持電界以下になると放電が停止し, 内部の電子やイオン は再結合や拡散により消滅する(c
図).
これに伴いE
aが消滅し,
元の電界E
xのみが 印加されることになるので放電は再度生じる. この過程が誘電体バリア放電を構成す るパルスマイクロ放電の現象である.
23
高電圧電源
電極
H.V.
誘電体
E x
電極高電圧電源
電極
H.V.
誘電体
E x
電極(a)
高電圧電源
1
~5 mm
電極ギャップ誘電体
電極 高電圧電源
1
~5 mm
電極ギャップ誘電体
電極
図
2.6
誘電体バリア放電の電極構造24
図
2.7
誘電体バリア放電におけるパルスマイクロ放電の発生と消滅(a) V
x>V
s絶縁破壊, (b) E
0= E
x- E
a, (c) E
0< (V
s/d)
放電消滅高電圧電源
H.V.
誘電体 電極
E
x+
- -
-
-
+
+ +
+ -
E
a電極 高電圧電源
H.V.
誘電体 電極
E
x+
- -
-
-
+
+ +
+ -
E
a電極
高電圧電源
H.V.
誘電体 電極
E
x電極
d
+
- - -
- - -
+ + +
+ +
高電圧電源
H.V.
誘電体 電極
E
x電極
d
+
- - -
- - -
+ + +
+ +
(c)
(b)
25
2.3.2
大気圧放電の種類とその特徴[67]
大 気 圧 中 で 発 生 す る プ ラ ズ マ は
,
そ の 維 持 機 構 に よ り,
コ ロ ナ 放 電 (corona discharge
),
グロー放電(glow discharge
),
アーク放電(arc discharge
)の3
つに大別 できる. これらの形態は, 気圧や気体の種類, あるいは電極形状などにより変化する.また
,
発生方式や発生する環境などの条件によってもそれぞれの名称が与えられる.
高周波を使う高周波プラズマやマイクロ波プラズマ, 数メートルにもわたる放電や数 キロメートルにもわたる雷などは長ギャップ放電と呼ばれる.
コロナ放電は高いエネルギーの電子を有していると言われ, また強い空間的な不 均一性を有する. イオンや中性ガスの温度は低く, 室温に近い. 言い換えると, 放 電を作るために消費されるエネルギーのうち, 電子の加速に使われる割合が高く, イオンや中性ガスの加熱によって失われるエネルギーは少ない. したがって, 高エ ネルギー電子を利用する場合には, コロナ放電を選択することが多い. 例えば, ガ ス処理の多くは, まずは処理対象ガスを分解する必要がある. このためには, 分子 の結合エネルギー(binding energy)より大きいエネルギーを持つ電子が必要になるた め
,
コロナ放電が利用される.
グロー放電の特徴は,
プラズマの密度分布の空間均一 性や化学的に活性な粒子を多く有することである. グロー放電は, 半導体デバイスの 作製工程や医療器材の消毒,
材料の表面処理などに適する.
アーク放電の特徴は,
電 子温度だけでなく, ガス温度がおおよそ1
万度と高いことである. このため, 熱を使 うごみの焼却灰の溶融固化や,
熱化学反応を用いたガス処理に適している.
また,
短 い時間でアーク放電を起こすと温度が短時間で増加し, この温度上昇に伴う熱膨張に よって衝撃波を作り出す.
これらはリサイクルなどに応用される.
直流放電の場合, 放電形態は一般には放電電流の増加とともに, コロナ放電, グロ ー放電
,
アーク放電と変化する.
電極間への印加電圧を増やしていくと,
はじめは初 期空間電荷が電界で輸送されることによる電流が流れる(非持続放電). 印加電圧が 破壊電圧に達すると持続放電が起こり,
電極間の電圧は300 V
程度まで減少する.
こ26
の領域はグロー放電と呼ばれ
,
その後の電圧が一定の領域を正規グロー放電という.
さらに電流を増やすと放電電圧は再び上昇し, 異常グロー放電へ移行する. さらに電 流を増加させると,
電圧は急激に低下し,
アークへと移行する.アークでの放電電圧 は数10 V
まで減少する.グローとアークの分類は
,
一般には陰極からの電子放出機構と電離機構で特徴づけ られる. 陰極からの電子放出機構は, グロー放電の場合はイオンや光・高速の中性粒 子の陰極衝突による2
次電子放出(γ
作用)であり,
アーク放電の場合は熱電子放出 である. 電離機構は, グロー放電の場合は電子衝突電離(α作用)であり, アーク放電 の場合は熱電離である.
ただし高調波やマイクロ波を用いた放電では,
しばしば無電 極の放電が用いられる. この場合は, 陰極からの2
次電子放出機構で分類するのは困 難となり,
イオン種や温度で特徴づけることとなる.
主なイオン種が放電ガス由来の 場合はグロー, 電極材料の場合はアーク, また電子の温度がイオン温度に対して高い 場合はグロー,
同程度の場合はアークと分類する.
直流ではなくインパルス的な急峻な電圧が印加された場合, プラズマの形態はコロ ナ放電であったり