第 2 章 高気圧マイクロプラズマとその診断手法
2.5 高気圧マイクロプラズマのための協同的トムソン散乱システム
2.5.2 電子項およびイオン項計測で求められる計測システムの条件
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差分散型トリプル分光器では,入口スリット(S1)から中間スリット(S2)までは,
計測用レーザー波長付近に生じる強い迷光をカットするフィルタ機能を果たし,その 後,回折格子(G3)で光を分光し,ICCDカメラで観測する機構になっている.すな わち, G1とG2は逆分散の関係になっており, 実質的な分光器はS2以降となる. S1~S2 までの作用により, S1 から入ってきた迷光成分だけでなく, それが G1 の表面で乱反 射した成分まで, 取り除くことができる.(S2 を透過しうる計測レーザー波長の光は, レーザー波長ストップでカットされる位置からのものだけであり, レーザー波長スト ップを透過するレーザー波長の光は, S2 上のスリット以外の部分に結像されるため, S2を透過できない)トリプル分光器による迷光除去性能の詳細は, システム設定に依 存するため, 3章以降で逐一述べる.
回折格子によって分光された光の逆線分散は以下の式で求められる.
∆ (2.48)
ここで は逆線分散,d は格子定数,m は回折次数, は回折角,f はレンズの焦 点距離である. 例えばアクロマティクレンズ(L1~L6)の焦点距離500 mm,回折格子
(G1~G3)の刻線本数を 1800 本/mm,回折角を 44.7°(この時入射角は 14.7°)と したとき,(2.48)式より,レーザー波長ストップ上での逆線分散は0.79 nm/mmと求 まる.レーザー波長ストップによる遮光の波長幅は,逆線分散0.79 nm/mmと(遮光 部の幅+S1の幅)の積で決まる. レーザー波長ストップを通過し, G2で分散が解消さ れた散乱光は, 中間スリットを通り, G3 で再び分散され, 検出器に導かれる. 電子項 計測では特に問題とならないが, イオン項計測では波長ストップ幅や波長分解能に十 分に注意する必要がある. さらにイオン項計測では0.1 nmを大きく上回る波長分解能 が必要とされるため, レンズによる回折の影響(フラウンホーファー回折)や, 回折
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格子のゼロスリット分解能にも注意を払う必要がある.
図2.16 差分散型トリプル分光器の概略図
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計測用レーザーエネルギーの増加は, トムソン散乱信号とその他の信号(プラズマ 背景光や検出器の持つ暗電流などのノイズ信号)とのSN比改善に対してよい方向に 働くが, それはレーザーによるプラズマ擾乱が起きない範囲で行う必要がある. 高気 圧マイクロプラズマを十分な空間分解能で計測するためには, 0.1 mm以下にレーザー のスポットサイズを絞る必要がある. そうすると, レーザーパワー密度が高くなるの に加えて, 多くの場合に高気圧プラズマでは電子密度が高いことから, 電子を加熱 する可能性がある. また, 中性粒子密度が高いことからは, レーザーの多光子吸収 により多くの中性粒子を電離する可能性がある. これらのレーザーによるプラズマ 擾乱は, 高気圧プラズマに LTS 法を適用する際の大きな問題であるので, 十分に注 意する必要がある. レーザー擾乱が計測結果に与える影響は, ガスの種類や圧力, 対象プラズマの密度と温度など, 条件によって大きく異なるため一般論として展開 することは困難であり, 多くの場合個々のプラズマで議論するしかないが, 特に考 慮すべき擾乱現象は以下の2種類に絞られる. 一つめは光吸収による原子・分子の電 離である. 原子・分子の基底準位からの電離に必要なエネルギーは, 通常, レーザー 光子のエネルギーより何倍も大きいが, N個の光子のエネルギーが電離エネルギーを 超えるようになるならば, N個の多光子吸収による電離が起こり得る. 電離の確率は, レーザーパワー密度の N乗に比例して増加し, 比例係数は一般に必要な光子数 Nが 大きいほど小さくなる. そのため, プラズマを生成しているガス中の主要な原子・分 子の電離エネルギーが低い場合やレーザー光子のエネルギーが高い場合に問題とな りやすい. どのようなガスでもレーザーパワー密度がある程度大きくなると急激に電 離が増大して, 高気圧ガス中では高密度のプラズマ生成(レーザー絶縁破壊)に至る. 実際のLTS計測において, 光吸収電離の影響があるかどうかは, プラズマを生成しな い時にレーザーを入射して, プラズマがあるときに観測される信号に対してどの程度 の信号が観測されるかを調べればわかる. わかり難いのは, 励起準位からの光電離で ある. 特に, 準安定準位の占有密度は電子密度と同程度以上となる場合もあるので,
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そこからの光電離が問題となる可能性がある [85] [86]. 可視域のレーザーでは, 多 くの原子の準安定準位からの光電離には2光子以上の吸収が必要なので, レーザーパ ワー密度に対する信号強度の変化が非線形かどうかで見分けられよう. 光電離の影響 が数 10%以内で判然としない場合にその影響を評価するには, 半導体レーザーなど を用いた吸収測定法により予めその準位の占有密度の測定を行う必要がある. もう一 つの形態は, レーザーエネルギーの吸収による電子温度の上昇である. その影響は, 電子密度が高く, 電子温度は比較的低いプラズマで問題となり, Kunze により次式の ように定式化されている [40].
0 e 3
2 / 3 e 11 e e
e 5.32 10 1 exp h /eT I
T Z n T
T (2.49)
ここで, neは電子密度(m-3), λはレーザー波長(m), hはプランク定数(J・s), νはレーザー 光子の周波数(Hz), I0 はレーザーパワー密度(W/m2), Δτはレーザーパルス時間幅(s)で ある. 電子温度 Teの単位は eV であり, 指数関数の中では素電荷 e を掛けてエネルギ ーの次元(J)としている. この式では, レーザースポットの中で逆制動放射過程により 吸収されたエネルギーがそのまま電子の熱エネルギーに変換されるとの仮定がなさ れている. しかし, プラズマの熱拡散係数 χ が十分大きいならば, 吸収エネルギーは レーザーパルスの時間 (Δτ) 内で, レーザースポット半径r0よりΔr=(χΔτ)1/2だけ広が った半径領域の電子に分配される. ここでχ=κ/(5/2) nekBで与えられκはSpitzerの熱伝
導係数 [87], kB はボルツマン定数である. これらにより, 電子温度の上昇割合は
(r0/(r0+Δr))2 だけ(2.49)式より緩和されることになる.
(2.49)式からわかるように, 電子密度の増加とともに電子加熱は大きくなる. この
ため, 特にプラズマ背景光とのSN比が問題となる電子項スペクトル計測は, α値が増 加することで, トムソン散乱信号が増加しなくなることとも合わせて, 高電子密度領
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域では測定が困難になることがわかる. 一方イオン項計測に関しても, 高電子密度領 域では計測レーザーエネルギーを極力小さくする工夫が必要となる. 多光子電離が関 係する問題は, それにより生じた自由電子が本来存在する電子密度程度になる時に生 じるため, 比較的低電子密度領域で問題となり易い. 以上述べた2種類の擾乱現象は, 高気圧マイクロプラズマにトムソン散乱法を適用する際の共通の問題であり, 電子項, イオン項どちらの計測においても, 考慮すべき項目となる.
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