第 4 章 ポインタによる提示コンテンツの認知 負荷軽減負荷軽減
4.4 実験
4.4.1 実験概要
本実験は,学習者の聴覚情報入力と視覚情報入力の同期を確認するため,アイマーク レコーダを用いて,コンテンツ受講中の注視点を測定した.更に受講後テストを行うこと で,視覚コンテンツに聴覚コンテンツを同時提示したマルチメディア教材における学習効 果について検証し,アンケート調査からコンテンツに対する学習者の内観報告を分析する.
学習者には大学習者・大学院生130名が参加した.
実験機材にはコンテンツ提示PCと,眼球運動測定装置であるアイマークレコーダ(Nac
EMR-8,アイ・トラッカーTobii X50)を用いた.アイマークレコーダにより,学習者の
注視点移動データが計測される.受講中の学習者はモニタに映し出されるeラーニング・
コンテンツを視聴するだけで,操作等は行わない.実験の様子を図4.1に示す.
4.4 実験 37
図4.1: 実験の様子と実験システム
4.4.2 実験コンテンツ
実験に使用した教材内容は,実験1「雷の発生原理」,実験2「自動車のフットブレー キ」,実験3「アメダスの仕組み」である.
実験用コンテンツとして,同内容に対して提示形式が異なるコンテンツを作成した.画 面表示例を図4.3に示す.各コンテンツ形式は以下の通りである.
(1) テキスト:ナレーションで再生される文章と同内容を提示している.図4.3の1に示 す通り,要約や線引き,色分け等は行っていない.ナレーションが同期して再生され るパターンと,それにポインタが有るパターン,ナレーションが無く黙読させるだ けのパターンの合計3パターンがある.黙読させる場合は,ナレーションがある場 合の再生時間と同じタイミングで,画面の表示,次ページへの切り替えが行われる.
(2) 静止画:絵や概念図,写真で構成されている.図4.3の2に示す通り,若干の注釈文 を含んでいる.ナレーションが同期して再生され,さらにポインタが有るパターン と無いパターンの2パターンがある.
(3) 静止画+テキスト:図4.3の3に示す通り,静止画の隣にナレーションの内容の文章 がテキストで提示されている.ナレーションが同期して再生され,ポインタが有る パターン,無いパターンと,ナレーションが無く黙読させる合計3パターンがある.
この形式のコンテンツにおけるポインタは,ナレーションに従って静止画中の対象 部分を指し示す.
(4) 動画:図4.3の4に示す通り,機械や現象の動作と名称等の文字が,ナレーションに 同期してアニメーションやビデオ教材により提示される.そのために,これらのコ ンテンツでは,学習者の視点はコントロールできると考えられる.ポインタが有る パターンと無いパターンの2パターンがある.この形式のコンテンツにおけるポイ ンタは,ナレーションに同期して提示される.
(5) 動画+テキスト:図4.3の5に示す通り,上記(4)の動画コンテンツ中にナレーショ ンと同一のテキストが,字幕のように同期して提示される.この形式のコンテンツ におけるポインタは,(4)の動画コンテンツと同様にナレーションに従って動画中 の対象部分を指し示す.
(6) ナレーションのみ:ナレーションのみが提示され,図4.3の6に示すように視覚情報 は「実験の教示」のみが提示される.
以上の計13パターンのコンテンツで比較実験を行った.ただし,コンテンツはすべてFlash 形式で作成した.コンテンツ再生時間は実験1が3分19秒,実験2が1分54秒,実験3 が2分22秒である.また,本実験で使用したポインタの形状は,清水(1981)らの実験 で最も良い結果を出した図4.2に示す赤色の矢印型のマウスカーソルに統一した.
図4.2: ポインタ形状
4.4.3 実験手順
学習者は表4.1の実験パターンのひとつが割り当てられ,アイマークレコーダを装着 してから学習を実施する.このデザインでは全ての学習者がポインタ有りのコンテンツを 1度は受講するようになっており,各実験コンテンツのコンテンツ形式1パターンにつき 30名が割り当てられる.学習時間はコンテンツの再生時間通りの一度限りで,繰り返し再 生は禁止する.
次に教材内容に関する再生テストを行った.テストには次の2種類のテストがある.
記憶テスト:講義内容に出てきた用語などを答える,表層的な知識を問うテストで ある.1問1点.
4.4 実験 39
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図 4.3: コンテンツ画面
表4.1: 実験におけるコンテンツ提示パターン(Pはポインタ提示コンテンツを示す)
実験パターン 実験1 実験2 実験3
1 テキスト(音声無し) 静止画 P・動画+テキスト
2 静止画+テキスト(音声無し) テキスト P・動画
3 ナレーションのみ P・動画 P・静止画+テキスト
4 テキスト 動画+テキスト P・静止画
5 静止画 テキスト(音声無し) P・テキスト
6 静止画+テキスト P・動画+テキスト テキスト
7 動画 P・テキスト 静止画
8 動画+テキスト P・静止画 静止画+テキスト
9 P・テキスト 静止画+テキスト(音声無し) 動画
10 P・静止画 ナレーションのみ 動画+テキスト
11 P・静止画+テキスト 動画 ナレーションのみ
12 P・動画 静止画+テキスト 静止画+テキスト(音声無し)
13 P・動画+テキスト P・静止画+テキスト テキスト(音声無し)
– 問題例:「放電は ( )差 によって起こる.」
理解テスト:仕組みや原理の説明を記述させる,深いレベルの理解を問うテストであ る.論述式のため1問10点満点で採点する.模範解答をコンテンツのナレーション
(またはそれに対応したテキスト)から生成し,それを意味のあるn個 の文節に分 類する.下の模範解答例ではn= 10である.採点は,回答中の模範解答の各文節に 対応する表現が存在し,文章全体の中で意味的に正しく使われている場合,10/n点 加算する方法をとった.
– 問題例:「雷の光(雷光)と雷の轟音(雷鳴)が発 生する仕組みを説明せよ.」 – 模範解答例:(1)落雷時に,(2)空気は(3)一万℃以上の(4)高温になり.(5)雷
光となって光る.(6)同時に熱くなった(2)空気は(7)急激に(8)膨張し,(9)そ の衝撃が(10)雷鳴となる.
理解テストは単純な暗記だけでは解答できない問題であり,解答には教材の内容理解 が必要となる.この理解テストは,本論でポインタ提示が促進すると仮定したデュアル・
チャンネル・モデルにおける意味統合の評価のためにデザインされている.各実験に関す るテスト問題出題数はすべて記憶テスト19問,理解テスト4問であり,解答時間は各20 分である.実験後,コンテンツに関するアンケートを行った.さらに実験から3日後に記 憶保持テストを行った.
4.5 実験結果 41
4.5 実験結果
4.5.1 デュアル・チャンネル・モデルに基づくマルチメディア教材の有効性
前述のように,Mayer and Moreno(1998)では動画にナレーションを同期させたコ ンテンツと動画にテキストを同期させたコンテンツのテスト結果を比較し,前者が良い結 果を出すことを示し,デュアル・チャンネル・モデルによって結果を説明している.しか し,この結果は必ずしもモデルの正しさを証明するものではない.そこで,本項では,ま ずデュアル・チャンネル・モデルに基づくマルチメディア教材の有効性を追認する分析を 行った.図4.4に実験後に行った全コンテンツのテスト結果の平均正答率のグラフを示す.
縦軸が正答率,横軸がコンテンツ形式である.図中のナレーションのみと,ナレーション無 しのテキストのみのテスト結果の平均値の差をt検定したところ,記憶テストでは有意水 準5%(df = 58,d= 8.36, t= 2.04,p < .05),理解テストでは有意水準10%(df = 58, d= 7.34, t= 1.45,p < .10)でテキスト・コンテンツの正答率がナレーションのみに比較 して高いことが分かった.清水(1993)でも,プレゼンテーション状況において,同様の 結果を示している.
図 4.4: 再生テスト正答率
(Pはポインタ有りのコンテンツを示す)
次に,これらのコンテンツに静止画を組み合わせた,ナレーション無しの静止画+テ キスト・コンテンツとナレーションが有る静止画コンテンツのテスト結果の平均値の差のt 検定を行った.理解テストにおいて有意水準5%(df = 58,d= 12.57, t= 2.42,p < .05) でナレーションが有る静止画コンテンツの正答率が高かった.先の分析結果では,聴覚コ
ンテンツのみより視覚コンテンツのみが優れているのにも関わらず,静止画を加えただけ でその正答率が逆転している.このことは,デュアル・チャンネル・モデルにおける聴覚 チャンネルと視覚チャンネルで独立な作業記憶容量があるので,視覚+視覚のコンテンツ では視覚チャンネルに情報が集中し,作業記憶でオーバーフローが生じていると解釈でき る.すなわち,先行研究では示されなかったデュアル・チャンネル・モデルの妥当性を向 上させる結果を提示できた.
4.5.2 ポインタによる視覚コンテンツとナレーションの同期性
前項4.5.1.の結果からデュアル・チャンネル・モデルに基づく視覚コンテンツと聴覚コ
ンテンツの同時提示の有効性が追認された.本項では,ポインタにより聴覚チャンネルと 視覚チャンネルの同期性が向上するのかについてアイマークレコーダを用いて分析した.
図4.5は,あるコンテンツへのポインタの移動点とポインタが有る場合と無い場合の 学習者の注視点位置の時系列データ例である.縦軸が注視点位置座標(単位:pixel),横 軸は時間(sec)で,黒線が注視点位置のX座標,灰色の線がY 座標である.ポインタの 移動点はコンテンツ作成者が作成したもので,作成者の意図を反映した規範として扱うこ とができる.例えば,図4.5より,ポインタがある場合の学習者の注視点のほうがポイン タが無い場合の学習者の注視点よりも規範に従っていることがわかる.
データ全体のポインタの効果を測定するために,ポインタ移動データと全学習者の視 点移動データ間の距離の二乗誤差の差を,ポインタ有り群と無し群についてF検定を行っ た.ただし,この時ポインタ無し群にはナレーションのみ,テキスト(音声無し),静止 画+テキスト(音声無し)のデータは含まない.結果を表4.2に示すが,ポインタが有る 時には学習者の注視点とポインタとの距離の差が,ポインタが無い場合に比べて有意水準 1%で小さいことがわかる.
これより,ポインタにより視点がコントロールされていることが示された.しかし,こ の結果は必ずしもコンテンツ作成者が意図した部分を見ているということを保障しない.
例えば,ポインタと注視点の距離は近くても,意味的に異なる場所を見ている可能性もあ る.そこで,各学習者の視点移動データから学習者がコンテンツ再生時間に対してどの割 合でポインタが示す文節および画像の部分を注視しているかを計測した.計測は目視によっ て行われ,ナレーションの意味のある文節ごとに学習者が意味的に正しい部分を注視して いれば正答と判断する.そのために,計測者によって基準が変わる可能性があるが,実験 内では判断基準の一貫性を保つように計測を行っている.例えば,図4.3の実験2の4.動 画で,ナレーション「自動車のブレーキペダルを踏むと」では,図中の「人の足」もしく