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第 5 章 タブレット PC による入力環境の認知 負荷軽減

5.10 アンケート結果

静止画・記憶:F(3,36) = 7.57,p < .01,静止画・理解:F(3,36) = 19.15,p < .01,動画・

記憶:F(3,36) = 16.92, p < .01,動画・理解:F(3,36) = 11.85,p < .01).

次に,コンテンツ形式毎にTukeyの方法で多重比較を行った.その結果,テキストコ ンテンツでの記憶テスト以外で,タブレットPC使用時の正答率がキーボード使用時の正 答率より有意水準5%で高かった.また,タブレットPCと比較して,静止画コンテンツ の記憶と理解テスト結果では紙媒体使用時の正答率が有意水準5%で低く,動画コンテン ツの記憶テスト結果ではペンタブレット使用時の正答率が有意水準5%で低かった.

タブレットPCでのメモ書きでの正答率が最も高く,他デバイスと有意に差があるこ とが多い.特に,静止画コンテンツでの紙とキーボードによるメモ書きは,コンテンツ上 のイメージ情報とメモによるテキスト情報が分離されてしまうため,分裂注意原則により 学習内容を再生することが困難になってしまったと考えられる.タブレットPCではコン テンツ上に直接書き込むことができるため,コンテンツとメモ書きの意味の対応が取り易 く,効率的に必要な情報のメモ書きが行えたと考えられる.

この結果から,タブレットPCではメモ書きが効率的に行えるために,メモ情報を正 確かつ多く書くことができることが示唆された.

5.10 アンケート結果

これまでの分析では注視点や客観テストによる評価を行ってきたが,学習者自身が書 込み時にどのように感じたかを評価する必要性がある.そこで,実験後のアンケートによ る主観評価の分析を行う.入力デバイスの使用感に関するアンケート項目と回答形式は以 下の通りである.

ˆ 質問1:操作はしやすかったですか?

ˆ 質問2:書込みはしやすかったですか?

ˆ 質問3:誤入力は少なかったですか?

ˆ 質問4:書込みは内容を理解するのに役立ちましたか?

(1:思わない・2:やや思わない・3:普通・4:やや思う・5:思う)

評価の平均値を表5.9に示す.コンテンツ形式毎に書込み方法を1要因として,評価の平 均値の分散分析し,有意差があったものをコンテンツ形式毎にTukeyの方法で多重比較を 行った.各質問で,タブレットPC使用時の評価の方が有意水準5%で高かったデバイス

表5.9: 入力デバイスに関するアンケート結果

(**1% 水準 *5%水準で有意差あり)(数値*:多重比較の結果,タブレットPCと比較 して5%水準で有意差あり)

キーボード ペンタブレット タブレットPC 質問1 テキスト** 3.5 2.50* 2.90* 4

テキスト図** 2.7 2.40* 2.30* 3.4 テキスト+静止画** 3.4 2.40* 2.40* 3.5 静止画** 2.8 2.10* 1.90* 3.7

動画 3.2 2.8 2.5 3.4

質問2 テキスト** 3.5 2.40* 3.3 4 テキスト図* 2.8 2.80* 2.50* 3.7 テキスト+静止画** 3.6 2.6 2.7 3.6 静止画** 3.1 2.10* 2.20* 3.3

動画** 3.2 2.10* 2.20* 3.3

質問3 テキスト* 3.4 2.60* 3.2 3.8 テキスト図** 3 1.90* 2.40* 3.8 テキスト+静止画** 3.6 2.00* 3.1 3.4 静止画** 3.3 1.90* 2.6 3.3

動画** 2.6 2.10* 3 3.6

質問4 テキスト 3 2.8 2.9 3.4

テキスト図 2.5 2.1 2.3 3

テキスト+静止画* 3.4 2.60* 3.2 3.5

静止画* 3 2.5 2.5 3.3

動画 3.5 2.8 2.7 3.2

は,質問1:動画コンテンツ以外においてキーボードとペンタブレット.質問2:テキスト・

テキスト図・静止画・動画コンテンツにおいてキーボード,テキスト図・静止画・動画コ ンテンツにおいてペンタブレット.質問3:全てのコンテンツにおいてキーボード,テキ スト図コンテンツにおいてペンタブレット.質問4:テキスト+静止画においてキーボー ド,である.入力デバイスの使用感に関する質問では,タブレットPC利用時の評価の平 均値が最も高く,他デバイスと比較しても有意に差があることが多い.

また,学習中の学習者の印象につていてもアンケートを行った.アンケート項目と回 答形式は以下の通りである.

ˆ 質問5:教材を注視できましたか?

ˆ 質問6:ナレーションには集中できましたか?

(1:思わない・2:やや思わない・3:普通・4:やや思う・5:思う)

ˆ 質問7:受講中,疲れませんでしたか?

(1:疲れた・2:やや疲れた・3:普通・4:あまり疲れない・5:疲れない)

5.10 アンケート結果 79

表5.10: 学習中の印象に関するアンケート結果

(**1%水準 *5% 水準で有意差あり)(数値*:多重比較の結果,タブレットPCと比較 して5%水準で有意差あり)

書込み無し キーボード ペンタブレット タブレットPC 質問5 テキスト** 4.3 3.6 2.20* 3.7 4

テキスト図** 4.3 2.30* 3.2 3.9 4 テキスト+静止画** 4.4 3.7 3.30* 3.8 4.3 静止画** 4.8 3.10* 3.3 3.9 4.1

動画** 5 3.00* 3.3 3.1 4.1

質問6 テキスト** 3.8 3.3 2.50* 3.4 3.8 テキスト図** 4.5 2.40* 2.50* 3.3 3.8 テキスト+静止画** 4.2 3.3 3.2 3.4 3.7 静止画** 4.6 3.5 2.50* 3.6 4.1

動画** 4.9 3.5 3.10* 3.9 4.1

質問7 テキスト** 3.9 2.7 2.9 3.4 3.6 テキスト図** 3.7 2.00* 2.30* 3.3 3.4 テキスト+静止画** 3.8 3.3 2.60* 3 3.7

静止画** 3.9 2.8 2.7 2.9 3.3

動画** 4.1 2.40* 2.20* 2.9 3.5

評価の平均値を表5.10に示す.

前段同様,分散分析の後Tukeyの方法で多重比較を行った.各質問で,タブレットPC使 用時の評価の方が有意水準5%で高かったデバイスは,質問5:テキスト・テキスト+静止 画コンテンツにおいてキーボード,テキスト図・静止画・動画コンテンツにおいて紙.質問 6:テキスト+静止画コンテンツ以外においてキーボード,テキスト図コンテンツにおいて 紙.質問7:テキスト図・テキスト+静止画・動画コンテンツにおいてキーボード,テキス ト図・動画コンテンツにおいて紙,である.学習時の印象に関する質問では,書込みをし ない場合の評価の平均値が最も高かったが,書き込みを行った場合では,タブレットPC 利用時の評価の平均値が最も高く,他デバイスと比較しても有意に差があることが多い.

更に,学習者自身の入力デバイスの使用経験や,普段の講義での様子についてもアン ケートを行った.アンケート項目と回答形式は以下の通りである.

ˆ 質問8:キーボード操作にはなれていますか?

1. キーを打つとき,常に手元を見てしまう 2. ローマ字入力でも時々手元を見てしまう 3. ローマ字入力なら手元を見なくてもできる 4. 特殊な記号以外なら手元を見なくてもできる 5. 完全にブラインドタッチできる

ˆ 質問9:ペンタブレットを使ったことはありますか?

ˆ 質問10:タブレットPCか液晶タブレットを使ったことはありますか?

(1:全く無い・2:あまり無い・3:普通・4:時々使う・5:よく使う)

ˆ 質問11:普段の講義でメモ書きをしますか?

(1:全くしない・2:あまりしない・3:普通・4:ややする・5:いつもする)

各質問の回答数を表5.11に示す.

表 5.11: 入力デバイスの使用経験および対面講義でのメモ書きに関するアンケート結果

回答1 回答2 回答3 回答4 回答5 質問8 19 11 13 7 0 質問9 30 12 4 4 0 質問10 50 0 0 0 0 質問11 0 2 13 22 13

キーボード操作についての質問の回答から,各実験結果は,キーボード操作の熟達度によっ て異なる結果となる可能性がある.そこで,この質問8で,1および2と回答した30人を キーボード操作の初級者群,3および4と回答した20人を上級者群として分け,両群の各 実験結果およびアンケート結果について比較した.同一性のχ2検定 の結果,本実験の仮定 どおり両群が等質であり,被験者のキーボード熟達度に差が無かったことが示された(記 憶テスト:χ2値= 0.20, df = 4, p = 0.99,理解テスト:χ2値 = 0.86, df = 4, p = 0.93, 注視時間:χ2値= 0.33, df = 4,p= 0.98,誤記率:χ2値= 2.09,df = 4, p= 0.72).ペ ンタブレットとタブレットPCの使用経験については,ほとんどの学習者は使用経験が無 かった.また,ほとんどの学習者が日常的にメモ書きを行っていた.

以上より,アンケートからもPCの操作に不慣れな学習者でもタブレットPCを用い た書込み時の外的認知負荷が軽減されていると感じていることがわかった.

5.11 まとめ

本章では,eラーニング学習におけるコンテンツへの書込み方法(書込み無し,紙媒 体,キーボード,ペンタブレット,タブレットPC)を様々な形式のコンテンツ提示環境

5.11 まとめ 81

(ナレーションを含む,テキスト,テキストの図的表現,テキスト+静止画,静止画,動 画)の下で実施した.アイマークレコーダで学習者の注視点を測定し,記憶・理解テスト,

アンケート調査およびメモ書きの評価から,各デバイスの比較を行い,タブレットPCを 用いてeラーニング・コンテンツ画面に直接手書き入力する環境の効果を分析した結果,

以下の知見を得た.

ˆ 手書きは,書込みにかかる外的認知負荷が少なく誤記率が低い.

ˆ タブレットPCは,聴覚チャンネルと視覚チャンネルの同期を取りやすい.

ˆ コンテンツに直接メモを書き込んだ場合,学習者の理解,記憶保持が高い.

ˆ タブレットPCによるメモ書きが,学習メモとしての正確性が高い.

アンケート結果からも学習者のタブレットPC利用においてメモ書きの負担が軽減されて いる.

結果として,タブレットPCを用いてコンテンツ画面に直接手書き入力を行うことで,

メモ書きによる外的認知負荷を軽減し,コンテンツに注視することができ,聴覚コンテン ツと視覚コンテンツの同期が取りやすくなることで内容理解と記憶保持,および効率的な メモ書きを支援できることを示した.

本実験では,被験者は工学部の学習者であり,キーボード操作に比較的熟達した学習 者を対象として,タブレットPCでの手書き入力の有効性が示された.更に,キーボード 入力の初心者になればこの有効性はより顕著になり,本研究の知見は頑健になると期待さ れる.

しかし,本実験で用いたコンテンツは教材内容と提示形式の組み合わせが固定されて おり,また,短時間のコンテンツであった.本研究の結果があらゆる状況でも有効かどう か,異なる組み合わせや,実際の科目,および長時間のeラーニング講義に当てはめて検 証を行うことが,今後の課題である.

参考文献

Anderson, R. J., Hoyer, C. S., Wolfman, A. and Anderson, R. (2004) A study of digital ink in lecture presentation. Proceedings of CHI 2004, pp.567-574

安藤雅洋,植野真臣(2008) デュアル・チャンネル・モデルに基づくeラーニング・マルチ メディア教材におけるポインタ提示の効果分析. 日本教育工学会論文誌,32(1):43-56