• 検索結果がありません。

基本法則

ドキュメント内 2017年版PDF (ページ 40-44)

4.1.2 剛体に作用する力やトルクの効果

本書では,このあと,力やトルクの「効果」という表現をよく使う.ここでいう「効 果」とは,必然的に,

剛体の「位置」や「姿勢角」を変化させる効果

のことになる.なぜなら,「位置」と「姿勢角」しか動かない剛体に,いかなる力やト ルクを加えようとも,その効果は「位置」と「姿勢角」にしか表れない.

以下で見ていくように,複数の力やトルクが剛体に働くとき,その効果は,1つの 力と1つのトルクで表せる.逆に,力とトルクを,それぞれ1つずつ与えれば,剛体 を自由に動かせる.

▶▶ ただし,力とトルクの方向や大きさは,適切に時間変化させる必要がある.また,変 形を考慮した弾性体では「位置と姿勢角」のほかに「形状」も変化するので,一対の力とト ルクでは,特定の効果しか作れない.

4.2. 基本法則 33

4.1 偶力の定義 4.2 等価な偶力 4.3 偶力の大きさ

couple)という.偶力とは,図4.1のような,逆向きで同じ大きさの平行力のペア

(f,−f)のことである.ペアの作用線の幅∆rを,偶力の腕(arm of force couple) という.力学法則4.1により,各力を作用線上で平行移動した図4.2のような力のペ アも,同じ作用の偶力である.偶力は,回転作用だけを剛体に及ぼす.すなわち,偶 力は,剛体の「姿勢角」は変化させるが,「位置」は変化させない.

偶力が発生するトルクの大きさは,図4.3のように,偶力の腕∆rと力f からな る長方形の符号付き面積に一致する.

4.2.3 偶力の平行移動と回転

偶力は,次のような不思議な性質を示す.

力学法則4.2 偶力(f,f)を,作用面(またはそれと平行な面)内で,平行移動ま たは回転しても,その効果は変らない.

原理を計算で示そう.図4.4 (a)のように,f,−f の着力点の位置ベクトルを点O からとり,それぞれr1,r2とする.

(a)ある偶力のトルク (b)平行移動した偶力のトルク 4.4 偶力のトルク

このとき,基準点Oまわりのトルクは,“”の分配則p23より,

T=r1f+r2∧(−f) =r1fr2f= (r1r2)f

= (∆r)f, ∆r=r1r2// (4.1)

となる.図4.4 (b)のように平行移動しても,腕は共通,

r2r1=∆r=r2r1 (4.2) なので,

T= (r1r2)f = (∆r)f= (r1r2)f=T (4.3) が得られる.すなわち,

偶力を平行移動しても発生するトルクの大きさは変らない.

さらに,偶力を表す長方形(図4.3)を回転させても面積は変らないので,

偶力を回転しても発生するトルクの大きさは変らない.

なお,3次元の場合は,“”が“×”に,T がT に置き換わるが,全く同じ式変形,

T =r1×f+r2×(f) =r1×fr2×f= (r1r2)×f

= (∆r)×f, ∆r=r1r2// (4.4)

となるので,同じ考察が繰り返される.ただし,3次元のトルクT では,大きさの他 に回転軸がある.したがって,この回転軸を変えない偶力の回転であれば,発生トル クは変化しないことになる.以上をまとめたのが,力学法則4.2p33である.

不思議に思うかも知れないが,変形しない剛体においては,当然の法則である.なぜ なら,どこかにかかった偶力の効果は,瞬時に,剛体の全身に波及する.もし波及し ないなら,剛体は力を逃がすために変形せざるをえないが3),これは矛盾である.結 局のところ,剛体の運動にとって,偶力が剛体のどこにかかるかは,さしたる問題で はない.どうせ一瞬で全身に及ぶからである.

例題4.2 次のなかで剛体が受ける効果の異なるものはどれか? 長方形の作図で示せ.

4.2.4 トルクの平行移動と回転

図3.1p22のような単独のトルクは剛体の1点に作用するが,偶力は2点に作用す る.ゆえに,両者の存在形態は異なる.しかし単位(Nm)は同じである.それでは,

これらが剛体に与える効果は,同じなのか,違うのか?

3)手押し相撲で,全身をガチガチに固めた場合と,柔軟に保った場合を考えてみよ.相手の力を逃がすには,

体は変形せざるをえない.さもないと,相手からの作用が広範囲に波及してしまう.

4.2. 基本法則 35

結論からいうと,単独のトルクが剛体に与える効果は,偶力と同じである.したがっ て,偶力と同じ法則が,単独のトルクについても成立する.ただし,大きさ0の作用 点を回転させても意味がないので,回転の記述は省かれる.

力学法則4.3 トルクT を平行移動しても,剛体に与える効果は変らない.

(T をT とすれば3次元の法則となる)

単独のトルクが偶力の一種であることを示すには,図4.5のように,偶力の大きさ を一定(図ではNm)に保ったまま,腕∆rの幅を0まで絞ればよい.

4.5 偶力の極限

極限∆r→0において,腕の幅は無限小になり,力は無限大になるが,偶力のトル クは1Nmのままである4).この極限の偶力は,作用が1点に集中しており,単独の

トルク(1Nm)と区別できない.このように,単独のトルクは,幅0の偶力と同じも

のだから,偶力と同じ法則が成立する.

▶▶(極限の符号?) 自然な疑問として,極限をとると腕の幅が0になるので,偶力の正

負が判別不可能になるのではないか,というのがある.しかし,理工学の極限操作|∆r| → 0には,|∆r| ̸= 0という前提がある.ようするに,限りなく0に近付けるが,0ぴった りにはしないのが極限操作の約束なので,正負は最後まで保存され,混乱は生じない.

▶▶ 1点に作用するトルクは,工業的には作れない.幅0の偶力に最も近いのが,ハサ ミの刃先が発生する偶力だが,これは物を回す用途ではない.回る以前に,切れて(壊れ て)しまうからだ.回す用途で身近なものに,ドライバーがある.マイナスドライバーでね じ締めしたときの先端を観察してみよ.ドライバーは2点接触に近い状態で,ねじにトル クを伝えているはずだ.ようするに,偶力がねじを回している.

4)このような極限を考えることは,ディラックのデルタ関数[1]として,数学的にも正当化されている.

だから安心して,こう考えてよい.拙著[2]6章に簡単な解説がある.

ドキュメント内 2017年版PDF (ページ 40-44)