2006 年に米国と欧州糖尿病学会が臨時委員会を開催し、初めて2型糖尿病患者における高血糖管理の ための薬剤選択について合意声明を公表しました。これにより、生活習慣改善とともにメトホルミンの第 一選択薬としてのポジショニングが確立され、現在まで踏襲されています。一方、第二選択薬にどの薬剤 を選択し、そしていつ投与を開始するのかについては、これまでかなりの変遷がみられます。
詳細は割愛しますが、例えば、2006 年時点では、第二選択薬の候補としてインスリン、スルホニル尿 素薬およびチアゾリジン系薬剤の 3 薬剤のみでした。その後現在まで順次 GLP-1 受容体作動薬、DPP-4 阻害薬、そして SGLT2 阻害薬が加わり選択の幅が広がっております。また、2006 年の時点での二剤目以 降の薬剤選択は、ひとえに「血糖値の正常化」を目標として、各薬剤の優先順位無くひたすら追加・増量 を促すものでしたが、現在では年齢、低血糖、合併症 / 併発症の有無、そして患者ニーズや選好も考慮し て、インスリンを除く主要 6 剤をその特性を理解した上で選択する方針に進化しています。この中で、ス ルホニル尿素薬に関しては、2018 年からコストが懸念されるときのみ選択するよう推奨範囲が限定され るようになり、最近公表された欧州連合とカナダの専門家からなる委員会の提言では、他の主要 5 剤が処 方可能な際は選択しないと言うより厳格な処方制限を推奨する基準も示されるようになっています。
更に、患者の A1c 値よりアウトカム改善を重視した薬剤選択の流れも強まっております。2020 年の米 国と欧州糖尿病学会の 2 型糖尿病治療ガイドラインでは、A1c 値にかかわらずアテローム硬化性疾患合併 例では GLP-1 受容体作動薬、心不全又は慢性腎臓病合併例では SGLT2 阻害薬を優先して選択することが 推奨されています。
ここ数年の間に、欧米2型糖尿病治療ガイドラインは大きな変貌を遂げ進化しており、推奨される薬剤 や血糖管理方針は以前とは隔世の感があります。本講演会では、最新の 2 型糖尿病治療ガイドラインにお いて、本邦で汎用される DPP-4 阻害薬含む主要 6 剤がどのようなポジショニングになっているのか、そ の現状と選択を行う際のポイントを解説させていただきます。本講演が、患者さんの予後、生活の質改善 に資する糖尿病診療の標準化に多少なりとも貢献できれば幸いです。
一般財団法人太田綜合病院附属太田西ノ内病院糖尿病センター
略歴
日本糖尿病合併症学会(評議員)
日本臨床検査医学会(評議員)
福島県糖尿病療養指導士会(理事 / 役員)
日本糖尿病協会代議員 福島県糖尿病協会会長
共催セミナー B
喫煙などの生活習慣と慢性腎臓病 風 間 順一郎
慢性腎臓病= CKD は国民の 1/8 が罹患しているとされるありふれた疾患である。その進行は一般に緩 徐であり、末期に至る前に症状を自覚することは少ない。生活習慣はこの緩やかな進行を時に加速させ る要因として働く。この状況を判断しづらくしているのが糸球体過剰濾過(Glomerular Hyperfi ltration
=GHF)である。多くの腎疾患では、進行して糸球体濾過率= GFR が低下する前に、むしろ一過性に上 昇する時期がある。糸球体が過剰に濾過を行うと、ネフロンは糸球体高血圧と尿細管虚血のために疲弊し、
やがて機能停止に陥る。代表例は古典的糖尿病性腎症である。今日「腎保護効果を持つ」とする薬物は、
全て実際には GFR を低下させることで糸球体を長持ちさせる薬物なのである。ところが、リアルワール ドにおいては、GHF をきたす疾患は、濾過が過剰である早期病態を呈する症例と、過剰を通り越して低 下してしまった進行病態を呈する症例が入り混じっている。したがって観察研究ではしばしばこの二者が 相殺されて「GFR は変わらない」という誤った評価をしてしまうのだ。喫煙はその代表的な要因である。
既報のいずれをみても、喫煙は蛋白尿の危険因子として同定されるが、GFR については下げる、上げる、
不変、という報告が混在している。これは喫煙が GHF を起こす病態の一つであると考えれば合理的である。
機序としてもニコチンを起点とする輸入細動脈のトーヌス変化で無理なく説明できる。すなわち、喫煙で GFR が保たれるかのように見えるのは一過性であり、長い目で見れば GFR は低下するとみて間違いない。
ちなみに喫煙者で心血管イベントが増えるのは当然であるが、それは CKD 患者においても例外ではなく、
それどころか、透析患者における喫煙の心血管イベント発生に寄与するリスクは年齢や既往などに匹敵す る常識外れの高さを呈している。喫煙と同様な GHF パターンを示すものにストレスが挙げられる。重度 のストレス状態に置かれると、既存の CKD が進行するだけでなく、非 CKD 患者群から新たに発症する CKD も増加する。アルコールもおそらく GHF を起こすと考えられるが、コンセンサスは得られていない。
起こすとしても程度は軽いため、よほどの大酒家でなければ GFR の低下に至ることはない。意外なことに、
食塩摂取が CKD の発症や増悪を促進するというエビデンスはない。関連はないか、あったとしても希薄 であり、CKD 患者に積極的に減塩食を推奨すべきかどうかは疑問である。
福島県立医科大学腎臓高血圧内科学講座
共催:第一三共株式会社
略歴
福島県立医科大学腎臓高血圧内科学講座主任教授
一般演題(誌上発表)
O1 禁煙推進・喫煙対策 (13)
O2 禁煙治療 ( 8 ) O3 禁煙防止・禁煙教育 (13)
O4 禁煙支援 ( 7 ) O5 受動喫煙 ( 5 ) O6 タバコと身体疾患 ( 3 ) O7 禁煙調査・疫学 (10)
O8 精神疾患・精神科 ( 1 ) O9 加熱式タバコ ( 2 )
(演題数)62
O1-01
がん化学療法を受けている患者の喫煙の実態と認識 黄 木 千 尋
【研究目的】日本人の 2 人に 1 人ががんに罹患するといわれている。喫煙は、がんに最も大きく寄与する 因子であり、がん患者のたばこ対策は大変重要であるが、がん患者の喫煙の実態や関連要因・社会的ニコ チン依存度に関する報告は少ないのが現状である。そこで本研究では、がん患者に対する効果的な禁煙指 導、喫煙防止対策を検討するために、外来化学療法を受けている患者の喫煙の実態と認識を明らかにする ことを目的とした。
【対象・方法】対象は A 病院において外来化学療法を行う患者のうち認知症や質問紙調査票への記入が困 難な患者を除外した 257 名。調査内容は、基本属性、対象者と家族の喫煙状況(「非喫煙」「過去喫煙」「現 在喫煙」とブリンクマン指数(一日喫煙本数×喫煙年数))、喫煙に対する認識(加濃式社会的ニコチン依 存度(KTSND)と加熱式タバコに対する認識)、禁煙理由である。山形大学医学部倫理審査委員会の承認
(2019-22)を得て行った。
【結果・考察】 分析対象は 257 名、有効回答率 100%であった。対象者の喫煙状況は、「非喫煙」106 名(41.2%)、
「過去喫煙」144 名(56.0%)、「現在喫煙」7 名(2.7%)であった。同居家族に喫煙者がいる割合は、「非 喫煙」19.8%、「過去喫煙」25.0%、「現在喫煙」57.1%であった。「現在喫煙」のブリンクマン指数は「過 去喫煙」よりも高く、喫煙による健康への影響を強く受けていることが推察された。KTSND 得点は、「非 喫煙」よりも「現在喫煙」「過去喫煙」が有意に高く、喫煙経験者は非喫煙経験者よりも社会的ニコチン 依存度が高く喫煙を容認していた。「加熱式タバコは禁煙の場で使用してもよいと思う」割合は「現在喫煙」
が「非喫煙」「過去喫煙」よりも有意に高い結果であった。また、「加熱式タバコを使う事は健康に対し害 が少ないと思う」「加熱式タバコを使うことは禁煙に役立つと思う」者がそれぞれ約 30%となり、加熱式 タバコに関する正しい知識の普及啓発の必要性が示唆された。以上のことから、外来化学療法を受けてい るがん患者について、現在喫煙している患者への禁煙支援は重要な課題であり、家族を含め、過去喫煙者・
非喫煙者に対しても喫煙による健康被害の知識の普及・啓発と継続した喫煙状況の把握に基づく禁煙支援 の必要性がある。
山形大学医学部附属病院 看護部