略歴
国立保健医療科学院 生活環境研究部 主任研究官 専門分野は、分析化学、衛生学、公衆衛生学
現在は、たばこ製品に含まれる化学物質の分析法の開発、国内たばこ製品の調査に取り組んでいる 喫煙者、受動喫煙者の生態影響、受動喫煙環境の調査にも取り組んでいる
WHO たばこ研究室ネットワークメンバー
新型タバコの健康影響評価 ̶あるべき社会の姿とは?̶
田 淵 貴 大
日本では、加熱式タバコなどの新型タバコがすでに流行してしまった。本稿では、日本における加熱 式タバコ製品使用の実態について UPDATE したのち、新型タバコ問題、ニコチンを巡る議論の動向、そ して社会のあるべき姿について考えを述べる。
ニコチン入りリキッドの電子タバコが欧米諸国で流行している一方、日本では加熱式タバコが流行し ている。フィリップモリス社は加熱式タバコ IQOS(アイコス)を開発し、2014 年に販売を開始した。日 本タバコ産業(JT)は 2016 年に Ploom TECH(プルームテック)、2019 年に PloomS(プルーム・エス)
の販売を開始した。ブリティッシュ・アメリカン・タバコ社は 2016 年に glo(グロー)、インペリアル・
タバコ社は 2019 年に PULZE(パルズ)の販売を開始した。
加熱式タバコ・アイコスは日本で急速に普及し、アイコスの販売世界シェアの 80% 以上が日本であり、
日本が加熱式タバコの実験場となっているのである。
多くの人が有害性について誤解をしているが、新型タバコの有害性が近年報告されてきている。新型 タバコからも従来からのタバコと同じ化学物質が放出されると分かっているのであるから、当然新型タ バコ使用は有害だろうと考えられる。しかし、社会は加熱式タバコを特別扱いするルールとしてしまった。
新型タバコの有害性を正しく理解するだけでなく、法律など社会のルールのあるべき姿に関しても議論 をしていかなければならない。
大阪国際がんセンター/がん対策センター 疫学統計部
略歴
大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部 副部長
日本公衆衛生学会、日本癌学会など多くの学会で、タバコ対策専門委員会の委員長や委員を務める
S2-04
Juul などの電子タバコについて 野 村 英 樹
電子タバコには、ニコチンを含む ENDS(Electronic Nicotine Delivery Systems)と含まない ENNDS
(Electronic Non-Nicotine Delivery Systems)がある。日本でニコチンは薬機法上の医薬品に指定され ているため、ENDS の製造・販売は違法である(個人輸入のみ可能)。ENNDS には、大麻の成分である THC が含まれるもの(日本では非合法)や、同様に大麻の成分だが向精神作用や依存性はないとされ、
日本で販売可能な CBD が含まれるものなどがある。2020 年 2 月に厚生労働省が CBD 含有 ENNDS を 18 製品調べたところ、3 製品から微量の THC が検出されている。
2015 年に米国で発売された ENDS である Juul は、小洒落たデザイン、甘いフレーバー、‟ガツンと来 る ” 恍惚感を特徴とし、急速に中高生の間で流行、2019 年には全米シェアの 75% を占めた。従来の電子 タバコがニコチン含有量 1 〜 2% であったのに対し 5% のリキッドを販売、しかもこの 5% は重量 % であり、
従来と同様に容積 % に換算すると 5.9% に相当するから、電子タバコのニコチン濃度を一気に 3 倍以上に 押し上げたことになる。2019 年 12 月に出版された、思春期ないし若者を対象とした 9 つのコホート研究(合 計 17,389 名)のメタ解析で、電子タバコ使用者は紙巻きタバコの常習喫煙者に移行した者が 3.5 倍多かっ たと報告されており、電子タバコが全米で 43,000 人以上の喫煙者を生み出した計算になる。
2019 年 4 月、イリノイ州とウィスコンシン州から報告された E-cigarettes and Vaping-associated Lung Disease(EVALI)はその後報告が相次ぎ、2020 年 2 月 25 日の段階で全米で 2,807 の入院例または死亡例 が報告されている。電子タバコに添加されていたビタミン E アセテートが原因物質として濃厚視されて いるが、他にも EVALI を起こす物質がある可能性がある。
これらを背景として、2019 年 6 月、JUUL の本拠地であるサンフランシスコ市は、全ての電子タバコの 販売を禁止する条例を制定した。我が国で「新型タバコ」は多くの場合加熱式タバコを意味するが、Juul で用いられた戦略を加熱式タバコに応用してくる可能性、CBD 含有 ENNDS が流行する可能性、さらには、
ハームリダクションという名目で ENDS や THC 含有 ENNDS の国内販売が試みられる可能性も全くない とは言い切れない。少子化の時代に若者をニコチン依存から守るため、我々もゆめゆめ油断は禁物である。
金沢大学附属病院 総合診療部
シンポジウム 2 今こそ新型タバコを考える
略歴
金沢大学附属病院特任教授
シンポジウム「今こそ新型タバコを考える」新型タバコの拡販を抑え込む 方策について(私案)
野 上 浩 志
新型タバコが、新型コロナウイルス感染症の広がりを逆手にとって拡販宣伝が加速されている。ニコチ ン依存を増悪させ、儲けのみ一辺倒のこれらのタバコの拡販を抑え込むための方策を以下に提示し、政府 等へ提案していきたい。
【1. タバコへのメンソールなど風味添加の禁止へ】新型タバコでは紙巻タバコ以上に、より強いメンソー ル味などを添加し、依存性を強め、シェアーを広げようとしている。アメリカの州や欧州などではメンソー ルなどの風味添加を禁止する法が既に制定され広がりつつある。日本においても同様の法的禁止が早期に 望まれる。【2. タバコ葉の遺伝子操作によるニコチン使用の禁止へ】この操作によるタバコ葉のニコチン による依存症を強めるなどの懸念があり、この法的禁止の検討が望まれる。【3.JUUL の日本進出を阻止す るキャンペーンを】アメリカの JUUL のニコチン入り電子タバコ等により、青少年の死亡や重い呼吸器疾 患が 2019 年に報道され、その添加物が原因と指摘されたが、この JUUL が日本進出を謀っているとの報 道がある。日本がこの JUUL タバコを認可しないよう、水際の阻止が必要とされている。【4. 健康増進法 の加熱式タバコ専用喫煙室の禁止へ】加熱式タバコ専用喫煙室では、食事もでき、二十歳未満以外の客や 従業員の出入りが認められている。本タバコの有害性は既に多くのデータが集積されていることから、「指 定タバコ専用喫煙室」そのものの経過設置を撤廃するよう条例(兵庫県では既に禁止)および健康増進法 での早期の禁止が望まれる。【5.WHO-FCTC の動向、連携、COP で新型タバコをテーマに】新型タバコ の有害性ついて、WHO は既にステートメントを出しているが、タバコ会社の世界的拡販を食い止めるた めに、COP 会議でも集中的に対策を講じ、各国で抑え込むことが喫緊に必要とされている。http://www.
jstc.or.jp/uploads/uploads/fi les/information/WHO20̲7̲22.pdf【6. 喫煙禁止年齢の引き上げ、妊婦喫煙禁 止を】新型タバコがタバコ会社の若者をターゲットとして巧妙な宣伝で広がってきている。アメリカや各 国で、喫煙禁止年齢を 21 歳とするなどが広がりつつある。また妊婦喫煙の禁止を台湾では既に法規制し、
日本でも兵庫県条例などで努力義務ながら定めた動きがある。日本でも法的にこれらを規定し、若者のタ バコ、特に新型タバコ離れをより加速化させる取り組みが望まれる。関連の利益相反はない。
子どもに無煙環境を推進協議会、日本禁煙学会理事
略歴
子どもに無煙環境を推進協議会 代表理事 大阪府立公衆衛生研究所・研究総括 一般社団法人日本禁煙学会理事
PL-01
未来への提言 科学者の立場から 片野田 耕 太
たばこ対策は、科学を政策につなげるダイナミックなプロセスである。英国では、1950 年に Richard Doll らが報告した喫煙と肺がんの関連についてのケース・コントロール研究が嚆矢となり、その後 1962 年に英国医師会(Royal College of Physicians)がまとめた「喫煙と健康」において、喫煙が肺がんな どを引き起こすことが公式に認められた。米国でも、上記ドール卿の研究と同じ年の 1950 年に E. L.
Wynder らが喫煙と肺がんとの関連についてのケース・コントロール研究の結果を発表し、1964 年に公衆 衛生総監報告書(Surgeon General Report)において、肺がんなどの疾患の原因としての喫煙の重要性が 公式に認められた。これらの科学的知見の積み重ねが、1996 年の世界保健総会における「たばこ規制枠 組条約(FCTC)」の制定を求める決議と 2005 年の FCTC 締結につながってゆく。
日本でも、1981 年に国立がんセンターの平山雄が受動喫煙と肺がんとの関連を世界で初めて報告し、
その後 1986 年には厚生省が「喫煙と健康問題に関する報告書」(いわゆる「たばこ白書」の第 1 版)を発 行している。その後 30 年余の月日を経て、2016 年には「たばこ白書」の第 4 版にあたる報告書が出され、
2018 年には改正健康増進法の成立につながった。
新型コロナウイルス感染症の流行で、科学が政策にどのように関わるべきかが改めて問われている。し かしこの問いは、たばこの歴史を紐解けば決して新しい問題ではないことがわかる。喫煙の健康被害の立 証と予防施策の実現に生涯を尽くした科学者がいた一方で、健康被害を低く見せるために研究不正を行っ た者、プロパガンダに加担した者、そしておそらく多くの傍観者がいた。福島第一原子力発電所事故後に よる放射線の健康影響、ヒトパピローマウイルスワクチンの副反応、いずれも科学は社会に混乱だけを与 えて、解決策を提示できていない。
科学が何のためにあるのか、またどうあるべきか。たばこ対策に少しばかり携わった経験から得た私の 答えは極めてシンプルである。つまり、科学は社会を変えるためにあり、また普遍性をもつべきである。
コロナ禍の中福島で開催される学術総会において、このシンプルな答えを現在および未来への提言とした い。
国立がん研究センター がん対策情報センター がん統計・総合解析研究部
プレナリーセッション 福島からの発信 3 未来への提言
略歴
国立がん研究センター がん対策情報センター がん統計・総合解析研究部長
専門分野:疫学、公衆衛生、たばこ対策、がん統計