第 5 章 早稲田大学総合活動型日本語教育の事例分析―ゲシュタルトグループ―
5.4 ゲシュタルトグループのグループワークの分析
5.4.1 グループのキーワードを見出す
場による異文化に根付く共通認識の統合
4月14日の第1回授業から6月2日の第7回授業の間に、悶々グループのメ ンバーは、各自意見を出し合うグループワークの結果、「個人と社会を結ぶ」
についてグループとしてのキーワードを見出した。各メンバーの体験に基づい て考えついたキーワードを踏まえ、劇のシナリオを作成した。この期間を「動 機付け」段階とする。
4月14日と21日の2回のグループディスカッションを通じて、「個人と社会 を結ぶ」というクラスのテーマに対して、グループで合意の取れた意見は「個 人は社会のなかで一人では生きられない、他者とのつながりが必要である。柔 軟性と抱擁性そして相互関係を受け入れることでそのつながりは濃くなり、社 会はより豊かになる」ということであった。
出た意見に対して相互に意見交換してひとつの共通点・大きなテーマを 見つけ出せました。それは「個人は社会のなかで一人では生きられない、
他者とのつながりが必要である。柔軟性と抱擁性そして相互関係を受け 入れることでそのつながりは濃くなり、社会はより豊かになる」という ことでした。
ディスカッション中には「柔軟性」という言葉は妥協のような受け身の 印象を受けるという指摘も出され、それに対しては「相互関係」という 言葉を付け足すことにしました(4月21日グループ活動の報告;GC1*4月 21日観察誌引用)
グループ協働の場で、それぞれ違う「個人の文化」の持ち为の持っている意 見からグループの共通する意見を統合する過程には、「認め合う」、「衝突」、「認 め合う」の繰り返しが見えた。GJ1*の4 月 14日の観察誌によると、一回目の グループディスカッションは初対面のものの、意見の「表現」と「共有」はう
個 人 文 化 を 表現 し 、 共有による グループキ ー ワ ー ド の 形成
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まくいった。違う経験に基づいた意見の交換は、「『私』の考えを相手に発し、
相手の様々な考えを受け止め、さらに『私』の考えを豊かにしていく」。
1回目は一見するとまるで意見がバラバラでまとまりのない話し合いの ようだったが、改めて振り返った時、確かにそれぞれのメンバーの中に
「私と考えが違うけれどもそのような考え方もあるのだな」と他者を受 け入れようとする段階が見られた。この段階は「私」の考えを相手に発 し、相手の様々な考えを受け止め、さらに「私」の考えを豊かにしてい く活動の中の1つの重要なステップではないだろうか。私達のグループは 前回、以下のような流れで活動を行った。それぞれにとっての「個人と 社会を結ぶ」ことについての考えを自由にシェアする。それぞれの考え について意見を述べ合う(GJ1*4月14日観察誌)。
4月21日の2回目の授業の時、ゲシュタルトは「他者の考えや価値観を認め 会う段階」であった。ゲシュタルトグループはこの時点で互いに異なる意見を 認め合って、「グループとしての今後の方向性を見つけだすことができた」
(GJ1*4月21日観察誌)。
今回はメンバー多数の意見により、この時間内に「対話活動へのおおま かな方向付け」を決定することを目標とした。結果として目標を据える ことでグループとしての今後の方向性を見つけ出すことができた。それ に至るまでは前回同様、議論の中で自分とは違う「相手の意見を聞き認 め合う」段階があった。またメンバー間が打ち解けてきたためか、また ゲシュタルトという名前決めの効果か、今回は前回よりも全員が自分の 言いたいことを遠慮なく言うことができていた。ただし前回と同様、多 くの学生が「グループとして共通の見解を得なければならない」という 暗黙の縛りを持ち、終盤に意見を何が何でもまとめようとしたところが あった。今回は「全員、もともと別の人間。全員が全く同じように思わ なくてもよい。緩やかな統合があればいい」ということで決着した(GJ1*4 月21日観察誌)。
シナリオを作成するために、GJ1*はグループメンバーにキーワードである
「柔軟性」、「包容性」、「相互関係」についての事例を考えてくるように指示し た。それで、「もうすこし一人ひとりの心の中の『モヤモヤ』を出してみたら、
グループとして表現したいことが明確になってくるかもしれない」と考えてい た(ゲシュタルトグループBBS 5月8日)。それは、異なる文化の持ち为とし てのメンバーにそれぞれの暗黙的な文化知識を明示的知識に転換しようとい う意図であった。
衝 突 に よ る 文化の共有
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前述した悶々グループおよびシャネルグループと比べると、ゲシュタルトグ ループの特徴は、個性を大事にする傾向があることで、穏やかな雰囲気で議論 を避けるより、意見をしっかりと持って反論することにあった。5月12日にグ ループディスカッションは一回分裂した。そのことに対して、GJ1*は次のよう に認識を得た。
私達のグループのメンバーはどちらかというと「相手に迎合する」タ イプの人たちではない。これまでのディスカッションでは意見が対立し てディスカッションが進まなくなるとほどのぶつかりあいはなかったの だが、今回はグループとして行う活動の形態、その意義について意見の 相違があり、対立が起こってしまった。(中略)本当に相手を理解したい、
相手と真の関係を築きたいと思うのならこの対立は避けることができな い過程の一つかもしれない。なぜなら相手と本音で語り合おうと思えば 思うほど、相手との違いを臆せず自分の意見を为張する必要が生じるか らだ(GJ1*5月12日観察誌)。
GJ1*はまずグループメンバーの性格として、「相手に迎合する」タイプの人た ちではないと認識した。そして、ファシリテーターとしてのGJ1*は、グループ ディスカッションに起きた対立をプラス志向に捉えた。「本当に相手を理解した い、相手と真の関係を築きたいと思うのならこの対立は避けることができない 過程の一つかもしれない。なぜなら相手と本音で語り合おうと思えば思うほど、
相手との違いを臆せず自分の意見を为張する必要が生じるから」(GJ1*5月12日 観察誌)。
ゲシュタルトグループはグループの対立から5月19日の授業に、分裂した二つ のミニグループの意見をシェアし、「合意」に達成できた。そして、劇をする動 機づけもできた。人間関係においては、5月12日の対立を経てから、「互いの歩 み寄りが見られた」とGJ1*が観察した。ファシリテーターとしてのGJ1*は、グ ループをまとめていくうえに、次のことに気づいた。
グループで同意のもとに一つの活動をする際には、自分と違う他者の 存在を認めるということが不可欠である。その上で自分の意見も为張し、
相手との妥協点を見出しながらグループとしてまとまっていく。そう考 えてみると、グループ内で一度ぶつかり合う段階があることはある意味 自然な段階なのかもしれない。しかし毎回の活動で「個々の違いをお互 いに認め合った上で他のメンバーと協働しながら活動を活性化し、さら にメンバーそれぞれが成長していく」ということは簡単なことではない と痛感している(GJ1*5月19日観察誌)。
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ゲシュタルトグループのこの段階において、グループディスカッションに 衝突があり、グループ自身も二つのミニグループに分裂したこともあった。フ ァシリテーターのGJ1*は、グループのメンバーたちが「相手に迎合する人では ない」と認識し、真の関係を築くのには対立を避けられないと考えていた。こ のように、グループディスカッションに起きた対立や、グループ活動の分裂を 始終プラスに捉えたことに大変意義があったと考えられる。ファシリテーター の役割は、まさにグループのキーワードである「包容性」と「柔軟性」にあっ た。教師は、ゲシュタルトグループの活動に見守っていて、あまり介入は見ら れなかった。この段階の活動は図5-3で表すことができる。
図5-3 ゲシュタルトグループの動機づけ段階の活動