第 4 章 経年機器の最適更新順位づけ
4.3 分枝限定法による旧形遮断器更新順位の最適化
4.3.1 分枝限定法による旧形遮断器更新順位最適化の定式化
(1)基本的な考え方
アルゴリズムの開発に当たり、以下の基本的な考え方を設定した。
① 当該機器の取替えコストを評価する
取替えコスト=取替え費用+その他費用(取替え中の負荷切替え等)
② 当該遮断器の保守コストを評価する 普通点検 旧形遮断器は2年に1回
新形遮断器はメンテフリー 精密点検 旧形遮断器は6年に1回 新形遮断器は12年に1回
③ 旧形遮断器に事故が発生した時の信頼度コスト(LOLE:Loss of Load Energyを金 額換算)を評価する。LOLEの計算は、年間負荷曲線を考慮するとともに、各遮断 器の故障に対する影響を個別に評価する厳密法が考えられるが、今回は簡略法とし て、夏季ピーク断面において、万一故障した場合の供給支障量が最も大きくなる遮 断器を選定し、その故障時の復旧までの供給支障量を評価することとした。
④ ①、②、③を合計した目的関数が最小となる取替え順位を分枝限定法により求める。
すなわち、想定した取替え順位による目的関数(取替え開始年度での現在価値合計)
を比較し、最小となる順位を探索する。
目的関数(最小化)=∑∑[取替えコスト+保守コスト+信頼度コスト]
制約条件:取替え期間 (変電所毎) 、年間 の予算上限、単年度当たり取替え個所数
(2)数理計画法による定式化
以上に示した基本的な考え方を、遮断器取替え問題として数理計画法的に表現すると、
下記の定式化が得られる(記号については表4-1を参照)。
min ΣiΣtcitxit (4,1)
s.t. Σtxit = 1 ( i=1~m) (4.2)
Σipitxit ≤ bt ( t=1~T ) (4.3)
xit ∈{0,1} ( i=1~m,t=1~T ) (4.4)
xit = 0 ( t∈twi,i=1~m) (4.5)
ここで、取替え対象となる遮断器群を機器グループとしてまとめ、決定変数として、各 機器グループの取替え時期を示す下記0-1変数を採用している。
xit = 1 : 機器グループiを年次tに取替える xit = 0 : 機器グループiを年次tに取替えない
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制約式(4.2)は各機器グループが計画期間内で必ず一回取替えられることを示す選定制約、
制約式(4.3)は各期間の取替え費総計が予算内となることを示す予算制約、制約式(4.4)は決
定変数の2値離散制約、制約式(4.5)は各機器グループの取替え時期の時間枠制約である。
表4-1 記号
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T :取替え期間年数 m :機器グループ数
cit : 機器グループ-iを t年目に取替えたときの累積コスト ( i=1~m,t=1~T )
pit :機器グループ-iを t年目に取替えたときの取替コスト ( i=1~m,t=1~T )
bt :t年目の年間予算限度額 ( t=1~T )
twi : 機器グループ-iの取替え期間制約 ( i=1~m).
twi =[tsi,tei]
tsi : 機器グループ-iの最早取替え年 tei : 機器グループ-iの最遅取替え年
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この遮断器取替え問題は、NP困難な問題(入力サイズの多項式時間内に解けない問題)
となるため、大規模問題の厳密解を得るには組合せ爆発を避けられない。
(3)分枝限定法による解法
NP 困難な問題に対する厳密解法として採用される一般的な分枝限定法に改良を加え、
遮断器取替え問題に適用する。
分枝限定法には、大別すると深さ優先探索と最良優先探索があるが、ここでは探索ノー ドを少なくする効果があるとされている最良優先探索を採用し、機器グループの取替え時 間枠を逐次2分割する分枝則で探索木を構成する。
分枝限定法の探索性能は、指数乗で増大していく探索木のノードをいかにして削除(枝 刈り)するかにかかっているが、そのためには、良い上界値(実行可能解)と強力な下界 値(制約領域内で目的関数が取りうる値の下限値)を見積もる必要がある。
その手法として、上界値の取得には乱択法(Randomized Heuristic)、下界値の評価に はラグランジュ緩和法(Lagrangian Relaxation Method)を採用した。乱択法では、各探 索ノードにおいて全機器グループの時間枠内取替え年次の乱数を発生させ、これらが制約
条件(3)(4)を満たせば実行可能解であるので、(全域)上界値を改良できることを利用して
いる。
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またラグランジュ緩和法では、各探索ノードにおいて制約条件(3)をペナルティ付きで緩 和して機器グループごとの部分問題に分解し、各部分問題の最適値の計より(局所)下界 値が算定できることを利用している。この場合、最適ペナルティの決定には劣勾配法
(Subgradient Method)を採用した。
最良優先探索分枝限定法の概略手順は以下のとおり。(イメージは図4-5を参照)
(1)元問題の全域上界値と局所下界値を求め、元問題を探索木に登録する。
(2)探索木が空になるまで、以下の手順を繰り返す。
①探索木の子問題群の中から、局所下界値が最小である子問題を選定し,この子問題を 探索木から削除する。局所下界値≧全域上界値であれば、子問題群にはより良い解が 存在しないと判定されるので、探索終了する。
②子問題から一つの機器グループを選定し、その時間枠を2分割することにより、2個の 孫問題を作成する。
③各孫問題の局所下界値を求め、局所下界値≧全域上界値であれば、その孫問題にはよ り良い解が存在しないと判定されるので、分枝完了とする。
④分枝する孫問題の局所上界値を求め、局所上界値≦全域上界値であれば、全域上界値 をこの局所上界値に改良する。
⑤分枝する孫問題を探索木に登録する。
以上の手順により得られる最終的な全域上界値とその解が目標とする全域厳密解である。
なお、(2)において時間枠2分割を行うと、次第に時間枠が固定されていくこととなる。
その結果、時間枠が固定されていない機器グループが1個のみの場合に至り、そのよう な子問題では、一次元問題として力づく法によって解が容易に得られるので、その実行 可能性に応じた処理を行う。
(4)具体的な手順
具体的な手順は、以下のステップによる。
●ステップ1:n 年目に取替えを行った場合の計画期間トータルコストテーブル(表 4-2) を作成する
○n年目に取替えを行った時の検討期間(初年度~最終年度(取替え完了目標年度))に おける各年度コストの初年度現在価値合計(TC)を求める。
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現在価値換算係数 : 1/(1+r)(n-1)、r:金利
TC = ①取替えコスト+②保守コスト+③信頼度コスト
①取替えコスト
=(取替え単価×取替え台数+その他コスト)×現在価値換算係数 取替え単価:購買単価(据付渡し)+撤去工事請負代
②保守コスト
初年度~n年目まで:旧形遮断器 普通点検(2年に1回)
精密点検(6年に1回)
(n+1)年~最終年:新形遮断器 普通点検(無し)
精密点検 (12年に1回)
③信頼度コスト
初年度~n年目まで:初年度の夏季ピーク潮流により、各変電所の当該遮断器群の中 の最もクリティカルな遮断器が故障した際の供給支障量(kW
h)を求め、これに停電コスト(例えば2000円/kWh)を
乗じて、その年度の信頼度コストとする。2年目以降の停電コ ストは、需要が初年度以降年率α%で増加するものとして算出。
これらを初年度現在価値換算して合計する。
(n+1)年~最終年 :旧形を新形に取替えた後は、故障が起こらないと仮定する。(信 頼度コスト=0)
表4-2 累積コスト
1年目 2年目 ~ N年目
A 変 CA1 CA2 ~ CAN
B 変 CB1 CB2 ~ CBN
~ ~ ~ ~ ~
M 変 CM1 CM2 ~ CMN
*B変の累積コストの例
CB1 = (取替えコスト) 1年目
+(保守コスト) 2年目 ×1/(1+r) ~
+ (保守コスト) N年目×1/(1+r)(N-1) CB2 = (保守コスト + 信頼度コスト) 1年目 + (取替えコスト) 2年目 ×1/(1+r) ~
+ (保守コスト) N年目 ×1/(1+r)(N-1)
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CBN= (保守コスト + 信頼度コスト) 1年目
+ (保守コスト + 信頼度コスト) 2年目×1/(1+r) ~
+ (取替えコスト) N年目 ×1/(1+r)(N-1)
●ステップ2:各遮断器群の取替え工事費を表4-3のように整理する
○取替え工事費はどの年度で実施しても同一とする。
○各年度の工事費は現在価値換算しない
●ステップ3:制約条件を設定する
○単年度予算に上限を設ける 例.一か所あたりの最大工事費
○取替え実施時期の時間制約を設ける 例.変電所毎に△年目~□年目
表4-3 取替えコスト
1年目 2年目 ~ N年目 取替え期間 制約
A変 CA CA ~ CA △~□年目
B 変 CB CB ~ CB
~ ~ ~ ~ ~
M 変 CM CM ~ CM ×~□年目
予算上限 CUpper CUpper CUpper
●ステップ4:分枝限定法により、表4-3の制約条件下で、表4-2における各変電所のコ ストの合計が最小となる取替え順位を決定する。
<組合せの数>
M箇所の変電所がタイムフレームN年の中のいずれかの年度で遮断器取替えする組合 せは、NのM乗通り。
(例)6箇所、タイムフレーム=8年の場合 ⇒ 組合せの数=8の6乗=26万通り