早稲田大学大学院環境・エネルギー研究科 博士学位論文
変電設備アセットマネジメントのための 数理計画法を用いた
意思決定支援ツールに関する研究
Decision Making Support Tools using Mathematical Planning Methods for Substation Facilities Asset Management
2010 年 2 月
田中 秀昭
早稲田大学大学院環境・エネルギー研究科 博士学位論文
変電設備アセットマネジメントのための 数理計画法を用いた
意思決定支援ツールに関する研究
Decision Making Support Tools
using Mathematical Planning Methods for Substation Facilities Asset Management
2010 年 2 月
早稲田大学大学院環境・エネルギー研究科 環境・エネルギー研究
田中 秀昭
i
目次
第 1 章 序論 ... 1
1.1 はじめに ... 1
1.2 電力設備のアセットマネジメント ... 1
1.3 本研究の位置づけと目的 ... 2
1.4 本論文の構成 ... 4
第 2 章 電力設備のアセットマネジメント ... 6
2.1 設備の老朽化状況 ... 10
2.2 設備の保全計画の現状 ... 11
2.3 アセットマネジメントによる今後の保全計画 ... 11
第 3 章 経年設備の健全度可視化 ... 13
3.1 変電所の健全度を表す指標 ... 14
3.2 多属性評価手法とその応用 ... 16
3.2.1 評価項目の選定 ... 16
3.2.2 評価項目の定量的評点 ... 16
3.2.3 評価項目の重みづけによる総合化 ... 16
3.3 AHPによる一次変電所健全度評価手法 ... 28
3.3.1 一次変電所健全度評価手法の定式化 ... 28
3.3.2 実系統の一次変電所への適用結果 ... 31
3.4 まとめ ... 37
第 4 章 経年機器の最適更新順位づけ ... 43
4.1 変電所機器類の更新計画と対象機器の選定 ... 44
4.2 組合せ最適化手法とその応用 ... 44
4.2.1 電力設備計画における組合せ最適化問題とその解法 ... 44
4.2.2 分枝限定法 ... 45
4.3 分枝限定法による旧形遮断器更新順位の最適化 ... 50
4.3.1 分枝限定法による旧形遮断器更新順位最適化の定式化 ... 50
4.3.2 小規模モデルへの適用結果 ... 54
4.3.3 実規模モデルへの適用結果 ... 57
4.4 まとめ ... 71
ii
第 5 章 設備更新時の仕様最適化 ... 73
5.1 変電所の騒音対策 ... 74
5.1.1 騒音に関する法規制 ... 74
5.1.2 騒音源 ... 77
5.1.3 騒音対策 ... 81
5.2 擬似逆行列による変圧器騒音レベルの最適化 ... 84
5.2.1 疑似逆行列を用いた定式化 ... 84
5.2.2 モデル変電所への適用結果 ... 86
5.2.3 実変電所への適用結果 ... 88
5.2.4 まとめ ... 91
5.3 線形計画法による変圧器騒音レベルの最適化 ... 92
5.3.1 線形計画法を用いた定式化 ... 92
5.3.2 モデル変電所への適用結果 ... 95
5.3.3 実変電所への適用結果 ... 99
5.3.4 まとめ ... 106
5.4 まとめ ... 107
第 6 章 結論 ... 109
謝辞 ... 115
付録-1 配電用変電所別重要度・信頼度評価とこれによる増強計画 順位づけ ... 116
付録-2 需要断面を考慮した事故復旧シナリオ分析による配電用 変電所機器類の総合信頼度評価 ... 126
付録-3 研究業績一覧 ... 134
第1章 序論
1
第 1 章 序論
1.1 はじめに
電力自由化が進展する中で、競争の無い自然独占分野となっている流通設備(送変配電 設備)は、バブル崩壊と省エネの進展等による電力需要の伸びの鈍化によって設備新設工 事が激減する一方、高度成長時代に建設した設備の老朽化が進み、今後はその大量更新が 必要になってくる。
このため、近年では流通設備を経済学でいうアセット(資産)とみなし、その維持・更 新あるいは新設を戦略的に進めていく「アセットマネジメント」の研究が国内外で始まっ ている。また、設備更新に際しては、コストと信頼度という従来の指標に加えて、騒音な どの環境規制や地球温暖化問題への対応など、新たな要素を考慮する必要が生じてきてい る他、その意思決定に関する一層の透明性と説明責任が要求されつつある。
このような背景から、本研究は題目を「変電設備アセットマネジメントのための数理計 画法を用いた意思決定支援ツールに関する研究」とし、現在現場においてその必要性が高 まっているツールの開発と実系統への適用検証を行うこととした。
1.2 電力設備のアセットマネジメント
アセットマネジメントは、個別機器の寿命診断や維持基準を扱うハード面のものと電 力ネットワークの信頼度維持というソフト面のものがあり、以下の4種に分類されている。
① 個別機器のアセットマネジメント
・変圧器、ケーブルなどの寿命診断技術開発と設備維持基準の構築
② 設備のアセットマネジメント
・群としての設備ごとの改修・取替えなど保守管理費用の最適化
③ ネットワークのアセットマネジメント
・特定の閉じたネットワーク内の最適な取替え順位決定
④ 投資戦略のアセットマネジメント
・既設設備の改良・修繕を扱う③に加え設備の新設を含む投資計画全体の最適化
しかし、アセットマネジメントに関する研究は世界でもまだ端緒についたばかりのもの が多いことに加え、統一的な手法を開発するというよりも、個別ニーズに沿ったアルゴリ ズムの開発が進められているのが実態であるが、その場合でも汎用性のあるものとするこ とが望ましいことはいうまでもない。
第1章 序論
2
1.3 本研究の位置づけと目的
本研究は、前述した4種のアセットマネジメントのうち、特に喫緊の課題となってい る③のネットワークアセットマネジメントに取り組んだ。具体的には、送変配電設備の 中で特に老朽化が進んでいる一次変電所およびその機器を対象とし、個別テーマとして 以下の3テーマに取り組んだ。
図1-1 電力流通設備のアセットマネジメント テーマ1 :「経年変電所の健全度可視化」
都区内、周辺、外辺の一次変電所を対象とし、環境要素を含む複数の健全 度評価項目を統合するとともに、個別変電所別、エリア別、あるいは全系 の変電所群としての健全度の時間推移をマクロ的に推定するアルゴリズ ムを開発した。
目的 ・・・可視化(見える化)・・・・・・ Visualization
難しさ・・・健全度を多面的に評価するためには次元の異なる属性を定 量的に統合しなければならないがその統一的な手法がない 適用手法・・「AHP(Analytic Hierarchy Process)」
テーマ2 :「経年機器の最適更新順位づけ」
変電所内機器のうち、陳腐化が進みトラブル時の信頼度への影響が大きい ことから全量取替えの方針が決定している旧形遮断器を対象として、コス トと信頼度面からの最適取替え順位づけアルゴリズムを開発した。
目的 ・・・優先順位づけ ・・・・・ Prioritization
難しさ・・・取替え遮断器群の数をM群,タイムフレームをN年とす ると、組合せの総数はNのM乗通りと、膨大な数となる。
適用手法・・「分枝限定法」
④投資戦略のAM
③ネットワークのAM
①個別機器のAM
②設備のAM
第1章 序論
3 テーマ3 :「設備更新時の仕様最適化」
変圧器の騒音問題という環境規制へのコンプライアンス遵守という視点 から取替え計画が決定した変電所の変圧器騒音仕様を最適化(コスト最 小)するアルゴリズムを開発した。
目的 ・・・最適化(コスト最小化)・・・・ Cost Minimization 難しさ・・・敷地境界上の規制値を満足する複数の変圧器の騒音レベル
組合せは、所与の騒音レベル組合せを前提とした境界騒音 レベルの予測計算を試行錯誤的に行なうことによって見出 すことから、膨大な組合せの検討作業が必要となる。
適用手法・・「擬似逆行列法」および「線形計画法」
これらの3テーマの関係は、設備保全業務の流れに沿ったものとした。すなわち、まず 老朽設備群全体の劣化度合い(健全度)をマクロ的かつ定量的に把握するツールを開発し、
次に個別機器の取替え順位の優先順位づけを行うツールを開発する。そして、最後に取替 えが決定した現場における最適設計のツールを開発するというものである。テーマ2とテ ーマ3の対象は、現時点でニーズの高い旧形遮断器取替え問題および一次変電所変圧器騒 音対策とした。なお、アルゴリズムの開発に当たっては、それぞれのテーマが保有する問 題解決の難しさを解決するのに適した「数理計画法」を選定し、適用した。
図1-2 今回設定した3つのテーマの関係
第1章 序論
4
1.4 本論文の構成
以上に述べた概要にもとづき、以降の章では、次の構成で記述を行う。
第2章 電力設備のアセットマネジメント
本章では、電力流通設備の経年状況、あるいは電力需要の動向とこれに対応した設 備投資・修繕計画の実態について整理するとともに、現場におけるアセットマネジメ ントの現状について概観し、本研究の位置づけを明らかにした。
第3章 経年設備の健全度可視化
研究の第1ステップとした本章では、まず、複数の次元の異なる属性(評価項目)
を定量的に統合化する手法について調査・整理を行った。その後、これらの手法のひ とつであるAHP(Analytic Hierarchy Process)を用いて評価項目の定量的な統合化 を行い、変電所健全度を評価するアルゴリズムを開発した。
具体的には、東京電力管内10支店内にある74箇所の一次変電所を対象に、現場技 術者との議論を踏まえて選定した機器類のハードウエアとしてのリスク7項目(①経 年、②稼働率、③旧形機器数、④不具合兆候機器数、⑤同形対策機器数、⑥騒音規制 満足度,⑦PCB混入絶縁油量)について定量評価するとともに、これらをAHPの一 対比較による重みで統合した。
変電所ごと、10支店ごと、エリアごと(都区内、周辺、外辺)ならびに全系につい て、健全度比較や経年推移の推定ができること、また、改良・修繕計画(5ヵ年)の 感度解析(改修促進ケース/改修抑制ケースなど)により設備計画(改良、修繕)の 妥当性評価にも適用可能であることを確認した。
第4章 経年機器の最適更新順位づけ
第3章で開発したアルゴリズムは変電所の健全度評価をマクロ的に監視するととも に、改良・修繕計画の妥当性を評価するためのツールとして機能するが、個別変電所 における特定の機器の取替え順位を決定するという目的には使えない。そこで、本章 では、第2ステップとして、直列機器であり万一故障した際には広域停電につながり やすい旧形遮断器を対象として、膨大な組合せから最適解を効率的に見いだす手法で ある「分枝限定法」により最適取替え順位を決定するアルゴリズムを開発した。
具体的には、都区内一次変電所18箇所のうち、旧形遮断器を保有する6変電所(ユ ニット数合計は17)を対象に、現在から取替え完了目標年度までの8年間の「取替え コスト+保守コスト+信頼度コスト」の総合計が最小となる取替え順位を単年度予算 制約や個別地点ごとの取替え工事可能時期という実務に即した制約条件のもとで探索 するアルゴリズムを開発・適用し、その有効性・妥当性を確認した。
第1章 序論
5 第5章 設備更新時の仕様最適化
アセットマネジメントによる機器取替え計画が確定した後の実施段階では、当該現 場における最適設計が課題となり、近年ではその際の設計目標はコストダウンとコン プライアンスが中心となっている。この観点に立ち、本章では、第3の取り組みとし て、距離減衰の実験式と境界での規制値から導出した拘束条件の下で、境界での規制 値を無駄なく最小コストで実現する最適な変圧器騒音レベル組合せを単一の計算によ って求める2種(「疑似逆行列法」(簡略法)ならびに「線形計画法」(厳密法))の「逆 問題」アルゴリズムを開発した。
アルゴリズムの検証には、モデル変電所(変圧器2台)ならびに東京電力の実変電 所(変圧器5台)のデータを用い、境界騒音規制値を無駄なく満足する変圧器騒音の 組合せを単一の計算によって求めることができることを確認した。また、実変電所に おける実際の対策が線形計画法を用いたアルゴリズムによって再現できた。
第6章 結論
最後のまとめとして、本研究で得られた知見ならびに今後の課題を明らかにした。
第2章 電力設備のアセットマネジメント
6
第 2 章 電力設備のアセットマネジメント
電力システムの拡充の歴史を振り返ると、需要の増加に対応して電源設備を増強すると ともに、送電電圧を昇圧しながら必要な送変電設備を増強してきていることがわかる。
図2-1、図2-2は、電力会社10社の最大電力の推移と発電設備容量の推移を、そして、
図2-3は東京電力における送電電圧の昇圧の歴史を表している。
図2-1 最大電力の推移(全国10社計)
図2-2 発電設備容量の推移(全国10社計)
図2-3 基幹系統の最高送電電圧の推移(東京電力)
0 2,500 5,000 7,500 10,000 12,500 15,000 17,500 20,000 22,500
1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 年度
最大電力合計(万kW)
0 2,500 5,000 7,500 10,000 12,500 15,000 17,500 20,000 22,500
1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 年度
発電設備容量合計(万kW)
第2章 電力設備のアセットマネジメント
7
東京電力における電源開発は、遠方の水力から東京湾岸の大容量火力へと変わり、更に は福島、柏崎・刈羽といった大容量原子力の開発が進み、これに合わせて電源送電系統お よび基幹系統の電圧も154kVから275kVそして500kVと系統規模(最大電力)の増 大に合わせて昇圧されていった。
図2-4から図2-8は、1955年から現在に至る基幹系統の発展の推移を示すものである。
図2-4 東京電力の電力系統(1955年)
図2-5 東京電力の電力系統(1965年)
第2章 電力設備のアセットマネジメント
8
図2-6 東京電力の電力系統(1975年)
図2-7 東京電力の電力系統(1985年)
第2章 電力設備のアセットマネジメント
9
図2-8 東京電力の電力系統(現在)
この間、東京電力の設備投資額は1993年の1.7兆円をピークに、景気低迷や省エネの 進展を反映した最大電力の伸びの鈍化によって設備の新設(拡充工事)が激減したことか ら、現在ではピーク時の1/3以下の5000億円程度となっている。その一方で、経年設備
(特に改良工事費)の比率が上昇してきている。
0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000 16000 18000
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 0 1 2 3 4 5 6 7 年度(西暦)
設備投資額 [億円]
その他 流通 電源
図2-9 設備投資額の推移(東京電力)
また、電気事業をめぐる大きな環境変化として、1990年代に始まった電力市場の自由化 がある。それまで、地域独占である一方で供給責任が課せられていた電気事業に新規参入 が認められ、発電分野と小売分野が部分自由化された。
第2章 電力設備のアセットマネジメント
10
流通ネットワーク分野は共通インフラであることから自然独占分野として残ったが、そ の計画と運用に関しては、公平性・透明性が強く求められることとなった。欧米諸国では、
発送電を分離することによって公平性を維持しようとする方法が主流となったが、我が国 では、電源と系統を一体で計画・運用することで供給信頼度が維持できるとして、日本型 の自由化、すなわち、従来の地域ごとの電力会社は発送電分離、いわゆるアンバンドリン グをしない垂直統合型のままとし、広域的な系統の計画と運用を中立機関にゆだねるとい う方法をとった。
しかし、流通設備の計画と運用に関する公平性・透明性に対する要望はますます高まっ てきており、需要の低成長時代における経年設備更新という新たな課題に対応する際の意 思決定プロセスに対して、従来以上の説明責任が求められるようになっている。
2.1 設備の老朽化状況
我が国の電力設備は、1960年代の高度成長期および平成バブル期に大量に建設された ものが多く、これらがいずれ更新の時期を迎えることになる。図2-10は、東京電力におけ る変圧器の経年分布を示しており、明らかに2つのピークが表れている。
変圧器の設計寿命は30年といわれているが、他の電力設備と同様、通常はきめこまか な保守・点検ならびに改良・修繕を施すことにより、実質的な耐用年数は40年~50年と なっている。現在では、まだ50年超過設備の比率は少ないが、今後10年以内にその比率 が増大することは明らかである。
図2-10 変圧器の経年分布(東京電力)
第2章 電力設備のアセットマネジメント
11
2.2 設備の保全計画の現状
これまでの設備保全計画は、需要の伸びに対応した新設工事とともに行われる取替え工 事によって老朽設備の更新がなされてきたという側面を持っていた。しかし、近年の需要 低迷による拡充工事の激減と電力市場自由化による競争の激化、ならびに共通インフラで ある流通設備コスト低減への圧力の中で、経年が進む設備の更新をどのように進めるかが 重要な課題となっている。
このため、これまでは、設備に不具合が起きる前に定期的に点検・保守を行うTBM(Time
Based Maintenance)に基づく予防保全の考えが主体であったのに対し、最近では、設備
の状態を監視しつつその状態に応じた保守・点検を行うCBM(Condition Based
Maintenance) による事後保全(設備の重要度にもよるが、故障が起きてから取替える)
の考え方を取り入れるようになってきた。
2.3 アセットマネジメントによる今後の保全計画
前述のような背景を踏まえると、アセットマネジメントによる今後の設備保全計画の実 施に際しては、以下の5つの課題があるといえる。
1)ネットワークアセットマネジメントの必要性
単なる設備更新ではなく、特定の閉じたネットワーク全体としての供給信頼度維持に 配慮した長期的な視点からの円滑な更新計画とする。
2)新たな時代に即した配慮事項への対応
従来からのコストと信頼度に加え、環境への影響や地震などの災害への備えといった これまで考慮されてこなかったリスクへの備えを行う。
3)技術・技能の維持
大量にある設備の更新は、長期にわたる大事業であることから、その業務に携わる技 術者・技能者の人材育成を図っていく。
4)新技術の導入
更新に際しては、従来と同じ設備に取替えるのではなく、最新の技術を用いたコンパ クトで保守が容易な高信頼度機器を採用する。また、設備の容量も、より大きな設備に よる拡大リプレースを行うことを原則とする。
5)新概念の導入
設備点検インターバルの考え方として、従来のTBM(Time Based Maintenance:定 期的な保全)からCBM(Condition Based Maintenance:状態監視保全)、更には、
RCM(Reliability Centered Maintenance:信頼度評価による保全)に変えていく。
第2章 電力設備のアセットマネジメント
12
参考文献 [第 2 章]
[1] Graham W. Ault, Joe P. Toneguzzo, Ian Welch,“ Asset Management Investment Decision Processes”, CI-106, CIGRE Session 2004
[2] 「北米電力事業者のアセットマネジメント及び関連システムの実態について」海外電 力、2006年5月号
[3] 「北米における送配電アセットマネジメントの現状」海外電力、2004年8月号 [4] “Asset Management of Transmission Systems and Associated CIGRE Activities”
CIGRE WG C1-1, July 2006
[5] 「電力流通設備におけるライフサイクルマネージメントの動向と将来展望」電気協同 研究、第59巻第2号、2004年2月
[6] 「M. Yagiura, T. Ibaraki and F. Glover: “An Ejection Chain Approach for the Generalized Assignment Problem”, INFORMS Journal on Computing, Vol.16, No.2,pp. 131-151 (2004)
[7] M. Yagi, M. Hamano, T. Kaizuka, A. Matsuda、“Methodology of Power System Redesign Aimed at Reducing Capital Investment and Maintenance Cos for Aged Assets”, CIGRE paper C1-107, 2006
[8] 「高経年期を迎える電力流通設備の円滑な取替えに備えて~高度成長期に建設された 設備のアセットマネジメント~」電気協同研究、第63巻第5号、2008年
[9] 「先進保守技術」~徹底したコスト低減を目指して~」電力中央研究所、平成19年度 研究成果発表会、2007年
[10] 「電力システムのネットワークアセットマネジメント~電力流通分野における研究動
向調査ならびに開発する支援ツールの枠組み~」電力中央研究所、調査報告 R06014, 2007年
[11] 「変電設備の点検合理化」電気協同研究、第56巻第2号、2000年
[12] 「電力用変圧器改修ガイドライン」電気協同研究、第65巻第1号、2009年
第3章 経年設備の健全度可視化
13
第 3 章 経年設備の健全度可視化
電力自由化の進展に伴い、自然独占分野である流通ネットワークの設備計画に関する意 思決定に対しても、一層の透明性と説明責任が求められるようになってきている。また意 思決定の評価軸として、これまでのコストと信頼度に加え、騒音など環境面への配慮も必 要となってきている。このような状況の中、高度成長期に大量に建設された一次変電所な どの古い変電所はいずれ設備の更新時期を迎えることとなるが、これら大量の経年設備の 更新は時間的、経済的あるいは工事中の信頼度などの制約から、一度に複数の地点で実施 することができないため何らかの方法で順位づけを行うことが必要となる。
上記順位づけのための判断材料の一つとして、各変電所の健全度を比較するための定量 的な指標を作ることが考えられる。しかし、その場合、変電所内機器の痛み具合や環境面 での配慮事項、機器の陳腐化度合い(部品や技術員などメーカーの対応可能度合い)、設備 の稼働率など、複数の項目を定量的に統合化することが必要となる。
本研究では、複数の次元の異なる属性(評価項目)を定量的に統合化する手法(例えば
AHP(Analytic Hierarchy Process)などを調査するとともに、これらを用いて評価項目の定
量的な統合化を行い、上記変電所健全度を評価するアルゴリズムを開発した。あわせて、
これら各変電所の健全度を合成した変電所全体の健全度をマクロに定義し、設備投資ある いは修繕費用を削減した際の健全度の将来変化を予測し、改良・修繕計画の判断材料とす ることも目的とした。
具体的には、東京電力管内10支店にある74箇所の一次変電所を対象に、機器類のハー ドウエアとしてのリスク 7 項目についてそれぞれ定量評価するとともに、これらを AHP(Analytic Hierarchy Process)により統合するアルゴリズムを開発した。
統合した健全度は、時間の関数とし、経年変化(中期計画5ヵ年:改良・修繕の長期計画 を反映)も表現できるようにした。また、これらの変電所個別評価に加えて、支店ごと、都 区内、周辺、外辺の3エリア、ならびに全系の健全度について、その比較や経年推移の推 定を行うとともに、改良・修繕計画の感度解析を行い、設備計画(改良、修繕)の妥当性 を評価する手法としても有効であることを確認した。
なお、本ツール自体は改良・修繕計画のためのものであるが、AHP を応用したアルゴ リズムは汎用性の高いものであり、付録―1に示すように、筆者らはすでに配電用変電所 増強計画の決定ツールを開発・実適用している。
第3章 経年設備の健全度可視化
14
3.1 変電所の健全度を表す指標
老朽化が進んだ一次変電所の健全度を評価する項目として、電力会社の実務者と協議の うえ、ハードウエアとしての健全度を表すもの、ならびに環境面の規制に対応するものと して、以下の7項目を選定した。
なお、供給信頼度も健全度を表すものであるが、地点ごとに2次系統の構成などに大き く依存することから、今回の評価の対象からは除外した。
*付録―1に「配電用変電所別重要度・信頼度評価とこれによる増強計画順位づけ」の 概要を記した。
図3-1 変電設備の健全度とその評価パラメータ
<見えない劣化度合いを表すもの>
① 主変圧器(154/66 kV)の経年
・ 老朽度を直接表す指標
・ 明治・大正時代に運転開始した変電所の変圧器はその後全てがリプレースされて いることを考慮し、変電所経年ではなく、主変圧器の経年とした。
② 主変圧器の稼働率
・ 設備へのストレスの度合いを表す指標
・ 夏季ピーク時の負荷/認可出力
第3章 経年設備の健全度可視化
15
<見えている劣化度合いを表すもの>
③ 旧形機器(空気遮断器など)数
・ 既に製造中止になっており、予備部品も無く、技術者の多くがリタイアしている などの事情から計画的な取替え方針が出ている機器の台数
④ 不具合兆候機器(漏油や要注意レベルでの可燃性ガス発生変圧器など)数
・ 不具合兆候があるが経過観察しながら運転継続しているものの台数
⑤ 同形対策機器数
・ 製造当時の知見では分からなかった設計や製造上の不備などによりトラブルが 発生した機器で、緊急性は無いが適切な保全方策、外部診断を実施しながら、計 画的な取替えや改修を予定している台数。
<環境関連の規制に対応するもの>
⑥ 騒音規制満足度(dBmax/dB規制値)
・ 敷地境界上の最大騒音値/騒音規制値
⑦ PCB混入絶縁油保有量
・ 微量であるが、PCBが混入している変圧器絶縁油総量
なお、これらの指標については、以下に留意する必要がある。
●7項目はいずれも数字が大きいほど健全度が悪い。
●経年とともに増加するものと減少するものが混在している。
増加するもの ①経年、②稼働率 減少するもの ③旧形機器数 ④不具合兆候機器数 ⑤同形対策機器数 ⑥騒音規制満足度、
⑦PCB混入絶縁油量
●不具合兆候機器数や同形対策機器数などは、現時点での中期計画ベースのもの、
すなわち現在把握している数であり、今後新たに発生するものの予測は含まない。
第3章 経年設備の健全度可視化
16
3.2 多属性評価手法とその応用
3.2.1 評価項目の選定
対象とする選択枝(オプション)や物(本研究の対象となる変電所群など)を比較評価 する際の評価項目を如何に選定するかは、その後のプロセスおよび最終の評価結果に大い に影響する。特に、その数や評価項目間の相互依存性などをどのように扱うかなどの課題 がある。これらに関する代表的な手法としては階層構造化モデルによる相互依存性評価な どがあるが、本章で設定した健全度評価のための7つの評価項目については、現場技術者 との詳細な議論を踏まえ、それぞれ独立したものとなっていることから、上述の相互依存 性評価は行わないこととした。
3.2.2 評価項目の定量的評点
評価項目を選定した後には、それぞれの評価項目について複数の比較対象を点数づけす る必要がある。その際、各項目の次元が異なることから、それぞれの生のデータを用いる ことはできず、何らかの共通の尺度によって正規化する必要がある。加えて、複数の比較 対象に対する点数分布をどのように考えるか、例えば、生データの最大と最小の間を等し い間隔の点数分布とするのか、あるいは分布を考慮した間隔とするのかなどの問題がある。
通常とられる評点法としては、
① 生データの最大値を1.0に置くことで正規化する
② 正規化した生データを均等に区分(例えば1点、2点、3点、4点、5点)し、その領 域に入ってくるデータを点数づけする、あるいは、生データの分布を見て、区分した 各領域の中のデータ数が均等になるような区分とする
などがある。
しかし、本章で設定した健全度評価には、将来予測を含む時間推移を表現するというニ ーズがあるため、①の適用は可能であるが、②のような離散的な評点方法は採用できず、
何らかのオリジナルな工夫が必要であることがわかった。
3.2.3 評価項目の重みづけによる総合化
評価項目間の重みづけをシステマティックに作成することができ、かつ、その結果の妥 当性を確認する機能を持つことなどから、このような目的に内外で広く用いられている AHP法について、以下に詳述する。
第3章 経年設備の健全度可視化
17
<AHP(Analytic Hierarchy Process):階層分析法>
AHP(Analytic Hierarchy Process)は、1970年代にピッツバーグ大学のサーティ(Saaty) 教授により開発された意思決定の方法であり、1984年に東京で開催された国際会議でのサ ーティ教授の講演で日本に紹介されて以来、いろいろな状況のもとでの意思決定に広く活 用されている。
また、AHPは政策研究大学院の刀根教授の著書では、“ゲーム感覚意思決定法”といわれ、
これは“意思決定をゲーム感覚で”という意味をこめた含蓄のある命名となっている。AHP の別の日本語訳として“階層化意思決定法”がよく使用されている。以下、例題を用いてこ のAHPの手順について記述する。
① 階層化
今、下記の3種の車からどれを買うか悩んでいる人がいたとする。3種の車の特徴は次 のとおりである。
表3-1 評価基準に従う車調査
安全性 値 段 大きさ デザイン
種類 エアバッグ ABS 色のバリエーション スタイル L車 ついている なし 120万円 ちょうどよい 好みの色なし よ い
I車 ついている なし 111万円 やや大きい 好みの色あり よ い D車 ついている ついている 220万円 大きすぎる 好みの色なし 普 通
評価基準を多くすると混乱してしまうので安全性・値段・車の大きさ・デザインの4つ の評価基準にしたがってどの車が優れているかを調べてみる
表3-1からわかるように、L車は値段と大きさ(安全性が保証されればなるべく小さい 方がよい)で優れている。I 車はデザインが気に入っている車で、D 車は安全性が優れて いる車である。
一般に、意思決定にはまず“問題”があり、選択の対象となるいくつかの“代替案”が ある。代替案の中からどれを選択するかを判断するためのいくつかの“評価基準”があり、
ある評価基準のもとでは、ある代替案がよく、別の評価基準のもとでは別の代替案がよい ので、意思決定の問題が起こる。すなわち、図で表現すると以下のようになる。
第3章 経年設備の健全度可視化
18 図3-2 階層図
これを階層的構造(階層図)といい、AHP ではこの構造が基本である。評価基準の重 要度がデザインに圧倒的にあるならばI車を選択するし、安全性の重要度が圧倒的ならば D車を選択する。
それでは、意思決定者におけるそれぞれの評価基準の重要度はどのくらいであろうか?
それを推定するためにAHPでは一対比較を行う。
② 一対比較
階層構造ができたら、図3-2におけるレベル2の評価項目について次のような「一対比 較」を行う。この比較にその人の価値観が反映される。
表3-2 一対比較(人の価値観)
一対比較値 意味
1 両方の項目が同じぐらい重要 3 前の項目が後の項目より若干重要 5 前の項目が後の項目より重要 7 前の項目が後の項目よりかなり重要 9 前の項目が後の項目より絶対的に重要
2, 4, 6, 8 補間的に用いる
上記の数値の逆数 後の項目から前の項目を見た場合に用いる
第3章 経年設備の健全度可視化
19
表3-3 一対比較表
安全性 値段 大きさ デザイン
安全性 5
値段 大きさ デザイン
例えば、「安全性」と「値段」の比較で、安全性の高さの方が値段の安さよりも重要で あると考える場合は、表3-3の「安全性」と「値段」の交点のマス目に「5」を記入する。
次に「安全性」と「大きさ」では車の大きさが小さい方が安全性の装備より若干重要であ るとして「安全性」と「大きさ」の交点のマス目に「1/3」を記入する。さらに、「安全性」
と「デザイン」では、安全性の方がデザインより若干重要であるので「安全性」と「デザ イン」の交点のマス目に「3」を入れる。当然、「安全性」と「安全性」の交点には「1」 がはいり、「値段」と「安全性」の交点には「1/5」を入れる。これは、「安全性」と「値段」
の交点に「5」を記入したので、その逆数を記入するのである。同様にして、すべての項 目ごとに一対比較を行った結果は、表3-4のようになる。
表3-4 一対比較を行った結果
安全性 値段 大きさ デザイン 安全性 1 5 1/3 3
値段 1/5 1 1/5 1/3
大きさ 3 5 1 7
デザイン 1/3 3 1/7 1
③ 重要度(ウエイト)の決定
表 3-4 に示した一対比較値から、「安全性」、「値段」、「大きさ」、「デザイン」の重要度
(ウエイト)を推定する。
一般に、「安全性」、「値段」、「大きさ」、「デザイン」のウエイトをそれぞれw1,w2,w3, w4とすれば、一対比較行列は
第3章 経年設備の健全度可視化
20
=
4 4 3 4 2 4 1 4
4 3 3 3 2 3 1 3
4 2 3 2 2 2 1 2
4 1 3 1 2 1 1 1
w w w w w w w w
w w w w w w w w
w w w w w w w w
w w w w w w w w
A
となるはずである。
ここからウエイトw1,w2,w3,w4を求める。その手順は次のとおりである。ただし、
w1+w2+w3+w4=1であり、α =4 w1w2w3w4 とする。
各行の4つの要素の積を計算しその4乗根をとる。(幾何平均) ステップ1
4つの幾何平均の和を計算すると、w1+w2+w3+w4=1 より、この和は1/αになるので、
各幾何平均をタテの合計で割るとそれぞれのウエイトを得る。
ステップ2
表3-5 幾何平均による重みの決定
行の4つの要素の積 幾何平均 ウエイト
4 3 2 1
4 1
w w w w
w
α
1w
w
14 3 2 1
4 2
w w w w
w
α
2w
w
24 3 2 1
4 3
w w w w
w
α
3w
w
34 3 2 1
4 4
w w w w
w
α
4w
w
4この欄のタテの合計は このタテの合計で 各幾何平均を割る
α α α α α
4
1
3 2
1
+ w + w + w =
w
第3章 経年設備の健全度可視化
21
上述の手順にしたがって、表3-4の一対比較行列から「安全性」、「値段」、「大きさ」、「デ ザイン」のウエイトを計算する。
表3-6 重みの決定例
安全性 値 段 大きさ デザイン 幾何平均 ウエイト
安全性 1 5 1/3 3 3 1.50 3
5 1 1
4 × × × = 0.265
65 . 5
50 .
1 =
値 段 1/5 1 1/5 1/3 0.34 3
1 5 1 1 5
4 1× × × = 0.060
65 . 5
34 .
0 =
大きさ 3 5 1 7 43×5×1×7=3.20 53..6520=0.566 デザイン 1/3 3 1/7 1 1 0.61
7 3 1 5
41× × × = 0.108
65 . 5
61 .
0 =
この結果「大きさ」に57%、「安全性」に26%、「デザイン」に11%、さらに「値段」
に 6%のウエイトをおいて車の選択をしていることになる。すなわち、小さい車を選択し たいのだが、その一方で安全性も気になる。そのことが選択を難しくしているので、AHP を用いて決断しようというのである。
④ウエイトの総合化
この例における意思決定者は「大きさ」に57%、「安全性」に26%、「デザイン」に11%、
さらに「値段」に6%のウエイトをおいて車の選択をしようとしている。
次に、評価基準ごとにどの車が好ましいかの比較を行い、それらの結果を総合化して最 終的に意思決定者にとってどの車が好ましいかを判断する。
まず「安全性」について、L車、I車、D車の一対比較を行い、同様にしてL車、I車、
D車のウエイト(「安全性」から見た各車の好ましさ)を求める。
次に一対比較を行う。L車はI車と同じぐらい重要であるので、L車とI車の交点のマ ス目には「1」を記入し、DはL車に比べてかなり重要であるので、L車とD車の交点の マス目には「1/7」を記入する。その結果、表3-7を得る。
タテの合計=5.65
第3章 経年設備の健全度可視化
22
表3-7 安全性に関する各車の評価
安全性 L車 I車 D車 幾何平均 ウエイト
L車 1 1 1/7 0.523
7 1 1 1
3 × × = 0.111
705 . 4
523 .
0 =
I車 1 1 1/7 0.523
7 1 1 1
3 × × = 0.111
705 . 4
523 .
0 =
D車 7 7 1 37×7×1=3.659 0.778 705 . 4
659 .
3 =
同様にして、「値段」、「大きさ」、「デザイン」について一対比較を行い各車のウエイト を求めると表3-8、表3-9、 表3-10のようになる。
表3-8 値段に関する各車の評価
値段 L車 I車 D車 幾何平均 ウエイト L車 1 3 7 31×3×7=2.759 24..759251=0.649
I車 1/3 1 5 1 5 1.186 3
31× × = 0.279
251 . 4
186 .
1 =
D車 1/7 1/5 1 1 0.306 5
1 7
3 1× × = 0.072
251 . 4
306 .
0 =
表3-9 大きさに関する各車の評価
大きさ L車 I車 D車 幾何平均 ウエイト L車 1 5 9 31×5×9=3.557 4.8383.557=0.735
I車 1/5 1 5 1 5 1.000 5
3 1× × = 0.207
4.838 000 .
1 =
D車 1/9 1/5 1 1 0.281 5
1 9
31× × = 0.058
4.838 281 .
0 =
タテの合計=4.705
タテの合計=4.251
タテの合計=4.838
第3章 経年設備の健全度可視化
23
表3-10 デザインに関する各車の評価
デザイン L車 I車 D車 幾何平均 ウエイト
L車 1 1/5 3 3 0.843
5 1 1
3 × × = 0.188
4.476 843 .
0 =
I車 5 1 7 35×1×7 =3.271 0.731 4.476
271 .
3 =
D車 1/3 1/7 1 1 0.362
7 1 3
31× × = 0.081
4.476 362 .
0 =
表3-8の「値段」に関する一対比較を見ると、L車は120万円で、D車は220万円であ るからその比は約1対2であるが、L車とD車の交点のマス目に「2」を入れるのではな く、120万円が220万円に対してどの程度好ましいかという判断をマス目に記入する。
今、意思決定者が「7」を記入しているので220万円より120万円の方が「かなり重要」
であると判断したからで、もし値段にはあまり関心のない人であれば、L車とD車の交点 には「1」を代入するだろうし、逆にどうしても安い車の方がよいと思う人は「9」を記入 する。
各車の評価項目ごとの得点を表にまとめると表3-11のとおりである。
表3-11 各車の評価項目ごとの得点 安全性
0.265
値 段 0.060
大きさ 0.566
デザイン 0.108 L車 0.111 0.649 0.735 0.188 I車 0.111 0.279 0.207 0.731 D車 0.778 0.072 0.058 0.081
各車の評価項目ごとの得点に、評価項目のウエイトを掛けると表3-12を得る。そして、
この表の数値をヨコの方向に加えると各車の総合得点となる。
その結果、L車の総合ウエイトは0.50で、I車とD車の総合ウエイトはそれぞれ0.24、 0.25であり、この人物にとって最も好ましい車はL車であることがわかった。
タテの合計=4.476
第3章 経年設備の健全度可視化
24
表3-12 各車の総合得点 安全性
0.265
値 段 0.060
大きさ 0.566
デザイン
0.108 総合得点
L車
0.265× 0.111 0.029
0.060×0.649
0.039 0.566×0.735
0.416 0.108×0.188
0.020 0.504 I車
0.265× 0.111 0.029
0.060×0.279
0.017 0.566×0.207
0.117 0.108×0.731
0.079 0.242 D車
0.265× 0.778 0.206
0.060×0.072
0.004 0.566×0.058
0.033 0.108×0.081
0.009 0.252
⑤ AHPの整合性
L車、I車、D車の総合ウエイトは、それぞれ0.50、0.24、0.25であり、その結果L車 が最も好ましい車であると判断した。この判断は項目ごとの一対比較の重ね合わせから生 じた判断であるので、整合性をもっているかどうかの確認が必要となる。
評価基準である「安全性」、「値段」、「大きさ」、「デザイン」のウエイトを求めるために 行った一対比較(表 3-6)を調べてみる。もし整合性をもった一対比較を行っていれば、表 3-6の「安全性」の行(1,5,1/3,3)と「大きさ」の行(3,5,1,7)は定数倍であるはずであ るが、「安全性」の行を3倍すると(3,15,1,9)となり、2番目の要素が「大きさ」の行の 2番目の要素と大きく違っているので、整合性をもった一対比較を行っていない。しかし、
人間の判断はいつも整合性をもっているとは限らないので、どの程度の整合性のずれ(これ を整合度という)を許容するかが問題となる。
もし、「安全性」、「値段」、「大きさ」、「デザイン」のウエイトがそれぞれ w1,w2,w3, w4であれば、一対比較行列は下記のとおりとなるはずである。
=
4 4 3 4 2 4 1 4
4 3 3 3 2 3 1 3
4 2 3 2 2 2 1 2
4 1 3 1 2 1 1 1
w w w w w w w w
w w w w w w w w
w w w w w w w w
w w w w w w w w
A
第3章 経年設備の健全度可視化
25
整合性をもった一対比較を行えば、一対比較行列は上記の A になるが、この行列A の 特徴を調べてみる。 一般にn項目間の一対比較を行えば、一対比較行列は
=
n n n
n n
n n
w w w
w w w w w
w w w
w w w w w
w w w
w w w w w
A
3 2 1
2 3
2 2 2 1 2
1 3
1 2 1 1 1
である。
ステップ1
n n
n
n
w w w
w
w w
w w
w w
w w
2 2
2 2
1 1
1 1
各列にウエイトを掛ける。するとAは
ステップ2
nw
nnw nw
2 1
ステップ1で求めた行列の行和(ヨコの合計)を求める。すると、
ステップ3
n n n
ステップ2で求めたベクトルの各要素をウエイトで割る。すると、
ステップ4
n n n n
n + + + =
ステップ3で求めたベクトルの要素の相加平均を求める。すると、
上述の手順にしたがって、A の特性量を求めると n(項目数)になる性質をもっている。
すなわち、整合性をもった一対比較を行い、そこで得られた行列に対して、上述の手順に したがって特性量を求めるとそれは項目数になる性質をもっている。
第3章 経年設備の健全度可視化
26
この性質に着目して、一対比較行列から得られるステップ4の平均を用いて、整合度(整 合性のずれ)を以下の式で定義しこれを整合性のずれの尺度とする。上記の計算からわかる ように、整合性をもった一対比較を行えば、整合度は0になる。
−1
= −
項目数 項目数 整合度 平均
上述の手順にしたがって、表3-6の整合度を計算してみる。
よって、表3-6の一対比較行列の整合度は下記のとおりとなる。
078 . 1 0 4
4 234 .
4 =
−
= − 整合度
この整合度は、前にも述べたように、整合性をもった一対比較を行えば0になるが、整 合性がくずれてくると一般に正の値をもつことが知られている。そして、一般にはこの整 合度が0.1以下であれば、許容される整合性のずれであり、目的によっては、0.15まで許 容してもよいといわれている。
なお、整合度は一般に、記号C.I.(Consistency Indexの略)で表される。
第3章 経年設備の健全度可視化
27
⑥ AHPの特徴と留意点
種々の意思決定手法に比べてAHP 手法にはどのような特徴があるか整理すると次のよ うになる。
(1)評価基準がたくさんあり、互いに共通の尺度がないような問題の解決に使える。
(2)比率を一対比較で答える際、同じくらい、やや、かなり、非常に、極めて、といっ たファジィな表現を用いることによって意思決定者の負担を軽くしている。実際、明 確な尺度をもたない要素間の比率を厳密に答えるのは不可能である。したがって、こ れまでの定量的分析では扱い切れない要因がからむような問題の解決に使える。
(3)首尾一貫性のないデータを扱え、しかも首尾一貫性の度合いが同時にわかるので修 正が容易である。首尾一貫性は良い推定のための単なる必要条件にすぎないが、これ があまり悪いと一対比較を再度しなおさねばならない。
(4)複雑でかつ構造の不明確な問題を階層化することにより整理し、ある限られた条件 で部分的な比較・考案を重ねた後に全体的な評価を行うことができる。
(5)システム・アプローチと主観的判断を組み合わせることにより、これまでは組織的 には取り上げにくかった勘や経験を生かした意思決定ができる。
(6)データがない、または取りにくい環境下で意思決定しなければならないような問題 の解決に使える。
(7)決定に先立って、さまざまな場合を想定して意思決定の影響を予測したいような問 題の解決にあたれる。
(8)グループで意思決定する時、関係者の間の意見を表示し取りまとめるためにも都合 がよい。むしろ、関係者が巣まってグループで行うことが望ましい。
AHPを実施するうえで注意すべきポイントは以下のとおりである。
(1)同一レベルに取り入れる要素は互いに独立性の高いものを選ぶ。
(2)一対比較の対象となる要素数は7個まで、多くても9個以下にしておく。
(3)一対比較値が確信できない時、その値に関する感度分析を行う。
(4)総合的重要度は選好度を示しており、この値の大きい順に好ましい代替となるが、
この値の差(あるいは比)については注意して取り扱う必要がある。総合的重要度の 判定は意思決定者が行うが、場合によっては重要度の低い要素を除いて、再び AHP を実施することも必要。
(5) グループの意思決定にAHPを使う時、一対比較値としてはグループを構成するメン バーの値の幾何平均を用いる。
第3章 経年設備の健全度可視化
28
3.3 AHP による一次変電所健全度評価手法
3.3.1 一次変電所健全度評価手法の定式化
一次変電所の健全度評価手法の定式化にあたっては、多属性評価手法とその応用に関す る調査結果を踏まえるとともに、適用例の豊富なAHP(Analytic Hierarchy Process)手 法を適用することとした。
(1)変電所の健全度評価項目
老朽化が進んだ一次変電所の健全度を評価する項目として、ハードウエアとしての健全 度を表すもの、ならびに環境面の規制に対応するものとして、下記の7項目を選定した。
<見えない劣化度合いを表すもの>
① 主変圧器(154/66 kV)の経年
・ 老朽度を直接表す指標
・ 明治・大正時代に運転開始した変電所の変圧器はその後全てがリプレースされて いることを考慮し、変電所経年ではなく、主変圧器の経年とする。
② 主変圧器の稼働率
・ 設備へのストレスの度合いを表す指標
・ 夏季ピーク時の負荷/認可出力
<見えている劣化度合いを表すもの>
③ 旧形機器(空気遮断器など)数
・ 既に製造中止になっており、予備部品も無く、技術者の多くがリタイアしている などの事情から計画的な取替え方針が出ている機器の台数
④ 不具合兆候機器(漏油や要注意レベルでの可燃性ガス発生変圧器)数
・ 不具合兆候があるが経過観察しながら運転継続しているものの台数
⑤ 同形対策機器数
・ 製造当時の知見では分からなかった設計や製造上の不備などにより、トラブル が発生した機器で、緊急性は無いが適切な保全方策、外部診断を実施しながら、
計画的な取替えや改修を予定している台数。
<環境関連の規制に対応するもの>
⑥ 騒音規制満足度(dBmax/dB規制値)
・ 敷地境界上の最大騒音値/騒音規制値
⑦ PCB混入絶縁油保有量
・ 微量であるが、PCBが混入している変圧器絶縁油総量
第3章 経年設備の健全度可視化
29
(2)評価項目の点数化
それぞれの評価項目の単位 [ 経年(年)、稼働率(%)、機器数(台)、騒音規制満足 度(%)、PCB混入絶縁油量(kℓ)]は、そのままでは統合化することはできないた め、以下の点数化による正規化を行うこととした。
○ 各項目を1.0~0の間で点数づけする。
○ 各評価項目の初年度実データについて、74箇所の変電所のうちで最大となる値を見 つけ、これをその後5年間のデータ正規化に当たっての分母にする。
これにより、連続的な時系列データとすることができる。
○ ただし、騒音規制値満足度については、今回の試算においては、データが入手でき なかったため、以下によるものとした。
屋外変電所 第1種規制 1.00 点 2 0.75 3 0.50 4 0.25 非屋外変電所 0.00
なお、経年については年々増えることから、後年度には1.0を上回る値が出てくるが、
経年以外の項目については将来の不具合発見などによる増分を考慮しない計画段階では、
対象機器の取替えなどにより、数値が年々減少していくことになる。
また、今回のアルゴリズムの特徴として、これらの健全度の将来予測(時間推移を把 握)をするという機能も追加した。
(3) AHPによる重みづけを用いた統合化
複数の評価者にAHPの一対比較(注)をしてもらい、その幾何平均をとった。そして、
この重みづけにより、7項目の評点結果を足し合わせた。
変電所毎の総合健全度指標の呼び名は「健全度:S(Soundness)」とし、S(t)は、式(3.1) により7つの正規化した評点Ei(t)をAHPによって求めた重みw(i)で合計する。
∑
=⋅
=
71
) ( ) ( )
(
i
i
t w i E
t
S
(3.1) このSは、最大で1.0、最小で0となり、「小さいほど良い」ことになる。Sが1.0というのは、全ての評価項目が1.0、つまり、その変電所が最も健全度が悪い ということを意味する。 もちろん、その絶対値に意味はなく、変電所間、あるいはエリ ア間の相対的な比較をするためのPU化された数字であることに留意する必要がある。
第3章 経年設備の健全度可視化
30 (注) AHPによる一対比較
表3-13に示す一対比較を行うことで、次元の異なる要素間の重みづけを行うことがで きる。
表3-13 一対比較値の意味
一対比較値 意 味
1 両方の項目が同じくらい重要 3 前の項目が後の項目より若干重要 5 前の項目が後の項目より重要 7 前の項目が後の項目よりかなり重要 9 前の項目が後の項目より絶対的に重要 2, 4, 6, 8 補間的に用いる
上記の数値
の逆数 後の項目から前の項目を見た場合に用いる
(4) 変電所群の健全度統合化
個別変電所の健全度に加えて、支店別、エリア別(都区内、周辺、外辺)あるいは全系 の健全度に統合することにより、様々な階層の意思決定者へ、現状および将来予測の定量 データを提供し、マクロ的なモニタリング(可視化)を可能とする。
その方法としては、個別変電所の健全度を単純に平均する方法(A 案:式(3.2))、ある いは変電所の認可出力MVAiで重みづけ平均する方法(B案:式(3.3))が考えられる。
ここで、Nは変電所の数とする。
<A案>
N t S t
S
N
i i A
∑
==
1) ( )
(
(3.2)<B案>
∑
∑
=
=
⋅
=
Ni
i i N
i i B
MVA MVA t
S t
S
1 1