第 5 章 設備更新時の仕様最適化
5.4 まとめ
本研究では、距離減衰の実験式と境界上での規制値から導出した拘束条件の下で、変圧 器の騒音レベル合計値を目的関数に選び、それを最大化するという組合せ最適化問題とし て定式化を行い、疑似逆行列法(簡易法)ならびに線形計画法(厳密法)を用いた 2 種の アルゴリズム適用することで、境界での規制値を無駄なく実現する変圧器の最適騒音レベ ル組合せを試行錯誤ではなく単一の計算によって求める「逆計算」手法を開発した。
本手法を変圧器が 2台のモデル変電所ならびに 5台の変圧器を有する実際の一次変電所 に適用した結果、いずれも変電所敷地境界上の騒音規制値を満足し、かつ取替え変圧器の 騒音仕様値の合計が最大となる最適解が得られ、その妥当性と実用性が確認された。
また、従来手法はその計算原理から取替え前の各変圧器の音圧プロフィールを引き継い だものとなるのに対し、擬似逆行列法および線形計画法による最適解は工学的な常識に合 う(敷地中央に位置する3Bの騒音値が常に一番大きい)ことも明らかになった。
なお、本手法は、超高圧から配電用まで、全ての屋外式変電所における騒音対策に適用 できるとともに、一般の特別高圧需要家の受電設備、あるいは発電所の変電機器に対する 騒音対策にも適用できる汎用性の高いものである。また、既設変電所の騒音対策に加えて、
屋外変電所新設時の変圧器の騒音仕様ならびにレイアウト設計にも応用できることから、
幅広い活用が期待される。
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参考文献 [第 5 章]
[1]
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[11] 発変電所等における騒音振動防止対策指針 JEAG 5001-2005
[12] 電気協同研究 第33号2巻「変電所騒音化対策」
第6章 結論
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第 6 章 結論
電力市場が自由化されて以降、景気低迷と省エネの進展による電力需要の伸びが鈍化す る一方、化石燃料価格の高騰や地球環境問題という新たな課題への取り組みが必要になる など、電力設備をめぐるパラダイムシフトが進んでいる。このような背景のもとで、電力 設備、とりわけ、筆者が電力会社において永年にわたりその計画と運用・保守に携わって きた流通ネットワーク設備は、新設工事が激減する一方、昭和40年代の高度成長時代に建 設した設備の老朽化が進み、今後、その大量更新が必要になってきている。
このため、近年では設備を経済学でいうアセット(資産)とみなし、その維持・更新あ るいは新設を戦略的に進めていく「アセットマネジメント」の研究が国内外で始まってい る。また、設備更新に際しては、コストと信頼度という従来の指標に加えて、騒音などの 環境規制や地球温暖化問題への対応など、新たな要素を考慮する必要が生じてきている他、
その意思決定に関する一層の透明性と説明責任が要求されつつある。
このような背景のもと、本論文は、流通設備の中の変電設備を取り上げ、近年国内外で 研究が始まっている「アセットマネジメント」のための意思決定支援ツールの開発に関す る研究に取り組んだ。
まず第3章では、「経年変電所の健全度可視化」として、既存の変電所の健全度をマクロ 的にモニタリングする手法を開発した。しかし、このアルゴリズムは、個別機器の最適な 取替え順位を決定するという目的には使えないため、第 4 章では「経年機器の最適更新順 位づけ」を行う手法を実際に取替え方針が決定している旧形遮断器を対象に開発した。ま た、第 5 章では、環境面からの新たな制約となっている騒音問題に対する「設備更新時の 仕様最適化」を取り上げ、変電所の変圧器群の取替え・改造に際しての最適な仕様の組合 せを求める手法を開発した。以下、得られた結果について述べる。
(1) 経年変電所の健全度可視化(第3章)
本章では、変電設備を対象としたアセットマネジメントの第1ステップとして、老朽一 次変電所の健全度評価(「見える化」)に取り組んだ。
定式化に当たっては、複数の次元の異なる評価項目を定量的に統合することが必要とな るため、まず「多属性評価手法」について、①評価項目の選定に関する手法、②評価項目 の定量的評点に関する手法、③評価項目の重みづけによる統合化に関する手法ごとに内外 の文献を調査した後、評価項目については、経年、稼働率、旧形機器数、不具合兆候機器 数、同形対策機器数、騒音規制満足度、PCB混入絶縁油量の7項目を選定した。また、各
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評価項目の評点方法については、健全度の時系列変化をトレースするという従来に無いニ ーズを踏まえ、それぞれのデータの初年度の最大値によって正規化するという手法を用い ることとした。さらに、重みづけによる総合化方法については、シンプルで適用実績の多 い、AHPの一対比較によることとした。
上記により定式化したアルゴリズムを、都区内(18 箇所)、周辺(31 箇所)、外辺(25 箇所)の合計74箇所の一次変電所を対象に適用し、変電所ごと、支店ごと、エリアごと(都 区内、周辺、外辺)ならびに全系について、健全度比較や経年推移の推定、あるいは改良・
修繕計画の感度解析(改修促進ケース/改修抑制ケースなど)による設備計画(改良・修 繕)の妥当性評価ができることなどを確認した。
今後は、実計画への試行を踏まえた実務者からのフィードバックをもとに、下記につい て吟味の上、改良を加えていくことが必要と考える。
○ 今回選定した7項目以外の評価項目追加の必要性
・ 継続的なデータ入手可能性の再吟味
・ 健全度を評価するのに有効な新たな項目の抽出
○ 一対比較によって設定した重みの見直しの必要性と具体的方法
・ 評価者の選定方法(経営層を含めるなど)
・ 見直しのタイミング(どのような状況を見直しの条件とするか)
なお、本ツールは改良・修繕計画のためのものであるが、AHPを応用したアルゴリズム は汎用性の高いものであり、多属性を定量評価する手法開発時の一助となるものと考える。
(2) 経年機器の最適更新順位づけ(第4章)
流通ネットワークの中の一次変電所は設備の老朽化が進んでおり、個別機器の計画的な 更新が必要となっているが、大量にある経年設備の更新は、時間的、経済的制約から一度 に多数の地点で実施することができない。
このため、本章では、一次変電所の旧形遮断器更新計画を対象に、取替え完了時期までの 総コスト(取替えコスト+保守コスト+信頼度コスト)の現在価値が最小となる取替え順 位を決定する手法を提案することとした。
この問題は、膨大な組合せを扱うことになるため、効率的に最適解の探索が可能な分枝限 定法を応用したアルゴリズムを開発し、小規模モデル(2変電所、4年間)に適用してその 有効性を確認するとともに、実規模モデル(6変電所(17ユニット)、8年間)にも適用して 良好な結果を得ることができた。
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今後は、他の変電機器(旧形リレー取替、母線・開閉器類のGIS化など) に適用拡大す るとともに、更なる大規模モデルへの適用に向け計算速度向上をはかっていきたい。
また、今回確定論的な方法を用いた信頼度評価について、モンテカルロ法などによる確率 論的な厳密手法の検討を行うとともに、設備劣化の進展が供給信頼度に与える影響を予測 することによって最適な改修時期を決定するRCM(Reliability Centerd Maintenance:信 頼度ベースメンテナンス)に関する研究についても調査・検討していきたい。
(3)設備更新時の最適仕様決定(第5章)
本章では、距離減衰の実験式と境界上での規制値から導出した拘束条件の下で、変圧器 の騒音レベル合計値を目的関数に選び、それを最大化するという組合せ最適化問題として 定式化を行い、疑似逆行列法(簡易法)ならびに線形計画法(厳密法)を用いた 2 種のア ルゴリズム適用することで、境界での規制値を無駄なく実現する変圧器の最適騒音レベル 組合せを試行錯誤ではなく単一の計算によって求める「逆計算」手法を開発した。
本手法を変圧器が 2台のモデル変電所ならびに 5台の変圧器を有する実際の一次変電所 に適用した結果、いずれも変電所敷地境界上の騒音規制値を満足し、かつ取替え変圧器の 騒音仕様値の合計が最大となる最適解が得られ、その妥当性と実用性が確認された。
特に、擬似逆行列法は、線形計画法による最適解に近い準最適解を簡易に求める実用的 な手法であることが分かった。また、従来手法は、その計算原理から取替え前の各変圧器 の音圧プロフィールを引き継いだものとなるのに対し、擬似逆行列法および線形計画法に よる最適化結果は、得られた解が工学的な常識に合う(敷地中央に位置する変圧器の騒音 値が常に一番大きい)ことも明らかになった。
今後、本手法を既設変電所へ適用する際には、今回の実変電所への適用結果を踏まえ、
以下の手順で検討することが推奨される。
1)全台数あるいは対策対象変圧器の逆問題を解く。可能であれば移設も考慮する。
2)収束解に近い変圧器騒音値を選択する。その際、技術的低減限界があることや通常の 購入仕様としては55dBや60dBといった数字が採用されることに配慮する。
3)2)の条件下で規制値を超過する境界騒音があった場合、以下の選択枝について効果 およびコストを比較する。
① 最も高い変圧器騒音値を1ランク(例えば5dB)低いものに変更する
② 当該変圧器を防音建屋に収納する
③ 規制値を超過する境界上の点の近傍に防音壁を設置する 4)規制を満足するまで、3)を繰り返す。