第2節 中学校社会科公民的分野経済単元における地域教材の課題
2. 中学校社会科公民的分野経済単元で取扱われる地域教材の課題 第1項の内容を踏まえ、経済単元で地域教材が取扱われている実践事例の考察
から地域教材が抱える課題を明らかにする。
第1に、地域教材の持つ教材としての特性が十分に生かされていないことである。
地域教材が持つ特性については第1節で述べた。その特性の中には、地域的特殊 性を捉えさせると同時に、社会的事象の一般的な共通性の部分も捉えさせることがで きるという点があった。そのため、その特性を生かすことができれば、一般的な社会的 事象の見方とは異なる見方から事象を捉えることができ、事象の違った側面について 捉えさせることができると考えられる。そして、その見方と一般的な見方を比較考察さ せたり、見方や考え方を相対化させることで知識の拡大化が図られるように授業を設 計することができるのである。しかし、従来の授業では地域教材が社会的事象をどの ような側面から見ており、それがどのように一般的な事象と異なっているのか、あるいは どのような点が共通しているのか、が考察されるような授業構成になっている事例は少 ないと考えられる。例えば、実践事例「外国人労働者問題」12では地域教材として
「埼玉県内の外国人労働者数の変化」が取扱われているが、地域教材が活用されて いるのは授業の導入部のみであり、学習者の授業内容への興味関心を喚起させ、学 習課題を設定するためだけに教材が構成されていると言える。以下の【表1一一4】に本 実践事例の授業展開を示す13。
【表1−4「外国人労働者問題」の擾業展開】
▽学習活動・●莞問 ●答え・O丸払 資料
導 入 ▽川口駅周辺の朝の通勤風景を見て気付いた
アとを発表する。
恍ハ学途中に外国人に会ってどのように感じる
ゥ?
●外国人の姿を多くみかけるようになった。
スい。曹 9 一 曹 一 曹 一 ・
資料1:県内の. ■ ■ 6 一 騨 ■ , 冒 り ● 層 ■ ■ ● 響 r ■ 魑
O国人労働者一 一 「 艦 , 9 巳 嘱 雪 ¶ 嚇 巳 巳 ・ − 一 , 一 鱒 −
展 開 ▽日本に働きに来ている外国人はどれくら
「いるのか調べる。
●年々就労目的で入国する外国人が増え トいる。
資料2:就労目
Iの外国人新 K入国者数 なぜ、近年日本国内において、外国人労働者が急増しているのだろう?
▽学習課題に対する予想を書く。
、どこの国の人が来ているのか調べたこと ○アジアやアフリカの貧しい国々から多
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を発表する。 くやってきている。
▽新聞記事からわかったことをまとめる。 ○外国人労働者たちは町工場で働いてい 資料3:新聞記
る。 事「キューポ
○好景気を反映して人手不足であるが、 うの火を守る 日本の若者は町工場で働くことをきら 外国人労働者 い、外国人を雇わざるをえない。 たち」
○外国人労働者は研修生・留学生として 合法的に滞在している者と、10万人以上 の不法就労者がいる。
▽産業構造の変化と日本人の職業観の変化 ○サービス業(第3次産業)に重点が置か 資料4:職業別 について説明を聞く。 れるようになり、若者たちの職業観は変 従業構造の推
化してきている。 移
整 ▽これからの日本の労働の在り方について 理 考え、ノートにまとめる。
地域教材「埼玉県内の外国人労働者数の変化」は導入段階でのみ活用され、そ の後の授業展開との直接的な関連は薄い。これが地域教材の特性が十分に生かさ れていない一例である。特性を十分に生かすのであれば、身近な地域の外国人労働 者問題や、外国人労働者が働いている地元企業に焦点を当て、その事象を視点と しながら日本における外国人労働者問題を追究していく授業構成を考えることができ る。本実践は、地域的な相違点や共通点に気付かせ、学習者に外国人労働者問 題に関する本質的な問いを持たせるような授業になっておらず、問題の一面的な理 解を促しかねない。
第2に、社会参画の意識を育成するような教材構成がなされていないことである。第 1節でも述べたように、経済単元の学習では現代社会の抱える問題を解決する意思 決定活動を通して社会参画意識の育成を行うことを視野に入れた授業構成があまり なきれていない。そのため、地域教材を取扱った実践事例においてもそのような態度 の育成を意図した教材構成がなされていない傾向にある。例えば、「生活環境と公害 問題」14では、地域教材として「茨城県の公害問題」が取扱われているが、授業のね らいが「茨城県内で生じているいろいろな公害問題を、新聞記事等の具体的事例か ら選び出して、その種類・広がりを知り、公害学習の課題を設定することができる。」で あることからも、地域教材が地域の実態をとらえるために活用されていることがわかる。
【表1−5】に本実践事例の授業展開を示す。
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第1章 中学校社会科公民的分野経済単元における地域教材の性格と課題
【表1−5「生活環境と公害問題」の授業展開】
●応問・▽学習活動 ●答え・o知鶴 資料
導 ▽VTRを見る。 資料1:水
入 ●写った池は何という池ですか? ●大塚池。 質浄化に
●それでは、これは何の機械でしょう? ●水をきれいにする機械。 取り組ん
●なぜこのような機械が置いてあるのでしょう? ●水が汚いから。 でいる大
●水の汚れや空気の汚れをある用語で何と言 ●公害。 塚池の
いますか? VTR
茨城県の公害について調べよう。
歴 ▽茨城県内の身近な公害について 資料5:茨
開 ●まず、どんな公害の種類が多いか予想を立 ●水質汚濁が最も多い。 城県の地
てよう。 ●二番目がゴルフ場問題。 図(授業を
●三番目が農薬問題。 通して利
(騒音・振動、 大気汚染、土壌汚染、悪臭、地盤 用)
沈下、食品公害は予想なし)
●次に、発生場所を予想しよう。 ●水質汚染は霞ヶ浦に多い。(この意見がクラス のほとんど)
▽生徒自身が集めた新聞記事から公害の発 資料2:生
生場所と種類を調べる。(15分) 徒が集め
▽発見した公害について黒板にあるボードに た新聞記
シールを貼ることで確認する。 事
●今日の新聞記事には公害に関する記事が ●23面に「霞ヶ浦のアオコ」という見出しがある。 資料3:最
ありましたか? ●23面に「スモッグ注意報」がある。 近の「い
●19面に「静かな夜が戻ってきた」という騒音の はらき新
記事がある。 聞」
▽茨城県の公害についてまとめる。
●茨城県の公害では何が多いですか? ○水質汚濁やゴルフ場問題、農薬、大気汚染に 関する問題。
●どんな場所に多いですか? ○霞ヶ浦とその近隣の市町村に多い。また、水戸 や土浦などの大都市にも多い。
終 ●これからもっと調べていきたいところはどんな ●オゾン層、 産業廃棄物、公害対策問題、全国
結 ところですか? の公害問題について調べたい。
●では、公害の傾向や問題点、対策などはど ●全国の新聞で調べることができる。
んな資料で調べることができるだろうか?
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このように、地域教材は地域の実態を理解するために活用され、主体的に社会の 問題とかかわり、解決に向けて取り組んでいこうとする社会参画の意識を育成すること を視野に入れた構成となっていない。そのため、地域や社会が抱えている問題に関す る解決策を提案したり、よりよい社会の形成に向けて議論するような教材構成となって いないと言える。
以上の考察から、ここまでに指摘した課題は以下のようにまとめることができる。
第1に、経済的事象の機能や構造に関する事実を理解することが目的とされ、経 済の仕組みや機能の一面的な理解に陥る点や事象の本質に迫ることができていない
点である。
第2に、授業の学習方法が学習者にとって受動的なものとなっているため、経済的 事象に対する主体的な追究がなされていない点である。
第3に、地域教材が、学習意欲を高めるための活用や事実の提示のみの活用に
とどまり、教材の特性が十分に生かされていない点である。
第4に、現代社会が抱える問題に対して、自ら問題解決の手段を考え、提案して いくような社会参画意識の育成を意図した教材構成や授業構成がなされていない点
である。
上記のような授業に関する課題を解決していくために、地域教材を視点にした授 業構成を考えていく必要がある。「地域教材を視点にする」ということは、地域教材が 分析すべき、考察すべき、探究すべき対象をとらえるための立場や側面として授業に 位置付くことになる。社会科においては社会的:事象が分析・考察・探究対象とされる ため、地域教材となる地域の社会的事象を手がかりに追究していく必要があると思わ れる。そして、地域教材が持つ教材としての特性を十分に生かすために地域的な特 殊性に着目し、そこから社:会的事象をとらえることによって一般的にとらえられている 社会的事象についての見方や考え方を多面的多角的にしていくことを考慮しなけれ
ばならない。
その際には先述した課題を克服するために、学習者の主体的な追究活動を促す ために学習過程を工夫し、学習者自身の問題意識から社会の問題を発見させ、問 題の原因となる事象の解明を行い、さらにはその解決策について選択し、その策の提 案までを視野に入れた授業構成を考えていく必要がある。
地域の特殊的事象を教材として扱う際は地域的特殊性に着目して、社会的事象 を起原・構造・機能(発展)の側面からおさえることが社会認識を育てるために必要だ とされる15。起原は社会的事象が生起した原因や社会的背景を、構造は社会的事 象のもつ仕組みを、機能は社会的事象が持つ人々や物事を支えたりする働きのこと
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