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第 2 章 意味のずれのある漢字同形語パターン

第 2 節 中国語の“人种”と日本語の「人種」の意味的 相違 相違

本節では【第 1 パターン】の例として、日本語の「人種」(人种)を考察対 象とし、「広く人間を指すのか、それとも特定の人間を指すのかによる相違」

という視点から説明することとする。

日本語の「人種」は中国語の“人种”より意味領域が広く、中国語には見ら れない意味を持つため、両者は意味領域の関係において【第1パターン】の<

第2類>に属する。

( 1 )中国語と日本語における共通的用法

《汉语大词典》《辞海》(注1)の“人种”の語釈をまとめると、次のように なる。“‘人种’也称‘种族’。指具有共同起源和共同遗传特征的人群。根据这 些特征,全世界人类可以分为三大人种,即蒙古人种、尼格罗人种和欧罗巴人种。”

(「人種」は「種族」とも呼び、同じ起源と遺伝的特徴を有する人の集団を指 す。これらの特徴に基づいて地球上の人類を大きく三つの人種に分けることが できる。すなわち、モンゴル人種、ニグロ人種、ヨーロッパ人種である)と定 義されている。

『日本国語大辞典』『大辞林』(注2)『新明解 国語辞典』『明鏡 国語辞典』

の「人種」の語釈では、(A)「地球上の人類を、骨格∙皮膚の色∙毛髪∙血液型 など、身体形質的特徴によって区別した種類」、としている。

次に日本語の「人種」及び「人種」を伴う複合語と比較しながら、中国語の

“人种”及び“人种”を伴う複合語の使い方を見てみよう。

(1)“人种”が単独で使われる場合

〇肤色相同、人种相同,连文化似乎也可归入同一鼻祖,但是日企在进入中国

发展时前途并非一片光明。(肌の色が同じで、人種が同じで、文化も同一の始 祖を持つが、しかし日系企業が中国に進出して成長する見込みはそう明るくは ない。)

〇人种歧视倾向、性别歧视倾向等,都是美国的政府职员一切言行绝对不敢触 碰的禁区。(人種差別、性差別などは米国政府の職員が絶対に触れてはならな いタブーである。)

現代中国語では“人种”は単独で使われる場合が多い。“人种歧视”(人種差 別)は“种族歧视”とも呼ばれる。ただし、中国語では“种族歧视”(人種差 別)の方が、“人种歧视”より使用頻度が高い。

次に日本語の「人種」の例を見てみよう。

〇人種に関係なく人は皆平等であるべきだ。(无关人种,人人都应该平等。)

〇同じ人間でも人種によって明るさの感じ方が違う。(即使同为人类,如果 人种不同,对亮光的感受方式也不同。)

〇突然変異で人種の違う子供が生まれたりする話を聞いたことがある。(我 听说过因突然变异而生下人种迥异的孩子的事情。)

〇フランスへ行って、人種差別の扱いを受けたことは一度もなかった。(在 法国,我一次也没有受到过种族歧视。)

〇会社には職場での人種差別を匿名で報告できるシステムがあるが、本気で 利用してみようとする人が少ない。(公司设有能够匿名举报在工作场所发生的 种族歧视事件的系统,但真正愿意利用这种系统的人却很少。)

上記の例のように、単独で使われる場合の「人種」は、通常、中国語の“人 种”、或いは“种族”で対応できる。

(2)【地域名、国名+人种】で使われる場合

〇拾阶而上,有欧美人种,有藏人,有内地游客,也有扛木头的工人。(階段

を上がってみると、欧米人種の人もいれば、チベット人も、内陸からの観光客 も、木材を担ぐ労働者もいた。)

〇关于美洲人种的起源问题可以作为一个人类学问题继续进行研究。(アメリ カ大陸の人種起源の問題は、人類学の問題として引き続き研究が進められる。)

〇部分教练员认为亚洲人在体能上与欧美和非洲人种有很大的差距,在这个项 目上难有作为。(アジア人の身体能力は欧米人種とアフリカ人種に比べてかな りの差が見られ、この種目で優勝する可能性は低いと思うコーチがいる。)

この場合、“人种”の前に来る地名は“欧美”、“美洲”、“非洲”などが多く 見られ、日本語の「人種」の使い方と同様である。

次に【国名+人种】で使われる場合の例を見る。

〇甚至有人提出日本人应该说英语,与西洋人通婚,以改良日本人种。(日本 人は英語をしゃべり、欧米人と結婚することによって、日本人種を改良すべき だと主張する人さえいる。)

〇中国人种往往塌鼻、单眼皮,不像美国人那样高鼻梁、双眼皮,年轻人接受 了西方的审美观,也追求和西方一样的审美效果。(中国人種はしし鼻で一重ま ぶたなのに対して、アメリカ人は鼻梁が高く、二重まぶたである。中国の若い 人は西洋の美意識を受け入れ、西洋と同じ美的効果を追い求める。)

現代中国語では“美国人种”、“英国人种”、“法国人种”のように【国名+人 种】の形で用いられる。

次に日本語の例を見てみよう。

〇どうしてヨーロッパ·アメリカ人種やアフリカ人種はアジア人種と比べて 身体能力が高いのだろうか。(为什么 欧美 人 种和非 洲 人 种与 亚洲 人 种相 比 体能更好呢?)

〇ヨーロッパ人種とアジア人種が混血した結果が今のインド人であると言 われている。(人们认为欧洲人种与亚洲人种通婚后产生了如今的印度人。)

上記の例のように、「人種」の前に用いられる「地域名」には、「アフリカ」

や「アジア」などが多く見られる。ただし、日本語では【国名+人種】という 形はあまり用いられず、その点で中国語と異なる。

(3)【肌色+人种】で使われる場合

〇他把五角星设计为三原色中最亮的黄色,像朝霞一片金光灿灿,色调简练而 庄严大气,也表达了中华儿女黄色人种的民族特征。(彼は五角星形を 3 元色の 中で最も明るい黄色に設計した。それは朝焼けのように輝かしく、色合いが素 朴且つ厳かであり、中国人の黄色人種の民族特徴をも表現できた。)

〇从人种构成看,既有白人、黑人、黄皮肤的印第安人,还有黑白混血人种、

印黑混血人种、印白混血人种,是典型的“种族大熔炉”。(人種構成から見ると、

白人、黒人、黄色のアメリカ・インディアンがおり、白黒混血の人、インディ アンとアフリカの混血の人、インディアンと白人の混血の人もおり、典型的な

「人種のるつぼ」となっている。)

〇有色人种一般被西方种族主义者定义为白种人以外的人种,是一种极端的种 族主义观点。(有色人種は普通ヨーロッパの人種差別主義者によって白人以外 の人種であると定義されている。これは極端な人種差別主義的な考えである。)

現代中国語では、“黄色人种”、“黑白混血人种”、“有色人种”などの表現が よく使われ、その他にも“红色人种”、“棕色人种”、“灰色人种”などの表現が ある。

〇白人には有色人種に対して優越感があるようだ。(白人似乎对有色人种抱 有优越感。)

〇アフリカ起源説によれば、人間は黒人から黄色人種と白人に分れたそうだ。

(根据非洲起源论的观点,人类据说是从黑人演变成黄色人种和白人。)

〇アメリカ大陸の原住民は、赤色 人 種という呼ばれ方をする。(美洲

大陆的原住民被称为红色 人种。)

上記の日本語の「人種」は中国語と同様、「白色人種」を“白色人种”、「有 色人種」を“有色人种”、「人種学」を“人种学”と言う。

日本語の「人種」は中国語の“人种”で対応するほか、「人種主義」を“种 族主义”、「人種差別」を“种族歧视”、「人種のるつぼ」を“种族大熔炉”とい うように中国語の“种族”で対応する場合もある。

( 2 )中国語には見られない日本語の「人種」の用法とその中国語 訳

『日本国語大辞典』『大辞林』『新明解 国語辞典』『明鏡 国語辞典』の「人 種」の語釈は、(B)「環境∙職業などの違いによる生活習慣や気質を共通の特徴 として、人を分類した言い方」もある。下記の例がそれである。

〇駅のホームで傘を振ってゴルフのスイングをしているゴルファーという 人種を格好いいと考えるのだろうか。(你认为在电车月台上挥舞雨伞做出击打 高尔夫球动作的高尔夫爱好者这些人挺帅吗?)

〇政治家という人種は世間と掛け離れており、感覚が麻痺している。(政治 家这类人远离社会,感觉麻木。)

〇価値観も人生観も理解できないような人種が多いのが現実である。(社会 上不能理解价值观、人生观的这一类人很多。)

〇彼は多くのサラリーマンとは違い、ひとつのことを究めていく人種だ。(与 很多工薪族不同,他是那种会围绕某一问题探究到底的人。)

〇雇用された労働者、いわゆるサラリーマンは日本では一番多い人種だ。(被 雇佣的劳动者即工薪族们在日本是人数最多的一类人。)

〇僕はこのOLという人種がなぜか好きになれない。(不知为何,我对于女白 领这一类人总是喜欢不起来。)

〇社長という人種は神経質では務まらない。(社长这类人如果神经脆弱的话 是干不了的。)

〇君のように気の長い人種とは付き合いきれないよ。(我无法跟你这种慢性 子的人交往。)

○夜型の人種らしかった。(他似乎是个夜猫子。)

上記の例の「人種」は意味(A)「地球上の人類を、骨格∙皮膚の色∙毛髪∙血 液型など形質的特徴によって区別した種類」とは異なる。辞書では(B)「人 を環境∙職業などの違いによる生活習慣や気質を共通の特徴として分類した言 い方」としているが、筆者はこの用法も本来の意味(A)から意味拡大した用 法、一種の比喩的な用法と見てよいと考える。上記の例文を見ると、「社長と いう人種」「OL という人種」「サラリーマンという人種」「政治家という人種」

は職業などに関係し、「ゴルファーという人種」「気の長い人種」「夜型の人種」

は、嗜好、生活習慣、気質、性格に関係する。「この種の人」の意味で、場合 によっては軽視的な意として用いられる点も見逃すことができない。この用法 は中国語の“人种”には見られないものであり、中国語に訳す場合、“人种”

ではなく、“这类人”、“这一种人”など、前後の文脈に応じて適当な言葉を選 んで対応する。

結語

本節では、「広く人間を指すのか、特定の人間を指すのかによる相違」とい う視点から、日本語の「人種」と中国語の“人种”の意味的相違を考察した。

(1)広く人間を指すのか、それとも特定の人間を指すのかによる相違につい て、日本語の「人種」は中国語の“人种”より意味領域が広く、中国語には見 られない「政治家という人種」「夜型の人種」のように特定の人間を指す独特 の用法を持っており、中国語では“这类人”“这种人”などで対応する。