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中国語の“他人” “别人”と日本語の「他人」 「別 人」の意味的相違 人」の意味的相違

第 2 章 意味のずれのある漢字同形語パターン

第 1 節 中国語の“他人” “别人”と日本語の「他人」 「別 人」の意味的相違 人」の意味的相違

日本語の「他人事」「まるで別人のようだ」の「他人」「別人」はいずれも「ほ かの人」を意味する。だが、「他人」と「別人」は置き換えられない場面が多 く、用い方が異なる。本節では、①日本語の「他人」と「別人」の使い分け、

②中国語の“他人”“别人”と日本語の「他人」「別人」の意味的相違、③日本 語の「他人」「別人」に対応する中国語訳など、漢字圏の日本語学習者の悩む 問題を考察の対象とする。

日本語の「他人」の意味領域が中国語の“他人”より広いため、両者は意味 領域の関係において【第1パターン】の<第2類>に属する。

(1) 日本語の「他人」と中国語の“他人”の用い方の特徴

中国語の“别人”は“他人” と比べれば、意味的に近いが、使用頻度が高 い。これに対して、日本語の「他人」と「別人」は意味的相違が多く、使用頻 度はそれほど変わらない。「他人事」「他人行儀」のように、日本語では「他人」

という語がよく使われるが、それはいかなる意味をもつのか、中国語の「他人」

といかなる意味的相違があるのかについて考えることにする。

①「己/自分」とのセットで用いられる「他人」

○人は他人という鏡を通して、己を知ることができる。(人能够通过别人/

他人这面镜子了解自己。)

○自分は自分、他人は他人。(自己是自己,别人是别人。)

○他人との競争ではなく、自分のペースでやり直していく。(不和别人竞争,

按自己的节奏重新做。)

○自分の作文を推敲するときには、他人の目で文章を見ることが大切だ。(在 推敲自己的作文时,重要的是以他人的眼光来审视文章。)

○「成功は自分のおかげ、失敗は他人のせい」と考えてしまう(他以为“成 功源于自己,失败归于他人”。)

上記の例はいずれも日本語の「他人」を中国語の“别人”“他人”で対応す る例である。中国語では“自己”に対して、自分自身以外の人を示す場合、“别 人”“他人”を使う。

また下記の例のように、日本語の「他人」に中国語の“人”で対応する場合 がある。

○「自分に厳しく、他人に優しく」、この言葉は、誰でも一度は聞いたこと がある。実は、これが成功の秘訣の一つであり、人生そのものの鍵でもある。

(“严以律已,宽以待人。”这句话谁都听说过,实际上它是成功的秘诀之一,是 人生的关键。)

上記の例は日本語の「他人」を中国語の“人”で対応する例であり、熟語と してよく用いられる。

上記の例のように、日本語の「他人」と中国語の“他人”は同じ意味をもつ ため、同形漢字で対応することがある。中国語では“他人”は文章語であるた め、“他人”と訳すよりも、話し言葉の“别人”で対応する方がより多く見ら れる。

日本語には「別人」という表現もある。日本語の「別人」は、「他人」には 見られない4用法(後述する)があるため、相当異なると考えられる。

日本語の「他人」は「己/自分」に対して用いられ、また「他人」「己/自分」

のセットで用いられることが多い。また「何でも誰かがやってくれるだろうと いうすべて他人まかせな態度ではいけない」のように、「自分」がいなくとも

「やってくれる」のような表現で、自分とのかかわりを示す。日本語の「他人」

は「己/自分」に対して用いられる点で中国語の“他人”と共通すると見られ る。下記の例がそれである。

〇今天班会课的主题是:《尊重他人就是尊重自己》。(今日のクラスの討論会 のテーマは「他人への尊重は自分への尊重」である。)

〇事实上,宽恕他人,宽恕自己,都是很重要的。(事実上、他人を寛大に許 すことも、自分を寛大に許すことも大事である。)

〇善待他人就是善待自己。(他人を大切にすることは、すなわち自分を大切

にすることである。)

〇如何取得他人对自己的信任?(どのようにして、他の人から自分に対する 信用を得られますか?)

〇关爱他人、快乐自己。(他人を配慮し大切にすることで、自分を楽しませ ることができる。)

〇一心一意为他人着想,自己在精神上才能得到充实。(ひたすら他人のこと を考え、配慮することで、自分も精神面において充実することができる。)

○不求他人,自己动手。(何事でもまず人に頼まないで、自分でやることだ。)

○人不能失去爱心,更不能失去他人对自己的爱。(私たちは人を慈しみ思い やる気持ちを失うことはできず、更には、他人の自分に対する愛を失うことは できない。)

○可以委托他人替自己进行诉讼吗?(自分の代わりに他人に、訴訟を行うこ とを頼めますか?)

上記の例文の“他人”はいずれも“自己”に対して用いられるものである。

この点では、日本語の「他人」と同じである。ただし、「他人」は「他人事」

のようにも用いられるため、話し言葉では「ほかの人」「人」を使うことも多 く見られる。

②「身内」「親類」とのセットで用いられる「他人」

〇話す言葉も身内と他人、改まった場合とくだけた場合で違ってくる。(口 语表达也会因为亲属与外人、正式场合与非正式场合有所不同。)

○身内も他人も私は同じ接し方をしている。(我对自家人和外人一视同仁。)

○苗字がない時代、どうやって親類と他人を見分けていたのでしょうか。(在 没有姓氏的年代,人们是如何辨别亲属和外人的呢?)

〇遠くの親類より近くの他人。(远亲不如近邻。)

以上の例文のように、日本語の「他人」は「身内」「親類」とのセットでよ く用いられ、「血筋の繋がらない人、親族でない人」という意味を表す。この 場合の「他人」は中国語では“他人”ではなく、通常“外人”で対応する。

③自分、親類以外の人を指す「他人」

日本語の「他人」は自分自身、親類以外の人を指す場合が多い。次の例がそ れである。

○大人になってから他人とこんなに思いっきり喧嘩したことがなかった。

(成年之后,从没有和别人/他人如此痛痛快快地吵过架。)

○もう一年近く、まともに他人と接触していないのだ。(已有近一年时间没 有和别人好好接触过了。)

上記の例の「他人」は、そのまま中国語の“他人”で対応できるが、それよ り“别人”の方がより自然になる場合がある。

また日本語の「他人」は中国語の“他人”にはない「血筋のつながらない人、

親族でない人」、「その事に関係のない人、当事者でない人」という意味をもつ ため、“他人”ではなく、別の語で対応することも多い。下記の例がそれであ る。

例①.夫婦とは奇妙な人間関係である。赤の他人であった男女が、人生を共 にするという約束を交わす。(所谓夫妇真是奇妙的人际关系啊,原本毫无关系 的一对男女相互约定要共度人生。)

例②.他人に子育てを押しつけるのはやめましょう。(不要把养育孩子的事 情推到外人身上。)

例③.他人は口を出すな。(局外人不要插嘴!)

上記の例文のうち、例①における「赤の他人」は「全然縁のない人」という 意味であり、中国語では“完全没有关系的人”と解釈的に表現する。また例②

の「他人」は“外人”、例③の「他人」は“局外人”“无关者”で対応する。

さらに日本語には「他人」を伴う表現が数多く見られ、日常的によく使われ るが、これらの表現における「他人」も中国語の“他人”ではなく、他の語で 対応するか、解釈的に訳す。

他人行儀 → 如客人般客气、见外 他人扱い → 当外人看待、当外人相待

他人事 → 别人的事、与自己没有关系的事 他人丼 → 猪肉鸡蛋盖浇饭

上記の「他人」を伴う表現は中国語に相当する表現がないため、通常他の語 で対応し、または解釈的に訳す方法を取る。

中国語の“他人”はどのように日本語に訳すのか、下記の例の日本語訳を考 える。

○关心他人,帮助他人。(他人のことに関心を持ち、他人に力を貸してあげ る。)

○不许他人干涉。(他人の干渉を許さない。) ○在乎他人的看法。(人の目を気にする。)

○缺乏为他人服务的意识。(他人のために奉仕する意識が乏しい。)

○损坏他人的财物。(ほかの人の財物を壊す。)

日本語の「他人」に比べ、中国語の“他人”は「他人、人、ほかの人」を指 し、「他人」より意味領域が狭く、日本語の「他人」で対応することもできる。

また上記の“他人”は“别人”に置き換えても差し支えない。

( 2 ) 日本語の「別人」の中国語訳の特徴

中国語の“他人”と日本語の「他人」は共通的な用法もあり、異なる用法も

あるため、【第 1 パターン】に属する。これに対して日本語の「別人」は「他 の人、その人でない人」を意味し、中国語の“别人”とは相当異なるため、【第 2パターン】に属する。下記の日本語の「別人」の例を見てみよう。

○契約者と同一人のこともあれば別人のこともある。(有时与合同方是同一 个人,有时是另外一个人。)

○しかしながらゲットン子爵と名のって国境を越えたのはまったくの別人 です!(但是,名叫哥顿子爵越过国境的完全是另外一个人。)

日本語の「別人」は、中国語の“别人”では対応できず、普通“另外一个人”

と訳す。ほかに「別人」は次のような場合にも使われる。

○酒を飲むと別人のようになる。(一喝酒就判若两人。)

○ひげをそったらまるで別人になった。(剃了胡须,简直就成了另外一个人。) ○いつもの君とはまるっきりの別人だ。(与平时的你判若两人。)

○真摯な表情でパソコンに向かう姿は別人みたいで、初めて黒坂を恰好いい と思ってしまった。(他表情认真地面对电脑的神态简直判若两人,我第一次觉 得黑坂很帅。)

○別人の如く、一回り大きくなったようだ。(他个头似乎大了一圈,简直判 若两人。)

上記の例文のように、日本語の「別人」は、「本来のその人とは様子がまっ たく違う」という意味を表す。この場合、副詞「まるで」「まるっきり」や助 動詞「ようだ」「みたいだ」「の如く」などと呼応して使われる。この場合の「別 人」も中国語では“别人”ではなく、“判若两人”“简直成了另外一个人”と言 う。

日本語の「別人」の例文を調査した結果、下記の4種類の使用場面が最も多 いことが分かった。

(1)<変装、正装、化粧、整形、成長など>何かによってすっかり姿が変わ

った場合に使われる。「正装して別人のように見える」「変装などをして別人に 見せかける」「サングラスと帽子をつけると別人のように見える」「整形手術の 技術の進歩が目覚ましい韓国。同国の完全に別人になってしまうレベルの整形 について、海外でも話題になっているほどだ」のように衣装、体につけるもの、

化粧、整形などで変わり本人とは違う別の人のように見える、ということを示 す場合に用いられる。

「以前とは別人のようになった」「彼女は日焼けで別人のようだ」「写真はま るで彼とは別人のようだ」「彼女は別人のようにスマートになっていた」「甥の 成長は目を見張るばかりで、以前とは別人の観がある」のように違う姿に変身 した、という場合にも用いられる。

「性格や行動が別人のように変わる」「今日の彼は昨日とは全く別人だ」「彼 は結婚してから別人のようになった」「飲んだ時の彼は、それはもう別人だっ た」「同じ人が場合によって別人のようにふるまう異常性格」のように性格・

言動・表情が本人と全然違って変わった、という場合にも用いられる。

以上のような場合に使われる「別人」は同一人物が別の人のように変わると いう意味を表し、「他人」には置き換えられない。中国語では通常“判若两人”

“另外一个人”と訳す。

(2)名前、顔、後ろ姿などが似ているが、完全に違う人を指す。「巨人小笠原 と巨人の小笠原内野手のように、よく似ているが別人である」「同名別人」「後 ろ姿で友人と思って声を掛けたら全くの別人だった」などがそれである。この 場合に使われる「別人」も「他人」には置き換えられない。中国語では、“另 外一个人”とよく訳す。

(3)同一人物ではなく、二人は別々の人であると判断する場合に用いられる。

「時忠・時子と親宗の年齢差も大きく、母は別人である可能性が高い」「実は 義秀と義季は別人ではないかとする説が存在する」などがそれである。この場