48 第4章 ビーム試験
threshold [fC]
0 1 2 3 4 5 6 7
Detection Efficiency [%]
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
A-sensor
R-sensor
図4.22 東北大学のビーム試験における検出器試作機の検出効率の閾値スキャン。各チャ ンネルの閾値の平均値を電荷量に変換した。縦軸のエラーバーは2項分布から得られた検 出効率の統計誤差で、横軸のエラーバーは閾値の平均値からのずれである。
4.3.2 陽電子の計数率変化に対する時間分解能
検出器試作機の計数率に対する時間分解能の一様性は確認したが、5 ns以下という時間分 解能の要求を満たすことができなかった。主な原因としてタイムウォークによる影響が考え られる。テストセンサーで得られる電荷量によって信号の立ち上がり時間がばらついてしま うことで、時間分解能が悪化した。今後の解析では、この立ち上がり時間のばらつきをToT を用いて補正する。ToTとアナログ出力信号の波高を関係付けることで、入力信号に対する 立ち上がり時間を補正して時間分解能の改善を図る。
4.3.3 陽電子信号の電荷量
検出器試作機のS/Nの要求性能は15以上である。そのため、J-PARCと東北大学のビー ム試験において、4つのチャンネル全てでS/Nの要求を十分に満たしていることが分かった。
しかし、東北大学のビーム試験において試作機Rで得られた陽電子信号の電荷量が予想より も最大で30%ほど小さかった。シリコン中でMIPの落とす電荷量は24000 eであり、シリ コンの厚さによって一意に決まる。また、陽電子信号の電荷量がチャンネル毎に大きく異な ることからテストセンサーよりも下流に原因があると予想される。考えられる原因を以下に 示す。
4.3 ビーム試験の考察 49
• 読み出しASICの各チャンネルのゲインの測定結果が間違っている。
• 陽電子ビームが多重散乱の影響でセンサーに斜め入射し、電荷分割が起こっている。
• RセンサーからASICに信号が入力されるまでに電荷を失っている。
まず、Rセンサーに接続したSlitA2013のゲインを再測定した。センサー接続用の入力ピン から1 pFのキャパシタを通して変換した電荷を入力し、オシロスコープで波高を測定した。
図4.23に試作機Rに接続したSlitA2013のch16の入力電荷に対する波高のプロットを示 す。ch16のゲインは 24.5± 0.2 mV/fCであり、以前測定したゲインと大きな相違は見られ なかった。
input charge [fC]
0 5 10 15 20 25 30
pulse height [mV]
0 100 200 300 400 500 600
700 / ndf
χ2 99.08 / 9
p0 -12.61 ± 2.43 p1 24.49 ± 0.2109
/ ndf
χ2 99.08 / 9
p0 -12.61 ± 2.43 p1 24.49 ± 0.2109
図4.23 試作機Rに接続したSlitA2013のch16入力電荷に対する波高のプロットの再測定の結果。
次に、斜め入射による電荷分割の影響を考察する。図4.17のクラスター分布から、試作機 Rのクラスターに含まれるストリップ数は1本が支配的である。2本以上のストリップを含 むクラスター数は全体のクラスター数に対して試作機 Aで8.3 %、試作機Rで10.2 %で あった。試作機Aと試作機Rでクラスター分布に大きな違いがないため、電荷分割の影響と は考えにくい。
現在、線源を用いた検出器試作機の電荷量の再測定とゲインの校正を計画している。Rセ ンサーに接続するSlitA2013を変更することで、SlitA2013に問題があるのかセンサーボー ドに問題があるのか切り分けることができると期待している。また、エネルギー損失が既知 の線源を用いてゲインを校正することで、ゲイン測定時に用いた電圧を電荷に変換するキャ パシタの容量の不定性を排除することができる。
50 第4章 ビーム試験
4.3.4 検出器試作機の位置分解能と検出効率
検出器試作機の位置分解能を理解するために、Geant4 と呼ばれるシミュレーションツー ルを用いて東北大学のビーム試験のセットアップを再現した。使用したGeant4のバージョ
ンはGeant4.9.6.p03である。各検出器の位置のずれがない理想的なセットアップを構築し、
ビーム試験の解析と同じ手法で各検出器試作機の位置分解能を求めた。図4.24にシミュレー ションで得られた各検出器試作機のResidual分布を示す。理想的な位置分解能は、試作機A 上で93.8± 0.3 µm、試作機R上で84.1 ± 0.3 µmであった。東北大学のビーム試験で得ら れた位置分解能より良い結果が得られた。原因として以下が考えられる。
• SlitA2013のデジタル出力の閾値がチャンネル間でばらついている。
• 各検出器の位置補正がうまくいかなかった。
SlitA2013の各チャンネルのゲインやベースライン電圧のばらつきを考慮すると、3.5 mVの
精度で閾値を決定する必要がある[24]。しかし、SlitA2013はチャンネル間の閾値の精度が 10.3 mVしかなく、Residual分布が広がってしまったと予想される。
また、BDCの位置補正をBDCの各チャンネルのヒット分布を用いて行ったが、再構築し たトラックのχ2/ndf分布が悪化してしまった。そのため、今回の解析ではBDCの位置補正 を行っていない。測定したヒット点から最適なトラックを再構築し、各検出器のずれを補正 する再帰的なアルゴリズムの開発が必要である。
次に、検出効率について考察する。東北大学のビーム試験において96 %を超える検出効率 が得られたが、位置分解能を改善することで検出効率の向上が期待できる。検出効率を求め る際に、センサーの端やマスクしたチャンネルの隣り合う2ストリップを通過したトラック を除外した。各センサーのストリップ間隔は試作機Aで100 µm、Rセンサーで188 µmで ある。そのため、試作機Aで0.2 mm、試作機Rで0.376 mmの領域を通過したトラックを 除外したことになる。しかし、ヒットの判定を行う際のwindow幅は1 mmであるため、図 4.25のようなトラックをカウントして検出効率が悪化したと考えられる。window幅は位置 分解の5倍で定義している。そのため、検出器の位置補正を行って、位置分解能を改善する ことで、検出効率が向上すると予想される。
4.3 ビーム試験の考察 51
h_A_residual
Entries 42460
Mean <6.261e<06
RMS 0.09364
/ ndf
r2 110.4 / 25
Constant 3606 ± 21.4 Mean <4.489e<05 ± 4.625e<04 Sigma 0.09376 ± 0.00033
Residual [mm]
<1.5 <1 <0.5 0 0.5 1 1.5
number of events
0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500
h_A_residual
Entries 42460
Mean <6.261e<06
RMS 0.09364
/ ndf
r2 110.4 / 25
Constant 3606 ± 21.4 Mean <4.489e<05 ± 4.625e<04 Sigma 0.09376 ± 0.00033
h_A_residual
Entries 42460
Mean <6.261e<06
RMS 0.09364
/ ndf
r2 110.4 / 25
Constant 3606 ± 21.4 Mean <4.489e<05 ± 4.625e<04 Sigma 0.09376 ± 0.00033
A-sensor Residual Distribution
h_R_residual
Entries 61438
Mean <1.488e<05
RMS 0.08503
/ ndf
r2 109.2 / 23
Constant 5811 ± 28.8 Mean <6.016e<05 ± 3.436e<04 Sigma 0.08409 ± 0.00025
Residual [mm]
<1.5 <1 <0.5 0 0.5 1 1.5
number of events
0 1000 2000 3000 4000 5000
6000 h_R_residual
Entries 61438
Mean <1.488e<05
RMS 0.08503
/ ndf
r2 109.2 / 23
Constant 5811 ± 28.8 Mean <6.016e<05 ± 3.436e<04 Sigma 0.08409 ± 0.00025
h_R_residual
Entries 61438
Mean <1.488e<05
RMS 0.08503
/ ndf
r2 109.2 / 23
Constant 5811 ± 28.8 Mean <6.016e<05 ± 3.436e<04 Sigma 0.08409 ± 0.00025
R-sensor Residual Distribution
図4.24 Geant4で得られた理想的なセットアップにおける検出器試作機のResidual分布。
"
# !
"
図4.25 検 出 効 率 が 悪 化 す る 原 因 と な る ト ラ ッ ク の 模 式 図 。window幅 に 対 し て ヒ ッ ト 点がセンサー領域外にあるトラックをカウントしてしまう。同様に、window幅に対して ヒット点がマスクしたストリップ領域にあるトラックをカウントしてしまう。
52
第 5 章
新バージョンの読み出し ASIC
3.3.3で述べたように前試作機であるSlitA2013はタイムウォークの要求を満たしていな
かった。また、各チャンネルの基準電圧を詳細に調整するDACが正常に動作していなかっ た。そこで、これらの問題点を改善した、実機仕様の読み出しASICとしてSliT128Aを開 発した。新バージョンの読み出しASICではプリアンプ部とシェイパー部の積分容量を変更 し、信号の増幅率(ゲイン)を高くした。ゲインを高くすることで信号の立ち上がりを早く し、タイムウォークの改善を図った。また、DACのビット数を4 bitから6 bitに変更する ことで、コンパレータ出力の基準電圧をより高精度に調整できるようにした。