賃金に関するデュー・デリジェンスの範囲は、国内法の遵守、及び賃金が労働者とその 家族の基本的ニーズを満たすOECD行動指針への整合を含むべきである56。したがって このモジュールは2つのセクションに分かれる:国内法を遵守する賃金及び労働者とそ の家族の基本的ニーズを満たす賃金である。
国内法を遵守する賃金
責任ある企業行動を企業の方針と管理システムに組み込む
方針
賃金方針に関する公約を採択することに加えて、企業は移民労働者の採用と雇用、下請 など、賃金の不遵守(該当する場合)のリスク要因に関する方針を採択することが奨励 される。ボックス14を参照。
56 OECD行動指針V.4bは、「他国籍企業が発展途上国で操業する時、同等の雇用者がい
ない場合、政府政策の枠組み内で可能な限り最良の賃金、手当及び労働条件を提供すべ きである。これらは企業の経済状況に関係するが、労働者とその家族の基本的ニーズを 満たすのに少なくとも十分であるべきである」と述べている。本行動指針のV章も参 照すべきである。V章は、企業はICESCRを含めて国際人権規約に述べる人権を尊重 すべきであると勧告している。
147 企業自体の操業とそのサプライチェーンにおける潜在的及び実際の害悪の特定
スコーピング
賃金の不遵守は、労働集約型で低所得労働者を雇用する衣類・履物サプライチェーンの すべての段階でリスクとなっている。したがって企業は、スコーピング作業をカントリ ーリスク要因に的を絞ることが奨励される。賃金に関する厳しい規定が施行されないか、
団体交渉メカニズムのない国は、すべて賃金不遵守の高いリスクがあると見なされる。
追加の要因の例は次のとおりである。
● 複数の最低賃金率がある
● 労働者に出来高で支払われる
● セクターの移民労働者の雇用率が高い57
● セクターの非正規労働者の雇用率が高い
● 労働者が現場に住んでいる58
● 雇用者が若年労働者を奉公制度で雇用している率が高い
● 労働者に電子支払(または他の追跡可能手段)ではなく現金で支払う
● 労働者の文盲率が高い、及び/または教育水準が低い サプライヤー評価
企業は、最低賃金率を守らない高リスクの調達国におけるサプライヤー評価を優先でき る。
サプライヤー評価は国の最低賃金遵守の保証を提供すべきである。サプライヤーがその 費用の内訳を共有するのを渋る場合、これは実際に保証するのが難しい。
57 移民労働者は国内法の知識がなく、苦情を提起する手段がない。移民労働者は賃金差別 も受けやすい。
58 現場居住に関する給与の天引きは、労働者に最低賃金を支払わないリスクを増す。
148 両当事者が信頼し、価格交渉に従事しない独立した第三者は、原価を透明にする場合、
価格設定の変更に繋がるという恐れを緩和することができる。企業は、賃金遵守に関す るサプライヤー評価方法に関して、既存の手引きに頼ることが奨励される。評価を行う 者は国家の労働法をよく知っているべきである59
国内法に従った賃金遵守に加えて、評価は次のことも含むべきである。労働者は自己の 賃金に関して十分知らされているか、支払いは時間通りに行われるか、労働者には判読 できる明白な賃金明細を提供されるか、労働者は賃金の使い方を自由に選べるか、給与 控除額は妥当で、国内法と団体協約に従っているか、義務としての賞与や手当は提供さ れ、合法に要求する休暇は産休を含めて支払われるか(モジュール7.労働時間を参照)、 適切な社会保障積立金はすべて支払われ、徴収され、提示されているか 60。同様に、実 行可能な限度まで、サプライヤー評価は性別、人種、国籍などの理由で労働者に異なる 賃金水準が支払われる賃金差別がないか、評価すべきである。
サプライヤー評価には、労働者と労働組合及び労働者が自ら選ぶ代表組織が関与すべき である。
企業自体の操業の害悪の中止、防止または緩和
企業は是正措置計画を作成し、賃金法の不遵守を防止すべきである。是正措置計画の構 成要素の例は次を含む。
● 労働者の認識を高める-例えば研修、情報源(小冊子など)、ワークショップ及 び継続的支援など。労働者に提供する研修と情報の例は次を含むことができる。
- 最低賃金要件;
- 給与明細の読み方;
- 賃金、手当及び他の形態の報酬の計算方法;及び
- 賃金調整の手順(適切な場合)。
59 繊維と衣類セクターにおけるOECD行動指針の実施に関するフランスの連絡窓口報告 も参照。
60 ベター・ワーク、ガイダンスシート5:報酬を参照。
149
● 不遵守のリスクを緩和する管理システムの確立:
- 賃金支払いを担当する人事または他の関連スタッフに研修を施す。主題の例は 次を含む。国内法と関連労働協約;規定時間と時間外労働の手当;手当の計算;
控除の計算方法、及び控除が妥当で国内法に従っているという保証;記録の保 存;
- 労働者への明白な給与明細票の提供;
- 明白で正確かつ完全な給与計算記録の確立;及び
- 支払の不正リスクを減らす支払の仕組みの確立(例えば自動支払)。
● 生産計画のシステムの改善、効果的な財務管理及びプランニングシステムを確 立して、最低賃金を提供するのに不十分な資源からくるリスクを緩和する。
企業のサプライチェーンにおける害悪の防止または緩和
● 企業は、価格交渉と購買行動を通じて何が害悪の原因かを評価し、防止すべき である。責任ある購買行動についてはボックス4を参照。
● 企業は、国内最低賃金と妥結賃金を守っているサプライヤーから直接調達する ことが奨励される。
● 企業は、実行可能な場合、害悪を防止または緩和するためにサプライヤーを支 援することが奨励される。例えば記録保存と財務管理システムに関する技術指 導を提供し、利用可能で適切な場合、(自動支払を提供するために)現地のサー ビス提供者との連携を促す。
● 賃金、団体交渉及び労働時間の間の繋がりを認識して、企業はそのセクターの リスクに対するデュー・デリジェンスを行うことが奨励される。モジュール 4 とモジュール6を参照。
150 適切な場合、改善または協力の提供
救済の適切な形式の決定
補償は救済の最も適切な形式であることが多い。しかし救済はセクション 6.4 のガイダ ンスを満たすべきである。
労働者とその家族の基本的ニーズを満たす賃金
企業自体の操業とそのサプライチェーンにおける潜在的及び実際の害悪の防止の特定
スコーピング
賃金が労働者とその家族の基本的ニーズを満たさないサプライチェーンをもつ国から企 業が調達している場合、企業はそのような国を特定することが奨励される。その方法に ついては、下記のボックス14の勧告を参照。最低賃金や妥結賃金から除外され、従って 基本的ニーズを満たさない賃金を受け取る労働者のカテゴリを企業は認識すべきである。
そのような労働者の例は次を含む。
● 非公式経済内で雇用されている労働者
● 国際移民労働者61
● 時給に対して出来高で支払われる労働者
実行可能で適切であれば、企業は、実質賃金と基本的ニーズを満たすのに必要な賃金の 間に最大の不一致がある国におけるデュー・デリジェンスをさらに優先すべきである。
サプライヤー評価
調達国にリスクが蔓延している事実から見て、個別のサプライヤー評価は、新たな情報 を提供しないことがある。企業は、利害関係者、及び最も重要なことだが、労働者と労 働組合及び労働者が選ぶ代表組織と相談して、実質賃金と労働者とその家族の基本的ニ ーズを満たさない賃金との間の不一致がもつ重大性を理解することが奨励される。
61 賃金率は、国際移民労働者と国内労働者で異なることがある。
151 ボックス14. リスクの高い調達国の特定
労働者とその家族の基本的ニーズを満たさない賃金リスクが高い国の特定は、実際上困 難なことがある。各国には幾つかの最低賃金率があり、地域、労働者の年齢、経済活動、
または専門職によって異なることが多い。このためセクターごとに国別の 1 つの最低賃 金率を推定するのは難しい。さらに適用賃金率が労働者とその家族の基本的ニーズを満 たすかどうかは、現地状況における基本財とサービスの現地コスト及び扶養家族数に依 存する。
基本的ニーズの原価計算に生活費を用いて、そのセクターの最低賃金水準と比べること ができる。また企業は、最低賃金とその国の賃金範囲の中位賃金(いわゆる賃金の中央 値)を比べることができる。平均所得ではなく所得の中央値は、企業が複数国に渡る所得 分散の相違を説明する場合、国際的比較のよりよい基礎を提供する。もう一つの方法は、
閾値賃金(例えばその国の賃金中央値の 60%)を計算し、それをそのセクターの最低ま たは妥結賃金と比べることである。企業は、最も適切な最低賃金、つまり所定の国でセク ター内の最多労働者数に適用される賃金率と定義される賃金を考慮することができる。
多くの事例での過剰残業の蔓延は、賃金が労働者とその家族の基本的ニーズを満たさな いことを示す指標である。
企業は高いリスクを特定する複雑さを考慮して、労働者、労働組合及び専門家と協力する ことが奨励される。
企業のサプライチェーンの害悪の防止または緩和の努力
サプライヤーとの双方の関与だけでは、労働者とその家族の基本的ニーズを満たす賃金 の評価を強化するのに不十分かもしれない。この状況では、有効な賃金決定とそれを実 施する仕組みに関する支持を実証するために、企業は労働組合及び他の企業と相談(適 切な場合は協力)して、国家またはセクター全体レベルで関与することを考慮できる。
企業はこのことを決定するために次の要因を考慮すべきである。
● 実質賃金と基本的ニーズを満たすのに必要な賃金の間の不一致がもつリスクの 重大性;
● 政府の政治的意思;