OECD行動指針に基づく期待 OECD行動指針は、企業は「OECD行動指
針に網羅される事項に関する現実及び潜在 的な悪影響を特定する」よう期待を述べて いる(OECD行動指針、II、A10)。
企業活動の影響(II、A11)及び「企業が原 因ではないが、ビジネス関係を通じた操業、
製品またはサービスに直接係る活動」を含 む。(OECD行動指針、II、A12)。
OECD行動指針では、「ビジネス関係」は共 同事業者、サプライチェーン内の事業者、
並びに操業、製品またはサービスに直接関 わるあらゆる非国家または国家実体との関 係を含む。(OECD行動指針、IV、注釈43)。
2.1 自社及びサプライチェーンにおける害悪のリスクの調査
企業には、自社とそのサプライチェーンにおける害悪の最も重要なリスクを特定するた めの調査が求められる。調査は、既知のセクターリスクに基づいて進め、関連リスク要 因を考慮に入れるべきである。調査は定期的に行い、情報を収集し、文書化されるべき である。
企業は、操業または調達する国、生産または販売する製品、事業活動と調達業務に鑑み て、セクター及びサブセクターの既知リスクを抽出し、自社及びサプライチェーンにお けるリスク見込みと害悪の重大性を判定することが奨励される。各リスク要因を下記に 述べる。企業は、原材料から小売に至るまで一般的なリスク分野を考慮すべきである。
企業は、あらゆる既知情報に基づいて、自社及びサプライチェーンのどの害悪のリスク が最も重要か(またはそう思われるか)を定めるべきである。企業が有する製品品目数、
企業が調達する国の数等の要因は、企業がサプライチェーンの害悪のリスクを調査する 方法に影響する。表3を参照。
方法
企業は机上調査に依存することもできる。情報にギャップがある場合、企業は利害関係 者と専門家を関与させることが奨励される。企業は、労働者の代表者を含む外部の利害 関係者の諮問グループを設置することにより、調査プロセスにその発言を取り入れ、新 たな問題にフラグを立てることができる。早期警告システムや苦情処理の仕組みを通じ て提起される問題は、影響のパターンに関する情報も提供する可能性がある。
企業は、ほぼ定期的(例えば2年毎)に評価結果を見直すべきである。しかし、デュー・
デリジェンスは不変的なプロセスではないため、企業は、自社及びサプライチェーンに おける害悪のリスクを把握するために、絶えず情報を投入・更新し、常に変化する環境
(例えばある国の規制枠組みの変更)の説明を可能にし、発生しつつあるリスクに早期 に対応できるよう備えるべきである。
セクターのリスク
セクターのリスクは、製品品目や立地拠点に関わらず衣類・履物セクターに蔓延するリ スクである。
衣類・履物サプライチェーンの主要な特徴(低熟練、労働集約、生産分業、短いリード タイム)は、特定の労働と人権に対する影響の高いリスクとなっている。それらのリス クの多くがサプライチェーンの各レベルに存在する。同様に、製品及び製品を開発する プロセスに使用される材料自体が、衣類・履物のサプライチェーンの様々な段階で環境 害悪のリスクを高める。例えば、湿式処理には有害な化学物質を使用するので、裁断、
縫製、トリミングよりもリスクが高い。最も一般的なセクターリスクは特定されており、
以下一覧表にまとめられている。一部のセクター(高級品、スポーツ用品、作業服等)
は、表2に含まれない特有のリスク(動物福祉など)に直面するが、適切であれば、同 様に考慮されるべきである14。
表2. 衣類・履物セクターのセクターリスク*
人権と労働のリスク 環境リスク 誠実性リスク
児童労働
差別
強制労働
労働衛生と安全(例えば労 働者関連の負傷と疾病)
労働組合の設立・参加・団体 交渉に関する労働者の権利 侵害
最低賃金の不遵守
賃金が労働者とその家族の 基本的ニーズを満たさない
有害な化学物質
水消費量
水質汚染
温室効果ガス(GHG)の排出
贈収賄
*セクターリスクは上記に限らない
14 動物福祉、畜産及び土地の権利関連のリスクに関する特定のガイダンスは、本ガイダン スに含まれないが、衣類・履物サプライチェーンの一部に関連する。OECDは、責任 ある農業サプライチェーンに向けたOECD行動指針に、それらの問題に関するデュ ー・デリジェンスの指針を記載している。
製品のリスク要因
製造プロセスの相違により、一部の製品は他よりも影響のリスクが高い。例えば、綿製 品は、パラチオン、アルジカルブ及びメタミドホスなどの有害な殺虫剤による高いリス クがある一方、ポリエステル製品は温室効果ガス排出の原因となる高いリスクがある15。
国別のリスク要因
国別のリスク要因は、セクターリスクの可能性が高いと思われる特定国や製造クラスタ ー、または特定国の産業内の状態といえる。一般的に、これは統治、社会経済及び産業 上の要因を含む。例えば、出稼ぎ労働者率が高い場合、児童労働、強制労働、賃金法の 不遵守及びセクシャル・ハラスメントのリスク要因となる16。セクションII、セクター リスク全体に渡る国別リスク要因のモジュールを参照。
ビジネスモデルのリスク要因
企業が販売する製品品目数や品目を変更する頻度(季節毎等)といった企業のビジネス モデルは、企業のサプライチェーンの害悪のリスクに影響することがある。特に、これ は小売業者とブランドに関係するが、多種多様な完成品を製造する製造者にも当てはま る。企業のビジネスモデルが、企業とそのサプライチェーンの害悪のリスクに影響する 例を以下に述べる。
● 一般的に、大量かつ多種多様な製品品目を有する企業は、材料や生産プロセス 等のばらつきにより、サプライチェーンがより広範な害悪のリスクに曝される ことが多い。
15 ポリエステル繊維の生産は、温室効果ガス排出の高いレベルを生むエネルギー集約的プ ロセスである(繊維1kg当たりの125 MJもの熱量)。Muthu, S. (2014), 「繊維と衣 類サプライチェーンの環境に対する影響の査定」、Woodhead Publishing,
Cambridge、テキスタイルシリーズ。
16 出稼ぎ労働者率の高さは、ある種の人権侵害と労働虐待に関する増大したリスクの警告 となるが、出稼ぎ労働者の雇用を原因に、サプライヤーとの契約を打ち切ることは奨励 されない。むしろ企業は、出稼ぎ労働者の雇用に責任を持つように、デュー・デリジェ ンスを適合させるべきである。
● 一般的に、頻繁または季節毎の製品サイクルを有する企業は、製品の設計から 生産まで短い時間枠で行うよう要求する。対応時間の短さは、過剰残業、強制 残業、無許可外注等、労働虐待と人権侵害の原因となりうる発注、駆込み発注 及び購入業務の変更のリスクを増大する。
● 同様に、頻繁な製品サイクルは材料と資源の使用を増大させ、炭素、水、廃棄 物の排出量を増大させる。
● 企業の海外展開と海外操業の管理の程度により、誠実性リスクに曝される場面 が増大する。
調達モデルのリスク要因
同様に、企業の調達モデルは、広範囲なサプライヤーからの調達の有無、請負関係の性 質、直接または間接調達に関わらず、そのサプライチェーンの害悪のリスクを増加(ま たは減少)させることがある。以下に例を述べるが、このリストは包括的なものではな い。
● サプライヤーの大多数は、サプライチェーンで害悪に曝されることが多い。さ らに、企業の規模やサプライチェーンのデュー・デリジェンスに充当されるリ ソースの観点から、大多数のサプライヤーは管理がさらに困難になる。
● 企業とサプライヤーの関係の希薄さは、サプライチェーンの害悪を特定、防止 または緩和する能力に影響する。例えば、サプライヤーとの短期の関係は、企 業がサプライヤーを評価する際に特定したリスクを十分防止したり、緩和した りする時間がないことを意味する。これはまた、特定した影響を防止または緩 和するために、企業がサプライヤーに関与する影響力が少ないことを意味する。
同様に、企業の通常の契約期間は、継続発注か短期発注かに関わらず、企業の サプライヤーへの影響力を減らすことがある。
● (代理店等を通じて)間接的に調達し、中間業者の選択に関する十分なプロセ スを持たない企業は、そのサプライヤーに対する可視性と管理が限られる。
● 企業規模に比して多くの国で操業または調達する企業は、害悪に曝されること が多く、害悪の防止と緩和をより困難な挑戦と捉えることがある。