一部の状況では、司法または国家の非司法機構との協力が必要であるが、本セクション のコンセプトは、法的義務を超えて責任ある企業行動を推進する精神で用いられるべき である28。
6.1 企業の操業における改善可能なプロセスの構築
OECD行動指針は、企業は人権への影響を改善できるプロセスを、適所に有すべきだと 述べている。また、行動指針は、企業は労働と環境への影響を改善できるプロセスを構 築するよう勧告している。合法性、利用可能性、予測可能性、公平性、OECDとの両立 性及び透明性を満たす運用レベルの苦情処理制度は、そのようなプロセスを提供する有 効な手段である29。
ボックス7. 効果的な救済措置へのアクセスを保証する国家の役割
ビジネス関連の人権侵害から守る義務の一部として、国家は、そのような侵害がその領域 と管轄内で起こる場合、影響を受ける人々が効果的な救済措置にアクセスできるように、
司法、行政、法令または他の適切な手段を通じて、適切な措置を取らなければならない1。 しかし、国家がその保護の義務を果たさない国で企業が操業すると決めた場合、企業は救 済措置を提供する責任から免除されるわけではない。
1. OECD行動指針も国連指導原則も、企業を含めた義務に関する法概念を樹立しようとしているわけ
ではない。害悪の説明責任と適切な救済措置を考慮する際に、国内の裁判所はその独自の概念と試 験を用いる。
28 OECD行動指針も国連指導原則も、企業を含めた義務に関する法概念を樹立しようと
しているわけではない。害悪の説明責任と適切な救済を考慮する際に、国内の裁判所は その独自の概念と試験を用いようとする。
29 OECD行動指針、IV、46
運用レベルの苦情処理の仕組み
運用レベルの苦情処理制度は、各人または集団が、企業が彼らに及ぼす影響について懸 念を提起できる正式な方法であるが、人権に関する救済に限定されるわけではない。運 用レベルの苦情処理制度は、会社または現場レベルで運用され、従って労働者や地域住 民が懸念を提起できる最初の入口であることが多い。労働者と地域住民が被害を受けた 場合、運用レベルの苦情処理制度は、救済措置を求めるプロセスを提供することに加え て、懸念を提起する早期警告システムとして働き、従って問題の拡大を防止できる。
運用レベルの苦情処理制度には多くの形式があり、とりわけ内職従事者の苦情処理制度、
業界関連、第三者の苦情システムを含む。すべての事例で合法性、利用可能性、予測可 能性、公平性、OECDとの両立性、透明性、解決への合意を求めるための対話ベース30 を満たすべきである。表8は、これらの基準を満たす衣類・履物セクターレベルでの方 法の例を述べている。しかし、状況等の各種要因が特定の実施手順に影響することがあ るので、これらの例は限定列挙でも例示列挙でもない。
企業は、重大な人権侵害の被害者に関する民事調査や捜査、人権審査を容易にすべきで あるが、介入すべきではない。また、重大な人権侵害の被害者による法的手段へのアク セスを除外する法的権利放棄は、企業の苦情処理制度で用いられるべきではない。企業 は苦情を公開し、学んだ教訓を方針とモニタリングシステムに組み込むことが奨励され る。企業は、OECD行動指針と国連指導原則に従って運用レベルの苦情処理制度を構築 する際に、既存の広範な手引きを調べることが奨励される。
30 OECD行動指針、IV、注釈46。
表8. 運用レベルの苦情処理メカニズムのコア基準及び構成要素の例
基準 構成要素の例
合法性:
使用を意図する利害関係 者グループの信頼を得、
苦情処理プロセスの公平 な実施が説明可能:
・ 報復がないことを保証し、苦情申立人を仕返しから保護す る。
・ 影響を受ける利害関係者を制度設計に関与させる。衣類・
履物セクターでは、一般的に、労働者と労働組合及び労働 者が自ら選ぶ代表組織が、制度設計に関与することを意味 する。
・ 苦情処理制度のアクセス先として働く個人は、申立人の性 別、宗教などに関係なく、信頼に値し、訓練され、知識が あり、親しみやすい人である。特に、多くの状況で労働力 の85%までが女性で、国際的・国内的移住者が労働者の大 部分を占める衣類・履物セクターにおいて重要である。出 稼ぎ労働者は、特に脅迫と報復を受けやすい。
・ 制度には正当な代表者が関与し、申立人を匿名とする。特 に、被害者が報復を恐れる衣類・履物セクターに当てはま る(例えばセクシャル・ハラスメントの例)。
・ 即ち申立人が満足しない場合に対応するため、制度には上 訴形式を備える。当該地域に信頼に足る制度が存在する場 合、地域への上訴が最も適切である。これが有効でなく利 用できない場合、複数利害関係者のイニシアティブまたは OECD行動指針の連絡窓口が上訴先の役割を果たす。連絡 窓口に関する情報はセクション6.2を参照。
利用可能性:
使用を意図するすべての 利害関係者グループに知 られ、特にアクセスの障 壁に直面する人々に適切 な支援を提供する:
・ 制度の存在を十分周知する。
・ 苦情記録の形式が明確でシンプルである。
・ 苦情を報告する際に地域で支援が提供される。
・ 読み書きレベル等の教育水準に注意を払う。特に、識字率 が低い衣類・履物セクターに該当する。
・ 言語の障壁に説明責任を負う。特に移民労働者が採用され るか、少数集団を表す労働者が異なる言語を話す衣類・履 物セクターに該当する。
・ 制度の連絡先を複数設置する。企業代表者は唯一の連絡先 ではなく、申立人は少なくとも1つの独立したアクセス先 を利用できる。労働組合がアクセス先の場合、プロセスは 非組合員にも開かれるか、または追加アクセス先を設け る。特に、労働者と経営層の間に大きな力の不均衡がある 衣類・履物セクターに適切である。
基準 構成要素の例
予測可能性:
各段階に要する時間枠が 明示された明確で既知の 手順、利用可能なプロセ ス の 種 類 と 結 果 の 明 確 さ、モニタリング実施方 法を提供する。
・ 事前に所要時間を提示する。
・ プロセスの各段階で申立人に知らせる。
・ すべての苦情を真摯に処理する。
・ 合意した結果を実施するための手順に合意する。
公平性:
不当に扱われた当事者が 苦情処理プロセスに公平 に、十分に情報を与えら れ、丁寧に扱われる状態 で関与できるよう、必要 な情報源、助言及び専門 知識に合理的にアクセス できる。
関係者は関連情報にアクセスでき、当事者間で情報や知識に アクセスする際の不均衡に配慮する。特に、労働者と経営層の 間に大きな力の不均衡が存在する衣類・履物セクターに適切 である。
透明性:
苦情を申し立てる当事者 に そ の 進 展 を 知 ら せ 続 け、制度の履行に関して 十分な情報を提供し、そ の効力への信頼を築く。
・ 申立人にそのプロセスの各段階で知らせる。
・ すべての苦情を真摯に処理する。
・ 同意した結果を実施するための手順に合意する。
対話: 企業と、影響を受ける当事者または彼らの代表者の間で、対話 を通じて苦情を解決する。
6.2 正当なプロセスを通じて提起される苦情の聴取と取組への努力
企業は、企業が悪影響を起こすかその原因となっている場合、悪影響を改善するか改善 に協力するよう期待される31。
サプライチェーンに関連するこのプロセスを円滑化するために、企業がサプライチェー ンに起こしたかまたは原因になったことについて、正当なプロセス(救済措置の提供を 通じたプロセスを含む)を通じて提起される苦情を聴取し、取り組むことが奨励される。
苦情は、実質的かつ具体的で、企業がサプライチェーンに影響を起こしたかその原因と なったことを明らかにすべきである(企業がそのサプライチェーンの害悪に関わってい るという苦情の明確化)。
31 OECD行動指針、IV、6。
「正当なプロセス」とは次を含む。
● 影響を受ける利害関係者または利害関係者の代表者が企業に苦情を提起できる。
● 司法と非司法機構の役割、労働紛争に取り組む労働組合の役割を含めて、地方 の苦情処理制度の役割を損なわない。
● 信用できる当事者が管理する。
以下に企業が実際に行う例を述べる。
● サプライチェーンにおける企業行動に関して、労働組合、市民社会及び影響を 受ける当事者が、企業に関する苦情を提起できる苦情処理制度を設立する。
● サプライチェーンの苦情処理制度を(例えばメンバーとして)提供する複数利 害関係者に関与するか、または、企業に対して正当な苦情を提起する複数利害 関係者との調停に同意する(複数利害関係者についての詳細情報は下記参照)。
● 例えばグローバルな枠組み協定を通じて労働組合と協定を結び、企業の慣行が そのサプライチェーンの害悪を起こすか原因になっているという苦情を、改善 を目的として労働組合が企業に提起できるプロセスを樹立する。
● OECD行動指針の手続きに基づき、各国連絡窓口が問題が事実であると判定し た場合、OECD 連絡窓口と調停に入ることに同意する。詳細情報は下記参照。
ボックス8. 早期警告システムと改善促進プロセスとの区別 早期警告システムと改善促進プロセスとを区別することが重要である。
● 早期警告システムの目的は、企業やそのサプライチェーンにおけるリスク(または 実際の影響)を特定することである。例えば、企業は労働者ホットラインを設け、
労働者が建物の安全に関する懸念を提起する機会を与える。
● 改善プロセスの目的は、被害者へ救済措置を提供することである。例えば、労働者 は、不当解雇に対して経営者に苦情を提起できる。その労働者と企業は、適切な救 済措置(例:復職、補償等)を決定するために一堂に会する。
苦情処理制度等のシステムは、早期警告システム及び改善プロセスの両方として運営で きる。システムが、早期警告システムとしてのみ作動するか、または改善を提供できるプ ロセスでもあるかを決める場合、企業は救済措置を提供する目的上、被害当事者と、その 害悪を引き起こしたか原因になった当事者とを引き合わせるかどうかを考えるべきであ る。