第 3 節 結果と考察
2.3 インタビューの実施方法
7章 日本人職員が捉えた外国人介護人材とのコミュニケーション
第1節 調査目的
本章では介護現場のコミュニケーションについて、日本人職員が外国人介護人材とのコ ミュニケーションをどう捉えているかをインタビューにより明らかにし、コミュニケー ションを円滑に進める上でどのような点が重要になるか考察を行うことを目的とする。
第2節 研究方法
本稿では、構造構成的質的研究法(SCQRM、西條2008、西條2015)に基づき、イ ンタビューデータをSCAT(大谷 2008、大谷 2011)の枠組みで分析することにした。
2.1 調査協力者
インタビュー協力者は、異なる施設に在籍する日本人職員4名(男性)である。彼ら は外国人介護人材と共に働く経験を有する。現在は介護主任(1名)、副施設長(2名)、
施設長(1名)のポストに就いている。6章の観察を行った施設では協力者が1名のみ であったため、介護の仕事に従事している知人の紹介を受け、さらに異なる施設に在籍 する3名にインタビューの協力を得た。
2.2 半構造化インタビューの質問項目
6章の観察結果ならびに先行研究をふまえ以下のとおり質問項目を設定した。
その項目とは①日々忙しい介護現場で、職員同士ゆっくり話をする時間はあるか、② 外国人介護人材の施設着任当初のコミュニケーションはどうだったか、③業務でコミュ ニケーションを行う際にうまく伝わらない、やり取りが通じてないなど感じたことがあ るか、ある場合はそのときの状況とその原因をどう捉えているか、一方コミュニケーシ ョンがうまくいったと感じたことはあるかの3点である。これらの質問を基本とし、質 問に対する協力者からの回答を受け、さらに回答内容に関し聞きたい点について聞き、
内容を深めていくように努めた。
月下旬である。
2.4 インタビューデータの分析手続き
本稿ではSCQRM(西條2008、西條2015)に基づきSCAT(大谷2008、大谷2011)
を用いてインタビューデータを分析した。
その分析手続きは「マトリクスの中にセグメント化したデータを記述し、そのそれぞ れに、<1>データの中の着目すべき語句<2>それを言い換えるためのデータ外の語 句<3>それを説明するための語句<4>そこから浮き上がるテーマ・構成概念の順に コードを考えて付していく4ステップのコーディングと、<4>のテーマや構成概念を 紡いでストーリーラインを記述し、そこから理論を記述する手続きとからなる分析手法 である。」(大谷2011:155)。本稿ではSCATの分析手続きに則り4名のインタビュー データを各々分析し、紡いだストーリーラインから各々の理論記述を作成した。理論記 述とはストーリーラインを分割し、示したものである。またここでの理論とは、普遍的 なものではなく、データに即して言えることを示す(大谷2011:159)。
SCATは分析手続きが可視化できるツールであり、用いることにより読者に研究の妥 当性判断の材料を示すことができる。さらに本稿のような少数データを扱う研究であっ ても理論化が可能であるとされる。またSCQRMに基づきSCATを用いることで、生 成した仮説を類似した条件下に当てはめ、応用していくことも可能となるため採用する ことにした。以下の表4に実際の分析手続きに用いたSCATの一例を示す。
表4 SCATによる実際の分析の一例
2.5 倫理的配慮
本稿はインタビュー協力者に対し倫理的配慮を行っている。インタビュー開始前、口 頭および書面にてインタビューの趣旨を説明し、同意を得た上でインタビューの実施な らびにICレコーダーの録音を行った。インタビューデータは細心の注意を払って厳重 に管理し、個人が特定されるような記述は一切行わないようにした。
第3節 結果と考察
SCAT の分析手続きに則りインタビューデータを分析し各個人のストーリーライン と理論記述を作成後、各々の理論記述の内容から類似しているものはカテゴリーにまと めていった。またインタビューデータからうまくいかなかったやりとりの具体例を抽出 し、カテゴリー化した理論記述と具体例を合わせ総合的な結果図を作成した。以下3.1 ではストーリーラインと理論記述を、3.2ではうまくいかないと感じたやりとりの具体 例を、そして3.3では結果図を見ていく。
3.1 分析の結果得られたストーリーラインと理論記述
SCAT の分析手続きにより得られたインタビュー協力者各々のストーリーラインな らびに理論記述を以下に示す。個人の特定を防ぐため、各々のインタビュー協力者をA、
B、C、D とする。まずストーリーラインから示す。ストーリーラインに見られる下線
部は、SCAT による分析の結果生成された<4>テーマ・構成概念である。ストーリー ラインを示したのち、続いて理論記述を示す。
本稿では語られたインタビューデータには半構造化インタビューの形式でもあるた め様々な内容が含まれる。例えば B のストーリーラインに見られるように国家試験対 策などの話題が含まれるといった具合である。しかし本稿ではコミュニケーションをど う捉えているかを明らかにすることが目的であるため、SCQRMに基づき理論記述を記 す際には、ストーリーラインから目的に即した内容のみ選択し記述することにした。
【Aのストーリーライン】
施設着任当初の候補者の日本語力は驚きと感心に値し、自然だと感じたが、言葉につ いては着任当初、方言も加わる二重の苦労も見られた。時間不足で勉強時間もほとんど なかったが、人的リソースの活用により現場と学習の結びつき、理解の深まり、日本語 表現力の向上がみられ、候補者にプラスとなったと考えている。一方で、日本語の理解 不足で、理解のズレ、ミスコミュニケーションもあった。これは施設着任時に限らず長 期に及ぶズレである。すぐ確認をとるようにし、繰り返し、何度も伝えるものの、確認
の術なしゆえに理解度への不安、不安感が残った。また、候補者の感情の伝わりにくさ、
感情の見えにくさも、理解度への不安が生じる。このような理解のズレ、ミスコミュニ ケーション、解釈のズレは、共通背景の不在によるものと捉えている。日本人ならば背 景の共有ができ、安心だが候補者とはそうはいかない。実際仕事では自分スタイル維持 がトラブルの元となったり、日本語のアクセントによる誤解も起きたりした。非言語要 因により、ミスコミュニケーションが起きたと言える。
候補者とのコミュニケーションにおいて、理解度への不安、不安感があるため、確実 な伝達をしたいと考えるがノウハウが不在である。そのため理解可能な手段、媒介語が 必要と考えている。ここには言葉でのコミュニケーションへのこだわりが見られ、言葉 を絶対視、必須要素である言葉という見方が根底にある。現場では利用者と非言語コミ ュニケーションも行われているが、利用者とは違う立場であり、言葉への依存が窺がわ れる。
ことばがネックであると、距離感ある付き合い、すなわち仕事だけと割り切った関係 となる。結果コミュニケーション機会の減少となり、縮まらない距離間のままである。
逆に言葉ができればコミュニケーション機会の増加となる。
そもそも候補者が外国から来たという心理的なハードルや構え、接し方への戸惑いが ある。日本語の間違いなどは指摘することへの戸惑いも感じている。候補者に関する学 習不足とも自覚しており、日本語力不安、時間不足、機会のなさも相まって面倒と感じ、
コミュニケーションに非積極的となる。
力不足を感じながらも勉強会の必要性、対応マニュアルの必要性を感じ、向上してい きたいと考えている。それは他者理解、配慮などの異文化学習であり、多文化共生の学 びの必要性を感じている。学ぶことで不安、構えの軽減につながると考えている。
【Aの理論記述】
a) 感情が伝わりにくかったり日本語での内容理解にずれが生じることによるミスコミ ュニケーションが起きたりすることがある。確実に伝えたいが伝えたことを確認す る術・ノウハウがないため、候補者が理解できたかどうか不安が残る。
b) 日本の社会や日本語に関する共通背景の不在といった、非言語要因によるミスコミ ュニケーションも起こる。
c) 言葉でコミュニケーションを行おうとする意識が強い。
d) 認知症の利用者とは非言語コミュニケーションが大切であるが、候補者と利用者で は立場も異なるため、言語コミュニケーションへこだわるところがある。
e) 日本人職員に候補者と接する心理的なハードルや構えがあったり接し方に戸惑いが ある。
f) 現場が忙しくまた言語コミュニケーションを重視しているため、通じないかもしれ ないと思うと候補者とのコミュニケーションに非積極的となり仕事以外のやりとり は疎遠となる。
g) 異文化学習、他者理解、多文化共生の学びといった勉強や対応マニュアルが必要で ある。
【Bのストーリーライン】
候補者とのコミュニケーションについて、言葉に焦点を当ててみると、施設着任前研 修の期間が長くなってからは、日常会話などスムーズになった一方、業務の言葉はまだ まだで、リソースの利用によるどうにかこうにかのやり取りであった。OJT で習得で きるものもあるが、特に内容に関し、そもそも相手に概念の欠如が見られた場合、理解 が困難となり、伝えにくい。加えて伝える術なし、工夫のしようがないことによるもど かしさがあった。このことは迷える試験対策でも同様に見られた。また当時は現場が忙 しく候補者は欠かせない人材であったため、国家試験対策など勉強は後回しとなった。
学習リソースを活用するものの、自律学習となり、候補者に任せっぱなしであった。学 習リソースの充実につれ、まかせっぱなしから確認まで可能となった。その結果学習が 充実し、現場でも理解の促進が見られるようになったという。
言葉の面では大変な面もあったが、受け入れについて肯定評価をしている。候補者は 現場において必要とされる存在、ありがたい存在であり、欠かせない人材であった。
候補者と日本人職員には、待遇差が存在する。それにもかかわらず互いの立場承認、
対等な関係でいられたのは、日本人職員に刻まれた候補者の強烈な好印象による。これ は次に着任する外国人介護人材にも波及効果として表れ、外国人介護人材に対する好印 象が持続した。他方日本人職員も候補者に敬意を示し、相手への思いやりを持ち接して きた。職員同士の仕事外のつながりも生まれ、成功体験としてとらえている。
コミュニケーションにおいて大切にしている点として、日本人職員も外国人職員も分 け隔てなく同等に対応するようしている。ただ候補者に対しては仕事外の機会で、でき るところから積極的にコミュニケーションを取っていくようにした。このような積み重 ねにより、候補者に信頼・安心してもらえ、候補者にとってお父さん的存在となり自分 の喜びとして感じている。また候補者にもコミュニケーションしようとする姿勢が伝染 したと考えている。アプローチの成功による信頼関係の育成、関係づくりの成功が円滑 なコミュニケーションに繋がっていくと捉えている。