抗菌薬治療は,地域のアンチバイオグラム(感受性パターン)に大いに依存する。腸内細菌科の抗菌薬耐性 が,市中発症の腹腔内感染の患者に出現していることが広く報告されている(OS)29,31 〜 37),(CPG)30)。特に ESBL 産生菌,カルバペネマーゼ産生(例,メタロベータラクタマーゼ,非メタロベータラクタマーゼ)グラ ム陰性桿菌(OS)38 〜 42)は,急性胆管炎・胆囊炎を含む腹腔内感染の患者の抗菌薬の初期治療に大きな影響を 及ぼしている(CPG)43)。
抗菌薬の初期治療を選択する際に,尿路感染以外の検体からの ESBL 産生菌,カルバペネマーゼ産生菌の 発生率に注意する必要がある。世界の 116 施設を含む前向きコホート研究では,96 株の大腸菌のうち,
16.7 %が ESBL 産生菌であったことを報告している(OS)44)。
しかし,ESBL 産生菌の割合は,地域ごとに異なっており,31.2 %のドイツの 2 施設(OS)45),70 %の韓国 の大学医学センター(OS)46),66 %のインドの大学病院(OS)47)と報告がある。カルバペネム耐性菌の蔓延率 に関しては報告が少なく,特に急性胆管炎・胆囊炎の患者においてはほとんど報告がない。韓国からの報告 で,胆汁から分離された菌で 376 株中 13 株(3.5 %)と報告がある(OS)48)。
Tokyo Guidelines 2018(TG 18)は,急性胆管炎・胆囊炎の国際診療ガイドラインであり,表 3 に抗菌薬の クラス別に使用に適切な抗菌薬を掲載している。表 3 は,システマティックレビューされた文献および
To-kyo Guidelines 改訂委員会において再評価された。この表の内容についてはガイドライン改訂にあたり,表を 変更する新しいエビデンスは認められなかったため TG 13 を継続している。表 3(CPG)1)は市中発症および 医療関連急性胆管炎・胆囊炎の患者の治療に適切な抗菌薬を掲載している。
地域のアンチバイオグラムをモニターし常時更新することは,臨床現場で時期を逸することなく効果的な治 療を提供するためには極めて重要である。TG 18 では,各施設の細菌検査室が胆道感染およびその他の腹腔内 感染を含む感染部位別の抗菌薬耐性データを院内で提供することを推奨する。もし,耐性率が 20 %を超えて いる場合には,耐性菌に対する初期治療を開始することを推奨する(CPG)49)。つまり耐性菌を初期治療の段 階から想定した初期治療を推奨する。特にアンピシリン・スルバクタムは,感受性率が 80 %以上の地域では 使用できるが,世界の多くの現場では感受性率の低下が報告されている。アンピシリン・スルバクタムは,感 受性が判明してから最適治療薬または標的治療薬として使用することができる。
表 3 急性胆管炎・胆囊炎の推奨抗菌薬(抗菌薬の記載順は推奨順位を示すものではない)
市中感染 医療関連感染a
重症度 Grade Ⅰ Grade Ⅱ Grade Ⅲa 抗菌薬b
ペニシリン 系薬を基本 として
スルバクタム・アンピシリ ンb(ユナシン SⓇ)は耐 性率が 20 %以上の場合,
推奨しない
タゾバクタム・ピペラシリ
ン(ゾシンⓇ) タゾバクタム・ピペ
ラシリン(ゾシンⓇ) タゾバクタム・ピペ
ラシリン(ゾシンⓇ)
セファロス ポリン系を 基本として
セファゾリン(セファメジ ンⓇ)c or セフォチアム(パ ンスポリンⓇ)c or セフォタ
キシム(クラフォランⓇ)
or セフトリアキソン(ロ セフィンⓇ) or
cefuroximec
±メトロニダゾール(アネ メトロⓇ)d
セフメタゾール(セフメタ ゾンⓇ)c or フロモキセフ
(フルマリンⓇ)c
スルバクタム・セフォペラ ゾン(スルペラゾンⓇ)
セフトリアキソン(ロセ フィンⓇ) or セフォタキシ ム(クラフォランⓇ) or セ フェピム(マキシピームⓇ) or セフォゾプラン(ファー ストシンⓇ)
or セフタジジム(モダシ ンⓇ)
±メトロニダゾール(アネ メトロⓇ)d
スルバクタム・セフォペラ ゾン(スルペラゾンⓇ)
セフェピム(マキシ ピームⓇ)or セフタジジム(モダ シンⓇ)
or セ フ ォ ゾ プ ラ ン
(ファーストシンⓇ)
±メトロニダゾール
(アネメトロⓇ)d
セフェピム(マキシ ピームⓇ)or セフタ ジジム(モダシンⓇ) or セ フ ォ ゾ プ ラ ン
(ファーストシンⓇ)
±メトロニダゾール
(アネメトロⓇ)d
カルバペネ ム系を基本 として
Ertapenem Ertapenem イミペネム・シラス
タチン(チエナムⓇ) or メロペネム(メロ ペンⓇ)
or ドリペネム(フィ ニバックスⓇ)
イミペネム・シラス タチン(チエナムⓇ) or メロペネム(メロ ペンⓇ)
or ドリペネム(フィ ニバックスⓇ) モノバクタ
ム薬を基本 として
推奨なし 推奨なし アズトレオナム(ア
ザクタムⓇ)
±メトロニダゾール
(アネメトロⓇ)d
アズトレオナム(ア ザクタムⓇ)
±メトロニダゾール
(アネメトロⓇ)d ニューキノ
ロン系を基 本としてe
シプロフロキサシン(シプ ロキサンⓇ)or レボフロキ サシン(クラビットⓇ) or パズフロキサシン(パ
シルⓇ)±メトロニダゾー
ル(アネメトロⓇ)d モキシフロキサシン(アベ ロックスⓇ)
シプロフロキサシン(シプ ロキサンⓇ)or レボフロキ サシン(クラビットⓇ) or パズフロキサシン(パ
シルⓇ)±メトロニダゾー
ル(アネメトロⓇ)d モキシフロキサシン(アベ ロックスⓇ)
(Tokyo Guideline 2013(TG 13)Table 3 より改変引用1)) メトロニダゾールの静脈注射薬(アネメトロⓇ)は保険承認された。モキシフロキサシン(アベロックスⓇ)は胆道感 染症に対しては適応未承認であるが,二次性腹部感染,大腸菌,クレブシエラ,プロテウス,エンテロバクターに適 応がある。Cefuroxime, Ertapenem は国内未承認。
a: バンコマイシン(塩酸バンコマイシンⓇ),ダプトマイシン(キュビシンⓇ)は grade Ⅲの市中感染と医療関連感染
において腸球菌感染に対して推奨する。リネゾリド(ザイボックスⓇ),ダプトマイシン(キュビシンⓇ)は医療関
連感染において VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)を保菌している場合,バンコマイシンによる治療歴がある場 合,もしくは施設・地域において VRE が流行している場合に推奨する。
b: ほとんどの大腸菌はスルバクタム・アンピシリンに対して耐性であり北米のガイドラインから除外された43,49)。
c: 地域の感受性パターン(アンチバイオグラム)を考慮して使用する必要がある。
d: 抗嫌気性作用のある薬剤(メトロニダゾール,クリンダマイシンなど)は胆管空腸吻合が行われている場合に推奨
する。カルバペネム系薬,タゾバクタム・ピペラシリン(ゾシンⓇ),スルバクタム・アンピシリン(ユナシン SⓇ),
セフメタゾール(セフメタゾンⓇ),フロモキセフ(フルマリンⓇ),スルバクタム・セフォペラゾン(スルペラゾンⓇ)
も同様である。ただし,クリンダマイシン(ダラシン SⓇ)に対してBacteroides属の多くが耐性を示している。
e: フルオロキノロン系薬は分離菌が感性である場合かβラクタム薬に対してアレルギーがある場合に推奨する。