第3回
ミツバチの生産物とその利用
図1:アラニア洞窟の壁画 B.C. 6000年頃
図2:エジプトの壁画 B.C. 2600年頃
『大日本農史*』によれば、養蜂の始まりは「日本書紀」の皇 極二年(643年)のくだりに出てくる「百済の太子余豊、蜜 蜂の房四枚を持って三輪山に放ち、養う。」と記されており、
平安時代には宮中への献上品をまとめた「延喜式」の中に蜜 の献上の記載あり
蜂蜜は、当時、主に神饌(しんせん:供物)用、薬用
*明治15年4月に農商務卿が本朝農書編纂の創意を太政大臣に上 申してから8年をかけて「大日本農史」は編纂された。
1.蜂蜜
蜂蜜とは 「ミツバチが植物体上から集めたもの」
アブラムシが分泌するいわゆる“甘露”*も含まれる。
外勤バチ 内勤バチ 自分の蜜胃中の花蜜を
口吻(コウフン)に伸展させながら
羽であおいで+巣の熱(ハチの代謝熱)
水分を20%以下に減らして貯える これらの操作の間に、 下咽頭線 から
α―グルコシダーゼ が加えられて
ショ糖 が ブドウ糖 と 果糖(フルクトース) に分解される。
蜜胃 下咽頭腺
(花蜜などの糖分を口移し)
蜂蜜中の酵素 (100gあたり100mg〜300mg含まれる)
ハチが体内で産生し分泌するもの
・α-グルコシダーゼ (スクロール分解酵素) のほかに
・グルコースオキシダーゼ
ハチミツの表面で空気中の酸素を過酸化水素に還元し、抗菌剤として作用する
・ジアスターぜ
デンプンをデキストリンやマルトースに分解する
熱に弱いため、人為的な加工が施されている指標とされることもある 長期貯蔵で減少する
植物起源(花蜜や花粉)のもの (ごく微量)
・β-フラクトフラノシダーゼ ショ糖を分解する
2.花粉
蜂の保存食
外勤バチの体毛についた花粉
蜜で練り合わせて、後脚外側の 花粉かごに 丸めて積み込む
花粉だんご 内勤バチが頭でプレス、
乾燥して貯蔵 蜂パン
(1群(コロニー):10~40㎏/年) タンパク質・脂質・ビタミン・ミネラル源
・ポリネーション用に利用 (人手で集めるより効果的)
・健康食品 (超音波破砕などして人の吸収効率を上げる必要性)
・薬用 ex.スエーデンのセルニルトン錠
(前立腺障害の治療薬)
巣房に運ぶ
3.プロポリス
セイヨウミツバチがポプラなどの植物から樹脂などを集め、
巣を守るため(防腐剤)に利用していたもの
別名:蜂ヤニ
構成成分 150種類以上 主要成分
・フラボノイド類 (抗菌活性)
・フェノールカルボン酸類 (抗菌活性)
・抗腫瘍性テルペン類
(カフェイン酸フェネチルエステル・アルテピリンC* など)
・水容性画分の含まれる様々な活性成分 用途: 民間療法で 古来医用・薬用として
消毒抗炎症性薬剤 ex.火傷用スプレー剤 点眼薬・鎮静剤・化粧水
など
ex. NFkB活性阻害機能など
4.蜂ろう
ミツバチの巣はワックスでできている
羽化後 12-18日の働きバチの腹部に発達した ワックス腺からの分泌物 少ない生産量
◎炭素数 24-32 の長鎖のアルコール
+ 結合した複雑な組成のエステル
16-18 の脂肪酸
◎最大の用途 化粧品(融点が高くしっとり感・乳化性有)
コールドクリーム(乳液・保湿剤) ・口紅
欧米では 教会用のロウソクにも多く利用される その他 薬品・ガム・クレヨン
床・自動車用ワックス・靴クリーム
高分子樹脂滑剤・セラミック離型剤 など
蝋(ワックス)腺
5.ローヤルゼリー (乳白色なので王乳とも呼ばれる)
王台
羽化後3-12日頃の若い働きバチ
・頭部の 下咽頭腺 と 大あご腺 で生成
・水分 66% 糖質 15% タンパク質 11% 脂質 7% 灰分 約1%
生活習慣病・神経系疾患などへの効果が報告 デセン酸などいくつかの有効成分
6.蜂児 食用(タンパク質源)
7.蜂毒
日本でも毎年死亡例(ハチに刺されて)
蜂毒を集めて RAST法(radio allergo sorbent test)
(アレルギー体質者の発見)
成分 : ヒスタミンなどのアミン類 (痛みを起こす)
メリチン・ホスホリパーゼなどの酵素
(溶血や炎症)
MCD-ペプチド(アミノ酸22個) (痒み)
must cell degranulating peptide 即時型アレルギー反応
8.フェロモン類
社会性昆虫としてのミツバチ
フェロモンを用いた情報交換 特に 女王物質 (大顎腺)
9-オキソデセン酸を中心とする物質群
①女王バチが雄を誘引 (性フェロモン)
②働きバチの卵巣発育を抑制 (階級分化フェロモン)
(その他)
働きバチのナサノフ腺分泌物・・・・集合フェロモン活性 応用可能 (ex.特定の花への誘引)
ナサノフ腺 大あご(顎)腺
R.A.モースは、“公害とたたかうミツバチ”という 論文の中で、「蜜 蜂は人間がふだん生活してい る状態よりもはるかに混み合った 条件のもとで 集団生活をしているが、自らの環境を清浄化し、
自らの貯蔵食品(ハチミツと花粉)を安全に保存 しうるように、他 からの寄生者や病原菌の侵入を巧みに防いでいる」 と指摘して いる。
R.A.モース:サイエンス、2、77(1972)
1971年から2006年にかけ、米国における野生種のミツバチ数が激減(今ではほとんど 存在しない)し、養蜂家の保有しているミツバチのコロニーが減少した。これは、都市化や 農薬の使用、アカリンダニ (Acarapis woodi)やミツバチヘギイタダニ (Varroa mites)、商 業養蜂家の撤退などの要因が重なって累積的に減少しているものだが、2006年の終わ りから2007年の始めにかけ、減少率は大きな比率となり、「蜂群崩壊症候群(CCD: Colony Collapse Disorder)」の名称を用いて、突発的なミツバチ失踪現象を表すこと が提唱された。