• 検索結果がありません。

ミツバチ群における内勤蜂と外勤蜂の識別手法の検討

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "ミツバチ群における内勤蜂と外勤蜂の識別手法の検討"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

― 63 ― ミツバチ群における内勤蜂と外勤蜂の識別手法の検討 561 は じ め に 人類は古くからミツバチの恩恵を受けている。ミツバ チが生産する蜂蜜,蜜蠟,ローヤルゼリー等は,我々に 豊かな生活をもたらしており,またミツバチはポリネー ターとしても農業生産に大きく貢献している。一方,農 薬も同じく農業生産において効率よく病害虫や雑草を防 除できるため,農産物の安定生産に欠かせない生産資材 となっている。ミツバチと農薬はいずれも人間の生活に おいて重要な役割を担っているといえる。 ミツバチの活動範囲は広く,巣箱を中心に半径 2 ∼ 6.5 km 程度といわれている(坂上,1983;佐々木,2003)。 そのため,農薬が使用される農地とミツバチの活動範囲 を完全に分けることは容易ではない。このことは農薬の 使用に伴いミツバチが農薬に曝露する可能性を完全にな くすことができないことを意味する。農薬がミツバチへ 及ぼす影響については,古くから議論されている。農薬 の中でも特に殺虫剤には,防除対象害虫だけでなく,ミ ツバチに対する毒性が高いものも多く(JOHANSEN, 1981), そのような農薬の使用にあたっては,農薬のラベルに記 載されたミツバチに関する注意事項の遵守などに留意す る必要がある。 近年,農薬の使用がミツバチ群へ及ぼす影響について 危惧する声が高まっている。このため,農薬とミツバチ が減少する事例との関連を把握することなどを目的とし て,農林水産省は平成 25 年度から 3 年間,農薬による 被害の全国的な発生状況の調査を実施した(農林水産省, 2013)。調査の結果,近年,我が国のミツバチ被害事例 のうち,農薬の関与が考えられる被害の多くで,巣門前 に 1,000 頭以上の死蜂が観察されており,水稲のカメム シ防除に使用される殺虫剤への直接曝露により当該被害 が生じている可能性があることが示唆されている(農林 水産省,2015)。しかしながら,現時点においてミツバ チへの農薬の詳細な曝露経路については解明がなされて いない(農研機構,2014)。 ミツバチは仕事を分業しており,内勤蜂と外勤蜂とで 異なる仕事をしている。農薬の曝露経路は従事する仕事 により異なると考えられるため,曝露経路の全容を解明 するためには,内勤蜂と外勤蜂それぞれについての農薬 の曝露量を解析する必要があると考えられる。 本稿では,家畜として飼育されているミツバチの農薬 使用による被害に関する事例,農薬の曝露経路解明に役 立つミツバチの社会性について概観するとともに,現在 我々が検討しているミツバチの死蜂における内勤蜂と外 勤蜂との識別方法について紹介したい。 I ミツバチと農薬 ミツバチ群は寄生ダニ,病気,異常気象,農薬等様々 な要因で不調になることがある。農薬によるミツバチの 被害は古くから知られており,岡田(1955)の総説による と米国でミツバチの被害が最初に問題となったのは 1870 年のことであり,果樹の害虫駆除で用いられた砒素剤に よるものであった。その後,使用される農薬の傾向の変 化に伴い,被害の原因とされる化合物は異なるものの, これまでに農薬によるミツバチの被害は多数報告されて いる(KNOWLTON et al., 1950;岡田,1963;THOMPSON and THORBAHN, 2009;JOHNSON et al., 2010;農林水産省,2015)。

殺虫剤によるミツバチの被害の兆候は,速効性の殺虫

A Method for the Identification House Bee and Forager in a Colony of Honeybee.  By Keisuke OISHI and Satoru ISHIHARA

(キーワード:ミツバチの分業,農薬被害,殺虫剤,曝露経路)

独立行政法人農林水産消費安全技術センター

ミツバチ群における内勤蜂と外勤蜂の識別手法の検討

石原 悟

(いしはら さとる)

大石 桂輔

(おおいし けいすけ)

(2)

― 64 ― 植 物 防 疫  第 70 巻 第 8 号 (2016 年) 562 剤の場合を除き,巣門入口における苦悶中のミツバチの 存在と死蜂の堆積とされている(JOHANSEN, 1981)。近年, 我が国において農薬の関与が考えられる被害は,その多 くの事例で巣門前に死蜂が堆積していることから,速効 性の低い殺虫剤によるものと推測される。 農薬として使用される殺虫剤の種類は年々増加してお り,殺虫剤のミツバチへの曝露形態は時代とともに複雑 化している(図―1)。ミツバチに対する殺虫剤の毒性の 特質は,殺虫剤の種類や使用方法により異なる。より効 率的な被害低減対策の策定には,それぞれの特性に準じ た曝露実態の検証が重要と考える。 II ミツバチの社会性と農薬の曝露経路 ミツバチといえば一般的に一生懸命に働く姿がイメー ジされるが,ミツバチの群におけるすべてのカースト (階層)で当てはまるわけではない。社会性昆虫である ミツバチは,群単位で行動する生物であることがよく知 られており,カーストによりそれぞれの役割が定められ ている。群におけるカーストは 1 頭の女王蜂,少数の雄 蜂,多くの雌蜂の 3 種類に分化しており,いわゆる 働 き蜂 と呼ばれるのは雌蜂のことである。ミツバチの社 会では①産卵②生殖③育児という三つの機能がそれぞれ ①女王蜂②雄蜂③雌蜂によって分担されている。女王蜂 は交尾後,卵を一生産み続け,雄蜂は交尾を唯一の仕事 とし,交尾以外の仕事は全くせず,巣内で雌蜂に世話を してもらい過ごしている。その他採 活動や幼虫の育児 などほぼすべての仕事は雌蜂が担っている(渡辺・渡辺, 1974)。 雌蜂においてはさらに分業体制が細分化されており, 巣箱内で掃除,育児等を担う内勤蜂と巣箱外で花粉,花 蜜を集める外勤蜂に大別される。雌蜂は羽化後巣内で内 勤蜂として働き,その後日齢に伴い外勤蜂として採 活 動をする(図―2)。この分業の順序は,群の状態や群が 置かれた周辺環境,季節等によって流動的に変化するた め,固定的なものではないが,群の勢いが強く,周辺の 花粉・花蜜源が豊富で活発に採 活動が行われている場 合,日齢と分業の順序は対応することが知られている (渡辺・渡辺,1974)。 農薬によるミツバチの被害の実態を把握するうえで, 雌蜂の分業体制について理解を深めることは重要であ る。分業体制から曝露経路を推察すると,外勤蜂の場合, 農薬散布液の直接曝露,花蜜,花粉からの直接曝露等が 考えられる。一方,内勤蜂は,農薬に直接曝露すること はなく,外勤蜂が集めた花粉や花蜜,または体表に付着 した農薬等,外勤蜂が巣箱に持ち込んだ農薬に二次的に 曝露すると考えられる。このように農薬の曝露経路は外 0 20 40 60 80 100 120 2016 2011 1998 1985 1976 1967 有効成分数 有機リン ピレスロイド IGR カーバメート 天然 ネオニコチノイド マクロライド ネライストキシン フェニルピラゾール ジアミド スピノシン 有機ハロゲン ヒ素 その他 図−1 国内で登録されている殺虫剤の系統別有効成分数の推移* *: 引用文献 4)∼ 9)の情報をもとに作図.なお,殺ダニ剤,殺線虫剤,生物農薬,昆虫性フェロモン剤・誘引剤, 倉庫くん蒸剤は除いて集計.

(3)

― 65 ― ミツバチ群における内勤蜂と外勤蜂の識別手法の検討 563 勤蜂と内勤蜂とで異なると考えられるため,ミツバチ群 への農薬の曝露経路をより詳細に解析するには,外勤蜂 と内勤蜂それぞれの曝露量を明らかにする必要があると 考える。 そこで我々は,ミツバチの被害試料を内勤蜂および外 勤蜂を識別したうえで一頭ごとに残留農薬を分析するこ とが曝露経路解明に有効と考え,ミツバチ一頭を試料と した残留農薬の分析方法の開発および分析に供した試料 の内勤蜂と外勤蜂の識別方法について検討を行っている (大石・石原,2015)。次項ではこのうち内勤蜂と外勤蜂 との識別手法について解説したい。 III 働き蜂の識別手法の検証 内勤蜂と外勤蜂の分業の順序は日齢に対応するため, それぞれを外見の違いから識別することは困難である。 そこで,内勤蜂と外勤蜂との仕事の違いおよび生理的変 化に着目し,識別手法を検討した。 前述の通り,雌蜂は羽化後,内勤蜂として巣箱内で働 く。内勤蜂の体は未発達であることから,花粉を摂取す ることでタンパク源を補給し,体を生理的に完成させる 必要がある。また,巣内の蜂児や女王蜂の となる蜂乳 やローヤルゼリーを体内で生産するためにも,花粉を摂 取する必要がある。一方,外勤蜂は雌蜂の分業の最終段 階であり,体は完成しており,また,蜂児や女王蜂への 給 作業を行わない。そのため,タンパク源を摂取する 必要性がなく,エネルギー源である糖蜜のみを消費する (坂上,1983)。このように,内勤蜂と外勤蜂とでは従事 する仕事や生理状態の違いから摂取する が異なってい る。さらにミツバチは排泄物を巣箱外に排泄するまで腸 内に蓄える性質を持っている(吐山,1997)ことから,腸 管の内容物を比較することで識別ができると考え,体重 に対する腸重量の比率を比較する識別手法を検証した。 図―3 に示す写真は,内勤蜂と外勤蜂の腸管を比較し たものである。内勤蜂の腸管は排泄物で満たされている のに対して,外勤蜂の腸管は縮んでおり,内部に固形物 がないことが確認できる。取り出した腸の重さを計測 し,体重に対する腸重量の比率を比較したところ,内勤 蜂の平均の腸重量の比率は,外勤蜂の 1.65 倍であり,t 検定の結果,両者の間には有意差(p < 0.01)が認めら れた(図―4)。この結果から,腸管の内容物の比較は内 勤蜂と外勤蜂との識別に有効であることが示唆された。 IV 識別手法の分析前処理過程への活用 腸重量の比較は内勤蜂と外勤蜂の識別に有効であると 図−2 雌蜂の日齢に伴う分業体制 内勤蜂 外勤蜂 図−3 内勤蜂(上)と外勤蜂(下)の腸管 25.0 20.0 15.0 10.0 5.0 0.0 腸重量 /体重︵ % ︶ 内勤蜂 外勤蜂 図−4 内勤蜂(左)と外勤蜂(右)の体重に対する腸重量の比率

(4)

― 66 ― 植 物 防 疫  第 70 巻 第 8 号 (2016 年) 564 考えられたが,腸管を取り出す作業は煩雑であるため, 残留農薬分析の前処理作業と併行して実施することは困 難であった。そのため,より簡易に識別可能な方法がな いか検討を行った。 これまで確認した内勤蜂の腸管の内容物はすべて黄色 ∼褐色を呈していた。ミツバチ一頭を試料とした残留農 薬の分析では,精製過程で色素などの除去効果を有する 白色の精製塩を用いている(大石・石原,2015)。腸管 の内容物の色が前処理終了時における精製塩の色調に影 響を及ぼすことが確認されたことから,精製塩の色調の 相違による識別手法を検証した。 検証の結果,内勤蜂を処理した際には,すべての個体 において精製塩に腸内の排泄物由来と思われる黄色の着 色が確認された。一方,外勤蜂の場合においては着色が 認められず精製塩は前処理終了時に白色のままであった (図―5)。精製塩の写真を画像解析し,彩度を指標として 色の鮮やかさを比較したところ,内勤蜂を処理した際の 精製塩の彩度は外勤蜂を処理した際の約 3 倍であり,重 量比による比較と比べ,より有意な差が認められた(p < 0.01)。 したがって,本手法を用いることで,残留農薬分析の 前処理過程で容易に内勤蜂と外勤蜂との識別ができると 考えられた。 お わ り に ミツバチの活動範囲は広く,このことは農薬の使用に 伴いミツバチが農薬に曝露する可能性があることを意味 する。農薬への曝露によるミツバチの被害の軽減のため には,外勤蜂への直接的な曝露のみならず,巣内の内勤 蜂への二次的な曝露等も考慮した,詳細な曝露経路の解 明が,今後必要となると考える。本稿で紹介した内勤蜂 と外勤蜂との識別手法の知見が,近年発生している被害 における曝露経路解明の一助となり,より効率的なリス ク削減対策の策定に役立てば幸いである。 謝辞 本研究を進めるにあたり,ミツバチ試料の採取 にご協力いただくとともにご提供いただいた(一社)日本 植物防疫協会,長岡広行氏,及川雅彦氏に,この場を借 りて深く感謝の意を表します。 引 用 文 献

1) JOHANSEN, C. A.(1981): Honeybee science 2 : 127 ∼ 136. 2) JOHNSON, R. M. et al.(2010): Apidologie 41 : 312 ∼ 331. 3) KNOWLTON, G. F. et al.(1950): Adult Honey Bee Losses in Utah

as Related to Arsenic Poisoning. http://digitalcommons.usu. edu/uaes_bulletins/301/(2016 年 6 月時点) 4) 日本植物防疫協会(1967): 農薬ハンドブック,373 pp. 5) (1976): 同上,504 pp. 6) (1985): 同上,682 pp. 7) (1998): 同上,925 pp. 8) (2011): 同上,689 pp. 9) (2016): 同上,1089 pp. 10) 農研機構(2014): 夏季に北日本水田地帯で発生が見られる巣 箱周辺でのミツバチへい死の原因について http://www.niaes.affrc.go.jp/techdoc/press/140718/(2016 年 6 月時点) 11) 農林水産省(2013): 蜜蜂の被害事例に関する調査・報告につ いて http://www.maf f.go.jp/j/nouyaku/n_mitubati/pdf/130530_ mitubati.pdf(2016 年 6 月時点) 12) (2015): 平成 26 年度蜜蜂被害事例調査結果 http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/nouyaku/pdf/150623-01.pdf(2016 年 6 月時点) 13) 岡田一次(1955): 植物防疫 9 : 22 ∼ 24. 14) (1963): 日本応用動物昆虫学会誌 7 : 259 ∼ 260. 15) 大石桂輔・石原 悟(2015): 農薬環境科学研究会要旨集 23 : 139 ∼ 141. 16) 坂上昭一(1983): ミツバチの世界,岩波新書,東京,221 pp. 17) 佐々木正己(2003): 養蜂の科学,サイエンスハウス,東京, 159 pp.

18) THOMPSON, H. M. and D. THORBAHN(2009): Review of honeybee pesticide poisoning incidents in Europe – evaluation of the haz-ard quotient approach for risk assessment

http://pub.jki.bund.de/index.php/JKA/article/viewArticle/ 140(2016 年 6 月時点) 19) 吐山豊秋(1997): 日薬理誌 110 : 183 ∼ 193. 20) 渡辺 寛・渡辺 孝(1974): 近代養蜂,日本養蜂振興会,岐阜, 726 pp. 内勤蜂 外勤蜂 図−5 内勤蜂(左)と外勤蜂(右)の分析前処理 終了時における精製塩の色調

参照

関連したドキュメント

内的効果 生産性の向上 欠勤率の低下、プレゼンティーイズムの解消 休業率 内的効果 モチベーションUP 家族も含め忠誠心と士気があがる

D-1:イ 自施設に「常勤または非常勤の実地指導

性別・子供の有無別の年代別週当たり勤務時間

〔問4〕通勤経路が二以上ある場合

[r]

 英語の関学の伝統を継承するのが「子どもと英 語」です。初等教育における英語教育に対応でき

第二の,当該職員の雇用および勤務条件が十分に保障されること,に関わって

(募集予定人員 介護職員常勤 42 名、非常勤を常勤換算 18 名、介護支援専門員 常勤 3 名、看護職員常勤 3 名、非常勤を常勤換算 3.5 名、機能訓練指導員