2019年度・線形代数学・同演義II 2019年10月31日
§5 線形写像の表現行列―――授業で扱わなかった問題の解答例
5.4 前問の記号をそのまま用いる.さらに ΞをK2の標準的な基底とする.すな わち
Ξ=[e1,e2], ただし e1 = (1
0 )
, e2= (0
1 )
.
(1) 写像Ψ:V → K2を
Ψ(Y)= ( trY
tr(AY) )
によって定義する.これは線形写像である.基底Σ,Ξに関するΨ の表現 行列T を求めよ.
(2) Ψ◦Φ: V → K2が零写像(定義域のすべてのベクトルを 0に移す写像)
であることを確かめよ.
(3) (2)から直ちにImageΦ⊂ KerΨであることがわかるが,実は
ImageΦ=KerΨ (∗)
が成立する.(∗)を証明せよ.また (∗)を言い換えて,B ∈ M2(K)に対し,
[A,X] = B となるような X ∈ M2(K)が存在するための必要十分条件を述 べよ.
(1) まずEk(k =1,2,3,4)に対しtr(AEk)を求めておくと
tr(AE1)=tr (a 0
c 0 )
=a, tr(AE2)= tr (0 a
0 c )
=c, tr(AE3)=tr
(1 0 d 0 )
= 1, tr(AE4)= tr (0 1
0 d )
= d. したがって
Ψ(E1)= (1
a )
=1e1+ae2, Ψ(E2)= (0
c )
= 0e1+ce2, Ψ(E3)=
(0 1 )
= 0e1+1e2, Ψ(E4)= (1
d )
= 1e1+de2.
ゆえに求める表現行列は
T =
(1 0 0 1
a c 1 d )
.
(2) 2つの方法がある.
第1の方法(表現行列を用いる).基底 Σ,Ξに関するΨ◦Φの表現行列は積T S で ある.なぜなら,ψΣ:V → K4,ψΞ: K2 →K2をそれぞれΣ,Ξの定める線形同型写像 とすれば(ψΞ は実際には恒等写像.ただしここでその事実は関係ない),
ΦS =ψΣ◦Φ◦ψΣ−1, ΦT =ψΞ◦Ψ◦ψΣ−1
で,
ΦT ◦ΦS =(ψΞ ◦Ψ◦ψΣ−1) ◦ (ψΣ◦Φ◦ψ−Σ1)= ψΞ ◦ (Ψ◦Φ) ◦ψΣ−1
だが,ここで左辺はΦT S に等しいからである(ΦT S = ΦT ◦ΦS とは(T S)x =T(Sx)と いうことで,これが成立するように行列の積は定義されていた).そこでT Sを計算す ると
T S=
(1 0 0 1
a c 1 d ) ©
«
0 −c 1 0
−1 a−d 0 1
c 0 d−a −c
0 c −1 0
ª®®®
¬
=
(0 0 0 0
0 0 0 0
)
であり,ΦT S: K4 →K2は零写像である.したがってΨ◦Φ:V →K2も零写像.
第2の方法(直接計算する).まず,一般にtr(AB)=tr(B A)が成り立つことを思い出 す(ここでは A,Bは任意の正方行列).それを踏まえてΨ(Φ(X))の第1成分,第2成 分をそれぞれ計算すれば,
tr([A,X])=tr(AX−X A)= tr(AX) −tr(X A)=0,
tr(A[A,X])=tr(A(AX−X A))= tr(A(AX)) −tr((AX)A)= 0.
(3) はじめに「(2) から直ちに ImageΦ ⊂ KerΨ であることがわかる」という記述に ついて説明しておく.任意に Y ∈ ImageΦ をとると,これはある X ∈ V を用いて Y = Φ(X)と表される.したがってΨ(Y) = Ψ(Φ(X)) = 0であり,Y ∈ KerΨ.ゆえに ImageΦ ⊂ KerΨである.
さて,ImageΦ は KerΨ の部分空間なので,dim ImageΦ = dim KerΨ がわかれば ImageΦ= KerΨを結論できる.
Φについて,前問の(3)で,KerΦがE,Aで張られることがわかっていた.E,Aは 線形独立だから,dim KerΦ= 2である.ところでdim KerΦ+dim ImageΦ=dimV = 4 だから,dim ImageΦ=2が従う.
Ψについて,本問の(1)で表現行列T を求めた.T の第1行と第 2行は線形独立だ からrankT = dim ImageΦT = 2 である.よってdim ImageΨ = 2 でもある.そして dim KerΨ+dim ImageΨ =dimV =4だから,dim KerΨ= 2であることがわかる.
以上でdim ImageΦ=dim KerΨが確かめられたので,ImageΦ=KerΨがわかった.
â 一般に,行列 Aの定める線形写像 ΦA: Kn → Km についてdim ImageΦA = rankAです.
Aを行基本変形により階段型にしたものをA′とするとき,定理5.3の証明で説明したとおり,
dim ImageΦA=(A′の主成分の個数)=rankAだからです.