【解説】
糖質関連酵素の革新的利用 技術・改変技術の開発
本 完 * 1 ,北岡本光 * 1 ,林 清 * 2
有 史 以 前 か ら 人 類 は 微 生 物 を 積 極 的 に 利 用 し,酒,パ ン,
チーズ,ヨーグルトなどの発酵食品を製造しており,酵素の 存在を認識する以前から酵素を積極的に活用してきた.近代 社会においても,酵素の精緻かつ多彩な物質変換機能を利用 する酵素利用技術は,新規食品素材や有用物質の効率生産の ためには必要不可欠であり,特性の優れた酵素の検索・改良 がたゆまなく実施されている.バイオテクノロジーが進歩し たとはいえ,ようやくタンパク質の人工設計(デノボデザイ ン)が可能となり始めたところであり,活性を有する酵素を デノボデザインするにはほど遠く,アミノ酸配列から酵素の 特性を評価する技術も構築されていない.そのため,天然酵 素,天然酵素を一部改変した酵素,天然酵素を模した酵素か ら,最終的にはスクリーニングによって所望する酵素を選抜 する必要がある.微生物の単離を経ずに,土壌に残存する遺 伝子から酵素をスクリーニングすることも可能となったが,
自然界の酵素にはおのずと限界もあり,新たな手法を検討し た.40億 年 に わ た る 生 物 の 進 化 は,と り も な お さ ず タ ン パ ク 質(酵 素) の 進 化 で あ り,そ の 手 法 は2つ に 大 別 で き る.
第1の手法は遺伝子上の1塩基の変化に起因するものであり,
タンパク質を構成するアミノ酸1残基が変化する.第2の手
法はエキソンシャッフリングなどの遺伝子の相同組換えに起 因するものであり,タンパク質を構成するアミノ酸配列が大 幅に変化する.環境に適応した生命体を維持 ・ 調節するため に,両者の手法が繰り返されタンパク質は進化してきた.第 2の手法はアミノ酸配列が大きく変化し酵素特性にも大きな 変化をもたらすが,生物にとって致死的となる場合も多い.
また,種の壁を超えることはできないことから,高頻繁には 生じなかったと推察される.そこで,第1の手法としてラン ダムシャッフリングの事例,第2の手法として2件のキメラ 酵素構築の事例を紹介する.
ランダム変異導入による酵素の耐熱性向上
酵素の性質改良を行うに当たり,分子設計のできない 多くの場合は遺伝子ランダム変異ライブラリーからのス クリーニングにより行われる.得られる形質が宿主の生 存に影響を与える場合は,培養により有用な変異が導入 された酵素を発現している宿主を選択的に増殖させるこ とが可能であるため比較的簡便に変異酵素を取得するこ とができる.そのため,新たなランダム変異導入法の開 発は,抗生物質耐性にかかわる酵素の改変(構造の類似 した別の抗生物質に対する耐性の取得)を指標に行われ Development of Innovative Application and Modifying Technolo-
gy for the Carbohydrate Relating Enzymes
Mamoru NISHIMOTO, Motomitsu KITAOKA, Kiyoshi HAYA- SHI, *1農業・食品産業技術総合機構食品総合研究所,*2東洋大学
ることが多い.筆者らは過去に抗生物質耐性を指標にし て新規なランダム変異導入法を2種開発している(1, 2)
.
しかしながら多くの酵素の実用的な形質の改変におい ては,宿主の生存に影響を与える条件を設定することが 困難である.その場合は,ランダム変異ライブラリーか ら得られる各クローンを多数培養して酵素を生産させ,
それらの評価を一つひとつ行うことが要求される.評価 数を増やすためには,いかに評価に掛ける手間を減ら す,つまりスループットを高めることが重要である.こ のような場合はランダム変異導入方法の簡便さよりも,
良い形質をもった変異酵素スクリーニングのスループッ トを上げることがはるかに重要である.最近筆者らはラ ンダム変異ライブラリーからのスクリーニングにより母 乳に含まれるビフィズス因子の本質と考えられる二糖ラ クト- -ビオースI (LNB)(3)の調製に用いる酵素である 1,3-
β
-ガラクトシル- アセチルヘキソサミンホスホリ ラーゼ(EC 2.4.1.211, GLNBP,図1
)の耐熱性を20℃以 上向上させることに成功した.これを例に取り,酵素耐 熱性改変への戦略を説明する(4)(図2
).
耐熱性の向上した酵素を見いだすためには,ただひた すら大腸菌(宿主)クローンを培養し酵素を抽出/加熱 して失活状況を数多く調べることが要求される.そこ で,培養数を増やすために96穴マイクロプレート中 200
μ
Lの培地により大腸菌の培養を行った.その際,重要なことは,各ウエルでの大腸菌によるタンパク質生 産性のばらつきが極力小さい条件を見いだすことであ る.最適化した実験条件での酵素タンパク質生産性の標 準偏差は35%であった.
大腸菌体内に生産される酵素の抽出もスループットを 高める必要がある.超音波破砕やビーズによる破砕など 物理的な破砕方法を用いるとスループットの向上が難し い.そこで,酵素の抽出には大腸菌用溶菌試薬(Merck 社製 Bug Buster)を用いた.
抽出酵素の熱失活の検討を行うに当たり,本来ならば 熱処理前後の活性を測定し失活率を算出することが望ま しい.しかしながらその場合1菌体抽出液に対して2回 の酵素活性測定が必要になる.スループットを上げるた めに測定は熱処理後のみ行った.ただし,そうするとタ
O HO
HO OH O
OH
PO- O O-
O HO
HO NHAc
HO
OH
O HO
HO NHAc
OH
OH O
HO
HO OH
OH O
HO
O NHAc
OH
OH O
HO
HO OH
OH O
HO
O NHAc
HO OH
-O PO- O O-
図1■GLNBPの反応
図2■ランダム変異スクリーニン グによるGLNBPの耐熱化の戦略 文献4から許可を得て転載.
ンパク質生産性のばらつきよりも小さな変化は原理的に 検出できないことになる.つまりスループットを上げる ことは,測定精度を犠牲にすることを意味する.そこで 精度が低くても耐熱性向上変異株を取得できる条件作り が重要である.
酵素の熱失活は通常一次反応速度式による.酵素の初 発活性を 0, 熱失活速度定数を とすると,残存活性 は下記の式で表される.なお,活性の半減期は(ln 2)/
で表される.
=
0・e−ktここで半減期が2倍に伸びた酵素を仮定する(図
3
).
酵素の熱処理時間を親酵素の半減期の2倍に設定する と,親酵素の残存活性は25%,変異酵素の残存活性は 50%となりその比は2である.熱処理時間を半減期の6 倍にすると,残存活性はそれぞれ1.6%となるが,活性 比は8にまで上昇する.大腸菌の培養過程で標準偏差 35%程度のばらつきが見込まれることを考えると,活性 比が2倍程度の条件では見落とす可能性が十分考えられ るが,8倍の上昇は検出される可能性が高い.残存活性 を低く設定するほど活性比が大きくなるので,測定可能 な範囲で残存活性を低くする条件設定が有効である.実 際問題として残存活性を1%程度に設定できるとスク リーニングが容易になると思われる.このように実際の スクリーニングを行う前に熱失活条件を十分に検討して おくことが重要である.なお,加熱処理後の活性評価を 行う場合,比活性が大きく低下するものの安定性が向上 するタイプの変異酵素は見落とす可能性があることは考 慮しておくべき点である.GLNBPの評価系では55℃30分加熱条件で残存活性が1%前後であった.なお,酵 素の熱失活は温度に対する感受性が非常に高いため加熱 は恒温水槽中で行った.アルミブロックによる加熱を行 うとよほどの温度均一性が得られない限り加熱ムラによ り加熱処理後の活性評価が困難である.
以上のような条件により,GLNBPのエラープローン PCR法により作製した変異酵素ライブラリーを一人の 労力で8プレート/週程度のペースで熱安定性の評価を 行った.3カ月のスクリーニング期間で約5,000クロー ンの熱安定性評価を行い,172個の熱安定性の向上した 変異酵素候補を取得した.この中には同じ変異箇所を含 む複数のクローンも含んでいた.得られた変異パターン を解析して最終的に熱安定性を向上させる変異点5点を 選抜した.そのうち2点(C236Y, D576 V)は単独の点 変異で10℃以上の熱安定性向上を示した.それぞれの 変異点をほかのアミノ酸に置換して熱安定性を調べたと ころ,C236はYのみ大きな熱安定性の向上が見られた が,D576はV以外にI, L, Mで同程度の安定性上昇が見 られた.2点変異酵素C236Y/D576Vは,65℃まで安定 であり,45℃まで安定な親酵素と比較して20℃の安定 性向上が見られた.
キメラ化による至適温度改変(
β
-グルコシダーゼ)複数酵素の遺伝子を対象にその一部分を置換した酵素
(部分置換酵素,キメラ酵素)を構築し特性を改良する 技術を,セロオリゴ糖をグルコースに分解する
β
-グルコ シダーゼを対象として検討した.対象酵素はFamily3(GH3)に属するが,GH3は糖質加水分解酵素のうちで も非常多く,CAZYデータベースのエントリー数は 5,200件を超えており,さらに6個のクラスターに分類 されている(5)
.最大級でありながらも,立体構造情報は
乏しく,1999年に大麦由来の酵素(HV酵素)(6)が明ら かにされ(α
/β
)8ドメイン,α
/β
サンドイッチドメイン の2つのドメインを有し,2つの触媒残基は2つのドメ インに分かれて存在すること,2010年には耐熱性細菌 由来の酵素(TN酵素)(7)の結 晶構造が解明され,先の2つのドメインのほかにC末端 側にフィブロネクチンTypIIIドメインが存在すること が明らかにされている.特性の異なる細菌由来の
β
-グルコシダーゼ(由来のCg酵素,
由来のAt酵素)を対象に,2種の酵素遺伝子を制限酵 素で切断し得られた断片を接合した.その結果,Cg酵 素遺伝子のC末端側の7%,19%,27%および37%をAt
0 2 4 6 8 10
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
図3■半減期が2倍になった酵素の失活曲線
酵素遺伝子の相当部分で置換した4種類のキメラ酵素遺 伝子を構築・発現させた.得られたキメラ酵素は,Cg 酵素・At酵素の中間的な酵素化学的特性を示した.キ メラ酵素の耐熱性はCg酵素よりも6 〜16℃向上した(8)
.
導入したAt酵素領域が長いほどキメラ酵素の耐熱性が 向上することから,At酵素においては,耐熱性に寄与 する領域が局在するというよりも,酵素全体に分散して いるものと考えられる(図
4
).耐熱性に関与する領域
が広く分散する現象は,キシラナーゼやアミノペプチ ダーゼなどのほかの酵素でも明らかにした(9).また,
Cg酵素・At酵素のアミノ酸配列のホモロジーがわずか 40%でありながらも活性型のキメラ酵素が複数得られ,
耐熱性や基質特異性が変化したことは,1残基置換によ る酵素特性の改変が主流であった分野への影響は大き かった.その後,種々の細菌由来の
β
-グルコシダーゼの 部分置換酵素を18点調製したが,活性型として得られ たものは7点(1/3程度)であり(図5
),研究に着手し
た当初に大半のキメラ酵素が活性型として得られたこと は,ビギナーズ・ラックでもあった.キメラ化と部位特異的置換酵素による至適pH改変
(キシラナーゼ)
酵素反応において,pHは酵素活性を左右する重要な 要因の一つである.pHの変化によって触媒残基の解離 状態が変わってしまうため,通常,酵素反応にはpH緩 衝液を加えることでpHを維持している.酵素が最大活 性を示す至適pHは酵素によってそれぞれ異なってお り,同じ反応を触媒する酵素でも酸性からアルカリ性ま で,さまざまな至適pHを有する酵素が知られている.
筆者らは広い至適pHを有するアルカリキシラナーゼに 着目し,アミノ酸配列の相同性が73%の中性キシラ ナーゼとのキメラ酵素および立体構造情報に基づくアミ ノ酸置換酵素を解析することで,至適pHを改変し,ア ルカリキシラナーゼのアルカリ領域での活性発現機構に ついての知見を得ることができたので紹介する.
キシラナーゼを含む多くの糖質加水分解酵素は2つの 酸性触媒残基(求核残基,プロトン供与残基)によって 基質の加水分解を行っており,酸性領域では求核残基の プロトン化,アリカリ領域ではプロトン供与残基の脱プ ロトン化によって反応速度の低下が引き起こされる.基 質の有無を考慮すると,図
6
に示したような触媒残基の解 離状態が考えられる.これらの酸解離定数を算出するた めに各pHにおける速度論定数を求め,それらを以下に示 す各酸性触媒残基の酸解離定数(p a)による理論式max(pH)
=
max/(10(p es1−pH)
+
1)(10(pH−p es2)+
1)max/ m(pH)
=
( max/ m)/(10(p es1−pH)
+1)
(10(pH−p es2)+
1)図4■キメラ酵素の耐熱性
▲: C g , △: C g 9 2 A t 7 , □: C g 7 8 A t 1 9 , ◇: C g 7 0 A t 2 7 , ○: Cg61At37, ●: At.
図5■構築した各種のキメラ酵素と活性の有無
数字はアミノ酸配列の割合(Cg92At7の場合にはCgから92%,
Atから7%由来).実線の枠は天然酵素,破線の枠は図4に示した キメラ酵素.
で回帰する.これにより,理論曲線はベルジャー型とな り,pH− catプロファイルから基質結合時における求核 残基の酸解離定数p es1およびプロトン供与残基の酸解 離定数p es2を,また,pH− cat/ mプロファイルから は基質が結合していない状態での酸解離定数p e1およ びp e2を導くことができる.なお,キシラナーゼの本 来の基質であるキシランはpHの変化によって程度の異 なる基質阻害を生じ,速度論解析には適していないた め,筆者らは一連の速度解析の基質としてそのような阻 害の見られない合成基質, -ニトロフェニル-
β
-キシロビ オシドを用いている(10).
実際にアルカリキシラナーゼと中性キシラナーゼのこ
れらの値を求め比較すると,p es1およびp e1には違い が見られないものの,アルカリキシラナーゼのp es2お よびp e2はそれぞれ9.39, 8.49であり,中性キシラナー ゼの7.82, 7.62に比べそれぞれ上昇し,特にp es2に大き な違いが認められる(図
7
,8
).このことはアルカリキ
シラナーゼのプロトン供与残基の脱プロトン化が中性キ シラナーゼと比べて起こりにくくなっていることを示唆 しており,p es2とp e2の差(Δ2)が中性キシラナーゼ では0.2であるのに対し,アルカリキシラナーゼでは 0.90と,基質結合時において顕著であることがわかっ た.これらの指標を基にアルカリキシラナーゼのアルカ リ領域での活性発現に寄与するアミノ酸残基の絞り込み を行った.はじめに,中性キシラナーゼの一部をアルカ リキシラナーゼに置換したキメラ酵素の構築を行った.キメラ化の方法としては,オーバーラップPCR法,メ ガプライマー PCR法,制限酵素部位による置換,断片 化DNAの再構築法などさまざまな方法が知られている が,筆者らはその高い相同性を活用してオーバーラップ PCR法で構築した.塩基配列の相同性が高い任意の3カ 所を置換点に設定して酵素を4つのパートに分け,図8 に示したような6種類のキメラ酵素発現プラスミドを作 製した.常法に従い,遺伝子の発現誘導を行い,キメラ 酵素の調製を行ったところ,キメラ1およびキメラ2で は親酵素と同等の活性をもつ酵素の生産が確認された が,残りの4種類については不溶性画分に封入体の生成 が確認され,活性型のキメラ酵素を得ることは困難で あった.このことはキメラ化によって高次構造が崩壊 し,フォールディングがうまくいかなくなる可能性があ ることを示唆している.活性型として得られた2種のキ メラ酵素を精製し,それらのpHに対する挙動を解析し た.その結果,中性キシラナーゼのN末端から182番目 のバリン残基までをアルカリキシラナーゼに置換したキ メラ1ではp es2およびp e2がそれぞれ上昇し,257番 目のアスパラギン酸残基までをアルカリキシラナーゼに 置換したキメラ2においてはさらなる上昇が認められ,
図6■pHによる酸性触媒残基の解離パターン
図7■pH− cat(A),pH− cat/ m(B)プロファイルの比較
●: アルカリキシラナーゼ,○: 中性キシラナーゼ.
図8■キメラ酵素の一次構造模式 図および酸解離定数
Δ2もキメラ1で0.52,キメラ2ではアルカリキシラナー ゼと同等の0.91まで増加することが明らかとなった(11)
(図8)
.これらのことはアルカリキシラナーゼのアルカ
リ領域での活性発現に関与するアミノ酸残基がキメラ化 した部分にほぼすべて存在していること,および至適 pHの改変に関しても耐熱性の向上と同様に加算性が成 り立つことを示唆するものである.つづいて,立体構造情報に基づくアミノ酸置換酵素に よる解析を行った.中性キシラナーゼに関しては結晶構 造解析に成功し,立体構造情報を取得することができた が,アルカリキシラナーゼについては結晶を得ることが できなかった.そこでProtein Data Bank (www.rcsb.
org/pdb/)に登録されている相同性の高い別のキシラ ナーゼの構造を鋳型としてモデル構造を構築することで これを補完した.これらの立体構造を重ね合わせ,キメ ラ化した部分で,かつプロトン供与残基周辺の比較を行 い,p es2およびp e2の引き上げに関与していると思わ れるアミノ酸残基を置換した変異酵素の解析を行った
(図
9
).その結果,中性キシラナーゼの127番目のアス
パラギン残基をセリン残基に,また,第4ループをアル カリキシラナーゼ型に置換した酵素においてp es2およ びp e2の上昇が観察され,これらの置換を組み合わせ た二重置換酵素のp es2はキメラ2には及ばないものの,8.82にまで上昇していた.このようにわずか数アミノ酸 残基を置換するだけで中性キシラナーゼの至適pH範囲 をアルカリ領域に拡大できることを実証した(12)
.どち
らの置換も直接プロトン供与残基であるグルタミン酸残 基と相互作用できる位置にはないものの,セリン残基は 隣の正電荷をもつヒスチジン残基との相互作用を解消 し,正電荷をプロトン供与残基から遠ざけることで p e2の低下を防ぐことが,第4ループはp es2を維持す るのに重要なアルギニン残基(13)の配向性を変化させる ことでp es2を上昇させていることが予想され,プロト ン供与残基近傍の電荷ネットワークがその解離状態に大 きな影響を及ぼすことが示唆された.今後の展望
PCRの進展と相まって,置換部位の特定方法,任意 部位で組換える手法を開発し,
β
-グルコシダーゼ,キシ ラナーゼ,セルラーゼ,アミノペプチダーゼなどの酵素 に適用し100を超えるキメラ酵素を構築し,分子活性を 大きく低下させることなく基質特異性や熱安定性を変化 させることに成功した(14).これらの研究蓄積から,ア
ミノ酸配列の一致率が8割を超えていると酵素特性が類 似しておりキメラ化の妙味が薄らぐし,3割を下回ると 活性型となりにくいため(図10
),アミノ酸配列の一致
率が4 〜7割程度の酵素を対象とすると,興味深い結果 が得られると言えよう.一方,活性型とならないキメラ酵素は,封入体として得 られ,アミノ酸配列に秘められたタンパク質のフォール ディング能が破壊されたものと推察された.そこで,界面
図11■不活性型酵素の活性型へのリフォールディング 図9■活性中心近傍の構造比較
(A)アルカリキシラナーゼ,(B)中性キシラナーゼ.
図10■活性型のキメラ酵素を得る難易度の概念図
活性剤と包摂多糖類を組み合わせた リフォール ディング系を開発した(15)(図
11
).リフォールディングキッ
トは上市されており,フォールディング能は失われていな いが多量発現などのため封入体となったタンパク質には有 効である.しかし,先のフォールディング能が欠失した部 分置換酵素をフォールディングするには至っていない.また,活性型として得られなかった部分置換酵素は,
ごく一部のアミノ酸残基がフォールディングの障壁と なっていることが推定されたので,キメラ遺伝子にラン ダムなアミノ酸残基変位を追加導入することにより,活 性型に変換することに成功した事例もある(16)
.ランダ
ム変異の導入や遺伝子のキメラ化は,酵素の立体構造情 報が得られない場合でも適用できる技術であり,天然酵 素を改変する手法として期待される.文献
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K. Hayashi. : , 486, 131 (2000).
16) S. Nirasawa & K. Hayashi : ., 30, 363
(2008).
プロフィル
本 完(Mamoru NISHIMOTO)
<略歴>1996年帯広畜産大学畜産学部 生物資源化学科卒業/2001年北海道大学 大学院農学研究科博士後期課程修了(農 博)/同年食品総合研究所特別研究員/
2008年農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所任期付研究員/2011年同 研究所主任研究員,現在に至る<研究テー マと抱負>糖質関連酵素によるオリゴ糖生 産に取り組んでいます<趣味>バスケット ボール
北岡 本光(Motomitsu KITAOKA)
<略歴>1985年東京大学工学部反応化学 科卒業/1993年博士(農学)/1995年アイ オワ州立大学博士研究員/1998年農林水 産省食品総合研究所派遣研究員,主任研 究官,研究室長,ユニット長などを経て,
2011年農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所上席研究員,現在に至る<
研究テーマと抱負>糖関連酵素の利用.ヒ トミルクオリゴ糖の食品用途での実用化を 目指しています<趣味>混雑していない公 共交通機関に乗って何もしない時間を過ご すこと
林 清(Kiyoshi HAYASHI)
<略歴>1974年名古屋大学農学部農芸化 学科卒業/同年農林省食品総合研究所入 所/1987年同研究所応用微生物部主任研 究官/1990年農林水産省農林水産技術会 議事務局研究調査官/1992年食品総合研 究所素材利用部資源素材化研究室長/2001 年同研究所応用微生物部酵素利用研究室 長/2005年農林水産省農林水産技術会議 事務局研究開発企画官/2006年同局首席 研究開発企画官/2007年農業・食品産業技 術総合研究機構食品総合研究所企画管理部 長/2010年農業・食品産業技術総合研究機 構理事・食品総合研究所長/2013年東洋 大学食環境科学部長・健康栄養学科教授,
現在に至る<研究テーマと抱負>微生物酵 素の利活用,とりわけ遺伝子レベルでの改 変による酵素特性の改良<趣味>多種多様 な手作り食品の制作,サイクリング