新規スクロースアナログ二糖の酵素利用合成と プレバイオティクスとしての機能性評価
日本大学大学院 生物資源科学研究科 生物資源利用科学専攻 博 士 後 期 課 程
保 坂 浩 貴
2020
序論
1.
機能性オリゴ糖について1-1.
オリゴ糖について1-2.
機能性オリゴ糖の開発背景1-3.
オリゴ糖の機能性1-4.
機能性オリゴ糖と整腸作用1-4-1.
プレバイオティクスとは1-4-2.
腸内環境改善の意義2.
スクロースアナログ二糖(SucNAc)
の合成2-1. N-
アセチルスクロサミン(SucNAc)
の合成2-1. N-
アセチルスクロサミン(SucNAc)
の効率的生産方法3.
研究目的本論
第1章 新規スクロースアナログ二糖の合成 第
1
節 緒言第
2
節 グルコサミンを含むスクロースアナログ二糖の合成1.
結果と考察1-1.
スクロサミンの合成2.
実験方法2-1.
スクロサミンの合成方法2-2.
質量分析方法第
3
節 グルクロン酸を含むスクロースアナログ二糖の合成1.
結果と考察1-1.
糖転移生成物の合成と精製1-2.
糖転移生成物の構造確認1 1 2 4 5 5
6 7 8
9
9
11 11
12
17
1-3. SucAM
によるグルクロン酸含有オリゴ糖の合成と精製2.
グルクロン酸を含むスクロースアナログ二糖の合成 方法2-1.
実験で用いた酵素と活性測定2-2.
スクロース非資化性酵母(Saccaromyces bisuporus NBRC1131)
の培養2-3.
グルクロン酸メチルエステル(GlcAM)
の合成2-4. pH
の異なる溶媒によるグルクロン酸メチルエステルの安定性評価2-5.
スクロン酸メチルエステル(SucAM)
の合成2-6.
転移生成物の精製2-7.
構造確認2-8. SucAM
によるグルクロン酸含有オリゴ糖の合成と精製2-9.
構造確認第
4
節 グルクロン酸アミドを含むスクロースアナログ二糖の合成1.
結果と考察1-1.
糖転移生成物の合成1-2.
糖転移生成物の精製1-3.
糖転移生成物の構造確認2.
グルクロン酸アミドを含むスクロースアナログ二糖の合成方法2-1.
糖転移生成物の合成2-2.
糖転移生成物の精製2-3.
糖転移生成物の構造確認第
5
節 各スクロースアナログ二糖の諸性質1.
結果と考察1-1.
物理化学特性1-2.
胃酸酸性条件下に対する安定性1-3.
ラット小腸アセトン粉末を用いたスクロースアナログ二糖の分解2.
試料の調整と方法24 25 26 26 26 27 27 28 28
29 30 30
32 33 34
34 34
36
2-1.
物理化学特性2-2.
胃酸酸性条件下に対する安定性2-3.
ラット小腸アセトン粉末を用いたスクロースアナログ二糖の分解第
6
節 小括第
2
章 スクロースアナログ二糖のヒト腸内細菌増殖効果 第1
節 緒言第
2
節 結果と考察1.
ビフィズス菌及び乳酸菌のスクロースアナログ二糖に対する資化性試験第
3
節 試料の調整と方法1.
スクロースアナログ二糖を用いた資化性試験1-1.
実験で用いた腸内細菌1-2.
前培養1-3.
資化性試験1-4.
各種分析1-4-1.
増殖1-4-2. TLC
分析1-4-3.
糖残存率の測定1-4-4. pH
測定2.
既存のプレバイオティクスオリゴ糖を用いた資化性試験2-1.
実験で用いた腸内細菌2-2.
前培養2-3.
資化性試験2-4.
菌の成育確認第
4
節 小括36 36 36
38
38
48 48 48
49 49 50 50
50 50 50 51
51
第
3
章 スクロースアナログ二糖の分解に関わる酵素の探索第
1
節 緒言第
2
節 実験結果と考察1.
乾燥菌体によるスクロースアナログ二糖の分解酵素の確認2 . Bifidobacterium pseudocatenulatum
のスクロース及びスクロースアナグ二糖 の分解に関わる酵素の探索2-1. Bifidobacterium pseudocatenulatum
のSuc
添加培養時の酵素の精製2-2. Suc
分解酵素の酵素化学的性質(
至適pH)
の調査2-3. Bifidobacterium pseudocatenulatum
のSucNAc
添加培養時の酵素の精製2-4.
スクロースアナログ二糖分解酵素の至適pH
2-5.
糖の分解調査(TLC
分析) 2-6.
比活性3. Bifidobacterium longum subsp. infantis
のSuc
添加培養時に生産される酵素の 確認4. Bifidobacterium longum subsp. infantis
のスクロースアナログ二糖の分解に関 わる酵素の探索第
3
節 試料の調整と方法1.
乾燥菌体によるスクロースアナログ二糖の分解酵素の確認1-1.
菌体培養および冷アセトンを用いた乾燥菌体の作製1-2.
酵素反応及びTLC
分析2. Bifidobacterium. pseudocatenulatum
のSuc
分解に関わる酵素の抽出・精製2-1.
微生物の培養2-2.
スクロース分解酵素の抽出2-3.
カラムクロマトグラフィーを用いたSuc
分解酵素の探索52
52
54 58 58 62 63 64
64
66
68 68
69 70
70
2-3-1.
タンパク質測定2-3-2.
酵素活性測定2-3-3.
陰イオン交換カラムクロマトグラフィー(TOYOPEARL Super Q-650 S)
を用いた酵素の精製2-3-4.
陰イオン交換カラムクロマトグラフィー(DEAE-Sepharose)
を用いた酵素の精製
2-3-5.
疎水性相互作用カラムクロマトグラフィー(Phenyl-Sepharose)
を用い た酵素の精製2-3-6.
ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーを用いた酵素の精製2-3-7.
ゲルろ過カラムクロマトグラフィーを用いた酵素の精製2-8.
タンパク質の純度確認2-9. N
末端アミノ酸分析による酵素の同定2-10. Bifidobacterium pseudocatenulatum
由来のSuc
分解に関わる酵素の酵素 化学的性質(
至適pH)
の調査3. Bifidobacterium pseudocatenulatum
のスクロースアナログ二糖分解に関わる 酵素の抽出・精製3-1.
微生物の培養3-2.
スクロースアナログ二糖分解酵素の抽出3-3.
カラムクロマトグラフィーを用いたスクロースアナログ二糖分解酵素の探索
3-3-1.
タンパク質測定3-3-2.
酵素活性測定3-3-3.
陰イオン交換カラムクロマトグラフィー(TOYOPEARL Super Q-650 S)
を用いた酵素の精製3-3-4.
陰イオン交換カラムクロマトグラフィー(DEAE-Sepharose)
を用いた酵素の精製
3-3-5.
疎水性相互作用カラムクロマトグラフィー(Phenyl-Sepharose)
を用い た酵素の精製70
71
71
72 72 73 73 74
75
75 76
76 76
77
77
77
78
3-3-6.
ゲルろ過カラムクロマトグラフィーを用いた酵素の精製3-3-7.
タンパク質の純度確認3-3-8. N
末端アミノ酸分析による酵素の同定3-3-9. Bifidobacterium pseudocatenulatum
由来のSuc
分解に関わる酵素の酵 素化学的性質(
至適pH)
の調査3-3-10.
糖の分解性調査(TLC
分析)
3-3-11. Suc
、SucNAc
を基質とした比活性の測定4. Bifidobacterium longum subsp. infantis
のSuc
の分解に関わる酵素の探索4-1.
微生物の培養4-2.
酵素の抽出4-3.
カラムクロマトグラフィーを用いた分解酵素の探索4-3-1.
タンパク質測定4-3-2.
酵素活性測定4-3-3.
陰イオン交換カラムクロマトグラフィー(TOYOPEARL Super Q-650 S)
を用いた酵素の精製5.
スクロースアナログ二糖添加時に培養したBifidobacterium longum subsp.
infantis
が生産する分解酵素の探索5-1.
微生物の培養5-2.
酵素の抽出5-3.
カラムクロマトグラフィーを用いた分解酵素の探索5-3-1.
タンパク質の測定5-3-2.
酵素活性測定5-3-3.
陰イオン交換カラムクロマトグラフィー(TOYOPEARL Super Q-650 S)
を用いた酵素の精製第
4
節 小括第
4
章 結論78 79
80 80 80
81 82
82 82
83
83 84
84 85
85
86
87
4-1.
総括参考文献
序論
1
機能性オリゴ糖について1-1
オリゴ糖についてオリゴ糖とは、糖類の分類上の名称で
Oligo-saccharide
が原語である。少糖類 と訳されてきたが、現在ではオリゴ糖という適用後で、一般にもよく用いられて いる。オリゴ糖は、グルコース、フルクトース、ガラクトースのような単糖類が、2-10
個結合したもので、その結合度によって、二糖類、三糖類などともいわれて いる。また、その結合様式により、還元性オリゴ糖と非還元性オリゴ糖に分類さ れるほか、直鎖オリゴ糖と分岐オリゴ糖にも分類される[1]
。1-2
機能性オリゴ糖の開発背景近年の食用のオリゴ糖に関する研究は、嗜好性からヒトの健康に及ぼす生理 機能特性を対象とする方向に発展してきた。その過程において、数種の特殊構造 ヘテロオリゴ糖に非・抗う蝕性、整腸効果、ミネラル吸収促進効果などの有用生 理機能特性が見出されたことから、それらは機能性オリゴ糖と呼ばれ健康補助 食品として使用されるようになった
[2]
。日本におけるオリゴ糖の研究開発は1970
年代初頭に端を発し、1980
年代に入り、グルコシルスクロース、シクロデ キストリン、フラクトオリゴ糖、およびマルトオリゴ糖をはじめとした種々の新 規オリゴ糖が機能性オリゴ糖として市場に出回るようになった[3]
。このように、世界に先駆けて種々のオリゴ糖生産が可能となった背景には、発酵や醸造など の伝統技術から得られた新しい微生物起源の糖質関連酵素の発見とそれらの利 用技術、オリゴ糖の分離・精糖技術の発展があった
[3]
。パラチノース、フラクトオリゴ糖、ラクトスクロースをはじめ、現在までに数 多くの特殊構造オリゴ糖が酵素反応により生産され、その難消化性の性質から プレバイオティクスオリゴ糖として使用されてきた
[4]
。これらの第一世代の機 能性オリゴ糖のほとんどは、グルコース、フルクトース、ガラクトースの3種類 の単糖の組合せから構成されている。それは、デンプン、スクロース、ラクトースなど、生物が大量に生産し安価に入手できる身近な糖質の利用を基盤として 開発されたことと、これらの糖質に作用する様々な酵素の探索、基礎研究、およ び開発研究が活発に行われ、工業的に利用することが可能になったためである。
1-3
オリゴ糖の機能性[4-8]
オリゴ糖には様々な機能特性があり、一次、二次、三次およびその他の機能特 性に分ける事ができる。
(Table 1)
Table 1
オリゴ糖の機能特性一次機能
消化性、難消化性、エネルギー値など。
二次機能 甘味、苦味、保湿性、水分活性、浸透圧、着色性、熱安定
性、
pH
安定性、粘性、皮膜性、など。三次機能
整腸作用、非・低・抗う蝕作用、血糖値上昇抑制作用、コレ ステロール上昇抑制作用、ミネラル吸収促進作用、インスリ ン分泌非刺激性、免疫賦活作用、抗酸化作用、肝機能改 善作用、アトピー性皮膚炎改善作用など。
その他
酵素特異的基質・阻害剤、エリシター活性、タンパク質のリ フォールディングなど。
一次機能はオリゴ糖の消化性、及び難消化性に関する栄養機能である。栄養表 示基準制度の施行
(
平成8
年5
月24
日)
により、オリゴ糖のエネルギー換算係 数が定められた。 本制度の導入により、食品の表示は栄養成分とその含有量お物理化学的特性 嗜好特性 栄養特性
生物学的特性 生体調節機能
よびエネルギーの表示が可能になった。二次機能はオリゴ糖の物理化学特性と それに基づく嗜好性に関わる分野であり、食品の美味しさと日持ち効果に関係 する諸特性がある。
また、三次機能は生体調節機能などの生物学的特性に関わる分野であり、最近 の新規オリゴ糖開発において特に重要視されるのがこの機能である。以下に機 能性オリゴ糖に関する三次機能の主な例を示す。
・難消化性:消化管では吸収されずに大腸まで到達するオリゴ糖類を、難消化性 オリゴ糖という。これらが腸内細菌に資化されることによって、様々 な生体調節機能が発現する。これらのオリゴ糖は消化管では吸収さ れず大腸に到達し、腸内細菌によって発酵を受け、酢酸、プロピオ ン酸、酪酸などの低級脂肪酸となって吸収され、エネルギーとなる。
・整腸作用:消化吸収されずに大腸まで到達したオリゴ糖は、腸内細菌の栄養源 となる。この腸内細菌の中において、有用な菌の代表となるのがビ フィズス菌であり、ビフィズス菌がこれを資化し、増殖することに よって、腸内の腐敗抑制、便秘や下痢の予防といった整腸にかかわ る効果が発現する。また、ビフィズス菌が有機酸を生成することに よって、腸内環境が酸性に保たれ、ヒトに悪影響を及ぼす菌の増殖 が抑制される。また、ビフィズス菌増殖活性を示す市販オリゴ糖は、
フラクトオリゴ糖、ラクトスクロース、ラフィノース、イソマルト オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖などがあり、この機 能に基いて特定保健用食品としての表示許可を消費者庁より受け、
市販されている商品もある。
・抗う蝕性:う蝕
(
虫歯)
は、口腔内細菌、基質となる食物、歯質の3
因子によ って発生する疾患であるとされている。その発生メカニズムは、食 物と細菌が歯垢を形成し、そこで細菌が増殖し、発酵を行って有機 酸を生成・蓄積し、歯垢やその周辺がpH 5.5
以下となったところ で歯のエナメル表層からカルシウムが溶出する、といった現象が繰 り返されることであるとされる。この対策として歯垢の形成に関わ る酵素(
グルコシルトランスフェラーゼ)
の阻害作用を持つオリ ゴ糖が開発されている。・ミネラル吸収促進作用:難消化性オリゴ糖が腸内細菌に資化されて腸内環境 が酸性化することにより、カルシウムやマグネシウム、
鉄などの吸収が促進されやすくなることが動物実験 で明らかになっている。
1-4
機能性オリゴ糖と整腸作用[9]
整腸作用とは、
1
つ目に便秘・下痢などの便通異常を改善することにより、毎規則正しく便通がある状態を保つことがあげられる。
2
つ目に、ビフィズス 菌や乳酸菌といった腸内の有用菌を増やし、大腸菌などの悪玉菌を減らす作用 のことを示している。近年の研究により、腸内細菌がヒトの健康、老化、疾病 等とも関係していることが明らかになってきたため、改めて腸内環境を整える ことの重要性が考えられている。このような背景から、現在「おなかにやさし い」、「おなかの調子を整える」といった整腸作用を有する機能性食品が数多く 開発・販売されている。上記で示したようにオリゴ糖類には、腸内の有用菌を 増やす効果を有するものが多くあり、これらはプレバイオティクスとして注目 されている。1-4-1
プレバイオティクスとは[10-13]
プレバイオティクスとは、
1995
年にGibson
とRoberfroid
によって定義された 言葉で、「有用菌数の増殖を促進、あるいは、有害菌を抑制することによって、宿主の健康に有利に働く非消化性食品成分」のことを示す
[10]
。オリゴ糖はその 代表格であり、フラクトオリゴ糖やビートオリゴ糖や乳果オリゴ糖といったオ リゴ糖がプレバイオティクスとして利用されている[11]
。有用菌とは、主に乳酸 菌と呼ばれるLactobacillus
属細菌とビフィズス菌と呼ばれるBifidobacterium
属 細菌のことを指す。これらは、ヒトの大腸内に多く存在している[12]
。プレバイオティクスの特徴は、由来の異なる様々な有益菌を生菌で摂取する プロバイオティクスとは異なり、摂取者の腸内常在菌を増殖できることにある。
そのため、プロバイオティクスとプレバイオティクスを合わせて摂取すること で、プロバイオティクスの効果と接種者本来の機能を高めることから、シンバイ オティクスが医療現場などで薦められている
[13]
。1-4-2
腸内環境改善の意義[14-17]
腸は消化・吸収器官としてだけでなく、最大の免疫器官であることがわかって きた。腸は常に外界からの病原菌、毒素、アレルギー原因物質にさらされている
[14]
。そのため、体全体の6
割近い免疫細胞が集結し、腸管免疫系を形成してい る[15]
。腸内細菌は、そうした免疫系を刺激するのに役立っており、腸内で有用 菌が優勢な状態であると、免疫賦活作用だけでなくアレルギーの低減に繋がる と考えられている。しかし、腸内細菌叢は生後は日齢と共に、さらに長期的には 加齢と共に変化する。生後一週間ほどの乳児の腸内は、Bifidobacterium
属が100
% 近く占めているが、乳児の発育が進み、離乳食を取るようになると、成人の腸内 細菌叢に類似してくる[16]
。その特徴は、Bacteroides
属、Eubacterium
属、Peptostreptococcus
属といった偏性嫌気性細菌が最優勢になり、好気性細菌群が減少することである。幼児期から成人までの腸内細菌叢に差異は示さないが、老
人 に な る と 腸 内 細 菌 叢 が 変 化 す る 。 健 康 な 成 人 と 比 べ 老 人 の 腸 内 は 、
Bifidobacterium
属が有意に減少する[17]
。一方で、Escherichia coli
やClostridium
perfrigens
などの悪玉菌が増殖する。このように、年齢と共に悪玉菌が増殖するだけでなく、宿主の生理、病理、気象、ストレスや食生活など様々な要因によっ ても腸内細菌叢は変化する
[16]
。上記のように、悪玉菌がヒトの健康に与える影 響が明らかとなってきた今、腸内環境を整えることで、全体的な健康の増進につ ながると考えられるようになってきている。2
スクロースアナログ二糖(SucNAc)
の合成2-1 N -
アセチルスクロサミン(SucNAc)
の合成[18-20]
平野らにより、サトウキビなどから抽出して得られるスクロース
(Suc)
とカ ニ 殻 キ チ ン を 糖 化 す る こ と に よ っ て 得 ら れ るN-
ア セ チ ル グ ル コ サ ミ ン(GlcNAc)
を含む高 濃度 溶液 に糖 転移型β-
フ ルクト フラ ノシ ダー ゼ を含むAspergillus oryzae
の乾燥菌糸を作用させることで、スクロース中のグルコース残基が
GlcNAc
に置き換わった非天然糖であるN-
アセチルスクロサミン(Fru β -
2,1- α GlcNAc, SucNAc)
が効率良く合成されることを報告した[18]
。A. oryzae
由 来の酵素を利用したのは、本菌がこの酵素を多く生産すること、生産されたオリ ゴ糖を将来的にプレバイオティクスとして開発するにあたり食品製造に利用さ れている微生物由来の酵素を使ったほうが良いと考えたためである。SucNAc
の合成については、過去にスクロースを出発原料とする有機合成化学反応法と
UDP-GlcNAc
とフルクトースを原料とし、スクロース合成酵素を作用させるという酵素合成法の
2
例が報告されている[19, 20]
。しかし、前者は多段 階にわたる煩雑な操作と多種類の試薬を必要とする。また、後者はUDP-GlcNAc
という非常に高価な原料が必要となる。これらのことから、いずれの方法もSucNAc
の安価な量産化法として利用することは困難であると考えられる。これに対し、当研究室の
SucNAc
合成法はスクロースとGlcNAc
という一般的な糖を 原料とし、A. oryzae
乾燥菌糸を全細胞触媒として利用することによって一段階 での合成が可能であり、先の2
例と比較して簡便かつ低コストである2-2 N -
アセチルスクロサミン(SucNAc)
の効率的生産方法[21]
佐藤らは、
SucNAc
を効率的に生産するためにカラムリアクターを利用した連 続生産システムを構築した[21]
。最初に、パーライト粒とともにA. oryzae
を液体 培養し、糖転移型β-
フラクトフラノシダーゼを含むA. oryzae
菌糸をパーライト 粒に固定化した。パーライトを菌糸固定化担体として用いたのは、カラムリアク ター内に適度な隙間が確保できること、極めて軽くカラム充填に耐えうる物理 的強度があり、多孔性であるためA. oryzae
の胞子が着床して菌糸が表面で生育 し固定化されると考えたからである。このようにしてカラムに充填可能な菌糸 を調製し、菌糸充填カラムリアクターを作成した。このカラムにスクロースとGlcNAc
を高濃度で含む溶液を通液することにより、一か月間にわたるSucNAc
の連続生産を行うことができた。研究室レベルのごく小規模な生産システムを 利用しているにもかかわらず、一か月間の反応で得られた
SucNAc
の量は100 g
弱にも達したことから、本生産プロセスはSucNAc
の生産法として非常に有効 な手段となることが示された。この生産プロセスで、カラムリアクターからの溶出液に酵母による前処理を 行うことにより夾雑する糖質を除去し、活性炭カラムクロマトグラフィーのみ を用いて高度に
SucNAc
を精製することができた。活性炭カラムクロマトグラ フィーは低コストでの大量処理にも適しており、スケールアップも容易である。また、酵母による前処理を行った場合には、比較的高価な原料である
GlcNAc
の 回収・再利用が容易になること、また前処理に用いた酵母も回収することによっ て次の処理に再利用できることから、さらに安価な製造につながるものと考え られる。3
研究目的古くより、
Suc
などのオリゴ糖は、その良好な甘味により、甘味料として人々 の生活に広く利用されてきた。しかし、消費者の健康意識の高まりから、食用オ リゴ糖に関する研究は嗜好性から、ヒトの健康に関する生理機能特性を対象と した研究に発展してきた。その過程において、自然界に豊富に存在するオリゴ糖 とは構成単糖間の結合位置が異なるなど、特殊な構造を有する様々な種類のオ リゴ糖が酵素反応を利用し生産され、有用生理機能が見出されたものについて は機能性オリゴ糖として開発されてきた。これらオリゴ糖の殆どは、グルコース
(Glc)
、ガラクトース、およびフルクトー スの3
種類の単糖の組合せから構成されている。それは、デンプン、Suc
、ラク トースといった、生物が豊富に生産する身近な糖質の利用を基盤として開発が 進められてきたためである。一方、自然界には上記以外にも様々な単糖から構成 されている糖質が存在しており、生物において様々な役割を担っている。例え ば、ヒトにはグルコサミン(GlcN)
やグルクロン酸(GlcA)
といったアミノ単糖や酸 性単糖とそれらの誘導体が多く存在し、生体の各所で重要な生理機能を担って いる。しかし、このような単糖を含む機能性オリゴ糖の開発は、これまで積極的 に行われてこなかった。したがって、上記のような単糖を含むヘテロオリゴ糖の 生理機能特性に関する知見はほとんど無い。このような新規な特殊オリゴ糖を 作り、それらの生理機能特性を調べることは、機能性オリゴ糖の分野に新しい知 見をもたらすものであり、新しいタイプの次世代機能性オリゴ糖の開発に向け 大変有意義であると考えている。そこで、本研究は上記のような単糖を構成糖と して有する新規オリゴ糖の酵素利用合成法の検討を目的とした。また、合成した 新規オリゴ糖をプレバイオティクスとして利用するための機能性評価するため に、ヒト腸内由来有用菌を用いて資化性試験を行った。本論
第1章 新規スクロースアナログ二糖の合成
第1節 緒言
食用オリゴ糖の中で、スクロースは甘味料・調味料として最も大量に消費されて いるオリゴ糖である。また、本二糖は種々の機能性オリゴ糖の製造原料としても使 用されており、グルコースおよびフルクトースの供給源となっている。しかし、ケ トヘキソフラノースである
D -
フルクトースとアルドヘキソピラノースであるD -
グ ルコースがβ,α - 2, 1
グリコシド結合で連結したスクロースの構造をそのまま生か した機能性オリゴ糖の創製は今まで検討されてこなかった。また、アミノ糖や酸性 糖とそれらの誘導体は生体にとって重要な役割を担っている糖質であるにもかか わらず、機能性オリゴ糖の構成糖として用いられてこなかった。そこで、本章では これら微生物が生産する酵素の糖転移作用を利用し、スクロース類似構造を有する 新規ヘテロオリゴ糖(
スクロースアナログ二糖)
の合成を行った。第
2
節 グルコサミンを含むスクロースアナログ二糖の合成1.
結果と考察1-1.
スクロサミンの合成N-
ア セ チ ル ス ク ロ サ ミ ン(SucNAc)
を 原 料 と し 、 強 塩 基 性 の 陰 イ オ ン 交 換 樹 脂(ORGANO Amberlite IRA402BL OH AG)
を添加し、100°C
にて5
時間撹拌することでSucNAc
のアセトアミド結合を加水分解すると同時に樹脂にイオン結合で結合させた。その後、ろ過により回収した樹脂を水で
2
回洗浄し、ろ液と洗浄液を1 N HCl
により中和し た。中和した水溶液を濃縮後、凍結乾燥を行うことで生成物の粉末を得た。また、反応前 と反応後で質量分析を行った(Fig. 1)
。Fig. 1
の結果より、反応前のサンプルではm/z
= 406 [M+Na]
+の分子イオンピークが確認できたのに対し、反応後は、m/z = 342
[M+H]
+とm/z = 364 [M+Na]
+の分子イオンピークが確認できた。本操作によりSucNAc
のアセトアミド結合が加水分解された
SucN
であることが確認できた。SucNAc
からSucN
を93%
モル収率で精製することに成功した(Fig. 2)
。Fig. 1 ESI-MS
スペクトル. A:
反応前(SucNAc)
のESI-MS
スペクトル, B:
反応後(SucN)
のESI-MS
スペクトルFig. 2
スクロサミン(SucN)
の合成2.
実験方法2-1.
スクロサミンの合成方法原料で用いた
SucNAc
は平野、佐藤らの論文に従って合成した[16, 19]
。SucNAc 1 g
を30 mL
のイオン交 換水に溶 解 し強塩 基性の陰 イオン交換 樹脂(ORGANO Amberlite IRA402BL OH AG)
を20 g
加え、オイルバスを用いて100°C
で5
時間撹拌を行った。その後、桐山ろ過(5A)
を用いて樹脂を回収した。回収した陰イオ ン交換樹脂をイオン交換水で2
回洗浄し、ろ液と洗浄液を1 N HCl
水溶液により中和を行った
(pH 6.5)
。中和した水溶液を、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮した後、真空ポンプを用いて乾固した。乾固したサンプルにイオン交換水
10 mL
加え溶解し- 80°C
のフリーザーを用いてサンプルを凍結した。凍結後、凍結乾燥機(VD-800F)
を用 いることで粉末を得た。2-2.
質量分析方法質量スペクトルは
LCMS-2020 (SHIMADZU)
を用いて分析を行い、ESI
法によってイ オン化を行った。凍結乾燥後の粉末1 mg
を水2 mL
に溶解し測定サンプルとした。第
3
節 グルクロン酸を含むスクロースアナログ二糖の合成1.
結果と考察1-1.
糖転移生成物の合成と精製グルクロン酸
(GlcA)
とSuc
の混合糖溶液にMicrobacterium saccharophilum (M.
saccharophilum) K-1
株由来の糖転移型-fructofuranosidase
作用させることでスクロン酸
(SucA)
を合成しようと試みたが、糖転移生成物は確認できなかった。我々は、この原因が
GlcA
のカルボキシ基にあると考えた。そのため、原因と考えられるGlcA
の カル ボ キシ 基を メチ ルエ ステ ル 化し た グル クロ ン酸 メチ ル エス テル(GlcAM)
を基質として用い、目的のオリゴ糖の合成を試みた。グルクロノ
-6,3-
ラクトン(GlcL)
を含むメタノール溶液に、強塩基性陰イオン交 換樹脂(IRA402BL OH AG)
を加え反応させることでGlcAM
の合成を行なった[22]
。 反応液を濃縮・乾固させて生じた残渣をエタノールに溶解し、低温下に静置してGlcAM
の結晶を収率72.3%
で得た(Fig. 3)
。Fig. 3
グルクロノラクトンからのグルクロン酸メチルエステルの合成しかし、
GlcAM
は水溶液中でGlcL
を経てGlcA
へと分解してしまうことが、報告されている
[23]
。そこで、酵素反応中にGlcAM
の分解が起こりにくいpH
条件 の検討を行った。GlcAM
の分解の確認は各単糖の旋光度が異なるため、旋光度計を用いて確認した。
pH 4.0~8.0
の各1/5 McIlvaine
緩衝液にGlcAM
を2% (w/v)
濃 度となるように溶解し、各GlcAM
溶液の比旋光度の変化を測定した。その結果、pH 4.0-6.0
の緩衝液において比旋光度の変化が小さかったことから、GlcAM
は弱酸性条件下で比較的安定であることがわかった
(Fig. 4)
。Fig. 4
グルクロン酸メチルエステルのpH
による安定性の評価.
0.67% (w/v) GlcAM
と1% (w/v) Suc
の20 mM
クエン酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)
に 溶 解 し た 混 合 糖 溶 液 にM. saccharophilum K-1
株 由 来 の 糖 転 移 型 - fructofuranosidase
を10 U
添加し、27°C
で攪拌しながら酵素反応を行った。反応後、薄 層クロマトグラフィー(TLC)
を用いて反応物の有無の確認を行った。その結果、
Fig. 5
の矢印で示す所に糖転移生成物の可能性と思われるスポットが確認できた
(Fig. 5)
。しかし、本研究で用いたM. saccharophilum K-1
株由来の糖転移型
β-fructofuranosidase
は、Glc
存在下で活性が阻害されることが報告されている。本反応でも、基質である
Suc
が残っていることや、フルクトース(Fru)
が生成され ていることから、糖転移反応により生成するGlc
によって反応が停止していることが
Fig. 5
で示すTLC
からも確認できた。そこで、反応中に生成されるGlc
のみを資化する
Suc
非資化性酵母であるSaccaromyces bisuporus NBRC1131(S. bisuporus
NBRC1131)
存在化での合成を検討した。Fig. 5 TLC
による反応生成物の確認.
矢印は糖転移生成物と思われるスポットを示す
.
上記と同様の条件で作成した混合糖溶液に、
S. bisuporus NBRC1131
存在化で糖 転移型β-
フルクトフラノシダーゼを10 U
添加し、27°C
で攪拌しながら酵素反応を 行った。反応後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
とTLC
を用いて糖転移生 成物の確認を行った。その結果、酵素のみを添加した反応液では、時間の経過に伴 ってFru
が生成されていることが確認できた(Fig. 6A-1)
。しかし、Suc
非資化性 酵母であるS. bisuporus NBRC1131
存在化で反応した反応液ではFru
の生成が確認 できないこと、S. bisuporus NBRC1131
によるGlc
の消費により酵素反応が停止せ ず、基質であるSuc
が消失していることから、転移生成物が蓄積せれていることが 確認できた(Fig. 6A-3)
。また、S. bisuporus NBRC1131
のみを添加した反応液では基質に影響を及ぼさないことも確認できた
(Fig. 6A-2)
。HPLC
分析による結果、S. bisuporus NBRC1131
存在下と非存在下では糖転移生成物の量が大幅に異なることが確認でき、
S. bisuporus NBRC1131
存在下で反応することで糖転移生成物を高 効率で合成することに成功した(Fig. 6B)
。得られた生成物を、活性炭カラムクロマトグラフィーに供し、水を流すことで単 糖類を除去した後、
5%
エタノールでSuc
を除去し、15%
エタノールにより糖転移 生成物の精製を行った。Fig. 6
酵母添加時による転移生成物の確認. (A) TLC
分析による糖転移生成物の確 認, 1: M. saccharophilum K-1 β-fructofuranosidase
のみ添加した反応液, 2: S.
bisporus cells
のみ添加した反応液, 3: M. saccharophilum K-1 β-
fructofuranosidase
とS. bisporus cells
を添加した反応液,( )
転移生成物と思 われるスポットを示す, ( )
生成されたFru
のスポットを示す. (B) HPLC
分析による糖転移生成物の定量分析, ( ) M. saccharophilum K-1 β-
fructofuranosidase
のみ添加した反応液, ( ) M. saccharophilum K-1 β-
fructofuranosidase
とS. bisporus cells
を添加した反応液.
1-2.
糖転移生成物の構造確認糖転移生成物の構造確認は、1
H-NMR
、13C-NMR
、HSQC
、HMBC
、および質量分 析により行った。その結果、
ESI-MS
スペクトルではm/z = 393 [M+Na]
+に分子イオンピークが確認できた
(Fig. 7)
。このことこら、本生成物はSucAM
であることが推論できる。さらに、各
NMR
により構造を決定した(Fig. 8-11)
。Fig. 7
糖転移生成物のESI-MS
スペクトルFig. 8
糖転移生成物の1H-NMR
スペクトルFig. 9
糖転移生成物の13C-NMR
スペクトルFig. 10
糖転移生成物の1H-
13C HSQC-NMR
スペクトルFig. 11
糖転移生成物の同定. (A)
糖転移生成物の1H-
13C HMBC NMR
スペクトル. (B)
各NMR
による構造解析の結果:
1H-NMR
及び 13C-NMR
の結果を矢印と破線矢印 で示す。両方向矢印はHMBC NMR
の相関関係を示す。NMR
から得られたデータより、GlcAM
残基のanomeric proton( δ 5.52) の結合定 数は 3.88 Hz (J
1,2)
であり、このことからGlcAM
残基がα-
グリコシド結合でフルク トースと連結していることが確認できた。化合物中のグリコシド結合の位置は、1
H-
13C HMBC-NMR
に基づいて決定した。GlcAM
残基のanomeric proton のシグナルは、それ自身の C3(
δ72.3)
およびC5(
δ71.7)
のシグナルだけでなく、Fru
残基のC2'(
δ104.0)
のシグナルとも交差していた。このことから、反応生成物は
α-
グルクロン酸の1
位とβ-
フルクトースの2
位がグ リコシド結合で連結したスクロン酸メチルエステル(SucAM)
であることが確認 できた。1-3. SucAM
によるグルクロン酸含有オリゴ糖の合成と精製精製した
SucAM
の水溶液に強塩基性陰イオン交換樹脂(Amberlite IRA402BL OH AG)
を添加し、50°C
にて30
分撹拌してエステル結合を加水分解すると同時に目 的化合物を本樹脂にイオン結合で結合させた。その後、1N NaOH
水溶液により樹 脂から目的化合物を脱着させ、得られた水溶液を6 N HCl
水溶液により中和した。中和した溶液を活性炭カラムクロマトグラフィーに供し、イオン交換水を充分に流 して塩類を除去した後、
10%
イソプロパノール水溶液を流して目的化合物を活性炭 から脱着させた。得られた化合物は、濃縮後、凍結乾燥を行い白色粉末とした。化合物の構造確認は、1
H-NMR
、13C-NMR
、HMQC
、HMBC
、および質量分析に より行った。その結果、
ESI-MS
スペクトルではm/z = 355 [M-H]
-に分子イオンピークが確認で きた(Fig. 12)
。さらに、各NMR
により構造を決定した(Fig. 13-16)
。Fig. 12
加水分解生成物のESI-MS
スペクトルFig. 13
加水分解生成物の1H-NMR
スペクトルFig. 14
加水分解生成物の13C-NMR
スペクトルFig. 15
加水分解生成物の1H-
13C HMQC-NMR
スペクトルFig. 16
加水分解生成物の同定. (A)
糖転移生成物の 1H-
13C HMBC NMR
スペクトル. (B)
各NMR
による構造解析の結果:
1H-NMR
及び 13C-NMR
の結果を矢印と破線 矢印で示す。両方向矢印はHMBC NMR
の相関関係を示す。NMR
から得られたデータより、GlcA
残基のanomeric proton( δ 5.41) の結合定数 は 3.79 Hz (J
1,2)
であり、このことからGlcA
残基がα-
グリコシド結合でフルクトー スと連結していることが確認できた。化合物中のグリコシド結合の位置は、1
H-
13C HMBC-NMR
に基づいて決定した。GlcA
残基のanomeric proton のシグナルは、
それ自身のC3(
δ72.3)
およびC5(
δ71.7)
のシグナルだけでなく、Fru
残基のC2'(
δ104.0)
のシグナルとも交差していた。こ のことから、反応生成物はα-
グルクロン酸の1
位とβ-
フルクトースの2
位がグリ コシド結合で連結したβ- D -fructofuranosyl-(2↔1)-α- D -glucopyranuronide (
スクロン酸
: SucA)
であることが確認できた。本操作により、原料である
Suc
からSucA
を36.9%
モル収率で合成することに成 功した。2.
グルクロン酸を含むスクロースアナログ二糖の合成 方法試薬は特記しない限り富士フィルム和光純薬株式会社の物を用いた。また、試薬の調 製は特記しない限り使用キットマニュアルおよび、バイオ試薬調製ポケットマニュアル
(
羊 土社)
を参照し行った。2-1.
実験で用いた酵素と活性測定本研究で対象とした
M. saccharophilum K-1
由来β-fructofuranosidase
は、塩水港精 糖株式会社より提供していただいたものを使用した。β-fructofuranosidase
活性の測定はSuc
を酵素の加水分解によって生成された還元糖を
Somogyi-Nelson
法を用いて定量した。また、酵素活性は50 mM
リン酸ナトリウム緩衝液
(pH 6.5)
、30
℃の条件下で、1
分間に1 μmol
のSuc
を加水分解しする酵素量を1 U
と定義した。酵素反応は
0.4% (w/v) Suc 50 µL
を入れた試験管に酵素溶液50 µL
を添加して30°C
で10
分間行った。発色操作は、反応液0.1 mL
にSomogyi
試薬0.1 mL
を添加し、ボル テックスを用いて撹拌した。次に、沸騰湯浴中に20
分間加熱し、氷水浴中にて急冷した。Nelson
試薬0.2 mL
を添加し撹拌した後、イオン交換水1.6 mL
添加して撹拌した。その後、
15
分間室温で静置した後、OD
500を測定した。検量線用基準液は市販のグルコースを使用し、
0-100 µg/ mL
の希釈系列を調整して 検量線を作成した。また、本実験における酵素原液1 mL
あたりのユニットは以下のように 計算した。U/mL ・ min = 標準液の還元糖量 ( µM ) 標準液のΔ OD
500× サンプルのΔ OD
500× 1
反応時間 ( 分 )
×
反応液量 ( mL )
使用した酵素量 ( mL ) × 1
2 × 酵素原液希釈倍率 × 1
1000
発色試薬は以下の組成で調整した。
(Somogyi
試薬*)
・
Somogyi A
液硫酸銅
5
水和物(CuSO
4・H
2O) 15 g
をイオン交換水で100 mL
に溶解。・
Somogyi B
液炭酸ナトリウム
(Na
2CO
3) 25 g
、炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3) 20 g
、無水硫酸ナトリウム(Na
2SO
4) 200 g
、をイオン交換水に溶解し、1 L
にFill up
する。*
使用直前にSomogyi A
液1 mL
とSomogyi B
液25 mL
を混合する。(Nelson
試薬)
ヒ素水素
2
ナトリウム7
水和物(Na
2HAsO
4・7H
2O) 3 g
を50 mL
のイオン交換水 で溶解する(A
液)
。七モリブデン酸六アンモニウム四水和物[(NH
4)
6Mo
7O
24・4H
2O]
25 g
を900 mL
のイオン交換水で溶解し、これに濃硫酸23 mL
を加える。調整したA
液を加え、イオン交換水で1 L
にメスアップする。2-2.
スクロース非資化性酵母( Saccaromyces bisuporus NBRC1131)
の培養本研究で使用した
S. bisuporus NBRC1131
株は製品評価技術基盤機構(NITE)
より 購入したものを使用した。S. bisuporus NBRC1131
をYM
寒天培地[0.5% (w/v)
ハイポリ ペプトン、0.3% (w/v)
酵母エキス、1% (w/v)
グルコース、0.3% (w/v)
麦芽エキス、2%
(w/v) Agar]
で1
日間培養した。培養後、2 mL
のYM
液体培地[0.5% (w/v)
ハイポリペ プトン, 0.3% (w/v)
酵母エキス, 1% (w/v)
グルコース, 0.3% (w/v)
麦芽エキス]
に懸濁し 震盪培養(28°C, 200 rpm, 1
日間)
し、これを前培養液とした。前培養後、50 mL
のYM
液体培地に前培養液を500 µL
加え震盪培養(28
℃、200 rpm
、1
日間)
を行った。本培 養液を遠心分離(4
℃, 8,000×g, 5 min)
し、上清の液体培地を捨て、菌体に20 mM
クエ ン酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)
を全量20 mL
になるように加え、ボルテックスミキサーを 用いて撹拌、懸濁し、菌体の洗浄を行った後、再び遠心分離(4
℃, 8,000×g, 5 min)
をし た。この洗浄を2
回行い、本菌体を回収した。2-3.
グルクロン酸メチルエステル(GlcAM)
の合成グルクロノ
-6,3-
ラクトン(GlcL) 30 g
をメタノール600 mL
に溶解し、強塩基性の陰 イオン交換樹脂(ORGANO Amberlite IRA402BL OH AG) 30 g
を添加し、常温で1
日間 撹拌させた。その後、桐山ろ過(5A)
を用いて陰イオン交換樹脂(ORGANO Amberlite
IRA402BL OH AG)
を除去した。ろ液を濃縮し、30 mL
のメタノールに溶解し低温下に静置することで未反応
GlcL
の結晶を析出させた。上記の操作を2
回行うことで未反応GlcL
を除去した。水溶液を再度濃縮し、40 mL
エタノールに溶解し、低温下に静置することでGlcAM
の結晶を得た。2-4. pH
の異なる溶媒によるグルクロン酸メチルエステルの安定性評価0.2 M
リン酸水素二ナトリウム溶液と0.1 M
クエン酸溶液溶液を混合し各pH
(pH 5.0, 6.0, 7.0, 8.0)
に調整しMcllvaine buffer
を作成した。作成した各Mcllvaine buffer
を5
倍希釈することで1 / 5 Mcllvaine buffer
とし実験に使用した。GlcAM 0.1 g
を各1 / 5 Mcllvaine buffer 5 mL
に溶解し経時的に比旋光度を測定し た。旋光度は、旋光計P-120 (
日本分光)
を使用し、セルは円筒型ガラスセル(
φ10
×
100 mm)
を使用した。また、サンプルは全て恒量したものを用いて行った。比旋光度は以下のように計算した。
[α]
𝐷°C= α
𝑚 × 𝑐 × 100
α:
旋光度(
実測) (
°) m:
セルの長さ(10 cm = 1 dm) c:
濃度% (w/v)
°C:
室温(23°C) D:
光の波長(
ナトリウムD
線; 589 nm)
2-5.
スクロン酸メチルエステル(SucAM)
の合成Suc 1 g (2.92 mmol)
とGlcAM 0.67 g (3.21 mmol)
が20 mM
クエン酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)
に溶解した混合溶液を全量10 mL
作成した。この混合溶液に非資化性酵母である
S. bisuporus NBRC1131
とM. saccharophilum K-1
由来糖転移型β-fructofuranosidase
を
10 U
添加し、27°C
で酵素反応を行った。反応液を0, 1, 2, 4, 8, 24h
毎に500 µL
分取 し、遠心分離(4
℃, 8,000×g, 5 min)
により菌体を除去、限外ろ過(Centrifugal Filter Units 10K) (4
℃, 10,000
×g, 5 min)
により酵素を除去した。反応液はTLC
とHPLC
によ り確認した。酵素反応により生成したオリゴ糖および単糖は、薄層クロマトグラフィー
(6 cm
×10 cm) (Silica Gel 60; 0.25 mm, Merck)
を用いて確認した。移動相にはアセトニトリル/
水[7 : 1(v/v)]
を使用した。Silica Gel 60
プレートに10
倍希釈した酵素反応液を1 µL
スポッ トし、展開しドライヤーを用いてプレートの乾燥を行った。プレートに残存している溶媒を 除去後、再度展開後、ドライヤーを用いてプレートの乾燥を行った。このプレートにリンモ リブデン酸発色液[2.4% (w/v)
リンモリブデン酸, 5% (w/v)
硫酸, 1.5% (w/v)
リン酸]
を 噴霧し、ヒートガン(HEATING GUN, HAKKO)
で加熱してスポットを発色させた。マーカ ーは1% (w/v) Suc
、1% (w/v) Glc
、1% (w/v) Fru
、1% (w/v) GlcAM
、1% (w/v) GucL
を使 用した(
スポット量; 1 µL)
。サンプリングした反応液を
10
倍希釈しHPLC
により分析した。カラムは親水性相互作 用カラムクロマトグラフィーであるSugar-D
カラム(
φ4.6
×250 mm, Nacalai Tesque, Kyoto, Japan)
を検出器には示差屈折(RI)
検出器用いた。展開溶媒はアセトニトリル/
超純 水[41 : 9(v/v)]
を用いり、流速は1 mL / min
で行った。2-6.
転移生成物の精製反応液を活性炭カラムクロマトグラフィー
(
φ30
×200 mm)
に供し、イオン交換水で単 糖を完全に溶出させた後、5% (w/v)
エタノールでSuc
を溶出した。その後、10% (w/v)
エ タノールによって糖転移生成物を溶出させた。糖転移生成物溶出分画をロータリーエバ ポレーターで濃縮し、真空ポンプで乾固した。2-7.
構造確認糖転移生成物の構造解析は、1