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擬似基質による酵素の誤作動 を利用する基質特異性変換

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Academic year: 2023

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(1)

酵素の基質特異性を変換するためには、変異導入による酵素 自体の改変が一般的であるが、標的基質に形を似せた「擬似 基質」(デコイ分子)を酵素に取り込ませると、標的基質と は構造が大きく異なる基質が野生型の酵素と反応するように な る。 長 鎖 脂 肪 酸 を 水 酸 化 す る シ ト ク ロ ムP450BM3に、 長 鎖脂肪酸よりも分子の長さが短いカルボン酸をデコイ分子と し て 取 り 込 ま せ る と、 シ ト ク ロ ムP450BM3が 標 的 基 質 を 取 り込んだと勘違いして誤作動を起こし、エタンやプロパンな どのガス状アルカンやベンゼンを水酸化できるようになる。

はじめに(シトクロムP450について)

シトクロムP450(P450)は,動物,昆虫,植物,微 生物など生物界に広範に存在する金属酵素の一群で,ホ ルモンや色素の生合成,異物の解毒,薬剤の代謝など多 岐にわたる機能を有する(1)

.P450は,三角形プリズム

型の構造をしており,その中心にヘム(鉄ポルフィリン 錯体)を補欠分子族として有するヘム酵素で(図

1

a)

ヘムを活性中心として酸素分子を還元的に活性化するこ

とで,電子が2つ不足した強力な酸化活性種であるオキ ソフェリル(Fe4+

=O)ポルフィリン π

-カチオンラジカ ル(Compound I)を生成し(図1b)

,不活性な有機化

合物を水酸化することができる.常温・常圧の温和な反 応条件下で不活性な有機基質を酸化することができるた め,医薬のみならず触媒化学分野でも広く研究対象とさ れてきた.ヒトのゲノムにも57のP450遺伝子が存在す るが,ヒトのP450の酸化活性は毎分数回転程度と低く,

合成反応への利用は難しい.一方で,細菌由来のP450 は,触媒活性が非常に高くバイオ触媒として有望である が,基質に対する選択性が高いことが多く,本来の標的 基質以外の分子に対する酸化活性が極端に低くなるた め,合成反応に利用するには,基質特異性を変換する必 要がある.基質に対する選択性の高さは,P450の酸化 活性種の生成機構に起因している.簡単に言うと,

P450では,鍵と鍵穴の関係が,酸化活性種の生成に直 接に結び付けられているので,基質の構造が基質結合部 位の構造に合致しない場合には,酸化活性種が生成され ないように設計されていて,標的分子以外とは反応しな いような仕組みになっている.したがって,基質結合部 位の構造を変異導入によって改変すれば,標的基質以外 Hydroxylation  of  Nonnative  Substrates  Utilizing  Substrate 

Misrecognition of Cytochrome P450 Osami SHOJI, 名古屋大学

擬似基質による酵素の誤作動 を利用する基質特異性変換

酵素の勘違いを引き起こす分子の設計

荘司長三

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

【解説】

(2)

を酸化できるようになるため,基質の選択性を変換する ための変異導入が繰り返されてきた.P450が発見され てから50年余り,変異導入以外に基質特異性を変える 方法はないと錯覚させるほど数々の成果が報告された.

しかしながら,変異導入を繰り返す手法は,必ずしも目 的の変異体が得られる保証もないだけでなく,基質特異 性変換の新しい手法の開発機運を削ぎ,新たな基質変換 手法が開発されない長い空白期間を形成した.そのよう な状況の中,酸化活性種の形成を促進するが,それ自体 は酸化の対象とはならないような擬似基質(デコイ分 子)を用いれば,変異導入を行わなくても野生型P450 をそのまま用いてさまざまな反応を行うことができるの ではないかと考え,ガス状アルカンやベンゼンの直接水 酸化といった高難度酸化反応を行うことが可能な擬似基 質を用いたバイオ触媒の開発を目指して研究を進めた.

シトクロムP450BM3:長鎖脂肪酸水酸化酵素 P450BM3は,巨大菌( )由来の

長鎖脂肪酸水酸化酵素であり,パルミチン酸やアラキド ン酸などの長鎖脂肪酸のアルキル鎖末端部分を水酸化す るP450である(図1c上段)

.酵素活性が非常に高く,

酸化活性種を最大で毎分1万5千回転で生成するため,

バイオ触媒としての利用が早くから期待されてきた.酸 素分子を還元的に活性化する酸化活性種生成には,還元 タンパク質を介するNADPHからの電子供給が必要であ り,長鎖脂肪酸の取り込みが反応を開始するスイッチに なっている.長鎖脂肪酸が適切な位置に取り込まれた場 合にのみ電子が供給されて酸化活性種を生成するように 設計されている.長鎖脂肪酸と構造が大きく異なる有機 分子では,P450BM3のスイッチは「ON」の状態とはな らない仕掛けで反応が制御されているため,ガス状アル カンやベンゼンなどの長鎖脂肪酸以外の基質を水酸化し ようとしても反応は全く進行しない.P450BM3に長鎖 脂肪酸以外の基質を水酸化させるためには,長鎖脂肪酸 が取り込まれる結合部位をアミノ酸置換によって改変 し,長鎖脂肪酸以外の基質が取り込まれた場合にもス イッチが「ON」の状態になるようにする必要がある.

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

ヘム獲得タンパク質の勘違い

緑膿菌は,日和見感染を引き起こすグラム陰性菌 である.強い薬剤抵抗性をもち薬剤耐性化しやすく,

多剤耐性菌の出現が社会問題になっている.緑膿菌 が鉄欠乏状態になると,鉄源としてのヘム(鉄ポル フィリン錯体)を宿主から獲得するために,ヘム獲得 タンパク質(HasA)を分泌する.HasAはヘムを捕 捉したのち緑膿菌に戻り,菌体表面に存在する特異 的受容体タンパク質(HasR)にヘムを受け渡す.

HasAはヘムのみを選択的に結合すると思われてきた が,鉄サロフェンや鉄フタロシアニンなどの平面性 の高い合成金属錯体を捕捉できることがわかってい る.また,かさ高い置換基を有する鉄ジフェニルポル フィリンであっても安定的に結合することができる.

合成金属錯体を捕捉したHasAの結晶構造は,ヘムを 捕捉したHasAとほとんど変わらない.そこで,鉄フ タロシアニンや鉄ジフェニルポルフィリンを捕捉し た「偽のHasA」を鉄制限状態の緑膿菌に作用させて みると,その増殖を高度に抑制できることがわかっ た.緑膿菌の外膜に存在するHasAの特異的受容体タ ンパク質のHasRは,鉄フタロシアニンや鉄ジフェニ ルポルフィリンを捕捉した「偽のHasA」と,本来の 標的であるヘムを捕捉した「本物のHasA」を区別す ることができず,「偽のHasA」から合成金属錯体を 受け取ってしまい,結果,鉄分の供給経路を遮断さ

れた緑膿菌が増殖できなくなっていると考えられて いる.

コ ラ ム

a)緑膿菌のヘム獲得システムとHasAの結晶構造.b)ヘムと 合成金属錯体の構造(上)と,合成金属錯体を結合したHasA の結晶構造(下)

(3)

変異導入によってP450BM3の基質結合部位を改変する ことが可能であり,P450BM3の基質選択性の変換にお いても,変異導入は効果的な手法として広く受け入れら れている.たとえば,プロパンの取り込みのために基質 結合部位を小さくした変異体がプロパンを水酸化可能に することなどが報告されている(2)

.変異導入法が効果的

であることは疑う余地もないが,必ずしも目的の機能を もった変異体が得られるわけではないので,変異導入に 頼らない手法も開発する必要がある.そこで,野生型 P450BM3をそのまま用いて長鎖脂肪酸以外の基質を水 酸化することができないかと考え続けて,パーフルオロ アルキルカルボン酸を「擬似基質」として使う新しい概 念の反応系を考案するに至った(3)

パーフルオロアルキルカルボン酸による誤作動誘起 前章で述べた「擬似基質」をP450BM3に取り込ませ て,酸化活性種の生成反応を強制的にONの状態にする ことができれば,長鎖脂肪酸と構造が大きく異なる分子 でも水酸化できるはずだと考え,「擬似基質」として長 鎖脂肪酸のすべての水素原子をフッ素原子に置き換えた パーフルオロアルキルカルボン酸を選んだ(図1c下段)

C‒F結合の共有結合距離は138 pmであり,C‒H結合の 108 pmに近く,パーフルオロアルキルカルボン酸の構

造は長鎖脂肪酸に非常によく似たものになる.一方で,

C‒F結合はC‒H結合よりも安定しており(結合解離エ ネルギー:C‒F結合116 kcal/mol,C‒H結合95‒99 kcal/

mol)

,P450BM3はC‒F結合を水酸化することができな

い.したがって,パーフルオロアルキルカルボン酸は P450BM3に水酸化されない不活性な「偽の基質」と成 り得る.さらに,P450BM3が酸化の対象とする炭素数 16前後の長鎖脂肪酸よりも鎖長が短い一連のパーフルオ ロアルキルカルボン酸(炭素数8〜12)を擬似基質とし て用いることで,擬似基質が結合した状態でも,活性部 位に酸化される基質が同時に結合できる空間を確保でき るであろうと考えた(図1c下段)

.パーフルオロアルキ

ルカルボン酸を長鎖脂肪酸と勘違いしたP450BM3のス イッチは「ON」の状態になり,酸化活性種が生成される が,パーフルオロアルキルカルボン酸は水酸化されないの で,生成された酸化活性種は未反応のまま残されることに なる.ここにガス状飽和炭化水素などを添加すると,それ らが水酸化される.これが,P450BM3の誤作動を利用す る第二の基質の水酸化反応系である(図1c下段)

.鎖長

の異なる一連のPFCをP450BM3に取り込ませてプロパ ンの水酸化反応を行うと,炭素数が9〜13のPFCの存在 下でプロパンが水酸化され,2-プロパノールが得られ た.擬似基質を添加しない場合には全く反応は進行しな い.プロパンの水酸化では,炭素数10のパーフルオロ 図1シトクロムP450BM3構造(a)とシト クロムP450の反応機構(b

シトクロムP450BM3による長鎖脂肪酸の水酸 化反応(c)(上段)とパーフルオロアルキルカ ルボン酸(擬似基質)存在下でのエタンの水酸 化反応(下段).

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

(4)

デカン酸(PFC10)の場合に最大活性,毎分67回転を 示した.ブタンやシクロヘキサンの場合も水酸化反応が 進行し,対応するアルコールが得られ,PFC9が最大の 活性を示した(3)

.また,エタンガスの供給圧を5気圧に

上げて反応を行うと,毎分0.67回転で水酸化が進行する

(4)

.さらに,ベンゼンを基質とすると毎分120回転の速

さでフェノールに変換できることも見いだした(5)

.フェ

ノールは,医薬品や合成高分子,顔料の原料として広く 使用されている化合物であり,ベンゼンを出発原料とし てクメン法により工業的に合成されている.クメン法 は,高温・高圧の反応条件が必要であるだけでなく,副 生成物として多量のアセトンを生成してしまうため,ベ ンゼンの直接的な水酸化反応系の開発が進められてき た.ベンゼンの直接的な酸化においては,生成物のフェ ノールがベンゼンよりも酸化されやすく,フェノールの 過剰酸化反応をいかにして抑制するかが重要である.新 しく開発したP450BM3と擬似基質を用いる反応系にお いては,常温・常圧の温和な反応条件で反応が進行し,

フェノールを選択的に得ることができるため,理想的な 反応系であると言える.

第二世代擬似基質

長鎖脂肪酸の水酸化に比べると擬似基質存在下でのガ ス状アルカンやベンゼンの水酸化活性は低く,P450BM3 の酸化活性を十分に引き出すことができていなかった.

擬似基質を用いる触媒反応は,擬似基質の構造によりそ の酸化活性が大きく変化するため,新規擬似基質を設計 することで,反応システムの更なる高活性化が実現でき ると考えた.パルミチン酸のカルボキシル基がグリシン で修飾された -パルミトイルグリシンは,P450BM3に より強く結合し,より高効率に水酸化されることが報告 されている.そこで,パーフルオロアルキルカルボン酸 のカルボキシル基をアミノ酸で修飾した第二世代の擬似 基質を設計・合成した(図

2

.パーフルオロカルボン

酸のカルボキシル基をアミノ酸で修飾することで活性は 大幅に向上した.なかでも,パーフルオロノナン酸をロ イシンで修飾したPFC9-L-Trpが最も高い酸化活性を示 し,プロパンの水酸化は毎分256回転で進行することを 明らかにした(6)

.さらに,パーフルオロノナン酸をトリ

プトファンで修飾したPFC9-L-Trp結合型P450BM3の 結晶構造解析にも成功し,PFC9-L-Leuが多点の水素結 合によってP450BM3の基質結合部位に固定化され,パー フルオロアルキル鎖の末端は,活性部位には届いていな いことを実証した(図

3

.また,第二世代の擬似基質

は,小分子アルカンの水酸化活性の向上を目的に開発さ れたKT2と名付けられている変異体(A191T/N239H/

I259V/A276T/L353I)(7)にも有効に機能することがわ かった.シクロヘキサンの水酸化活性が,野生型では 0.3±0.1 min−1

,KT2では70±2.7 min

−1であるのに対し て,KT2変異体に第二世代擬似基質(PFC9-L-Phe)を 添加すると,野生型の約4,800倍の1430±80 min−1まで 高活性化でき,基質によっては野生型の8,000倍の活性 を示す.変異導入と併用することで,これまでは不可能 であった非常に活性の高いバイオ触媒の開発が可能に なった.

フッ素原子をもたない第三世代擬似基質

第一世代擬似基質のパーフルオロノナン酸(PFC9)が 擬似基質として機能するのに対して,ノナン酸(C9)な どのアルキルカルボン酸は擬似基質としては全く機能し なかったことから,擬似基質として機能させるのにフッ 素原子が不可欠と思い込んで研究を進めていたため,

パーフルオロアルキルカルボン酸以外のフッ素を含まな いカルボン酸を擬似基質として用いようとは考えもしな かった.ところが,パーフルオロノナン酸をトリプト ファンで修飾したPFC9-L-TrpとP450BM3複合体の結 晶構造解析では(図3)

,カルボキシル基をアミノ酸で

修飾した場合には,アルキル鎖の末端が活性部位のヘム 図2擬似基質の構造

図3第二世代擬似基質のPFC9-Trpを結合したシトクロム P450BM3の結晶構造

a)全体構造.b)基質結合部位と活性部位の構造.文献6より改変.

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● 化学 と 生物 

(5)

の鉄原子から十分に離れており,フッ素原子で置換しな くとも,P450BM3によって水酸化されることはないので はないかと考えるようになった.そこで,ノナン酸(C9)

などのアルキルカルボン酸のカルボキシル基をアミノ酸 で修飾した第三世代の擬似基質を合成し,ベンゼンの水 酸化活性を調べたところ,フッ素原子を含まない第三世 代擬似基質もP450BM3を活性化し,第二世代擬似基質 よりも高い酸化活性を示した(8)(図

4

.擬似基質として

の機能にフッ素原子は必ずしも必要ではないことがわ かったため,非常に多くのカルボン酸を擬似基質の構成 要素として利用できるようになった.そこで,解熱鎮痛 薬のイブプロフェンなどのカルボン酸のカルボキシル基 をフェニルアラニンで修飾した擬似基質や,フェニルア ラニンとアミノ基をZ基(ベンジルオキシカルボニル基)

やアルキル基で保護したプロリンを連結した二量体など の少し変わった骨格の擬似基質を合成して,構造と酸化 活性の関連を調べた.第三世代擬似基質では,フェニル アラニンとプロリンを連結した二量体にアルキル鎖を修 飾したC7-Pro-Phe(図4)が高い酸化活性を示し,ベン ゼンの場合は毎分259回転で水酸化され,P450BM3一 分子当たり4万回転を超える触媒活性を示した.さらに 結晶構造解析により,第三世代擬似基質のZ-Pro-Pheが

長鎖脂肪酸と同じ基質結合部位に取り込まれ,基質結合 部位入口での多点水素結合によって,末端が活性部位か ら十分に離れた位置で固定化されていることを明らかに した(図

5

a)

.また,X線結晶構造解析を基にしたドッ

キングシミュレーションにより,ベンゼン一分子を収容 可能なスペースがP450BM3のヘム上方に形成されてい ることを確認した(図5b)

擬似基質を用いるP450BM3による酸化反応では,取 り込ませる擬似基質の構造の違いにより,酸化活性だけ でなく位置・立体選択性が変化する.第三世代擬似基質 の構造多様性を,擬似基質の構造の違いによる立体選択 性の制御に利用できるのではないかと考え,第三世代擬 似基質存在下で,インダンのベンジル位の水酸化を試み た.その結果,インダンのベンジル位水酸化の立体選択 性は,擬似基質の構造の違いによって大きく変化した.

Z-Pro-Phe(図4)を添加すると,インダン水酸化生成 物が56%( ) eeで得られ,5CHVA-Phe(図4)を添加 すると,立体選択性が( )へと反転し, 体の生成物 が53% eeで得られた(9)

.さらに,擬似基質を結合した

P450BM3のX線結晶構造解析を基にしたドッキングシ ミュレーションにより,擬似基質の構造の違いが誘導適 合によるタンパク質の全体構造に違いを誘起し,不斉選 択性が変化することを明らかにしている.

おわりに

酵素の基質特異性の変換には,活性部位を構成するア ミノ酸を,部位特異的変異導入やランダム変異導入によ り置換する手法が有効であり,酵素研究に大きく貢献し てきたことは間違いないが,すぐに結果の出やすい変異 導入に偏重した状況が,新規手法の開発を妨げてきたと も考えられる.今回紹介した擬似基質を用いる手法は,

そのような状況に一石を投じる研究成果であると考えて いる.P450BM3の擬似基質は,それ自体は全く水酸化 されない分子群であるため,対象基質ではないと判断さ れるに止まりそれ以上の研究はこれまで行われなかっ た.酵素に取り込まれるけれども酸化されない基質が,

図4第三世代擬似基質の構造とベンゼン水酸化活性

図5第三世代擬似基質のZ-Pro-Pheを結合し たシトクロムP450BM3の基質結合部位の結晶 構造(a)と,ベンゼンのドッキングシミュ レーション(b

文献8より改変.

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(6)

別の基質の反応を促進することがあるという長い間誰も 気づかなかった事実に,不活性なフッ素原子を利用する ことで辿り着いた研究経緯は非常に面白いと思っている.

擬似基質を用いる反応において,擬似基質の構造の違い が,基質選択性や反応活性だけでなく不斉選択性にも影 響を与えるため,擬似基質をうまく設計することで,さ まざまな反応を行う新たなバイオ触媒を開発することが できる.原理的に,擬似基質を用いる手法はP450以外 の酵素にも適用可能であり,新たなバイオ触媒系として 確立していきたい.

謝辞:本稿で紹介した研究成果は,名古屋大学の渡辺研究室での研究成 果です.渡辺芳人先生に深く感謝いたします.また,博士研究員と学生 諸氏,多くの共同研究者の方々,研究を支援いただいた方々に深く感謝 いたします.本研究成果は,文部科学省科学研究費補助金「若手研究A」新学術領域研究「直截的物質変換をめざした分子活性化法の開発」「高難 度物質変換反応の開発を指向した精密制御反応場の創出」,科学技術振興 機構CREST「多様な天然炭素資源の活用に資する革新的触媒と創出技 術」の研究助成により行われました.この場を借りて感謝申し上げます.

文献

  1)  大村恒雄・石村 巽・藤井義明(編): P450の分子生物 学 ,講談社サイエンティフィック,2009.

  2)  R. Fasan, M. M. Chen, N. C. Crook & F. H. Arnold: 

46, 8414 (2007).

  3)  N.  Kawakami,  O.  Shoji  &  Y.  Watanabe: 

50, 5315 (2011).

  4)  N.  Kawakami,  O.  Shoji  &  Y.  Watanabe: 

4, 2344 (2013).

  5)  O.  Shoji,  T.  Kunimatsu,  N.  Kawakami  &  Y.  Watanabe: 

52, 6606 (2013).

  6)  Z. Cong, O. Shoji, C. Kasai, N. Kawakami, H. Sugimoto, Y. 

Shiro & Y. Watanabe:  , 5, 150 (2015).

  7)  S.  Dezvarei,  H.  Onoda,  O.  Shoji,  Y.  Watanabe  &  S.  G. 

Bell:  , 183, 137 (2018).

  8)  O.  Shoji,  S.  Yanagisawa,  J.  K.  Stanfield,  K.  Suzuki,  Z. 

Cong,  H.  Sugimoto,  Y.  Shiro  &  Y.  Watanabe: 

56, 10324 (2017).

  9)  K.  Suzuki,  J.  K.  Stanfield,  O.  Shoji,  S.  Yanagisawa,  H. 

Sugimoto, Y. Shiro & Y. Watanabe:  ,  7, 3332 (2017).

プロフィール

荘司 長三(Osami SHOJI)

<略歴>2002年千葉大学大学院自然科学 研究科博士課程修了.博士(工学)<研究 テーマと抱負>金属タンパク質の機能改 変,高難度酸化反応が可能なバイオリアク ターを創りたい.細胞内での物質生産<趣 味>コーヒー.猫.ウクレレ

Copyright © 2018 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.56.621

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参照

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