• 検索結果がありません。

糖質の加水分解と転移をめぐる酵素研究の新展開 - J-Stage

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2023

シェア "糖質の加水分解と転移をめぐる酵素研究の新展開 - J-Stage"

Copied!
3
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

491

化学と生物 Vol. 53, No. 8, 2015

糖質の加水分解と転移をめぐる酵素研究の新展開

植物キチナーゼの結晶構造に基づく考察

糖質の酵素的加水分解において,その逆反応である糖 転移反応が観察されることは古くから認められている.

なぜ,加水分解を担う酵素に一見不利とも思えるような 転移活性が存在するのか,どのような酵素の立体構造が このような逆反応を触媒する機能をもたらすのか,これ らの問題は長い間,多くの研究者によって検討され,そ の研究成果は酵素による非天然有用糖質の効率的合成の ために大きく貢献してきた.しかし,その分子基盤が明 らかになってくるのはごく最近のことである.われわれ は植物由来のキチナーゼの構造と機能の研究を進める中 で,非常に高い糖転移活性をもつキチナーゼをソテツ

( )より分離し,CrChiAと名づけた(1). このキチナーゼは,植物キチナーゼのアミノ酸配列の相 同性に基づく分類(クラスIからクラスV)によるとク ラスVに属するものであり,CAZyデータベースによる 分 類 で は,GH(Glycoside Hydrolase) フ ァ ミ リ ー 18

(GH18)に属する.GH18キチナーゼにおいては,基質 補助機構によるアノマー保持のメカニズムで触媒反応が 進み,多くのアノマー保持型の糖質加水分解酵素で糖転 移活性が見いだされているように,GH18キチナーゼに おいても糖転移反応を触媒するものが多い.しかし,植 物由来のキチナーゼにおいてCrChiAのように極めて高 能率に糖転移反応を触媒するキチナーゼは,これまでに 報告がない.われわれは最近,CrChiAの結晶構造と同 じクラスVに属しながらも糖転移活性が極めて低いタ バコ由来のキチナーゼ(NtChiV)(2)およびシロイヌナズ ナ由来のキチナーゼ(AtChiC)(3)の結晶構造を比較し,

糖転移反応に必須な機能構造に関する有用な知見を得る ことができた.本稿では,それらのいくつかの知見につ いて紹介させていただく.

これら3種の植物キチナーゼはいずれも,(

α

/

β

8バレ ルドメインと,逆平行

β

シート(

β

ストランド5本)と1 個の

α

-へリックスからなる挿入ドメインの,2つのドメ インからなる(4).これら3つの構造のC

α

トレースを重ね 合わせた図1Aを見ると,いずれの角度から見てもほと んど相違は感じられない.ただ,一つだけ注目すべき点 は,CrChiAにだけ見いだされる基質結合クレフト末端 のループの膨らみである(図1Aの太い矢印).糖転移

活性が極めて低いNtChiVとAtChiCにはこのような ループの膨らみは見られない.このループ構造の違いが どのように触媒反応にかかわってくるのかは,やはりキ チンオリゴ糖との複合体構造の解析が必要になってく る.われわれは,CrChiAの触媒中心であるGlu119をグ ルタミンに変異させて不活性にした変異体(CrChiA- E119Q)を用いて,キチンオリゴ糖(トリマー)との複 合体構造を得ることにも成功した(4).図1Bにその複合 体構造を示す.先に注目したCrChiAにだけ存在する ループ構造の膨らみは確かに結合したキチンオリゴ糖の 還元末端側に存在する.このキチンオリゴ糖結合部位

(点線で囲んだ部分)を拡大してステレオ図にしたもの が図1Cである.このトリマーは+1, +2, +3の3つのサ ブサイトに結合していた.いくらかの水素結合がそれぞ れの糖残基に形成されているが,それとともに+2の糖 残基にはTrp197が,そして+3の糖残基にはTrp168が それぞれCH‒

π

スタッキングによって重なり合っている ことが明らかになった.これら2つのトリプトファン残 基をそれぞれアラニンに変異させると,CrChiAがもつ 糖転移活性が著しく減少し(5),特にTrp168の変異は糖 転移活性をほぼ完全に消失させた(梅本ら,投稿中). サブサイト+1, +2, +3へのアクセプター分子の結合力 は,糖転移活性を決める重要な要因なのである.

一方,図1Cを詳細に見てみると,+2と+3の糖残基 に見られたトリプトファン残基との相互作用は,+1部 位には見られない.このことは,+1部位へのトリプト ファン残基の導入はその部位の糖残基との相互作用を強 め,糖転移活性を高めるものと考えられる.実のとこ ろ, キチナーゼB(SmChiB)の+1 部位ではTrp97が糖残基との相互作用にかかわってお り,プロセッシブなキチン分解において重要な役割を 担っている(6).SmChiBのTrp97に対応するアミノ酸残 基 は,NtChiV, AtChiC, CrChiAの そ れ ぞ れ に お い て Gly74, Gly75, Gly77であるので,われわれはこれらのグ リシン残基をトリプトファンへと変異させ,糖転移活性 の促進を試みた.その結果,いずれの変異酵素において も野生型と比べ,糖転移活性が促進されており,特に AtChiC-G75WとCrChiA-G77Wでは著しい促進効果が

今日の話題

(2)

492 化学と生物 Vol. 53, No. 8, 2015

見られた(7).また,CrChiA-G77Wとキトオリゴ糖複合 体のX線結晶構造も得ることができ,変異導入された トリプトファンインドール環と+1ピラノース環との CH‒

π

スタッキングによる重なりを確認することができ た(梅本ら,投稿中).

最近,Zakkariassenら(8)は,GH18キチナーゼにおい てほぼ完全に保存されているDxDxE触媒モチーフの中 央に位置するアスパラギン酸(D2)に変異を導入し,

著しい糖転移活性の増大を実現した.この変異によって 活性中心近傍の静電的環境が変化し,水分子の攻撃が抑 制されたものと彼らは説明している.このことは,

DxDxE触媒モチーフのD2の存在状態と糖転移活性との 関連性を示唆している.図1Cの結晶構造をもう一度見 てみると,高能率に糖転移反応を触媒するCrChiAにお いて,DxDxEモチーフのD2はグルタミン酸側に配向し ている.しかし,図1Dで示すように糖転移活性が極め て低いNtChiVやAtChiCのD2は逆にアスパラギン酸側 に配向しているのである.D2のグルタミン酸側への配 向は,活性中心の静電的な環境を変化させ,活性化され た水分子の−1ピラノース環C1炭素原子への攻撃を抑 制し,逆に糖転移反応を促進させるものと思われる.前 のパラグラフで説明した+1部位へのトリプトファン側 鎖の導入は,活性中心近傍の疎水性を増大させるので,

水分子の攻撃が抑制されている可能性も十分に考えられ

る.このように2つの構造的な要因,1)アクセプター分 子の結合力が高いこと,2)活性中心において水分子の攻 撃が抑制されていること,これら2つの要因が協同的に 作用することによって効率的な糖転移を引き起こしてい るようである.有効な糖転移酵素の創製のためには,こ れら2つの構造要因を十分に考慮に入れるべきであろう.

  1)  T.  Taira,  H.  Hayashi,  Y.  Tajiri,  S.  Onaga,  G.  Uechi,  H. 

Iwasaki,  T.  Ohnuma  &  T.  Fukamizo:  , 19,  1452 (2009).

  2)  T.  Ohnuma,  T.  Numata,  T.  Osawa,  M.  Mizuhara,  K.  M. 

Vårum & T. Fukamizo:  , 75, 291 (2011).

  3)  T. Ohnuma, T. Numata, T. Osawa, M. Mizuhara, O. Lam- pela, A. H. Juffer, K. Skriver & T. Fukamizo:  , 234,  123 (2011).

  4)  N. Umemoto, Y. Kanda, T. Ohnuma, T. Osawa, T. Numata,  S. Sakuda, T. Taira & T. Fukamizo:  , 82, 54 (2015).

  5)  T. Taira, M. Fujiwara, N. Dennhart, H. Hayashi, S. Ona- ga, T. Ohnuma, T. Letzel, S. Sakuda & T. Fukamizo: 

1804, 668 (2010).

  6)  S. J. Horn, P. Sikorski, J. B. Cederkvist, G. Vaaje-Kolstad,  M.  Sørlie,  B.  Synstad,  G.  Vriend,  K.  M.  Vårum  &  V.  G. 

Eij sink:  , 103, 18089 (2006).

  7)  N.  Umemoto,  T.  Ohnuma,  M.  Mizuhara,  H.  Sato,  K. 

Skriver & T. Fukamizo:  , 23, 81 (2013).

  8)  H. Zakariassen, M. C. Hansen, M. Jøranli, V. G. Eijsink & 

M. Sørlie:  , 50, 5693 (2011).

(梅本尚之,深溝 慶,近畿大学大学院農学研究科)

A

C

DxDxE

cataly c mo f DxDxE

cataly c mo f

B

E115 D111 D113

D112 D114 E116 AtChiC NtChiV

D

CrChiA

NtChiV AtChiC

(GlcNAc)3

図1ソテツクラスⅤキチナーゼの結 晶構造

A: CrChiA, NtChiV, AtChiCのCαトレー スの重ね合わせ.矢印部分のループにお いて相違が見られる.B: CrChiA-E119Q と(GlcNAc)3の複合体構造.(GlcNAc)3

は+1, +2, +3部位に結合している.C: 

CrChiA-E119Qと(GlcNAc)3の 結 合 様 式.Bの図の点線部分を拡大し,ステレオ で表示した.点線は水素結合を示し,結 合に関与するアミノ酸残基および糖残基 はスティックモデルで表示している.D: 

NtChiVとAtChiCのDxDxE触媒モチーフ のコンフォメーション.

今日の話題

(3)

493

化学と生物 Vol. 53, No. 8, 2015 プロフィル

梅本 尚之(Naoyuki UMEMOTO)

<略歴>2010年近畿大学農学部バイオサ イエンス学科卒業/2012年同大学大学院 農学研究科バイオサイエンス専攻博士前期 課程修了/2015年同大学大学院農学研究 科バイオサイエンス専攻博士後期課程修了

(農学博士)/同年東北大学大学院工学研究 科日本学術振興会特別研究員(PD),現在 に至る<研究テーマと抱負>研究テーマ:

糖転移活性をもつ植物キチナーゼとオキサ ゾリンを用いたキチンオリゴ糖の合成.抱 負:機能性糖質であるキチンオリゴ糖の利 用促進のため,キチナーゼを用いたキチン オリゴ糖の効率的生産法を確立したい<趣 味>新しい居酒屋の開拓

深 溝  慶(Tamo FUKAMIZO)

<略歴>1977年九州大学農学部農芸化学 科卒業/1983年同大学大学院農学研究科 博士課程修了/同年カンザス州立大学博士 研 究 員/1985年 近 畿 大 学 農 学 部 助 手/

1989年同講師/1992年同助教授/1999年 同教授,現在に至る<研究テーマと抱負>

キチン質加水分解酵素の構造と機能および 機能変換<趣味>野山の散策

Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.53.491

今日の話題

参照

関連したドキュメント

以上,テルペン合成酵素の細胞活性がボトルネックの 一つであることは明快である.しかし,どのテルペン合 成酵素を選べば細胞生産効率が高いかは,試してみない とわからない.さらには,酵素のどの特質が足をひっ ぱっているかも,ケースバイケースのようである.この ような状況においては,実質的に,進化工学が唯一の希 望となる.つまり,野生型と似て異なる多くの酵素変異

【結果・考察】分取クロマトグラフィーを用いて、種々の条件で精製を行い、HPLC 及び TLC によ る分析を行った結果、2 糖、3

名   称 別  名 類別名 139 酵素処理イソクエルシトリン (「ルチン酵素分解物」から得られ

1. は じ め に

グルタチオン S-転移酵素の構造と機能 ─薬剤による抵抗性発現からの脱却─ 宮 本   徹* (平成 24 年 12 月 21 日受付/平成 25 年 1

をモデル LPLAT として HEK293A

glycoside hydrolase family 31 (GH31) に属する α-glucosidase は加水分解と糖転移の 2

糖質加水分解酵素には加水分解反応に加えて,糖転移反応も起こすものがある。糖転移反