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水族館における海洋生物飼育水処理システムの開発 - J-Stage

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Academic year: 2023

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はじめに

水環境中への窒素成分の蓄積は水生 生物にとって有害であり,富栄養化な ど,水質悪化の原因にもなる(1, 2).自 然界では硝化や脱窒反応により,水環 境中の窒素成分は大気中に放出される が,閉鎖性水域や人工的な環境では窒 素循環が十分に起こらず,何らかのか たちで窒素成分が蓄積しやすい(1).こ のような環境においては,窒素成分の 除去が必要となってくる.

上記のような環境のうち,水族館は 閉鎖性水域であり,かつ自然界で生じ るような窒素循環はほぼ生じないた め,飼育水中に有機物質や窒素成分が 蓄積していく.主な窒素成分としてア ンモニア,亜硝酸および硝酸態窒素が ある.これら窒素成分が水生生物に与 える影響として,アンモニアは神経へ の毒性,亜硝酸は内臓疾患や免疫機能 へ阻害を与える.また硝酸も免疫機能 の低下を誘引し白点病などの原因にな ると言われている.そこで,一般的な 水族館では水質維持のためにろ過シス テムが設けられている.しかし,これ らの方法では,好気的環境を得ること は容易であるのに対し,嫌気的環境を 得ることは難しい.つまり,好気的環 境で生じる有機物質の除去やアンモニ ア酸化および硝化は十分に起こるのに 対し,無酸素および嫌気的環境で生じ る脱窒は十分に起こらず,処理水中に 硝酸態窒素が蓄積していくことにな

る.現在では,水族館における硝酸態 窒素の除去には希釈を行うのが一般的 であるが,飼育水に対して1日当たり 少なくとも5 〜10%の希釈水が必要と なる.したがって,水族館のような巨 大な水槽 (10 〜104 m3) には適してい ない方法と言える(3).特に海水を用い る場合には,新鮮な海水の運搬や人工 海水の原料および加温などが必要であ り,希釈にかかる費用は莫大なもので ある.このような背景から,海水に対 応した脱窒システムの開発が望まれて いる.しかし,多くの水族館では,す でにろ過システムが設置されているた め,新たな脱窒システムには,容積が 小さく維持管理が容易であることが望 まれる.

そこで本研究では,補給水に頼ら ず,海洋水族館における飼育水の水質 レベルを達成可能および希釈水の低減 を可能とする,既存の水族館に設置可 能な脱窒装置を大成建設株式会社,長 岡技術科学大学との共同研究により開 発を行った.

実験方法

・実験装置

図1に USB (Up-flow Sludge Blan - ket) 型脱窒リアクターの概要図を示 す.USBリアクターには容積2 L,高 さ1 mの円柱状カラムを用いた.糖蜜 廃液を処理するリアクターより採取し

水族館における海洋生物飼育水処理システムの開発

図1USB型脱窒リアクター

(2)

た汚泥および下水を処理するリアク ターより採取したグラニュール汚泥を 植種した.グラニュール汚泥はいずれ もメタン発酵汚泥である.植種時の汚 泥(微生物)濃度は,おおむね45 g  VSS/Reactorである.

・連続通水試験

USB型リアクターに対し連続通水 試験を行った.模擬廃水として人工海 水 (Instant  Ocean,  Aquarium  Sys- tems社) および硝酸ナトリウムを用 い,塩 濃 度3%,硝 酸 態 窒 素 濃 度40  mgN/L,溶存酸素濃度6 〜 8 mg/L程 度に調整した.

また,電子供与体として酢酸ナトリ ウムをgC/gN=3となるようにポン プ に て 添 加 し た.カ ラ ム 内 温 度 は 25℃とした.

HRTを12時 間,8時 間,6時 間,4 時間,2時間,1.5時間と短縮していっ た(表1).分 析 項 目 と し て,pH,  ORP(酸化還元電位),DO(溶存酸 素),硝酸および亜硝酸態窒素濃度を 測定した.硝酸,亜硝酸濃度測定は HACHにより測定を行った.

なお,USB型脱窒リアクターの馴

養方法であるが,高濃度に汚泥を保持 するために模擬廃水の塩濃度を初期濃 度1%から1%ずつ上昇させて運転し

た.これは,塩分で馴養されていない 汚泥をそのまま高塩濃度下にさらす と,微生物群が脱水状態となり悪影響

図2USB型脱窒リアクターにおける硝酸態窒素濃度・亜硝酸態窒素濃度・硝酸態窒 素除去率の経日変化

表1USB型脱窒リアクターの水理学的 滞留時間 HRT

試験期間 HRT (h)

運転開始〜  27日目 12       28日目〜  54日目   8      55日目〜179日目   6    180日目〜209日目   4    210日目〜232日目   2    233日目〜251日目   1.5

(3)

を受けるおそれがあるためである.

・菌叢解析

連続通水試験開始77日目および230 日目にリアクター下部から汚泥を採取 した.その後,各汚泥よりDNAを抽 出し細菌を標的とした菌叢解析および 優占種の特定をPCR-Cloningにより試 みた.得られたクローンのシーケンシ ングはドラゴンジェノミクスセンター

(タカラバイオ)に依頼した.

得 ら れ た 配 列 の 相 同 性 解 析 に は  green  genes (URL : http://green- genes.lbl.gov) を用い,相同性が97%

以上得られたものを系統的に同一とし 菌叢の特定を行った.

実験結果および考察

・連続通水試験

すべての期間において処理水中の pHは約8.5,溶存酸素濃度は0.3 mg/L 程度,酸化還元電位はおおむね−400  mVを維持し,脱窒に必要な無酸素お よび嫌気的環境を安定して得ることが できた.図2に硝酸態窒素濃度,亜硝 酸態窒素濃度および硝酸態窒素除去率 の経日変化を示す.馴養が進みシステ ムが安定した後は,HRT 2時間にお いて,処理水中の硝酸態窒素濃度は 0.5±0.6 mgN/L,硝酸態窒素除去率 99±1%となり,亜硝酸態窒素の生成 は確認されなくなった.

本試験では,HRTを段階的に短縮 し,最終的にHRT 1.5時間までの運転

を行った.その結果,すべてのHRT で良好な硝酸態窒素除去性能を得るこ とができた.また,有機物添加ポンプ の不調により除去性能が低下した場合 でも,その回復には長時間を要しない ことがわかった.

・菌叢解析

表2に通水試験開始77日目および 230日目におけるUSB型脱窒リアク ターの菌叢解析結果を示す.これよ り,Proteobacteria門に属する細菌が 多く存在することがわかった.その Proteobacteria門 の な か で も,Beta- proteobacteria綱に属する  属 が最も優占していることがわかった.

  属は酢酸資化性脱窒細菌で 多くの脱窒リアクター内から見つかっ ている.酸素分子,硝酸,亜硝酸,亜 酸化窒素を最終電子受容体として利用 する.また,窒素酸化物を亜酸化窒素 および窒素ガスに還元する.至適温度 は28 〜 40℃,至 適pHは7.2 〜 8.4で ある.主に淡水や土壌の嫌気的領域に

生息しているが,河口より分離された 種 も 存 在 し て い る(4)

  はNaCl濃度5%では生育でき ないが2%では生育可能であると報告 されている(5)

77日目における全菌叢に占める脱 窒細菌の割合は32%であった.また,

耐塩性および好塩性と見られる細菌の 割合は42%であった.一方,230日目 においては,脱窒細菌と見られるのは  属のみであった.全菌叢に 占める耐塩性および好塩性と見られる 細菌の割合は78%であった(6)

海水を処理するほかの脱窒槽では,

メタノール添加型の場合,  

属や   属が確認されてお り,Montreal Biodomeの脱窒槽では   属が70%を占めていた との報告がある(1).一方,酢酸塩添加 型の脱窒槽では,本実験同様に

 属や  属が確認されて いる(7).本リアクターでは,有機源と して酢酸ナトリウムを用いたことで,

表2微生物群集構造解析結果

77日目 230日目

存在割合 (%)

Alphaproteobacteria   6 Betaproteobacteria

22 70

 Uncultured Rhodocyclaceae   6   5

Gammaproteobacteria 13

Deltaproteobacteria   8   2

Bacteroidetes   4   3

Deferribacteres   4   3

Firmicutes   4   2

Others 31 16

(4)

酢酸資化性の  属が優占した と考えられる.

まとめ

本研究は,水族館において適応可能 な海洋生物飼育の脱窒リアクターの開 発を目的として行った.結果より,

USB型脱窒リアクターはHRT 1.5時 間にて硝酸態窒素除去率95±2%,硝 酸態窒素除去速度0.61 kgN/m3/dayで あった.UASB型脱窒リアクターが有 効であったのは,無機物の蓄積を回避 し高濃度に汚泥を保持可能であるこ と,廃水に適した細菌群(  

属)を安定して得られることが大きな 理由と考えられる.

この硝酸態窒素除去速度はこれまで に報告された水族館における脱窒リア クターの約2倍である.本研究では,

より高性能な脱窒リアクターを作り上 げることができた.これにより,脱窒 リアクター容積の縮小化の可能性も示 唆された.また,リアクター容積の縮 小化に伴い,小型展示水槽や家庭用飼 育水槽などへの適用を検討していく予 定である.

本研究により得られた知見は,大成 建設が近年設計・建設した2件の脱窒 システムの技術として応用されてい る.

  1)  松尾友矩: 水環境工学 ,オーム

社,1999, pp. 44‒45.

  2)  松本幹治,新田見匡:化学装置,

8, 28 (2004).

  3)  N. Labbe, S. Parent & R. Villemur :  

37, 914 (2003).

  4)  G.  M.  Garrity :“Bergeyʼs  Manual  of  Systematic  Bacteriology,  Sec- ond Ed., Volume Two, the Proteo- bacteria, Part C the Alpha-, Beta-,  Delta-, and Epsilonproteobacteria,” 

Springer. 2005.

  5)  B.  Song,  N.  J.  Palleroni  &  M.  M. 

Haggmlom :

50, 551 (2000).

  6)  J. H. Yoon, S. H. Yeo, I. G. Kim & 

T. K. Oh :

54, 1799 (2004).

  7)  T.  Osaka,  K.  Shirotani,  S.  Yoshie 

&  S.  Tsuneda : ,  42,  3709 (2008).

(山 口 隆 司*1,中 村 明 靖*1,川 又  睦*2,森 正人*3,*1長岡技術科学 大学大学院工学研究科,*2大成建設 株式会社技術センター土木技術研究 所,*3横浜MM研究所)

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プロフィル

山口 隆司(Takashi YAMAGUCHI)  

<略歴>1991年長岡技術科学大学工学部 建設工学課程卒業/1993年同大学大学院 工学研究科建設工学専攻修了/1995年同 エネルギー・環境工学専攻中退/同年呉 工業高等専門学校土木工学科助手/2007 年長岡技術科学大学環境・建設系准教授/

同年国立環境研究所客員研究員(現在ま で)/2012年同教授,現在に至る<研究 テーマと抱負>国内外での微生物を用いた 環境保全技術の開発,いろんなことの潮流 がいかにできるか? など<趣味>蠱惑美 のあるものに触れること

中村 明靖(Akinobu NAKAMURA)  

<略歴>2011年長岡技術科学大学工学部 エネルギー・環境工学専攻修了/同年同大 学博士研究員/2013年同大学環境・建設 系特任助教,現在に至る<研究テーマと抱 負>微生物を用いた廃水,廃棄物の処理・

創エネルギー技術の開発<趣味>映画、ド ラマ鑑賞(最近は主にアメリカドラマ)

川 又  睦(Mutsumi KAWAMATA)  

略 歴>1989年 東 京 大 学 大 学 院 農 学 系研究科博士課程修了/同年大成建設 株 式 会 社 技 術 研 究 所/1990年 株 式 会 社 海 洋 バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー 研 究 所(出 向)/1992年 大 成 建 設 株 式 会 社 技 術 セ ン タ ー,現 在 に 至 る研 究 テ ー マ と 抱 負生 物 や 天 然 物 を 利 用 し た 環 境 保全技術の開発<趣味>サイクリング   

   

森  正 人(Masahito MORI)    

<略歴>1972年武蔵工業大学大学院工学 研究科機械工学専攻修了/同年大成建設株 式会社入社/2012年横浜MM研究所代表,

現在に至る<研究テーマと抱負>水族館の 水処理に関する研究<趣味>ドライブ,音 楽鑑賞,読書,囲碁

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