博 士 ( 水 産 学 ) 中村 幹雄 学位論文題名
宍道湖における ヤマトシジミCorbic 勿励ブめ〇刀 icar Prime と 環 境 と の 相 互 関 係 に 関 す る 生 理 ・ 生 態学 的研 究
学 位 論 文 内 容 の 要旨
ヤマトシジミは我が国の内水面漁業の中で最も漁獲量が多い重要水産生物であ る。漁獲量が全国一である宍遭湖においてヤマトシジミの漁場環境特性,分布,
生理的環境耐性とその生化学的適応機構を調ベ,ヤマトシジミの生理・生態的特 性と生息環境との相互関係を明らかにした。次いで漁場改善の具体的方法として 覆 砂 の 実 証 実 験 を 行 っ た 。 得 ら れ た 結 果 は 次 の よ う に 要 約 さ れ る 。 第1章では,宍道湖の環境を明らかにした。塩分の時空間的変化は大きく底層水 は0.8〜19.5psu,平均6.lpsuであった。また,夏期にはしばしば塩分躍層を生 じ,湖底には貧酸素水塊が形成された。植物プランクトンは塩分の変化により優 占種も代わった。塩分が低いときはMicrocys tis incertaを中心とした緑藻・ラン 藻類が,高いときにはCyclotella sp.を中心とした珪藻が繁殖した。動物プランク トンは広塩性汽水種Sinocalanus tenellusが優占した。
第2章では,ヤマトシジミの生息が底層の生物・無生物環境により規制されてい るのか,また,環境に対してどのように作用を及ぼしているのかを明らかにし た。宍道湖ではヤマトシジミがマクロペントスの99%以上を占める圧倒的優占種 であり,主に,水深4m以浅で,底質の粒度が荒く,有機物の少ない,また,底層 水のD○の高い湖棚部に分布していた。ヤマトシジミの好的環境範囲(1000個/
ボ 以 上 ) は , 水 深3.5m以 浅,DO飽 和度80%以 上, 強熱減 量5% 以下COD5ppm 以下,シルト・粘土含有率10%未満であった。また,環境要因の中で生物の生息 を最も制限する環境要因を検出する新しい方法,累積曲線方を提案した。その結 果,ヤマトシジミの生息の最も強い制限要因は,粒度組成(シルト・粘土含有 量)であった。また,この種が宍道湖の窒素循環に呆たしている役割を定量化し た結果,ヤマトシジミが1日で取り込む窒素の量は29.7t,糞・偽糞としての排泄 量が8.7t,尿としての排泄量が5.2tであり,漁獲によって宍道湖より取り出される 窒素の量は1日に0.2tであった。ヤマトシジミはその生息が環境に強く影響を受け る と と も に , 環 境 に 対 し て も 影 響 を 及 ぼ し て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。 第3章では,ヤマトシジミの環境要因(塩分,水温,溶存酸素,硫化水素)に対 する耐性を室内実験で明らかにした。その結果,ヤマトシジミの環境耐性は水温に ‑ 149←
よって影響を受け,低水温時に比ベ高水温時に耐性は弱く,高水温時の耐性が重要 であることが明らかになった。水温耐性は32℃まで影響はほとんどなく,塩分耐性 は5〜22psu程度で生存可能であり,D〇濃度は水温28℃で1.5m g/ピ以上あれば長 期 の生存が可 能であった 。硫化水素 は水温28℃でImg7e以上の濃度では生存に 影響があり,0.5 mg7ピ以下では影響がなかった。中海の汽水産二枚貝,アサ1J, サルボウ,ホトトギスガイと耐性の強さを比較した結果,高塩分に対する耐性を除 いて,いずれの環境要因に対してもヤマトシジミの環境耐性が上記の3種より強 く,本種の環境耐性の強さが示唆された。
第4章では,環境水の塩分変化に対応して,生体内で何が,どのように働き,浸 透圧変化に適応しているのかを明らかにするため,水槽実験とフイールド両方にお い て , 環 境 水 の 塩 分 変 化 に 対 す る 生 体 成 分 の 変 化 を 分 析 し た 。 ヤマトシジミの水分含量は環境塩分濃度の増加に伴い増大した。エキス窒素量,
遊離アミノ酸総量は塩分濃度の上昇に伴い増加し,塩分濃度が減少するとそれらの 量も減少した。塩分変動に対する細胞内浸透圧調節物質(オズモライト)として,
主にアラニン(D,L体)が働き,次いでプロ1Jン,グリシン,グJレタミン酸およ びp.アラニンが寄与した。さらに,.宍道湖の湖水塩分濃度とヤマトシジミの生体 成分の変動を2年間にわたって調べた結果,水槽実験と同様の塩分変化に対する生 体成分の変化を示した。
第5章では,環境水の酸素濃度の減少にともなう生体内成分の変化を調べた。水 分含量,全窒素量,遊離アミノ酸,アラニン,プロリン,有機酸総量,コハク酸,
プロピオン酸,酢酸は増加傾向を,グルタミン酸,グリコーゲン,オクトピンは減 少傾向を示した。成分の変化の様相は好気的条件,貧酸素条件,無酸素条件の酸素 濃度の変化の過程で,それぞれ異なり,物質によって特有のバターンを示した。
代謝上重要と考えられるこれら体成分の変化から,ヤマトシジミの無酸素代謝メ カニズムを検討した結果,この種の貧(無)酸素に対する耐性の強さが示唆され た。
第6章では,漁場環境の改善を目的とした覆砂工法の実証実験を行った。底質の T‑N,T‑P,IL,CODはいずれも覆砂区の方が低い値であった。覆砂を開始した翌年 から,覆砂区の方が対照区よルヤマトシジミの生息量が常に多かった。そして3年 後 の実験終了 時におけるヤマトシジミの生息個体数およぴ湿重量は,覆砂区で 3570個/ボ,165 5.9g/ボであり,対照区で100個/ボ,279g/ボであった。以上 の結果から,ヤマトシジミ漁場の改善造成における覆砂エ法の有効性が示された。
学位論文審査の要旨 主 査 教 授 中 尾 繁 副 査 教 授 麦 谷 泰 雄 副査 助教授 品川 明
学位論文題名
宍道湖におけるヤマトシジミCo アろzc 銘励ゾゅ〇刀zc ¢Prime と 環境と の相互関係に関する生理・生態学的研究
漁獲量が全国一である宍遭湖においてヤマトシジミの漁場環境特性、分布、生理 的環境耐性とその生化学的適応機構を調べ、ヤマトシジミの生理・生態的特性と生 息環境との相互関係を明らかにした。次いで粒度組成との関係を明らかにするため の 覆 砂 の 実 証 実 験 を 行 っ た 。 得 ら れ た 結 果 は 次 の よ う に 要 約 さ れ る 。 第1章では、10年間の調査結果から宍道湖の環境を明らかにした。塩分の時空間 的変化は大きく底層水は0.8〜19.5 psu.平均6.lpsuであった。また、夏期にはしば しば塩分躍層を生じ、湖底には貧酸素水塊が形成された。
第2章ではヤマトシジミの生息が環境によりどのように規制され、また、環境に 対してどのように作用を及ぼしているのかを明らかにした。ヤマトシジミはマクロ ベントスの99%以上を占める圧倒的優占種であり、主に、水深4m以浅で、底質の 粒度が粗く、有機物の少ない、また、底層水のDOの高い湖棚部に分布していた。
ヤマトシジミの好的環境範囲は、水深3.5m以浅、DO飽和度80%以上、強熱減量5
%以下、COD5ppm以下、シルト・粘土含有率10%未満であった。また、環境要因 の中で生物の生息を最も制限する環境要因を検出する新しい方法、累積曲線法を提 案した。その結果、ヤマトシジミの生息の最も強い制限要因は、粒度組成(シルト 粘土含有量)であった。また、この種が宍道湖の窒素循環に果たしている役割を定 量化した結果、ヤマトシジミが1日で取り込む窒素の量は29.7t.糞・偽糞として の排泄量が8.7t、尿としての排泄量が5.2tであり、漁獲によって宍道湖より取り出 される窒素の量は1日に0.2tであった。ヤマトシジミはその生息が環境に強く影響 を受け るとともに 、環境に対 しても影響 を及ぽして いることが 示唆された。
第3章では、ヤ マトシジミ の環境要因(塩分、水温、溶存酸素、硫化水素)
に対する耐性を室内実験で明らかにした。その結果、ヤマトシジミの環境耐性は 水温によって影響を受け、低水温時に比ベ高水温時に耐性は弱く、高水温時の耐 性が重要であることが明らかになった。水温耐性は32℃まで影響はほとんどなく、
塩分耐性は5〜 22psu程度で生存可能であり、DO濃度は水温28℃で1.5mg/ピ以上 あれば長期の生存が可能であった。硫化水素は水温28℃で1mg/ゼ以上の濃度では 生存に影響があり、0.5mg/ゼ以下では影響がなかった。中海の汽水産二枚貝、
アサリ、サルボウ、ホトトギスガイと耐性の強さを比較した結果、高塩分に対す る耐性を除いて、いずれの環境要因に対してもヤマトシジミの環境耐性が上記 3種より強く、本種の環境耐性の強さが示唆された。
第4章では、水槽実験とフイールドの両方において、環境水の塩分変化に対 する生体成分の変化を分析した。塩分変動に対する細胞内浸透圧調節物質(オ ズモライト)として、主にアラニン(D.L体)が働き、次いでプロルン、グリ シン 、グ ルタミン酸 およびp‑アラ ニンが寄与 していた。 さらに、宍 道湖の 湖水塩分濃度とヤマトシジミの生体成分の変動を2年間にわたって調べた結果、
水 槽 実 験 と 同 様 の 塩 分 変 化 に 対 す る 生 体 成 分 の 変 化 を 示 し た 。 第5章では、環境水の酸素濃度の減少にともなう生体内成分の変化を調べた。
水分含量、全窒素量、遊離アミノ酸、アラニン、プ口リン、有機酸総量、コハ ク酸、ブロピォン酸、酢酸は増加傾向を、グルタミン酸、グリコーゲン、オク トピンは減少傾向を示した。
代謝上重要と考えられるこれら体成分の変化から、ヤマトシジミの無酸素代謝 メカ ニズ ムからこの 種の貧(無 )酸素に対 する耐性の 強さが示唆 された。
第6章では、粒度組成との関係を明らかにする目的で覆砂の実証実験を行った。
覆砂を開始した翌年から、粒度の粗い覆砂区の方がシルト・粘土の対照区よル ヤマトシジ ミの生息量 が常に多か った。そし て3年後の実験終了時における ヤマトシジミの生息個体数および湿重量は、覆砂区で3570個/ボ、1655.9g/ボ であり、対照区で100個/ボ、279 g/甜であった。以上の結果から、ヤマトシジミ と粒度組成との関係が明らかにされた。
以上の結果はヤマトシジミと環境との相互関係を詳細に明らかにしたもので、
今後本種の資源増大の対策に極めて貴重な知見を提供するものである。審査委員 全 員 は 本 論 文 が 博 士 の 学 位 ( 水 産 学 ) に 値 す る と 判 定 し た 。