1. はじめに 尿素は,動物の体内でタンパク質が分解されること によって生成される有機化合物で,尿とともに老廃物 を体外へ排出する重要な役割を担っている.無機化合 物から最初に合成された有機化合物として知られてお り,工業生産化され大量生産が可能となると,様々な 分野で利用されるようになった.その例としては,化 学肥料や尿素樹脂,接着剤,凍結防止剤,化粧品,医 薬品など多岐に亘る.さらに,排気ガス等に含まれる 大気汚染物質の窒素酸化物 (NOx) を水と窒素に浄化 する技術に,尿素は還元剤として利用される.この技 術には一般的に尿素を水に溶解した尿素水が使用され る.自動車業界では,NOx 排出規制強化に伴い 2005 年から尿素SCR (Selective Catalytic Reduction:選択 触媒還元) システムを搭載したディーゼルエンジン車 にて尿素水を使用してきた.一方,船舶業界において は,近年NOx 排出規制対策の一つとして SCR システ ムが注目され,今後尿素水の需要が高まることが予想 されている. 我々は,ISO 規格および JIS 規格に適合するよう, 厳しい品質管理体制のもとディーゼルエンジン車で使 用される高品位尿素水 AUS 32 (32.5%尿素水: AdBlue®) の製造および供給を行ってきた.そこで, 我々の蓄積してきた尿素水に関するスキルやノウハウ を船舶にて活用できれば,船舶業界の環境対策の技術 発展に貢献できるのではないだろうか. この度,日本マリンエンジニアリング学会様より執 筆のご依頼を頂き,本誌への投稿の機会を頂戴した. 今後船舶での尿素水の使用が増えることは確実で,初 めて取り扱う方に尿素水の紹介を,ということであっ た.そこで,本稿では尿素水の特性について初歩的な 説明を行い,実際に取り扱う際の注意点や今後利用可 能な供給網について簡単に述べたい.新日本化成㈱は 尿素水の取り扱いについて,伊藤忠エネクス㈱は供給 について,それぞれ得意分野を活かして解説する. 2. 尿素水の製造 本章では,一般的な工業用尿素の合成方法に触れた のち,尿素水の製造方法についてフロー図を示しなが ら紹介する. 2.1 原料尿素について 一般的な工業用尿素の合成方法は,アンモニアと二 酸化炭素を高温高圧の環境下で反応させる方法である (式 1). 2NH3 + CO2 = CO(NH2)2 + H2O (1) まずアンモニアを生産するわけだが,原料としては 天然ガスや石炭を使用する.それらを改質することに よって窒素,水素,二酸化炭素を得たのち,窒素およ び水素からアンモニアを生成する.そして,先に分離 されていた二酸化炭素とアンモニアを反応させ,尿素 を合成する. 尿素は用途によって化学肥料用と工業用に大別され, その違いは不純物の含有量である.SCR システムに使 用される尿素水を製造するためには,工業用の中でも さらに高純度な尿素を用いることが望まれる.それは, 後述する尿素水の厳しい品質を維持するためであり, 例えば,Automotive grade や Technical grade などと 呼ばれるグレードのものが適する.不純物としてここ で取り上げたい物質はビウレットおよびホルムアルデ ヒドである.ビウレットは化学式 (CONH2)2NH で表 される尿素の二量体である.尿素合成の過程において 高温加熱処理をすることで生成され,この処理時間が 長いほど生成量は多くなる.尿素SCR システムでは 配管中に尿素水を噴射するが,その配管に尿素由来の 析出物が堆積する問題がある.その析出物の原因物質 の一つとしてビウレットが挙げられるが,尿素製造工
SCR システムに使用される尿素水の特性と運用
* 清水 詩織** 平野 真央** 土屋 元幸*** 平野 茂** *原稿受付 平成30年8月10日. **新日本化成株式会社(千葉県市原市五井9039). ***伊藤忠エネクス株式会社(東京都港区虎ノ門2-10-1). 清 水 詩 織** 平 野 真 央** 土 屋 元 幸*** 平 野 茂**SCR システムに使用される尿素水の特性と運用 程上,生成を避けることはできない.そのため,我々 は,前述のグレードのようなビウレット含有量が低濃 度となるよう設計されているものを使用している.一 方,ホルムアルデヒドは粒状の尿素が固まらないよう 固化防止剤として添加される物質である.しかし,ホ ルムアルデヒドは有害大気汚染物質に指定されており, 加えて発がん性を示すおそれがあるとされていること から,我々は尿素水の製造において固化防止剤が添加 されていない尿素を使用している. 現在,日本では尿素メーカーは数社あるが,工業用 尿素の供給源としては海外からの輸入が大多数を占め ている.世界全体としては,中東やヨーロッパなど天 然ガスを原料とする製造プラントが大半である一方, 中国は石炭の埋蔵量が豊富であるため,石炭を原料と する製造プラントが数多く存在する. 2.2 尿素水の製造 尿素水の製造フローを図1 に示す.図 1 は概略図で あるが,尿素水の製造自体は尿素を純水に溶解すると いう一工程であることがお分かり頂けるだろう.破砕 した原料尿素と純水を溶解槽 (図 2) へ投入し撹拌す る.尿素は水に非常に溶けやすい性質であるが,溶解 するときに吸熱するため,熱交換器等で加温しながら 行う必要がある.あるいは,純水を温めて使用するこ とも可能である.ただし,製造中に尿素分解が起こら ないよう温度上昇に注意しなければならない.製造し た尿素水を貯蔵タンク (図 3) へ送液し,出荷まで貯蔵 する.製造ライン中にストレーナーやフィルター (図 4) を設置することで異物の除去を徹底する. 尿素水の製造において,最も重要な要素は純水の品 質である.原水として井戸水または水道水を使用する ことが多いが,いかに不純物を除去するかが重要であ る.まず,砂ろ過や活性炭,薬品処理,膜処理などに よって原水から有機物や残留塩素を取り除く.そして, 最終的にイオン交換樹脂やRO 膜,EDI などを単一ま たは組み合わせて使用することによって陽イオンや陰 イオンを除去し,純水を製造する. 以上のように,高品位な尿素水を製造するためには, 原料尿素 CO(NH2)2 純水 H2O 溶解 尿素水 CO(NH2)2+ H2O 図1 尿素水の製造フロー 図2 溶解槽と攪拌機 (新日本化成㈱の保有設備) 図3 尿素水の貯蔵タンク (新日本化成㈱の保有設備) 図4 フィルターハウジング (新日本化成㈱の保有設備) 原料尿素および純水の徹底した管理が必要である.次 章では,船舶用 SCR システムに使用される尿素水の 品質について紹介する. 3. 尿素水の特性 船舶用SCR システムに使用される尿素水に関して, 2014 年に ISO 18611−1 として国際規格が制定された. SCR システムが適正に作動するために必要な尿素水 SCRシステムに使用される尿素水の特性と運用 808
AUS 40 (40%尿素水) の品質規格が定められており, 厳しい品質管理が求められている. 本章では,尿素水の国際規格および一般特性を紹介 する. 3.1 尿素水の国際規格 ISO 18611−1 の品質規格を表 1 に示す.全 14 項目 のうち密度を除く13 項目は,ISO 18611−2 に示され る試験方法によって管理される.密度の測定には,ISO 3675 または ISO 12185 の方法が用いられる. 表1 の右欄は,我々が製造した AUS 40 の実測値で ある.ビウレットやアルデヒド,金属イオンについて, 国際規格を十分に満たしていることが見て取れるだろ う.AUS 32 は,AUS 40 と比べてより厳しい品質規 格が定められている.我々は,AUS 32 の製造に用い る原料尿素や純水を使用してAUS 40 を製造すること ができるため,表1 のような数値を提示することが可 能である. 3.2 AUS 40 の化学的特性 表2 に AUS 40 の特性をアンモニアと比較して示す. AUS 40 は尿素が水に溶解した液体であり,尿素はア ミノ基2 個がカルボニル基によって結合した構造をも つ.そのため,尿素1 モルが分解すると 2 モルのアン モニアが生成される (式 2). CO(NH2)2 + H2O → 2NH3 + CO2 (2) つまり,AUS 40 は約 40%の尿素水であるため,そこ 表1 ISO 18611−1 で制定されている品質規格1) と新日本 化成㈱が製造したAUS 40 の実測値 項目 国際規格 新日本化成㈱ 製造品の実測値 尿素濃度 % (m/m) 39 – 41 39.9 密度(20°C) kg/m3 1105 – 1177 1111.4 屈折率(20°C) 1.3947 – 1.3982 1.3953 アルカリ度 (NH3換算) % (m/m) ≤ 0.5 0.0073 ビウレット % (m/m) ≤ 0.8 0.28 アルデヒド mg/kg ≤ 100 0.7 不溶解分 mg/kg ≤ 50 < 0.1 リン酸(PO4) mg/kg ≤ 1 < 0.01 カルシウム mg/kg ≤ 1 0.123 鉄 mg/kg ≤ 1 0.041 マグネシウム mg/kg ≤ 1 0.058 ナトリウム mg/kg ≤ 1 0.238 カリウム mg/kg ≤ 1 0.021 赤外線吸収 スペクトル — 基準スペクトルと 同等 基準スペクトルと 同等 表2 AUS 40 の化学的特性2),3) AUS 40 アンモニア 化学式 CO(NH2)2+ H2O NH3 分子量 60 17 外観 無色~淡黄色で 透明な液体 無色で強い刺激 臭がある気体 密度 (kg/m3) 1110 (20°C) (0°C, 1 atm)0.771 粘度 (mPa•s) 1.38 (25°C) — 熱伝導度 (W/m•K) 0.55 (25°C) 0.0218 (0°C) 比熱 (kJ/kg•K) 3.30 (25°C) — 凝固点(°C) 0 — 融点(°C) — −77.7 沸点(°C) — −33.5 爆発範囲 (%) — 16 – 25 pH < 10 アルカリ性(水溶液) からアンモニアは約23%生成されることとなる.AUS 40 自体は,分解が起こらない限りアンモニア臭はほと んどしない. AUS 40 の凝固点は 0°C であるため,それ以下の温 度になると凍結する.また,pH は 10 以下のアルカリ 性を示す.これらの性質は取り扱い時に注意が必要な 点であるが,方法や条件については次章で紹介する. AUS 40 は,還元剤として作用するアンモニアが気 体のアンモニアと比べ1/4 以下しか生成せず,体積的 に不利である一方,常温で液体であるため貯蔵や輸送 がしやすい.また,強い刺激臭を有し可燃性であるア ンモニアよりも安全性が優れる.そのため,SCR シス テムの還元剤としてアンモニアよりも尿素水を使用す る方法が一般的である. 4. 尿素水の取り扱い 本章では,尿素水が及ぼす人や環境への影響に触れ, AUS 40 の保存条件について著者らの実験データを示 しながら紹介する. 4.1 人への影響 通常の取り扱いにおいて,尿素水は人に対して毒性 をもたない.しかし,尿素水はアルカリ性溶液である ため,長袖作業衣やゴム手袋を着用するなどして皮膚 に付着しないよう,眼や口に入らないよう十分注意し て使用する必要がある. また,尿素水は分解されるとアンモニアガスを発生 する.アンモニアガスは腐食性および発熱性をもち, 人の粘膜に触れると強い刺激性を示す.アンモニアガ
SCR システムに使用される尿素水の特性と運用 スとの接触を防ぐため,換気の良い場所で取り扱わな ければならない. 4.2 環境への影響 尿素水が漏洩した場合,尿素水は環境中で尿素と同 様の性質を示し,環境へ有害性を及ぼす影響は低いと されている.尿素水は土壌や水中で酵素によってアン モニアと二酸化炭素に分解される.さらに,水中でア ンモニアはバクテリアによって亜硝酸塩を経て硝酸塩 へと代謝される.アルカリ性環境下では,アンモニア は揮発性気体となり大気に放出される.したがって, 尿素水は環境中に長期で留まることはなく,尿素の Log Pow は低いことから生物蓄積性も低いと考えら れる.ただし,海洋汚染防止法の有害液体物質 (Z 類 物質) に該当している. 4.3 設備材料 尿素水はアンモニアを生成し,弱アルカリ性である ため,設備の腐食が懸念される.また,腐食した設備 から溶出した成分によって尿素水が汚染されることは あってはならない.そのため,尿素水の製造や貯蔵, 輸送のときの設備に使用する材料に関して適切なもの を選択する必要がある. AUS 40 に対して使用する推奨材料および使用を推 奨しない材料の例が ISO 18611−3 に示されている (表 3).AUS 40 との適合性が明らかでない材料を用い る場合は,環境温度や接触時間を考慮に入れ,事前に 確認試験の実施が必須である. 4.4 保存条件 4.4.1 推奨保存温度 AUS 40 を輸送および貯蔵する際,品質劣化を避け るために最も注意する点は温度である. まず,低温環境についてだが,第3 章で述べたよう にAUS 40は0°C付近になると凍結し始めるため,1°C 以上で管理するのが良い.しかし,凍結による成分変 化は起こらないため,品質に影響を及ぼさない 30°C 以下で温めることによって元の水溶液へと戻し,使用 が可能である. 一方,高い温度環境についてであるが,25°C 以下で 輸送または貯蔵することが望ましい.25°C を超える 温度での輸送または貯蔵は,保存有効期間を短くする からである.ここで言う保存有効期間とは,ISO 18611−1 の品質規格を満たすと考えられる期間のこ とであり,環境温度が上昇するにつれこの期間は短く なる.表4 は ISO 18611−3 で示されている保存有効 期間である. 以上から,AUS 40 を 1°C 以上 25°C 以下で保存す ることを推奨する.しかし,船舶でAUS 40 を取り扱 う場合,高温海域での航行やタンクの屋外設置によっ てAUS 40 が高温環境下に置かれることや航程が長期 に亘ることが考えられ,上記の推奨保存温度を維持す ることは容易ではないことが考えられる.そこで,よ り過酷な温度条件での保存がAUS 40 に与える影響に ついて独自で行った試験を次節で紹介する. 4.4.2 高温保存の影響 高温条件での保存の影響を検討するため,AUS 40 を40°C および 60°C の恒温槽内で保存し,品質規格 項目である尿素濃度やビウレット,アルカリ度などを 測定した.保存容器には水分の蒸発を考慮し密閉容器 を使用した.その結果,どちらの温度条件においても, 品質規格の項目のうちアルカリ度が最も影響を受けた. 図5 はアルカリ度の経日変化を示している.60°C で の保存において,13 日目にアルカリ度は規格外の数値 を示した.40°C での保存では,約 2 ヶ月経過後もア ルカリ度は0.5%以下であった.40°C で保存した場合, 表3 推奨材料と非推奨材料2) 推奨材料 非推奨材料 オーステナイト系ステンレス鋼:SUS 304,SUS 304L, SUS 316,SUS 316L チタン ハステロイc-276 ポリエチレン ポリプロピレン ポリイソブチレン パーフルオロアルコキシアルカン ポリフルオロエチレン ポリテトラフルオロエチレン ビニリデンフルオライド–ヘキサフルオプロピレン共重合体 グラスファイバー 炭素鋼 亜鉛メッキ炭素鋼 軟鋼 非鉄金属およびその合金:銅,銅合金,亜鉛,鉛 鉛,銀,亜鉛,銅を含むはんだ アルミニウム アルミニウム合金 マグネシウム マグネシウム合金 ニッケルメッキ加工したプラスチックまたは金属 SCRシステムに使用される尿素水の特性と運用 810
表4 AUS 40 の保存有効期間2) 保存温度(°C) 有効期間(月) 0 – 25 18 <30 12 <35 6 >35 — 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0 20 40 60 アルカリ 度 (%) 経過日数(日) 40°C 60°C 図5 AUS 40 を異なる温度で保存したときのアルカリ度の 経日変化 約5 ヶ月まで保存が可能であると予想される.本試験 では一定温度での保存であったが,船舶で尿素水を取 り扱う場合,温度条件は時々刻々と変化するであろう. また,尿素の熱分解に着目すると,尿素の分解過程で は尿素水から水が蒸発した後,尿素の熱分解が起こる との報告もある4).以上のことから,尿素水を保存す る際は表4 および本試験結果を指標とし,温度条件お よび水分蒸発に十分注意して頂きたい. 5. 伊藤忠エネクス㈱の AUS 40 供給体制に関して AUS 40,特に新日本化成㈱にて製造される高品位 尿素水のSCR 船舶における供給インフラの構築にあ たり,最も重要と考える“AUS 40 の品質を確保する ための手段”と“SCR 船舶への AUS 40 の供給体制” に関して考察する. 5.1 AUS 40 の品質を確保するための手段 5.1.1 尿素水溶液の運搬に関して ローリーおよびコンテナでの輸送の場合,他化学品 とのコンタミを防ぐため専用であることが望ましく, 最初に充填する際のローリーまたはコンテナの洗浄証 明書の記録・保管を義務付ける. 専用でないローリーおよびコンテナでの輸送の場合, 給水前の洗浄証明書の記録・保管を義務付ける. ホースについては適合材料を使用した専用品の使用 を義務付けし,使用後毎回口を閉じ管理の行き届いた 状態で保管されることが必要である.それは船舶側の 設備も同様であるため手順書を作成し双方に周知を行 う. 5.1.2 トレーサビリティ 我々は原料単位毎にロット管理をしており,最終届 け先 (タンク) までのロット番号を追うことができる. 最終消費先の船舶エンジンシステムにAUS 40 が起因 のトラブルが発生した場合にそなえ,記録からトレー スできる体制を整える. 5.2 SCR 船舶への AUS 40 の供給体制 5.2.1 伊藤忠エネクス㈱の AUS 40 の供給網 AUS 40の供給網として全国20カ所にあるAUS 32 のストックポイント (SP) を利用する. SP にはAUS 32 専用のローリーが配備されており, 前項の記録・保管を条件として共有し使用する. 図6 全国配送拠点 5.2.2 新造船への AUS 40 の初期充填に関して a)供給荷姿 IBC 1 kL コンテナまたはローリーの 2 種で行う. 図7 IBC 1 kL コンテナおよびローリー b)給水方法 初期充填は基本的に造船所内で行われるため,陸上 からの給水を想定している. 1)IBC コンテナによる給水方法 船舶給水口付近に IBC コンテナの仮置き場を設置 し,クレーンでコンテナを移動し,その後専用ホース を使い自重にて給水作業を行う.
SCR システムに使用される尿素水の特性と運用 図8 IBC 1 kL コンテナを使っての給水作業 2)ローリーを使っての給水方法 ローリーから車載ポンプあるいは専用ポンプおよび 専用ホースを使って給水する. 図9 ローリーからの給水作業フロー 5.2.3 運航中の船舶への AUS 40 の給水体制に関して 受け入れ側の作業を軽減するため,バンカー配給船 からの給水を基本として供給インフラを構築する. a)伊藤忠エネクス㈱のバンカー配給体制 1)国内バンカー配給体制 10 隻の専航船と提携先の配給船で,全国北海道から 沖縄まで安定的な燃料供給を行っている. 図10 バンカー配給体制【国内】 2)海外バンカー配給体制 メジャーポートからマイナーポートまで,世界中の 港で燃料供給を行っている.今後はAUS 40 の普及に 足並みを揃え,客先から供給が求められるポートでの 対応を可能とするため鋭意画策中である. 図11 バンカー配給体制【海外】 b)配給船を使った AUS 40 の給水体制 上記全国配備のバンカー配給船に IBC コンテナあ るいはドラムを積込み,専用ポンプを使って運航船舶 に給水作業を行う. 図12 配給船からの給水作業フロー c)SCR 船舶への原料尿素の配給 船舶内にAUS 40 を生産する設備を保有する船舶に 対して,原料尿素自体を配給する必要がある.基本的 にはIBC コンテナによる給水方法と同一で,小分けさ れた原料尿素をパレットに積込み,配給船クレーンを 使って対象船舶へ供給する. 図13 配給船からの原料尿素積込みフロー 6. 尿素の世界需要 工業用原料尿素 (AGU) の需給バランスと,船舶用 SCR システムの普及が尿素の需給バランスに与える 影響について考察したい. 6.1 AGU の世界需要 2018 年の全世界での AGU 製造量は 351 万トンと 予想される.製造量は徐々に増加し,10 年後の 2028 年には907 万トンと,2018 年の 2.5 倍以上の製造量 が見込まれる. 伊藤忠エネクス㈱の燃料配給体制 SCRシステムに使用される尿素水の特性と運用 812
図14 AGU の製造量推移5) 表5 AGU の需要と供給6) 6.2 国内 SCR 車両による尿素水需要 2006 年に第二次規制 (特殊車両に対する規制) が 始まると,AUS 32 の販売数量が徐々に増加し,2006 年に14,800 kL であった年間販売数量は,2016 年に は147,700 kL と,10 年間でほぼ 10 倍まで増加した. 図15 AUS 32販売数量の推移と予測 6.3 船舶による尿素需要 船舶による原料尿素の世界需要を推定することは, 車両用とは異なりSCR システムの採用率や,規制海 域の航行時間等の予測が難しいことから非常に困難で はあるが,仮に下記の条件で需要を推定する. 【推定条件】 新造船ディーゼルエンジン出力(合計)=28,787 MW/年 SCR の採用率 = 10~35% 規制海域での出力 = 50~60% 尿素水濃度 = 40wt% 尿素水消費量 = 17~19 g/kWh 規制海域の航行時間 = 300 h (年間航行時間の内,300 時間を規制海域航行と仮定) 表6 主要国のディーゼル機関建造量 (2016 年船舶竣工ベ ース) 7) 台数 馬力 台数 馬力 1 韓国 386 8,352,219 461 9,917,892 84.2 35.8 2 中国 763 7,614,234 938 10,380,442 73.4 32.7 3 日本 387 4,185,119 409 4,414,202 94.8 18.0 4 フィリピン 28 510,773 33 941,281 54.3 2.2 5 ルーマニア 41 438,678 35 299,883 146.3 1.9 6 アメリカ 53 247,647 80 319,548 77.5 1.1 7 台湾 5 244,143 19 615,598 39.7 1.0 8 イタリア 16 240,572 8 145,204 165.7 1.0 9 ドイツ 30 221,888 8 204,754 108.4 1.0 10 ベトナム 31 170,622 33 226,881 75.2 0.7 その他 274 1,079,380 340 1,321,018 81.7 4.6 2,014 23,305,275 2,364 28,786,703 81.0 100.0 シェア (%) 合計 前年合計 国名 世界合計 対前年比 (%) 【推定結果】 船舶による尿素需要は7,300 トン~34,500 トン/年の 増加が見込まれる.2018 年の船舶用尿素消費量を 20,000 トンと仮定すると,AGU の製造量の約 0.57% とごく僅かである.しかし毎年 20,000 トンずつ船舶 用尿素消費量が増えていったと仮定すると,2028 年の 船舶用尿素消費量は200,000 トンであり,AGU 製造 量の2.2%と徐々に割合は増加する. 船舶用 SCR システムによる尿素の一定の需要が予 測されるが,AGU の製造量および需要の増加予測と 比較するとその需要は限定的なものになると予測され る. 7. おわりに 尿素は一般的な化学物質であるが,日常生活の中で 意識して接することはあまりないかもしれない.しか し,環境問題に対する意識の高まりを見せる今日,船 舶業界において尿素の需要は急速に高まるだろう.本 稿では,尿素を船舶で取り扱うことを念頭に置き,基 本的な尿素に関する情報を紹介した.しかし,我々に とって船舶業界は未知の業界であることから,考えの 及ばない部分があり浅薄な内容になったかもしれない. 安全性が高いといえども,尿素が工業薬品であること を認識して取り扱って頂ければ幸いである.なお,実 際に尿素水を取り扱う際には,安全データシート (kL)
SCR システムに使用される尿素水の特性と運用 (SDS) を確認願いたい.
参考文献
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2) ISO 18611−3:2014.Ships and marine technology — Marine NOx reduction agent AUS 40 — Part 3: Handling,transportation and storage. 3) 林,理科年表 平成 27 年,(2014),丸善出版. 4) 古畑ほか 2 名,高温雰囲気中における尿素の熱分解
挙動,日本機械学会論文集B 編,77–781 (2011), 1858–1867.
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6) Integer,Global AGU balance,Integer AGU Forecast Service 2018 Q1 data.
7) 溝越ほか 21 名,2017 年におけるマリンエンジニア リング技術の進歩,日マリ学誌,53–4 (2018),16.