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微生物共培養による窒素固定能の発現 - J-Stage

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(1)

窒素からアンモニアを合成する化学的窒素固定は高温・高圧 下で行われ生成物は肥料原料となる.一方,常温・常圧の温 和 な 条 件 下 で 進 行 す る 生 物 学 的 窒 素 固 定 は 細 菌 の ニ ト ロ ゲ ナーゼにより触媒される.ニトロゲナーゼは酸素やアンモニ アにより負の制御を受ける.このため特定の細菌は自然環境 下での窒素固定を可能にする阻害回避機構をもつ.一方,独 自の阻害回避機構をもたない細菌の窒素固定は嫌気環境など で限定的に行われるため,そのような細菌の一般環境下での 窒素固定を可能にすることは持続的な肥料生産を考えるうえ で有益であろう.そこで共生微生物の助けを借りて,細菌に 自然環境下での窒素固定を行わせるための取り組みについて 紹介する.

農業生産と窒素固定

アンモニアは化学合成法であるハーバー・ボッシュ法 により工業的に生産されており,全世界のアンモニア生 産量約1.6億tのおおよそ8割は肥料原料として用いられ ている.アンモニアの工業生産には高温高圧条件が必要 となることから,地球規模での人口増加を支えるのに必

要な量の食糧は化石燃料の大量消費を礎に生産されてい ると言えよう.その一方で,自然界において生物学的窒 素固定反応(N2

+8H

+8e

→2NH

3

+H

2)により,全 世界のアンモニア工業生産量と同等量のアンモニアが生 成していると見積もられている.生物学的窒素固定反応 は原核生物から構成されるジアゾ栄養生物が保有するニ トロゲナーゼによって触媒され,上記反応に伴い16分 子ものATPが消費される.また,窒素の有無にかかわ らずニトロゲナーゼが触媒する反応により水素が生成 し,多くの酵素反応と同様に温和な温度圧力条件で反応 は進行する.しかしながら,自然界でニトロゲナーゼの 触媒作用により生じる膨大なアンモニア生成量を考慮す ると,マメ科植物根粒中の根粒細菌によるものなどを除 き生物学的窒素固定が農業生産へ大きく寄与していると は言い難い状況である.このような背景から生物学的窒 素固定を介した植物への窒素供給量を増やすことができ れば,窒素肥料生産さらには窒素源供給と密接に関係す るバイオマス生産における化石燃料への依存度の低減に 結びつくことが期待される.

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

【解説】

Expression of Nitrogen Fixation Ability by Microbial Cocultures: 

Conversion of Nitrogen to Ammonia in Microbial Consortia Isamu MAEDA, 宇都宮大学農学部

微生物共培養による窒素固定能の発現

微生物共生体における窒素からアンモニアへの変換

前田 勇

(2)

生物学的窒素固定の阻害因子と防御機構

窒素固定を触媒するニトロゲナーゼはO2により失活 するため,空気中の窒素を基質として窒素固定が持続的 に行われるためには,ニトロゲナーゼの酸素からの防御 が必要になる.共生窒素固定細菌のマメ科植物根粒中で の窒素固定を考えるうえで,酸化的リン酸化のために一 般的に必要とされる酸素濃度(250 

μ

M)とニトロゲナー ゼが失活しないような非常に低い酸素濃度(5〜30 nM)

との大きなギャップを根粒細菌がいかにして埋めている かは興味深い点である.根粒細菌において酸化的リン酸 化と窒素固定の両立は,根粒の酸素拡散障壁を介した酸 素濃度調節(57 nM)と酸素濃度に対する緩衝作用を有 するレグヘモグロビンの働き,低酸素濃度での呼吸鎖の 電子伝達を可能にする酸素高親和性のバクテロイドター ミナルオキシダーゼによる酸素消費がかかわってい る(1)

.この際,マメ科植物の光合成により蓄積した炭水

化物由来の炭素源が根粒中の窒素固定細菌へと供給さ れ,酸化的リン酸化や窒素固定に必要な電子供与体を生 み出す源として用いられる.その一方で,窒素固定によ り合成されたアンモニアは窒素源として宿主植物に供給 される(2)

また,非共生窒素固定細菌であるシアノバクテリアの 窒素固定に対しては空気中酸素に加えて,光合成により

発生する酸素が抑制的に働くことが知られている.ニト ロゲナーゼの酸素からの防御機構について種々のジアゾ 栄養シアノバクテリアで報告がなされている(3)

.ある種

の単細胞シアノバクテリアでは細胞隔壁が外部からの気 体拡散速度を調節することで細胞内酸素分圧を低減化す るとともにヒドロゲナーゼ活性を高めることで環境中 H2の酸化と連動した酸素消費を活性化し細胞内酸素分 圧を低下させている.またジアゾ栄養条件で増殖可能な 糸状性シアノバクテリアは,環境中のC/Nが増加し窒 素固定の必要性が高まった場合にヘテロシストと呼ばれ る異質細胞を形成する(4)

.ヘテロシストでは光化学系II

が存在しないため水の分解に伴う酸素発生がなく,かつ 環境中の酸素分圧に応じて適度な気体拡散速度を保つこ とができる隔壁が形成される.窒素固定により合成され たアンモニアは栄養細胞から供給されるグルタミン酸と 反応しグルタミンへと変換され窒素源として栄養細胞に 移送される(2)

.シアノバクテリアと同様に非共生窒素固

定細菌であるアゾトバクター属細菌は好気条件下におけ る優れた窒素固定能を有することが知られている.ま た,アゾトバクター属細菌は呼吸保護と呼ばれる,細胞 内酸素濃度を低く維持するための酸素消費速度の調節機 構を有する(5)

.呼吸保護には細胞表層の局在する,5つ

のターミナルオキシダーゼによる酸素消費が大きく寄与 する.それとともにアルギン酸生合成が構成的に行われ

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

窒素からアンモニアを合成する化学的窒素固定は ハーバー・ボッシュ法により高温・高圧下で行われ,

反応生成物のほとんどは肥料原料として用いられる.

一方,常温・常圧の温和な条件下で進行する生物学 的窒素固定は細菌のニトロゲナーゼにより触媒され る.ニトロゲナーゼは酸素やアンモニアにより負の 制御を受ける.このため特定の細菌は自然環境下で の窒素固定を可能にする阻害回避機構をもつ.共生 窒素固定細菌である根粒細菌は,根粒の酸素拡散障 壁による酸素分圧調節と,酸素に結合するレグヘモ グロビンによる酸素濃度の緩衝作用,酸素高親和性 のバクテロイドターミナルオキシダーゼによる酸素 消費によって低酸素分圧を維持して窒素固定を行う.

一方,独自の阻害回避機構をもたない細菌の窒素固 定は嫌気性が保たれるような限定的な環境下で行わ れていることが推察される.そのような細菌のより 幅広い環境下での窒素固定を可能にする方策として,

ほかの微生物の代謝に共役させて窒素固定の環境を 整え阻害要因を排除する方法が考えられる.紅色非

硫黄細菌は低酸素分圧が保たれた自然環境において のみ窒素固定を行うと考えられる.しかしながら,

空気を封入した試験管において無機態・有機態窒素 を含まない培地に枯草菌と紅色非硫黄細菌を同時に 移植することで窒素固定に依存した細胞増殖を確認 することができた.枯草菌は窒素固定能をもたず,か つ偏性好気性菌であることから,試験管内に封入さ れた空気中の酸素が枯草菌によって消費された結果,

低酸素分圧となり紅色非硫黄細菌が窒素固定を行う ための環境が整えられたと考えられる.また,サゴ ヤシから単離された非共生窒素固定細菌は,デンプ ン分解菌やヘミセルロース分解菌の働きでサゴヤシ 由来の多糖から分解されて生じた単糖や二糖を代謝 することで窒素固定を行うことが示唆された.環境 を整える働きを担う微生物は,窒素固定細菌からは 窒素源の供給という恩恵を受けることができる.こ のような窒素固定を核にした異種微生物間共生の人 為的な確立がより幅広い環境において適用されれば,

農業生産やバイオマス生産における持続的な窒素源 供給にとって有利に働くのではないかと考えられる.

コ ラ ム

(3)

ており,細胞が覆われるアルギン酸の殻は隔壁として働 き細胞内において酸素を低濃度化する.

さらに,ニトロゲナーゼ活性は酸素により阻害される のみならず,反応生成物の一つであるアンモニアにより 遺伝子の転写と翻訳後の各段階で厳密に負の制御を受け る.アンモニアによる負の制御を回避することは,窒素 固定細菌にアンモニアを細胞外へと持続的に分泌させる ために重要な課題となる.アンモニアはグルタミン合成 酵素とグルタミン酸合成酵素から形成される反応サイク ルにより同化される(2)

.筆者らは光合成細菌の一種であ

る紅色非硫黄細菌を触媒とした光水素発生の研究にこれ まで取り組んできた.紅色非硫黄細菌による光水素発生 はニトロゲナーゼ活性に依存して行われる.紅色非硫黄

細菌 を変異誘起剤で処理し

た後,グルタミン合成酵素の阻害剤であるメチオニンス ルホキシミン存在下で培養を行うことによりその耐性株 を取得した.本耐性株は,野生株では完全に抑制される アンモニア濃度においても水素を発生した(6)

.この結果

からメチオニンスルホキシミン耐性株では部分的ではあ るがアンモニアによるニトロゲナーゼ活性の負の制御が 解除されていることが示唆された.また,

において育種されたメチオニンスルホキシ ミン耐性株ではアンモニアの細胞外分泌が向上する傾向 が認められている(7)

ニトロゲナーゼ活性を阻害するそのほかの要因として 低C/Nが挙げられる.ニトロゲナーゼが触媒する反応 ではATPを多量に消費するため炭水化物などのエネル ギー源の供給が必要であり,このことから多くのジアゾ 栄養生物にとって活性の発現や持続のためにはC/Nが 高い環境が好ましいと言える.このような条件的制約を 考えると,生物学的窒素固定反応が生じる自然環境は限 定されていると言える.耕作地などにおける空気中窒素 の無機態窒素への持続的変換を促すためには,上述の要 因によるニトロゲナーゼ活性の阻害を回避することが重

要であろう.

異種微生物間における窒素固定産物の移動

ニトロゲナーゼに対する阻害回避機構をもたない細菌 の一般環境下での窒素固定を可能にするために,ほかの 微生物の代謝に共役させることで窒素固定環境を整え阻 害要因を排除する方法が考えられる.その際には窒素固 定細菌は,ニトロゲナーゼ活性の阻害要因を取り除いて くれる微生物に窒素源供給という恩恵を与えることがで きる.

パルプ製紙工場の廃水は活性汚泥によって生物学的に 処理される.木質を多く含む廃水は窒素含量が低い.こ のため汚泥を活性に保つために曝気槽への窒素源供給が 必要不可欠である.このような理由から,廃水処理シス テムにおける窒素固定細菌の菌叢解析が行われた(8)

.そ

の結果,曝気によって好気的環境が保たれる活性汚泥に は窒素固定細菌は低頻度でしか検出されず,その一方で 最初の沈殿池にはニトロゲナーゼ還元酵素の遺伝子 を保有するクレブシエラ属細菌が高頻度で見受け られた.このことから曝気槽の上流に位置する最初の沈 殿池において主として窒素固定が行われ,その産物であ るアンモニアや尿素が活性汚泥中の微生物の増殖を支え るという流れが示された(図

1

.また,農産工業廃水

池においては緑藻 と窒素固定細菌 が窒素代謝を介して関 係し合うことが認められている(9)

.両微生物がアルギン

酸ビーズ内に固定化され人工培地で培養されたところ,

ビーズの空間内で共生関係が保たれることが示された.

共培養時にも窒素固定が行われ,その結果

による窒素やリンの除去能が低下することが示 唆されている.

図1C/Nのパルプ製紙工場廃水の処理 過程で生じる窒素固定と窒素固定産物の活 性汚泥微生物への供給

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

(4)

微生物共培養による窒素固定依存のバイオマス生産 紅色非硫黄細菌はシアノバクテリアのような酸素耐性 のヘテロシストを形成する機能をもっていない.このた め細胞を窒素源無しの培地に移した後,細胞懸濁液をア ルゴンにより脱気し光照射下で培養しない限りニトロゲ ナーゼ依存の水素発生は認められなかった(10)

.このこ

とから紅色非硫黄細菌は低酸素分圧が保たれ,かつ無機 態・有機態窒素が枯渇した自然環境においてのみ窒素固 定を行っていることが推察される.このように純粋培養 では好気条件でニトロゲナーゼ活性を認めることがない 紅色非硫黄細菌であるが,筆者らは空気を封入した試験 管において無機態・有機態窒素を含まない培地に枯草菌

と紅色非硫黄細菌

を同時に移植することで細胞増殖を確認した.

枯草菌は窒素固定能を有しておらず,かつ偏性好気性菌 であることから,試験管内に封入された空気中の酸素が 枯草菌によって消費された結果,低酸素分圧となり紅色 非硫黄細菌が窒素固定を行える環境が整えられたのでは ないかと考えられた(図

2

.共培養時に形成されたバ

イオフィルムを顕微鏡にて観察したところ枯草菌と紅色 非硫黄細菌が細胞塊を形成しつつともに細胞が増えてい く様子が観察された(図

3

また,反応で生成したアンモニアはニトロゲナーゼ活 性の阻害要因となるが,枯草菌と紅色非硫黄細菌の共培 養液において遊離アンモニアは検出されなかった.固定 化された窒素は枯草菌と紅色非硫黄細菌に窒素源として

消費されたため培養液中で遊離アンモニアとしてニトロ ゲナーゼ活性を抑制することが回避されたものと考えら れた.このように無機態・有機態窒素非存在下の共培養 において枯草菌の増殖を支える窒素源は,紅色非硫黄細 菌が固定する窒素に依存している.したがって,固定化 された窒素のジアゾ栄養生物からの細胞外への分泌速度 は,閉鎖空間内で共培養される,窒素固定を行わない微 生物への窒素源供給速度に重大な影響をもたらすことに なるであろう.

非共生窒素固定細菌であるアゾトバクター属細菌と緑 藻の共培養においてニトロゲナーゼ制御系タンパク質へ の変異導入によりアンモニアの分泌速度を向上させる試 みが行われた(11)

.培地に窒素源としてアンモニアを添

加しない場合に,変異導入 株と

緑藻 の共培養によって生じたバイ オマス量と脂質量が,野生株との共培養で得られたバイ オマス量と脂質量と比較し増加することが示された.

窒素固定に必要なエネルギー源と還元当量獲得のた めの共生関係

多量のATPと還元当量を消費する窒素固定反応の持 図3紅色非硫黄細菌(青色に染色)と枯草菌(赤褐色に染色)

の共培養における窒素固定に依存した増殖

(A)培養初期にはほとんどの細胞が培養液中に分散していた.

(B)培養後期には両菌株からなる細胞塊が形成された.細胞塊中 には枯草菌芽胞と見られる細胞(染色されずに白く抜けた細胞)

も多数観察された.

図2枯草菌との共培養により発現する紅色非硫黄細菌の窒素 固定

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

(5)

続にはエネルギー源と還元力の細胞への供給が必要不可 欠である.共生窒素固定を行う根粒細菌の窒素固定のた めのエネルギーと還元力を生み出す源となるリンゴ酸 は,宿主植物の光合成産物である貯蔵糖から解糖反応に より生成された後に根粒細菌へと供給される(2)

.非共生

窒素固定を行うシアノバクテリアでも同様に,光合成産 物である炭水化物が栄養細胞からヘテロシストへと移送 される.供給された炭水化物はヘテロシスト内で酸化的 ペントースリン酸経路やクエン酸回路を経て酸化され,

その結果生じる還元型ピリジンヌクレオチドが電子供与 体となり酸化的リン酸化あるいは光リン酸化に供され ATPが合成される(12)

.また,還元型ピリジンヌクレオ

チドはヘテロシストに局在するフェレドキシンを還元す ることで還元当量がニトロゲナーゼへと供給される.し たがって,窒素固定に必要なATPと還元当量が確保さ れるためには栄養細胞からヘテロシストへの炭水化物の 移送は欠くことができない.では,このような細胞間物 質移動は,自然環境で生息する異種細菌間においても生 じているのであろうか.

熱帯地域に育つサゴヤシからは食用デンプンが採取さ れる.サゴヤシから単離された

などの非共生窒素固定細菌は環境に配慮しつつ窒素を植 物に供給するシステムの構築を考えるうえで潜在的に利 用価値が高いと考えられる.これらの細菌が窒素固定を 行うためにはグルコースやスクロースといった単糖や二 糖が適している.一方,植物バイオマスとしてはデンプ ンやペクチン,セルロース,ヘミセルロースといった多 糖類が多くの割合を占め,窒素固定細菌がこれらの多糖 を直接分解し窒素固定のためのATPと還元当量を獲得 することはできない.そこで同じくサゴヤシから単離さ

れた,窒素固定能をもたない多糖分解菌と,

の共培養が,窒素源を含まずデンプン,ヘミセ ルロース,あるいはペクチンを唯一の炭素源として含む 培地中で行われた(13)

.ニトロゲナーゼ活性は

の純粋培養時と比較しデンプン分解菌あるいは ヘミセルロース分解菌との共培養時に高い活性が認めら れたが,ペクチン分解菌との共培養時には活性化は認め られなかった.サゴヤシにおいては窒素固定細菌が単独 では代謝することができない多糖をデンプンやヘミセル ロース分解菌がモノマーやオリゴマーに分解し,その一 部が窒素固定の際のエネルギー源や還元力として供給さ れる流れが示された(図

4

制限因子としてのモリブデンの供給と細胞への取り 込み

ニトロゲナーゼは配位する金属によってMoニトロゲ ナーゼ,Vニトロゲナーゼ,Feニトロゲナーゼが知ら れており,それぞれFeMo補因子,FeV補因子,FeFe 補因子が配位する(14)

.窒素固定細菌によってどの型の

ニトロゲナーゼを保持するかは異なるが,これまで報告 されたどの窒素固定細菌も少なくともMoニトロゲナー ゼを保持することがわかっている.ニトロゲナーゼは活 性中心を含むニトロゲナーゼ二量体とニトロゲナーゼ還 元酵素二量体から構成される.ともにメタロプロテイン でありMoニトロゲナーゼの場合,ニトロゲナーゼ二量 体はFeとMoを,ニトロゲナーゼ還元酵素二量体はFe を含有する.筆者らは 細胞中の金属含量の 変動を調べたところ,ニトロゲナーゼ活性の脱抑制条件 下ではアンモニウムイオンを含む抑制条件下と比較し5倍 から10倍程度Mo含量が高くなることを見いだした(15)

一方,Fe含量はMo含量と比較し2桁程度高い値を示し たが,脱抑制と抑制の条件間において顕著な変動は認め られなかった.レアメタルであるMoは細胞含量がほか の金属と比較し相対的に低いにもかかわらず,窒素固定 細胞においてはその要求性が飛躍的に高まるために持続 的な窒素固定に対する制限因子となりうることが示唆さ れた.

また別の研究においては,熱帯雨林土壌にMoもしく はリン酸,あるいはそれらの両方を添加することで非共 生窒素固定菌の窒素固定能がどのように変動するかが調 べられた.その結果,窒素固定能の増大はMoが添加さ れた場合のみ認められたことから,Moが熱帯雨林土壌 の窒素固定における制限因子であることが示された(16)

環境中に元々存在するMo量は少ないことや,どの程度 の割合のMoが生物に利用されやすい形態で存在するの 図4多糖分解菌による多糖の加水分解過程を経由した非共生

窒素固定細菌への炭素源の供給

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

(6)

か不明な部分も多いのが現状である.これらの結果は Moの窒素固定系への供給速度が系を制御しうる要因に なる可能性や,非窒素固定菌の代謝や機能が窒素固定細 菌へのMo供給にプラスに働く可能性を示している.

まとめと今後の展望

非共生窒素固定細菌による生物学的窒素固定の農業生 産への寄与拡大に有効な手段の一つとして,窒素固定細 菌にとって有利に働く微生物との共培養系や共生系の確 立が挙げられる.移植される微生物には,天然素材を代 謝しやすい化学構造に変換しエネルギー源や還元当量の 生成を促す役割や,酸素を好んで消費し環境を低酸素分 圧に保つ役割,生成した遊離アンモニアを活発に細胞内 に取り込む機能,天然に存在するMoやFeを細胞内に 取り込みやすい形態に変換する機能などが期待される.

生物学的窒素固定を軸にした異種微生物間の共生関係は 報告例が少ないのが現状ではあるが,その内容からは創 り出される生息環境あるいは培養環境が窒素固定条件に 合致する場合には共培養系や共生系は成立することが推 察される.このため今後は,自然環境で形成された菌叢 を構成する微生物の代謝や微生物間の物質移動が窒素固 定とどのような関係性をもつのかがより詳細に明らかに なり,それらの情報を基により多様な環境での人為的な 共生関係の構築が可能になることが望まれる.

文献

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プロフィール

前 田  勇(Isamu MAEDA)

<略歴>1991年大阪大学薬学部薬学科卒 業/1993年同大学大学院薬学研究科博士 前期課程修了/同年大阪大学薬学部助手/

2003年宇都宮大学農学部准教授,現在に 至る<研究テーマと抱負>光合成細菌を用 いたバイオテクノロジー,組換えタンパク 質を用いた有害金属センサー開発<趣味>

スポーツ観戦,将棋

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.113

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