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植物病原菌の 狡猾さ を酵母で解く - J-Stage

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化学と生物 Vol. 54, No. 12, 2016

植物病原菌の“狡猾さ”を酵母で解く

グルタチオンを分解するエフェクターの発見とその機能解析

ヒトや植物に感染する多くの病原性グラム陰性細菌 は,感染時においてIII型またはIV型分泌装置と呼ばれ る注射針のような構造物を用いて宿主細胞中にエフェク ターと呼ばれる病原因子を注入することが知られてい る.エフェクターは宿主細胞内の防御免疫などにかかわ るさまざまな細胞機能(シグナル伝達・膜輸送・アクチ ン細胞骨格再構成・遺伝子発現・オートファジーなど)

を撹乱することにより自身の増殖に有利な環境を構築 し,感染を成立させている.エフェクターの分子機能の 解明は病原菌の感染戦略を理解するうえで重要である.

しかし,多くのエフェクターは各病原菌が進化の過程で 独自に獲得したと推定され,一次構造からその機能を予 測することが困難である.

酵母( )は単細胞真核生物

であり,多くの細胞機能が高等真核生物と類似してい る.エフェクターが標的とする細胞機能の多くは酵母で も保存されていることから,エフェクターを酵母で発現 させた場合,エフェクター標的の酵母カウンターパート に同様に作用することが期待される(1)(図1A).

青枯病菌( )は,ナス科植物

を含む200種以上もの植物に感染することで枯死させる 農業上重要な病原菌である.青枯病菌はほかの植物病原 菌と比べて非常に多く(70種類以上)のエフェクター を有することが明らかにされており,このエフェクター の多様性が青枯病菌の例外的に幅広い宿主域への感染を 可能にしていると考えられている.

筆者らは,青枯病菌の感染戦略の理解を目的として酵 母発現系を用いた青枯病菌エフェクターの機能解析を 行ってきた.青枯病菌エフェクター 36個を酵母に過剰 発現させたところ,8個のエフェクターが酵母に増殖阻 害を引き起こすことを見いだした.8個のエフェクター について,一次構造に基づいてモチーフ検索を行ったと ころ,そのほとんどが特徴的なモチーフをもたない機能 未知遺伝子であったが,RipAY/RSp1022と呼ばれるエ フェクターは,ChaCと呼ばれるすべての生物種に保存 された機能未知ドメインを有していた.酵母ゲノム中に もChaCドメインを有するタンパク質としてYer163cが 見いだされたが,筆者らが研究を開始した当初は機能未

知遺伝子であった.しかし,2012年12月にBachhawat らによりChaCドメインを有する酵母およびヒトタンパ ク 質(そ れ ぞ れGcg1/Yer163CとChac1) が 細 胞 内 レ ドックス恒常性維持に必須な役割を担うグルタチオンを 特異的に分解する

γ

-グルタミルシクロトランスフェラー ゼ(GGC T)活性を有することが報告され(2), RipAYが 宿主グルタチオンを標的とすることが考えられた.

そこで,まずRipAYがグルタチオンを標的にしてい るかを調べたるめ,酵母で発現させたRipAYを精製し,

グルタチオンを基質としてGGC T活性を測定したとこ ろ,非 常 に 強 いGGC T活 性 が 検 出 さ れ た.さ ら に,

RipAY発現酵母細胞内のグルタチオン濃度を測定した ところ,RipAY発現酵母細胞では,コントロールの 30%程度にまで細胞内グルタチオン濃度の低下が見られ た.また,活性中心と考えられる216番目のグルタミン 酸をグルタミンに変異させた不活性型変異体E216Qを 発現させた場合においては,細胞内グルタチオン濃度の 減少は見られず,酵母の増殖も回復した.しかし,驚い たことにRipAY発現による酵母増殖阻害は,培地への

図1酵母を用いた宿主グルタチオンを標的とする青枯病菌エ フェクターの発見

(A)酵母発現系を用いた病原菌エフェクターの機能解析.(B)宿 主細胞中にIII型分泌装置を介して注入された青枯病菌エフェク ター RipAYは,宿主チオレドキシンにより不活性型から活性型へ と変換され,宿主細胞内グルタチオンを分解する.グルタチオン は,植物における病害抵抗性発現に必須な因子である.

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グルタチオンの添加により回復が見られなかった.ま た,形質膜グルタチオン輸送体Hgt1の過剰発現により グルタチオンの取り込みを増加させることで細胞内グル タチオン濃度をコントロールと同程度にまで回復させて も,RipAYによる酵母増殖阻害の回復は見られなかっ た.これらの結果より,少なくとも酵母細胞内では RipAYの標的はグルタチオンのみではなく,未知の

γ

-グ ルタミル化合物を標的としている可能性が考えられる(3)

次にRipAYの酵素学的諸性質を解析するため大腸菌で 発現させた組換えRipAYタンパク質のGGC T活性を測 定したところ,全くGGC T活性が検出されなかった.し かし,興味深いことに,大腸菌から精製した不活性な RipAYタンパク質に酵母タンパク質抽出液を添加したと ころ,添加したタンパク質量に依存してGGC T活性の上 昇が見られた.これにより,RipAYは何らかの真核生物 性因子によってGGC T活性を獲得していることが考えら れた.そこで,酵母粗タンパク質(菌体 約10 g)から各 種クロマトグラフィーによりRipAYの活性化を指標とし て活性化因子を含む画分を精製し,質量分析により活性 化因子を同定したところ,酵母細胞質チオレドキシン Trx1/Trx2が活性化因子として同定された.また,大腸 菌で発現,精製した組換え酵母Trx1は,試験管内で RipAYを濃度依存的に活性化した.これよりRipAYの活 性化因子はチオレドキシンであることが明らかになった.

それでは,RipAYがわざわざ宿主チオレドキシンを 使って活性化し,宿主グルタチオンを分解することにど のような意味があるのだろうか? 植物においてグルタ チオンは病原菌に対する防御免疫に不可欠である(4).興 味深いことにRipAYは,複数ある植物チオレドキシン アイソフォーム(モデル植物である では19 個)の中でも病原菌感染時に特異的に発現が上昇する Trx-h5(5)により最も効率よく活性化された.これによ り,青枯病菌は宿主への感染時において,宿主植物の免 疫応答において特異的に発現するTrx-h5を利用して効 率よくRipAYを活性化させ,宿主細胞内のグルタチオ ンを枯渇させることで宿主の防御機構を破綻させること が考えられた(3)(図1B).

筆者らの発見以外にも,最近いくつかの病原菌エフェ クターにおいて宿主内因子に依存したエフェクター活性 化の例が報告されている(6).それぞれのエフェクターの 機能としてはホスホリパーゼ,アセチル基転移酵素,プ ロテアーゼ,プロテインキナーゼと多種多様であり,ま

た,活性化因子もユビキチン,低分子量Gタンパク質,

シクロフィリン,14-3-3タンパク質など多種多様であ り,真核生物特異的な因子であるという共通点以外に一 貫性はない.このような宿主内因子特異的なエフェク ター活性化メカニズムは,エフェクターによる毒性を宿 主においてのみ発現させるという実に巧妙なシステムで あると言え,この病原菌がもつ 狡猾さ に驚きを感じ る.また,これらのほとんどのエフェクターにおいて,

活性化因子の同定には酵母が役立っており,病原菌エ フェクターの機能解析において酵母が実に有用なシステ ムであることが証明されている.

  1)  C. Popa, N. S. Coll, M. Valls & G. Sassa:  , 12,  e1005360 (2016).

  2)  A. Kumar, S. Tikoo, S. Maity, S. Sengupta, S. Sengupta,  A. Karu & A. K. Bachhawat:  , 13, 1095 (2012).

  3)  S.  Fujiwara,  T.  Kawazoae,  K.  Ohnishi,  T.  Kitagawa,  C. 

Popa, M. Valls, S. Genin, K. Nakamura, Y. Kuramitsu, N. 

Tanaka  :  , 291, 6813 (2016).

  4)  V.  Parisy,  B.  Poinssot,  L.  Owsianowski,  A.  Buchala,  J. 

Glazebrook & F. Mauch:  , 49, 159 (2007).

  5)  Y. Tada, S. H. Spoel, K. Pajerowska-Mukhtar, Z. Mou, J. 

Song, C. Wang, J. Zuo & X. Dong:  , 321, 952 (2008).

  6)  C. Popa, M. Tabuchi & M. Valls: 

6, 73 (2016).

(藤原祥子,田淵光昭,香川大学農学部応用生物科学科)

プロフィール

藤原 祥子(Shoko FUJIWARA)

<略 歴>2014年 香 川 大 学 農 学 部 卒 業/

2016年 同 大 学 院 農 学 研 究 科 修 了<研 究 テーマと抱負>酵母発現系を用いた病原菌 エフェクターの機能解析<趣味>期間・地 域限定のお菓子を試す,親しい人とお酒を 飲むこと

田淵 光昭(Mitsuaki TABUCHI)

<略 歴>1992年 香 川 大 学 農 学 部 卒 業/

1994年同大学院農学研究科修了/1997年 愛媛大学大学院連合農学研究科修了,農学 博士取得/同年山口大学遺伝子実験施設助 手/2002年カリフォルニア大学サンディエ ゴ校(文部科学省長期在外研究員)/2003 年ハワード・ヒューズ医学研究所リサーチ アソシエイト/2005年鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科助手/2007年川崎医科 大学講師/2010年香川大学農学部准教授,

現在に至る<研究テーマと抱負>酵母をモ デルとして細胞内で起こっている現象を紐 解く<趣味>コーヒー豆の自家焙煎,自家 製ピザ窯でピザを焼いて振舞うこと Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会

DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.869

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