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酵母細胞壁が誘導する植物の病害応答機構の解明

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Academic year: 2021

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北海道大学 大学院農学院 修士論文発表会,2017 年 2 月 8 日

酵母細胞壁が誘導する植物の病害応答機構の解明

応用生物科学専攻 生命分子化学講座 生物有機化学 矢口賢臣

1.緒言

世界の人口は

2050

年には

90

億人を超え、現在の約

1.5

倍の食料が必要となり、世界中で食料を 奪い合う状況が起こるのではと危惧されている。この状況に拍車をかけるのが、一人あたりの耕地 面積の減少、バイオ燃料の普及、異常気象等である。環境に対する負荷を最小限に抑えつつ、人類 の永続的生存をもたらす新しい食料増産技術の開発は喫緊の課題である。この観点から、未利用バ イオマスの農業への利用は利にかなっている。共同研究先のアサヒグループホールディングス株式 会社は酵母細胞壁由来の資材を商品開発し(豊作物語)、イチゴうどんこ病等に対して優れた防除 効果が報告されている。酵母細胞壁由来の資材の効果は酵母細胞壁を構成する

β-1,3-

グルカン、

β-1,6-グルカン、キチン等とされているが、植物が酵母細胞壁由来の資材によって誘導される応答

機構に関しての知見が少ないのが現状である。酵母細胞壁由来の資材を散布した植物は病害耐性を 制御する代謝産物の内生量が変動すると予想されたため、本修士論文ではこれらの代謝産物を分析 し、本資材が誘導する病害応答メカニズムを明らかにした。

2. 方法

検定試料として、ビール酵母を自己消化させ、遠心分離後に粉末化した資材(YCWE)を用いた。

シロイヌナズナもしくはイネ懸濁培養細胞に

YCWE

を処理し、植物の病害応答に関わる生理活性 物質

(

ジャスモン酸

(JA)

類、サリチル酸類、アブシジン酸類等

)

を無処理の植物と比較した。化合物 の定量は、それぞれの化合物に応じた内部標準物質を用いて、

LC-MS/MS

にて行った。また、

YCWE

を処理したシロイヌナズナの

Botrytis cinerea

菌に対する感染耐性付与能を評価した。

3.結果と考察

イネ懸濁培養細胞では

YCWE

処理によって、

12-oxophytodienoic acid (OPDA)

azelaic acid (AzA), 12-hydroxyjasmonoyl-

L

-isoleucine (TA-Ile)、および phenylalanine

が有意に増加した。シロイヌナズナ

(WT)

では上記の化合物に加え、

camalexin

も増加した。これらのことから、

YCWE

処理は植物の

JA

経路や

AzA

シグナル経路等を誘導することが示唆された。また、シロイヌナズナの

AzA

シグナル 不全の変異体

azi1

では

YCWE

処理によって

AzA

は有意な増加をしたものの、

OPDA

の増加は確認 されなかった。AzAは全身獲得抵抗性(SAR)のプライミング物質であり、病原の再度の襲来に対す る迅速な応答に必要な生理活性物質である。本実験より、

YCWE

処理による

OPDA

の蓄積には

AzA

シグナル経路が必要であると想定でき、

AzA

シグナル経路と

JA

経路との相互作用の存在が示唆さ れた。また、

YCWE

を処理した

WT

に植物病原菌である

Botrytis cinerea

を感染させると、無処理と 比べて病徴が軽微となった。さらに

YCWE

を処理した

WT

azi1

B. cinerea

を感染させると、

azi1

では

WT

よりも病斑が大きく、感染葉の萎凋が確認された。以上より、

YCWE

処理はシロイヌナズ ナでも菌感染防除に有効であり、その応答機構には

AzA

が関与していることが強く示唆された。

4.結論

YCWE

処理は、JA類縁体である

OPDA

TA-Ile、ファイトアレキシン、AzA

等複数の生理活 性物質の蓄積を促すと明らかにした。よって、

YCWE

JA

および

AzA

シグナル伝達系を誘導する ことで感染防御能を向上させると考えられ、植物の病害応答を誘導する植物化学調節材として有望 であると結論できた。

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